上 下
122 / 343

Ⅰ-122 探しているもの

しおりを挟む
■風の国 王都 ゲイル

 ハンスはイースト商会の紹介状を見せて、ようやく王都ゲイルに入ることが出来た。馬に乗る獣人は珍しいからだろう、ゲイルの入市税以外に素性の分かるものの提示を求められ、兵士小屋の中へ連れて行かれた。ハンス以外に呼び止められたものは、後にも先にもいなかった。自分が目立つ存在であるのは十分に承知している。それでも、なんとしても情報を得なければならない。魔竜の復活は近いのだ、炎の剣を使いこなせるアイツを何としても見つけなければ・・・。ハンスは馬から降りるとマントのフードを深くかぶり直して、背中を丸めて王都の石畳を歩き始めた。

 無事にゲイルに着いたことを知らせるために、まずはイースト商会へ立ち寄った。イースト商会の早便なら、2・3日中にはイースタンの所に届くはずだ。イースト商会は大陸中に販路を持っている。ゲイルのイースト商会もこの国で一番の大店だろう。風の国自体がもともと商業や工業が盛んな国で、衣服や農機具等を作って他の国に売っている。その代わりに水の国からは大量の農産物が入ってきていた。二つの国はお互いに補い合うことで、ここまで発展してきているのだ。

 宿は下町にある小汚いところに泊まることにしてある。あのあたりなら、黒い死人達の事を知っているやつらも多くいるだろう。だが、シリウスの時もそうだが、獣人だと嗅ぎまわっている事がすぐに伝わってしまう。誰かほかの人間を使う必要がある・・・

 ■黒い死人達のアジト

「それで、奴は宿屋に入ったんだな?」
「へい、今晩押し込んで連れてきましょうか?」
「いや、まだ良い。だが、人手をかけて後をつけろ。絶対に見失うなよ!」
「わかりました!」

 ホリスは相手からこの町へ来てくれたことで強気になっていた。うまくすれば、他の奴らも一緒に捕らえられるだろう。兄貴の指示は4人だ、一人捕まえれば期限を延ばしてもらうつもりだったが、期限内に4人捕らえられるなら文句なしだ。

 何故かはわからないが、獣人から俺達に探りを入れているらしい。わざわざ死ぬために来るとは、変わった奴もいるものだが、こっちには好都合だ。どうやらツキが回って来たらしい。

 ホリスの口元には不気味な笑みが広がっていた。

 ■風の国 町の宿屋

「それで、明日ゲイルに着いたら、どうするつもりなんだい?」
「えっと、まずはイースト商会に行きます」
「その後は?」
「えっと・・・、お兄ちゃんからの伝言があると思うから・・・」
「そうかい、じゃあ、あたしはゲイルに入るときに別行動にさせてもらうよ」
「えっ!何処かへ行っちゃうの!?」
「安心おし、あんたもあたしも奴らの仲間に顔を見られているだろ?一緒に居ない方が良いんだよ」
「そっか・・・」

 やっぱり、リンネの方が私よりしっかりしている。一人は怖いけど頑張らないと。

「あたしもイースト商会に日暮れ前に行くからさ、それまでに宿を探しておいておくれ」
「うん、わかった」

 宿か、自分でお金を払ったことは無いけど、たぶん大丈夫。いつもサトルが話してたのを聞いてたし、銀貨1枚ぐらいの所なら問題ないはず。お金は大事に使わないと・・・。
 あれ? その前にイースト商会は何処にあるんだろ?

■セントレアの北東 林の中

 セントレアへ残り2時間ぐらいの場所で完全に日が沈んだ。車のライトはあるが、舗装されていない道を夜に走るのは危ない。近くの林の中で野営することにした。林の中で平らな場所を見つけて、小さめのキャンピングカーを呼び出す。車で寝るのはミーシャだけだからベッドが一つしかなくても問題はない。

 シャワータイムのあとの夕食は焼き飯と野菜スープを用意した。肉中心の生活だと米がどうしても食べたくなる。寿司も考えたが・・・、一人の時にしておこう。

「それで、明日はゲイルに着いたらどうするの?」
「リンネを当てにしているのだ。あいつなら、ゲイルに居る黒い死人達に伝手があるから、話が聞き出せるかもしれない」
「リンネを信用しても大丈夫なのか?」
「ああ、私は信用している」
「だけど、不死の死人使いで、もともとはあいつ等の仲間みたいなもんだろ?」
「確かに不死の死人使いだが、あそこに居たのはあの女なりの義理堅さだろう。黒い死人の仲間じゃないさ」
「義理堅さ?」
「あいつは領民と一緒に死んで、その死んだ領民と一緒に領主を討った。その後は死人が人を襲い始めても放っておくことも出来たが、あいつはもう一度領民のために戻ってきたのだ。自分と一緒に死んだ領民の方を見捨てることができなかったらしい」

 ミーシャはリンネの小屋で長い寝物語を聞かされていたから、俺よりもリンネの想いをくみ取ったのだろう。

「わかった。じゃあ、俺も信じるよ。それで、狼を攫ったやつは何が目的だったんだろう?」
「オールドシルバーは幸せを呼び込む存在だ。手元に置いておけば、幸せになれると考える奴が居てもおかしくないのだ」

 -無理矢理連れて行っても幸せは呼んでくれない気がするが。

「それでも、人手をかけて捕まえたってことは、黒幕はお金がある人だよね?」
「そのはずだ、かなりの金が動いていると思う」

 -金持ち、権力者、いずれにせよ、黒い死人達を動かせる力のある奴だ。

「狼がどこにいるか、判ったらどうするつもりなの?」
「相手によるが、金で譲ってもらうように話をしてみるつもりだ」

 -悪人を使ってわざわざ捕まえたやつが金で譲るだろうか?

