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Ⅰ-121 里の思い出

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■風の国 王都ゲイル 黒い死人達のアジト

 ホリスは回状を他の支部に送った後はアジトの部屋で情報をひたすら待っていた。回状は早馬を乗り継いで回っていく。支部は全ての国の王都と主要な町にあるが、5日以内には一番遠くにある炎の国にも回状は届くはずだ。ホリスが組織の全容を知っているわけでは無かったが、ゲイルの支部長である兄貴によればそういう事らしい。いずれにせよ情報は必ず入って来るだろう。問題は期限だ、ひと月・・・、誰か一人でも良いから必ず見つける必要がある。見つからなければ、ホリスを待っているのは死だ。それだけは確実だ、ホリスも兄貴の指示でたくさんの命を奪って来た、兄貴が手下を殺すのに深い理由は必要ない。約束を守らないというのは、深い理由の中に入っているのをホリスは知っていた。

「ホリスさん、獣人を見かけたという情報が入りました」

 配下の小男が部屋に入るなり、ホリスに報告した。
 どうやら、もう少し長生きできそうだ。

■風の国に向かう馬車の中

「ねえ、サリナ。もう少し馬車はゆっくり走ってもらった方が良いんじゃないかい?あたしのお尻は3つか4つに割れそうだよ」
「でも、お兄ちゃんは馬だから、もっと早いでしょ? 早くいかないと・・・」
「そうだけどさぁ、着いた時にはフラフラになっちまうよ・・・」

 確かに馬車は荷馬車をどんどん追い越す速さで進んでいる。荒れた道で椅子に座っているだけでもお尻と背中が痛いのはサリナも同じだった。それでも急がないと、お兄ちゃんはどんどん先に行ってしまう。

 お兄ちゃんは私が生まれた時から私の面倒を見てくれていた。見た目は違うけど、他の誰よりも私の事を大事にしてくれた。それに、お母さんはお兄ちゃんの言う通りに暮らしていくようにと、送り出すときに涙を流しながら私を抱きしめてくれた。あのまま、炎の国で暮らしていたら、私とお兄ちゃん、それにお母さんも・・・。いけない、今は風の国に着くことだけを考えないと。

「御者の人! もっと急いでください!」
「サリナぁ!」

 リンネさんが叫んでるけど、私が頑張らなきゃ!

■森の国 王都クラウス

 夢の国、エルフの里は確かに夢の国だった。現実に行ってはいけなかったのかもしれないと思っている。妖精が飛んでいるイメージでエルフの里を考えているとギャップが大きすぎた。やはり、衣食住のクオリティが低すぎるのだ。もっとも、俺がいろんなものを出してやれば良いだけなのかもしれないが、そんなことをすると、彼らの人生、いやエルフ生に与える影響が計り知れない。

 二日ぐらい居るのがちょうどよかったと思う。一緒に狩りに行ったエルフ達とも仲良くなれたし、また来てくれとみんなが言ってくれたから、これからはミーシャが居なくても、いつでも遊びに行ける。

 ハルもミーシャを笑顔で送り出していた。娘が狼を探す旅に出ているのが普通のようだ。もともと狼が連れて行かれたのは、ハルが攫われたのがきっかけだったから、ハルも責任を感じているのかもしれない。ハルにはミーシャの父親との馴れ初めを聞きたかったのだが、結局聞いていない。何気ない会話を続けるのは異世界に来ても難しいままだ。

 王都に来たのは、ミーシャの婚約者と神の拳について王様に報告するためだ。俺は王様のところには同行しなかった。こちらの世界でも、積極的に人と会うのは好きではない。エルフの里では、大勢に囲まれて疲れたので、しばらくはストレージで引きこもっても良いと思っている。

 それに、約束したからミーシャと一緒に風の国へ行って、狼を探す手伝いをするつもりだが、ミーシャが人様のもの?である以上、俺にとってのミーシャは以前とは違う。恋の対象から、この世界での大事なお友達ぐらいにランクダウンしている。もちろん、今でも憧れの対象だが・・・。

「待たせたな」

 王宮前の広場で退屈そうに待っていた俺の前にミーシャが戻って来た。

「いや、王様は何て言ってた?」
「うん、神の拳のことは了承してもらった。だが、ひと月以内には王宮に立ち寄るようにと言われている」
「神の拳を使える人が戻って来たかを確認するためか?」
「それもあるが、やはり火の国と戦がある可能性が高くなっているそうだ」
「戦争か・・・」

 厄介な話だ、巻き込まれないようにしないと。

「ああ、西の方に新しい砦を作っているのだが、戦が始まれば私達エルフは其処に向かう約束をしている」
「火の国は戦争が強い国なんだろ?」
「そうだ、あの国には魔術師と武術士が大勢いる。森の国の兵では足止めも難しいかもしれない」

 炎の国はサリナの母親が居る国だが戦好きなのだろうか?

「考え方が違うから仲が悪いって言ってたけど、今までは攻めてこなかったんだろ?」
「小競り合いはあったが、戦と呼べるほどのは無かった。王が言うには、魔竜の復活が近いからだろうと」
「何の関係があるの?」
「もっと国を大きくして、魔竜と戦える強い国にしたいのだろう」

 弱い国を併合しても魔竜とやらを倒せる気はしないが、炎の国の王様には別の考えがあるのかもしれない。エルフ達に俺の銃を渡してやれば、負けないかもしれないが、それも良くない気がする。ここは不干渉主義で行くべきだろう。

「それで、今日はこの王都に泊まっていくの?今からだと、水の国の王都には日暮れまでにはたどり着かないからね」
「できれば、行けるところまで行っておきたいのだが、ダメだろうか?」
「それでも良いよ、前よりも焦っている感じがするけど、どうかしたの?」

 エルフの里でもそうだったが、以前よりも狼探しを急いでいる感じがしていた。

「うん、北の森でお前が倒してくれた魔獣の狼が居ただろ?」
「ああ、ギルドのテーブルに置いたやつね」

 血だらけの壊れたテーブルの代わりを置いて来たが、組合長は少し怒っていた。

「あれを見て、シルバーの事が気になっているのだ。もちろん、あれは魔獣だったが、血だらけの大きな狼を見たのでだな・・・」

 なるほど、自分の狼も同じ運命にならないかが心配なのか。

「了解! じゃあ、行けるところまで行こうか?セントレアの手前ぐらいまでは行けると思うから、明日の朝にサリナ達を拾っていけば、明日中には風の国に行けるんじゃないかな?」
「そうか! お前には本当に世話になってばかりで申し訳ない。私にできることがあれば何でも言ってくれ」

 そうなのか・・・、婚約者と別れてくれとは言えないし・・・

「また、エルフの里でみんなと狩りに連れて行ってくれれば良いよ」
「そんなことで良いのか? 別に私が居なくても、問題ないぞ?皆、お前の事を気に入っていた。独り身のエルフはお前と結婚したがっていたからな」
「エッ! そうなの!?」

 そうか、俺にもついにモテ期が到来したか!
 問題は俺自身が年齢差を忘れられるかだな・・・、100歳年上? 誤差の範囲だろう!
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