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Ⅰ-108 ミーシャとドライブ
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■森の国へ向かう街道
ミーシャと二人で気持ち良い朝の風を頬に受けながら、4輪バギーで北へ向かって走っていた。ヘルメットの下で揺れているきれいな金髪と美しい横顔に見とれて、運転しているバギーが斜めに走りそうになる。
昨日、砦からイースタンの屋敷に戻ると、イースタンはハンスの無事に喜び、連れてきたリンネを受け入れることにもあっさりと同意した。俺以外は死人を操る不死の女が怖くないらしい。
屋敷ではハンスに回収してきた魔法具一式を渡そうとしたが、俺に持っておいてほしいと言い張った。だが、これを持っていると勇者ゲームに引きずり込まれるのは確実だった。
「いえ、これはハンスさん達のものですから、私が持っておくものではありません。私は明日から別の国へ出かけますので、これはここに置いて行きます。どう使うかは好きにしてください」
強めに言い切って、そのまま置いてきた。今朝も俺とミーシャが出かけるときに、サリナを連れて行くように頼まれたが、連れて行く理由がないのではっきりと断った。連れて行かない理由は当然あったが内緒にしておく。サリナは黙って何も言わない。シグマの町を出てからは殆ど話をしなくなっていた。エルとアナも少し寂しそうだったと思う。
俺にも多少の心残りはあったが、イースタンの所にいれば安心だろう。身の危険は無いはずだ・・・、ハンスが大人しくしていればだが。
「ミーシャ、森の国のことを教えてよ。他の国と交流しないって聞いたけど」
俺はバギーの前方を見たまま、インカム越しに話しかけた。風切り音のなかでも、イヤーピースからはクリアな声が聞こえてくる。
「ああ、森の国に入るには許可証が必要だ。商人も事前に登録したものしか入れない。国境だけでなく、国に入ってからも関所が何か所かある」
「どうして、他の国と交流しないんだろう?」
「火の国との戦に備えるためだな」
「戦?なんで、戦争が起こるの?」
「考え方の違いだろう。火の国は昔のように、このドリーミアを人だけの世界にしたいのだ。獣人やエルフが居ない世の中だ」
「水の国と風の国はどう考えているの?」
「わからないが、火の国とは考え方が違うはずだ、獣人が自由に動けているからな。火の国では獣人は人とみなされていないから、所有者が居なければ殺してもかまわないのだ」
「エルフはどうなるの?」
「我らは奴隷にはならないが、殺されてもあの国では文句が言えない」
俺の中では火の国が悪者のように思うが、そう簡単なものでもないのかもしれない。長い歴史には色々な背景や理由があるのだ。
「王様に神の拳を渡したら、すぐにエルフの森に向かうのかな?」
「それは・・・、行ってみないと判らない。私はエルフの長老に王の命に従うように言われているのだ」
森の国まではセントレアからバギーなら5時間ほどで着くはずだが、途中の関所は歩いて通過する必要があるから、森の国の王都であるクラウスには夕方の到着になるかもしれない。
バギーは途中で何台もの馬車を追い抜いていく、そろそろこの世界でうわさが広まっているはずだ。大きな音と砂埃を巻き上げる化け物が走り回っていると。バギーを選択しているのはまさに追い抜きのためだ。街道と言っても馬車がすれ違うのがやっとの道幅だから、大きなピックアップトラックでは追い越すのが面倒だった。
セントレアの北側も豊な穀倉地帯が続いている。水の国はほとんどが平野で南の荒れ地以外は町の周りに畑が大きく広がっていた。魔獣も出てこない平和なドライブを2時間近く続けたところで、ミーシャが停止の合図を出した。
