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Ⅰ-61 第2迷宮 中編

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■第2迷宮 内部

ミーシャを先頭に土で出来た不規則な階段を上がったが、ミーシャは二階部分に頭っだけ入れて様子を伺うと立ち止まった。
俺は後ろの警戒をしながら、ミーシャが先に進むのを階段の途中で待っていたが前に来るように呼ばれたので、狭い階段でサリナをかわしながらミーシャの横に行く。
2階にも外からの開口部があり、日の光が入っていたので薄暗いながらも全体が見渡せた。

「ここには床が無いのだ」

ミーシャは床を指差して立ち止まっていた理由を俺に説明してくれた。
確かに目の前には第一迷宮にもあった床の無い部屋が広がっている。
階段を上がるとすぐに床が無くなっている。壁際で立てる場所は1メートルぐらいの幅がこちら側の壁と向こう側の壁沿いにそれぞれあるのだが、その間は4メートル以上開いている。

「ミーシャは向こうまで飛べる?」

「それは無理だな、上に縄などを掛けなければ助走もなしでこの距離は飛べないだろう」

エルフも超人ではないと言うことだ。

高い天井を見ると上の階も同じように床が無い構造になっているようだった。
だが、向かい側の壁の階段の横には天井に届きそうな大きな木の板が立てかけてある。
あの板をこちらまで渡すことが出来れば、ちょうど届くようになっているようなのだが、そもそも向こう側に行かなければ板はこちらまで届かないので何の役にも立たない。

ストレージから前回使ったのと同じハシゴを取り出した。
向こうの床までは5メートル足らずだったので、長すぎたハシゴを斜めに渡して、俺、ミーシャ、サリナの順番で向こう側に渡った。

置いてある大きな木の板がどうしても気になったので、触って確認してみると5cm位の厚い板が縦横に重ね合わせて作られたもので、床には動かないように石をかませて斜めに立てかけてある。
強度と言い大きさといい、やはり渡るための板のように見えた。
向こうに届くか試したくなったので、斜めに立てかけている板を起こして、反対側の壁に向けて倒してみた。
少し重かったが、立ち上がった板はゆっくりと、最後には大きな音を立てて向かい側の床に届いた。
幅1メートルぐらいの分厚い板で橋ができた。
渡るためのものなのだろうが・・・、上から降りてくるときのための板なのだろうか?
だとすると、他に入り口があって入る場所を間違えたのか?

板が立てかけてあった場所には外に面した大きな開口部があり、板が倒れたことで部屋の中は明るくなったが他に仕掛けは見つから無かった。
先頭をミーシャと交替して3階に上がっていったが・・・、2階と同じ構造だ。
床の無い部屋で向かい壁には大きな板がある。

考えてもわからないので、先ほど同じ要領ではしごを向かいの壁に渡した。
天井を見ると4階まで同じ構造になっていることがわかった。

作った人間の意図がわからないが、向かい側にある板を手前に持ってくる方法があるのだろう、やはり魔法をつかうのか?
何かの魔法であの板を動かすことができるのかもしれない・・・、だが考えてもわからない。
幸いなことにこの迷宮の中には床が無い代わりに魔獣もいないが、今日は迷宮にたどり着くのに時間が掛かっている、あまりゆっくりはしていられないだろう。
謎解きはあきらめて、4階に向かうと同じ構造だったので、同じ手順ではしごを渡して5階まで上がった。

5階は今までの部屋の半分ぐらいの大きさだったが床はちゃんとある。
一箇所開口部があるが・・・そこは外に繋がっている。
下から見た外側に通路のある場所のようだ、俺は腰の引けた状態で開口部の外を見た。
壁に手をついて、少しだけ身を乗り出すと、眼下には先ほど焼き尽くしたサソリが入っている堀が遥か下に見える。
開口部から左側に庇が出ていて、今居る部屋の隣の部屋に行けそうだ。
分厚い庇になっている部分は幅も50cmぐらいあるから、十分に歩けるのだろうが・・・俺には無理だ。
高いところはダメだ、考えただけでぞっとする。

登山のザイルで固定して・・・、やっぱり無理な気がする。
足がすくんで歩ける気がしない。

ここは恥を忍んでミーシャ様にお願いするしかないだろう。
いや、プライドが・・・それでも・・・

「サトル、どうした。危険な鳥でもいるのか?」

-そうか! その手があった!

「いや、見える範囲には鳥はいないけど、この先は5メートルほど外を歩かないといけない。さっきのヤツが飛んでくると危ない、俺が銃で援護するからミーシャだけで隣の部屋を見て来られるか?」

「もちろんだ、その方が良いだろう。お前の道具なら外すことも無いだろうからな」

ミーシャはチラッと外を見ただけで同意してくれた。

-ヨッシャ! 怖いと言わなくて済んだ!!

それでも少し不安になので、ミーシャにハーネスとザイルをつけることにした。
ついでに水分と栄養補給をゼリー飲料で補い、短い休憩をとることにする。
既に夕暮れが近づいてきているから長い時間は休めない。

床に3箇所ハーケンを打ち込んで、ザイルを結ぶ支点を作った。
ミーシャにつけたハーネスに20メートルのザイルを取り付けて外の庇を渡ってもらう。

「向こうの部屋で何か見つけたら、声を掛けてくれ。持ち帰れるものならそのまま持ってきて」

「承知した」

-そう、できればそのまま持って帰ってください。

見ているだけでも怖いのだが、男前のミーシャは壁を背にしてあっという間に渡ってしまった。
せっかくのザイル・・・、全く役に立っていない。

30秒ほどしか待たない間にミーシャは向こうの部屋から出て来た。
箱を持っているのが見える・・・、だが、見えたと同時に頭上から甲高い鳴き声と羽ばたく音が聞こえた!

俺は準備していたショットガンを勘で上空に連射した。
狭い部屋に轟音が反響して薬莢が床に転がっていく。

2羽見えた影の内1羽をしとめたが片方を逃した。
塔の周りを未だ飛んでいるはずだ。
ミーシャは一旦向こうの部屋に戻っている。

ショットガンを構えて飛んでくるのを待っていたが、見える範囲に出てこないのでミーシャを呼んだ。

「ミーシャ、今の内にこっちへ来い!」

俺の声ですぐに部屋から出て来たミーシャは、庇の上を3歩で走り抜けてこちらの部屋へ戻って来た。
腕の中には見慣れた木箱を抱えている。

「何処にあったの?」

「壁の一部が窪んでいる場所に置いてあった。他の迷宮のように隠しては無かったぞ」

「そうなんだ、じゃあ大したものは入ってないかもしれないな」

「そうかもしれんな、それよりもこの後はどうするつもりなのだ、そろそろ日暮れだから、森を抜けるのが既に難しいだろう」

「日が暮れたら森を抜けるのは無理かな?」

「ああ、夜の森は獣たちのものだからな、確実に狩られるだろう」

-照明があっても危険に違いない。

「だったら、此処で野営することにしようか?」

「ここでか・・・、確かに食料があれば此処のほうが安全かもしれんな」

高いところは怖いが壁際に座っていれば俺も大丈夫だろう。
俺はストレージで寝かせてもらって・・・、そうか!高いところから落ちても途中でストレージに入れば・・・いや、パニクって絶対無理だ、確実に死ぬだろう。

この部屋の外に面した開口部も後で何かを置いて塞いでおくことしよう。
高くても落ちない安心感があれば不思議と怖くは無いのだ。
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