114 / 343
Ⅰ-114 ミーシャとの距離
しおりを挟む
■イースタンの屋敷
イースタンはハンスとサリナ、そしてリンネも客人としてもてなしてくれた。広い客間をあてがわれ、食事も豪華な物を出してくれる。サリナがサトルと出会う前には食べたことの無い美味しいものだ。
「ねえ、お兄ちゃん。サトルは私の事が嫌いなのかなぁ・・・」
サリナ達はサロンと呼ばれている部屋で使用人が用意してくれたお茶と茶菓子をご馳走になっていた。サリナは焼き菓子を手にして、口にしないままハンスへ問いかける。
「なぜ、そう思うのだ?」
「だって、私と一緒にいるのは無理だって・・・」
「それは嫌いだからではないだろう。サトル殿が、今はご自身の使命を受け入れたくないだけだ」
「でも、私も勇者の使命は判らないけど、サトルとはずっと一緒にいたいのに・・・。初めてできたお友達・・・」
「何言ってんの、サトルはあんたの事を嫌ってなんかないよ。ちゃんと可愛がってるじゃないか」
リンネはソファに持たれて、ソーサーから持ち上げたティーカップで優雅に茶を飲んでいる。
「でも、森の国にも連れて行ってくれなかったし、それに・・・、サトルはミーシャの事が私よりも好きなの」
「確かに置いて行かれたけど、またすぐに戻ってくるよ。それと、今頃はミーシャの事をあきらめてるんじゃないかい?」
「あきらめる? どうしてなの?」
「二人が戻ってくればすぐに分かるよ」
「?」
■森の国 北の山地
ミーシャは夕方にはベッドで起き上がれるようになった。栄養ゼリーと鉄分のサプリを飲むとまた横になる。顔色が少しは良くなっているようだが、青白いことに変わりない。やつれていても、美しさが損なわれることは無いのだが・・・。
「すまんな、お前に迷惑をかけてしまい・・・」
横になって、目を瞑ったまま詫びの言葉を口にしている。
「気にするなよ、それよりも俺の作戦が間違っていたんだな。あんなのが居ると思っていなかったから、ミーシャを一人で行かせたしね」
「いや、私の油断だ。お前の銃・・・、いつの間にかあれに頼り切りになっていたのだ。だから、囲まれてもすぐに倒せると思ったが、あいつは知恵があった。同時に四方から襲い掛からせて、その隙を突かれた。私の弾も額に当たったはずだが、氷の鎧に弾かれてお前の銃でも貫けなかったのだ」
そうだ、ストレージの中の狼を確認したが、氷と言うには硬すぎる。斜めに銃弾が当たると、アサルトライフルの弾も弾いてしまう。
「あの狼も見たことないんだよね?」
「ああ、初めて見る。大きさも・・・、氷に覆われた・・」
「もうしばらく寝た方が良いよ」
「ああ・・・」
まだ、ミーシャの体にエネルギーが戻っていない。今は休ませることが最優先だろう。キャンピングカーの明かりを消して、ベッドサイドにペットボトルを置いて、寝室から出て行った。
車の周りにある森は日が落ちて、ほとんど見えなくなっている。あの中にはもっと大きく危険な獣が居るかもしれない・・・、武器の整理だな。
§
翌朝にはミーシャはベッドに座れるようになっていた。ペットボトルの水は空になっていたので、温かいコーンスープを飲ませてやる。
「ありがとう、お前は本当に良い奴だな」
「な、仲間だからね。もう少し食べられるなら用意するよ」
ミーシャの弱弱しい笑みが整った唇を持ち上げると、ときめいても仕方のないミーシャにドキドキしてしまう。
「ああ、何かあれば頼む」
うなずいた俺は、タブレットで料亭のカニ雑炊を選んで土鍋を取り出した。小さな茶碗によそって、レンゲと一緒に渡してやる。
「熱いから、冷ましてから食べろよ」
「ああ、ご飯をスープのようにしたものなのだな」
「うん、卵も入っているから栄養もあるよ」
ミーシャはレンゲにとって、少しだけ口に入れた。
「熱ゥ! あ、熱いな!」
「だから、そう言っただろ。こうやって息を吹きかけて・・・」