国境の2㎞ほど手前の小さな森でバギーを降りて徒歩で関所に向かうと、遠くに大きな建物が見えてきた。関所は門になっているわけでは無かった。大小の二つの小屋が街道の両側に立ち、槍を持った兵士が10名ほど立っていたが、俺達が近づくとその中の二人が道の真ん中に出てきた。大きな小屋の上には見張り台があり、弓を持った兵士が二人いて俺達をずっとみている。どの兵士も、これまで見てきた兵士たちよりも緊張感がある。
だが、出てきた兵士の一人に、ミーシャが小さな木の板のようなものを見せると、兵士は驚いた表情を浮かべて、すぐに俺達を通してくれた。かなりご利益があるもののようだ。
「ミーシャ、今見せた証明書は特別なものなの?」
「ああ、これは王命で動いて居ることを証明するものだ。この国の兵であれば私の言う事は王の命として聞いてくれるだろう」
なるほど、時代劇の印籠みたいなものだな。
国境から先にも二つの関所があったが、印籠効果で無事に通過して王都クラウスが見えてきた。見た感じではバーンよりは小さな町だが、それでも途中で通過してきた町に比べればはるかに大きい。遠くからでも、町を囲む城壁とその向こうにある石造りの大きな建物がたくさん見えている。
「それで、このまま王宮に行くのかな?」
人通りがない林の中でバギーを降りて二人で歩き始めたが、時計の針は16時前を差している。
「いや、この時間だと失礼だろう。明日の朝に訪ねることだけを伝えて、出直すことにしよう」
「そうか、じゃあ、今夜は何処か宿に泊まる?」
「ああ、馴染みの宿があるから、そこに行こう。お前の食事程ではないが、食事もうまいぞ。今までの礼に私がご馳走するから、今夜は遠慮なく食べてくれ」
宿・・・同じ部屋で良いのかな?今までも3人の時はいつも一部屋だった。俺はストレージで寝るのが普通だったが、今日からは二人きりだ。そう考えると、すぐに緊張してきた。
初めてのドライブデートでも、道中の会話はあまり盛り上がらなかった。ミーシャは俺の聞いたことには何でも答えるが、自分から話し出すことは殆どない。こっちも、会話の引き出しは殆どない。
ミーシャとの距離を近づけるには・・・?
ミーシャと二人で気持ち良い朝の風を頬に受けながら、4輪バギーで北へ向かって走っていた。ヘルメットの下で揺れているきれいな金髪と美しい横顔に見とれて、運転しているバギーが斜めに走りそうになる。
昨日、砦からイースタンの屋敷に戻ると、イースタンはハンスの無事に喜び、連れてきたリンネを受け入れることにもあっさりと同意した。俺以外は死人を操る不死の女が怖くないらしい。
屋敷ではハンスに回収してきた魔法具一式を渡そうとしたが、俺に持っておいてほしいと言い張った。だが、これを持っていると勇者ゲームに引きずり込まれるのは確実だった。
「いえ、これはハンスさん達のものですから、私が持っておくものではありません。私は明日から別の国へ出かけますので、これはここに置いて行きます。どう使うかは好きにしてください」
強めに言い切って、そのまま置いてきた。今朝も俺とミーシャが出かけるときに、サリナを連れて行くように頼まれたが、連れて行く理由がないのではっきりと断った。連れて行かない理由は当然あったが内緒にしておく。サリナは黙って何も言わない。シグマの町を出てからは殆ど話をしなくなっていた。エルとアナも少し寂しそうだったと思う。
俺にも多少の心残りはあったが、イースタンの所にいれば安心だろう。身の危険は無いはずだ・・・、ハンスが大人しくしていればだが。
「ミーシャ、森の国のことを教えてよ。他の国と交流しないって聞いたけど」
俺はバギーの前方を見たまま、インカム越しに話しかけた。風切り音のなかでも、イヤーピースからはクリアな声が聞こえてくる。
「ああ、森の国に入るには許可証が必要だ。商人も事前に登録したものしか入れない。国境だけでなく、国に入ってからも関所が何か所かある」
「どうして、他の国と交流しないんだろう?」
「火の国との戦に備えるためだな」