「もし、譲ってくれなければ」
「何とかして、解き放つしかないだろうな」

 -何とかして・・・実力行使ということか。

「お前は何もしなくて良いぞ。これは私の問題だからな」
「うん、俺はこっちに危害を加えない人間は攻撃したくないんだよ」
「知っている。お前は優しい奴だからな」

 優しい・・・、と言うよりも現世の倫理観に縛られたヘタレなだけだ。異世界だからと言って、気軽に人を撃つのは避けたい。単純にそれだけの話だ。

 でも、襲われれば・・・、撃つしかないのだろう。相手が人であってもだ。

■ゲイルの組合

 ハンスは組合のホールで二人の男と酒を飲みながら話をしていた。この二人を選んだのは、見るからに金に困っている様子だったからだ。酒をおごると持ちかけて、銀貨5枚の仕事に興味がないかと聞くと、二人とも乗り気になっている。

「それで、あんたは俺に何をさせたいんだい?」
「そうだな、今から飲み屋に行って話を聞いてもらうだけでいいよ」
「それだけで良いのか? なんだか胡散臭い話だな・・・」
「いや、仕事はそれだけだが、聞いてきてほしいのは黒い死人達のことだ」
「黒い・・・、そいつはヤベエだろ!」

 ほろ酔い機嫌だった二人が急に真剣な顔になって声を潜めた。

「慌てるなよ、お前たちは何処に行けば黒い死人達に会えるかだけを聞いてくればいいんだ。あいつらに会う必要はない。最初に銀貨2枚、会える場所か人を聞き出せたら銀貨3枚を払うが、どうだ?」
「聞き出すだけでも、ヤベエだろ・・・、最初に銀貨3枚、聞き出せたら銀貨5枚だ。これなら、聞いてきてやるよ」

 最初の金だけ持ち逃げされる可能性もあるがやむを得ないだろう。

「わかった、その条件で良いだろう。ただし、お前たちがちゃんと動いているかは俺の仲間が見張っているからな、金に見合った分は働けよ。今から行けば飲んでる連中は口が軽くなってる頃だろう。良い話を聞いてきてくれ、明日の晩にここで聞かせてもらうから」

 ハンスの仲間は誰も居ないが、目の前の二人は辺りを見回した。ハンスはテーブルの上に銀貨を6枚置いて、その場を静かに離れて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!

東導 号
ファンタジー
雑魚モブキャラだって負けない! 俺は絶対!前世より1億倍!幸せになる! 俺、ケン・アキヤマ25歳は、某・ダークサイド企業に勤める貧乏リーマン。 絶対的支配者のようにふるまう超ワンマン社長、コバンザメのような超ごますり部長に、 あごでこきつかわれながら、いつか幸せになりたいと夢見ていた。 社長と部長は、100倍くらい盛りに盛った昔の自分自慢語りをさく裂させ、 1日働きづめで疲れ切った俺に対して、意味のない精神論に終始していた。 そして、ふたり揃って、具体的な施策も提示せず、最後には 「全社員、足で稼げ! 知恵を絞り、営業数字を上げろ!」 と言うばかり。 社員達の先頭を切って戦いへ挑む、重い責任を背負う役職者のはずなのに、 完全に口先だけ、自分の部屋へ閉じこもり『外部の評論家』と化していた。 そんな状況で、社長、部長とも「業務成績、V字回復だ!」 「営業売上の前年比プラス150%目標だ!」とか抜かすから、 何をか言わんや…… そんな過酷な状況に生きる俺は、転職活動をしながら、 超シビアでリアルな地獄の現実から逃避しようと、 ヴァーチャル世界へ癒しを求めていた。 中でも最近は、世界で最高峰とうたわれる恋愛ファンタジーアクションRPG、 『ステディ・リインカネーション』に、はまっていた。 日々の激務の疲れから、ある日、俺は寝落ちし、 ……『寝落ち』から目が覚め、気が付いたら、何と何と!! 16歳の、ど平民少年ロイク・アルシェとなり、 中世西洋風の異世界へ転生していた…… その異世界こそが、熱中していたアクションRPG、 『ステディ・リインカネーション』の世界だった。 もう元の世界には戻れそうもない。 覚悟を決めた俺は、数多のラノベ、アニメ、ゲームで積み重ねたおたく知識。 そして『ステディ・リインカネーション』をやり込んだプレイ経験、攻略知識を使って、 絶対! 前世より1億倍! 幸せになる!  と固く決意。 素晴らしきゲーム世界で、新生活を始めたのである。 カクヨム様でも連載中です!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...