レンゲを持つミーシャの手を取って、息を吹きかけてやる。ミーシャの顔はレンゲのすぐ向こうで吹いた湯気が顔にあたる。すました顔でレンゲに載ったカニ雑炊を眺めるハーフエルフの美少女がそこに、手を伸ばせば・・・。
「冷ましてから食べろよ」
「ああ、分かった」
危うく病人によからぬ妄想を描いたが、ヘタレの俺はすぐに現実に戻った。
■クラウスの組合
北の山地からクロカン4WDでゆっくりと王都クラウスまで戻って来た。助手席で寝ていたミーシャもクラウスに着いた時には一人で歩ける程度に回復していた。もちろん、急な動きはまだ無理だろうから、念のため付き添うように組合に入り、組合長へ面会を申し込んだ。
組合長のイアンは俺達がこんなに早く戻って来たので、途中で引き返して来たと思ったようだ。
「やはり、お二人で行かれるのは思いとどまられたのですね」
「いや、魔獣のリーダーは討った。群れもほとんど倒したはずだ」
「ですが、行かれてから、まだ三日しかたっておりません。如何にエルフの戦士でも、それは無理でしょう。あまり、虚言を吐かれると・・・」
デカイ図体の小心者は、ミーシャが嘘を吐いていると思ったようだ。
「いや、私たちの馬車は魔法の馬車だから早いのだ。北の山地までは5時間ほどで着く」
「まさか・・・、それにしても群れを追うのに2日やそこらでは・・・」
頭の固い大男には現物を見せる方が良いのだろう。少し汚れるかもしれないが我慢してもらおう。俺はストレージから狼のリーダーを取り出して、目の前のテーブルに置いてやった。
「な、何ですか! 突然魔獣が!!」
イアンは飛び上がって座っていたソファの後ろに隠れようとした。目の前にはテーブルよりも大きな氷の狼が血まみれで横たわっている。
「これが、狼のリーダーですよ。触って確かめてみてください。幻ではありませんよ」
-ミシ、ミシッ、バーン!
ダメだった、応接テーブルでは魔獣の重さに耐えられなかったようだ。仕方ない、後で新しいものを用意してあげよう。
イースタンはハンスとサリナ、そしてリンネも客人としてもてなしてくれた。広い客間をあてがわれ、食事も豪華な物を出してくれる。サリナがサトルと出会う前には食べたことの無い美味しいものだ。
「ねえ、お兄ちゃん。サトルは私の事が嫌いなのかなぁ・・・」
サリナ達はサロンと呼ばれている部屋で使用人が用意してくれたお茶と茶菓子をご馳走になっていた。サリナは焼き菓子を手にして、口にしないままハンスへ問いかける。
「なぜ、そう思うのだ?」
「だって、私と一緒にいるのは無理だって・・・」
「それは嫌いだからではないだろう。サトル殿が、今はご自身の使命を受け入れたくないだけだ」
「でも、私も勇者の使命は判らないけど、サトルとはずっと一緒にいたいのに・・・。初めてできたお友達・・・」
「何言ってんの、サトルはあんたの事を嫌ってなんかないよ。ちゃんと可愛がってるじゃないか」
リンネはソファに持たれて、ソーサーから持ち上げたティーカップで優雅に茶を飲んでいる。
「でも、森の国にも連れて行ってくれなかったし、それに・・・、サトルはミーシャの事が私よりも好きなの」
「確かに置いて行かれたけど、またすぐに戻ってくるよ。それと、今頃はミーシャの事をあきらめてるんじゃないかい?」
「あきらめる? どうしてなの?」
「二人が戻ってくればすぐに分かるよ」
「?」
■森の国 北の山地
ミーシャは夕方にはベッドで起き上がれるようになった。栄養ゼリーと鉄分のサプリを飲むとまた横になる。顔色が少しは良くなっているようだが、青白いことに変わりない。やつれていても、美しさが損なわれることは無いのだが・・・。
「すまんな、お前に迷惑をかけてしまい・・・」
横になって、目を瞑ったまま詫びの言葉を口にしている。
「気にするなよ、それよりも俺の作戦が間違っていたんだな。あんなのが居ると思っていなかったから、ミーシャを一人で行かせたしね」