「戦?なんで、戦争が起こるの?」
「考え方の違いだろう。火の国は昔のように、このドリーミアを人だけの世界にしたいのだ。獣人やエルフが居ない世の中だ」
「水の国と風の国はどう考えているの?」
「わからないが、火の国とは考え方が違うはずだ、獣人が自由に動けているからな。火の国では獣人は人とみなされていないから、所有者が居なければ殺してもかまわないのだ」
「エルフはどうなるの?」
「我らは奴隷にはならないが、殺されてもあの国では文句が言えない」
俺の中では火の国が悪者のように思うが、そう簡単なものでもないのかもしれない。長い歴史には色々な背景や理由があるのだ。
「王様に神の拳を渡したら、すぐにエルフの森に向かうのかな?」
「それは・・・、行ってみないと判らない。私はエルフの長老に王の命に従うように言われているのだ」
森の国まではセントレアからバギーなら5時間ほどで着くはずだが、途中の関所は歩いて通過する必要があるから、森の国の王都であるクラウスには夕方の到着になるかもしれない。
バギーは途中で何台もの馬車を追い抜いていく、そろそろこの世界でうわさが広まっているはずだ。大きな音と砂埃を巻き上げる化け物が走り回っていると。バギーを選択しているのはまさに追い抜きのためだ。街道と言っても馬車がすれ違うのがやっとの道幅だから、大きなピックアップトラックでは追い越すのが面倒だった。
セントレアの北側も豊な穀倉地帯が続いている。水の国はほとんどが平野で南の荒れ地以外は町の周りに畑が大きく広がっていた。魔獣も出てこない平和なドライブを2時間近く続けたところで、ミーシャが停止の合図を出した。
国境の2㎞ほど手前の小さな森でバギーを降りて徒歩で関所に向かうと、遠くに大きな建物が見えてきた。関所は門になっているわけでは無かった。大小の二つの小屋が街道の両側に立ち、槍を持った兵士が10名ほど立っていたが、俺達が近づくとその中の二人が道の真ん中に出てきた。大きな小屋の上には見張り台があり、弓を持った兵士が二人いて俺達をずっとみている。どの兵士も、これまで見てきた兵士たちよりも緊張感がある。
だが、出てきた兵士の一人に、ミーシャが小さな木の板のようなものを見せると、兵士は驚いた表情を浮かべて、すぐに俺達を通してくれた。かなりご利益があるもののようだ。
「ミーシャ、今見せた証明書は特別なものなの?」
「ああ、これは王命で動いて居ることを証明するものだ。この国の兵であれば私の言う事は王の命として聞いてくれるだろう」
なるほど、時代劇の印籠みたいなものだな。
国境から先にも二つの関所があったが、印籠効果で無事に通過して王都クラウスが見えてきた。見た感じではバーンよりは小さな町だが、それでも途中で通過してきた町に比べればはるかに大きい。遠くからでも、町を囲む城壁とその向こうにある石造りの大きな建物がたくさん見えている。
「それで、このまま王宮に行くのかな?」
人通りがない林の中でバギーを降りて二人で歩き始めたが、時計の針は16時前を差している。
「いや、この時間だと失礼だろう。明日の朝に訪ねることだけを伝えて、出直すことにしよう」
「そうか、じゃあ、今夜は何処か宿に泊まる?」
「ああ、馴染みの宿があるから、そこに行こう。お前の食事程ではないが、食事もうまいぞ。今までの礼に私がご馳走するから、今夜は遠慮なく食べてくれ」
宿・・・同じ部屋で良いのかな?今までも3人の時はいつも一部屋だった。俺はストレージで寝るのが普通だったが、今日からは二人きりだ。そう考えると、すぐに緊張してきた。
初めてのドライブデートでも、道中の会話はあまり盛り上がらなかった。ミーシャは俺の聞いたことには何でも答えるが、自分から話し出すことは殆どない。こっちも、会話の引き出しは殆どない。
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