「いや、私の油断だ。お前の銃・・・、いつの間にかあれに頼り切りになっていたのだ。だから、囲まれてもすぐに倒せると思ったが、あいつは知恵があった。同時に四方から襲い掛からせて、その隙を突かれた。私の弾も額に当たったはずだが、氷の鎧に弾かれてお前の銃でも貫けなかったのだ」
そうだ、ストレージの中の狼を確認したが、氷と言うには硬すぎる。斜めに銃弾が当たると、アサルトライフルの弾も弾いてしまう。
「あの狼も見たことないんだよね?」
「ああ、初めて見る。大きさも・・・、氷に覆われた・・」
「もうしばらく寝た方が良いよ」
「ああ・・・」
まだ、ミーシャの体にエネルギーが戻っていない。今は休ませることが最優先だろう。キャンピングカーの明かりを消して、ベッドサイドにペットボトルを置いて、寝室から出て行った。
車の周りにある森は日が落ちて、ほとんど見えなくなっている。あの中にはもっと大きく危険な獣が居るかもしれない・・・、武器の整理だな。
§
翌朝にはミーシャはベッドに座れるようになっていた。ペットボトルの水は空になっていたので、温かいコーンスープを飲ませてやる。
「ありがとう、お前は本当に良い奴だな」
「な、仲間だからね。もう少し食べられるなら用意するよ」
ミーシャの弱弱しい笑みが整った唇を持ち上げると、ときめいても仕方のないミーシャにドキドキしてしまう。
「ああ、何かあれば頼む」
うなずいた俺は、タブレットで料亭のカニ雑炊を選んで土鍋を取り出した。小さな茶碗によそって、レンゲと一緒に渡してやる。
「熱いから、冷ましてから食べろよ」
「ああ、ご飯をスープのようにしたものなのだな」
「うん、卵も入っているから栄養もあるよ」
ミーシャはレンゲにとって、少しだけ口に入れた。
「熱ゥ! あ、熱いな!」
「だから、そう言っただろ。こうやって息を吹きかけて・・・」
レンゲを持つミーシャの手を取って、息を吹きかけてやる。ミーシャの顔はレンゲのすぐ向こうで吹いた湯気が顔にあたる。すました顔でレンゲに載ったカニ雑炊を眺めるハーフエルフの美少女がそこに、手を伸ばせば・・・。
「冷ましてから食べろよ」
「ああ、分かった」
危うく病人によからぬ妄想を描いたが、ヘタレの俺はすぐに現実に戻った。
■クラウスの組合
北の山地からクロカン4WDでゆっくりと王都クラウスまで戻って来た。助手席で寝ていたミーシャもクラウスに着いた時には一人で歩ける程度に回復していた。もちろん、急な動きはまだ無理だろうから、念のため付き添うように組合に入り、組合長へ面会を申し込んだ。
組合長のイアンは俺達がこんなに早く戻って来たので、途中で引き返して来たと思ったようだ。
「やはり、お二人で行かれるのは思いとどまられたのですね」
「いや、魔獣のリーダーは討った。群れもほとんど倒したはずだ」
「ですが、行かれてから、まだ三日しかたっておりません。如何にエルフの戦士でも、それは無理でしょう。あまり、虚言を吐かれると・・・」
デカイ図体の小心者は、ミーシャが嘘を吐いていると思ったようだ。
「いや、私たちの馬車は魔法の馬車だから早いのだ。北の山地までは5時間ほどで着く」
「まさか・・・、それにしても群れを追うのに2日やそこらでは・・・」
頭の固い大男には現物を見せる方が良いのだろう。少し汚れるかもしれないが我慢してもらおう。俺はストレージから狼のリーダーを取り出して、目の前のテーブルに置いてやった。
「な、何ですか! 突然魔獣が!!」
イアンは飛び上がって座っていたソファの後ろに隠れようとした。目の前にはテーブルよりも大きな氷の狼が血まみれで横たわっている。
「これが、狼のリーダーですよ。触って確かめてみてください。幻ではありませんよ」
-ミシ、ミシッ、バーン!
ダメだった、応接テーブルでは魔獣の重さに耐えられなかったようだ。仕方ない、後で新しいものを用意してあげよう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
891
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる