上 下
50 / 343

Ⅰ-50 燃えるライオン

しおりを挟む
■第3迷宮

ピックアップトラックで最短距離の入り口へ回ると、残念ながらそこには門番が居た。
例の燃えるライオンだ。
あまり動かないヤツのようで、百貨店前においてある置物のように座っている。
入り口の中には、黄色と黒の虎もチラチラ見えるが外で偉そうにして居るのはこいつだけだ。

双眼鏡でサイズを推計すると全長4メートルぐらいはある。
ライオンにしてはでかすぎるが、この世界ではいつものことだ。

遠距離なら対物ライフルの出番だろう、500メートルの地点で車を停めて50口径のライフルをストレージから取り出した。

マットの上で伏射の姿勢をとってからボルトレバーを引く。
スコープの中で、オスワリをしているやつを探して・・・見つけた!

十字線が体の中心部にあった瞬間にトリガーを引く。

サプレッサーでは押さえきれない12.7mmという巨大な弾丸の炸裂音が荒野に響き渡った・・・が、外れた。

スコープは500メートルの位置で調整しているのだが、まだまだ修行が足りない。
ライオンはこちらに気づいたようだ、立ち上がって・・・大きくなった!?
スコープで確認すると、炎がタテガミだけじゃなく全身から噴出しているようだ。

-落ち着け俺。

それでも、こちらへ走ってくる様子が無いので、もう一度スコープの十字線をさっきより少しに合わせてトリガーを引いた・・・OK! 命中だ横倒しになって炎が小さくなった!
だが・・・おかしい、最初と同じようにタテガミのあたりだけが燃えているようだ。
倒れても火が消えていない、絶命していないのだろうか?

銃をストレージに戻して、ピックアップトラックを迷宮100メートル地点まで進めて4人とも降りた。

全員既にフル装備になっている。
ヘルメット、ライト、サングラス、フェイスマスク、イヤーマフ、防刃ベスト、タクティカルベストを服の上から装着した。

サリナとハンスにはポリカーポネート素材のライオットシールドを持たせた。
サリナはロッドを右手に、透明のシールドを左手に持っていて、中途半端なファンタジー感が更に酷くなった。

ミーシャは矢筒を背負い、弓に矢を当てて既に撃てる体勢をとっていた。
俺はいつものアサルトライフル、サブマシンガン、ハンドガンを装備して、手榴弾等はベストに沢山入っている。

ミーシャを先頭に、サリナ、ハンス、俺の順番でゆっくりと燃えるライオンに近づいていく。

ミーシャは50メートルぐらいで矢をライオンに放った。
吸い込まれるように、頭と思われる場所へ矢が刺さる。
しかし、まだ燃えているせいでカーボン製の矢はすぐに変形していった。

それでも、矢が刺さってもピクリともしないという事は、死んでいるのは間違いないのだろう。

-死んでも燃え続ける?

10メートルまで近寄って様子を見たが、俺の12.7mm弾は胴体を前後に引き裂いていた。
置き去りになった後半身(?)は火が消えいて、灰のように黒くなっている。

ライオンの頭部を含む前半身(?)はこの位置から見るとタテガミだけでなく、全身が薄い炎で包まれていることがわかった。

アサルトライフルの弾丸をフルオートで叩き込んでみても火は消えない。

-気にする必要は無いのか?

だが、やはり気になる。

「サリナ、この火の上に水を掛けてみてよ」

「水? できるかな? 浮かしたことしかないから・・・」

「だったら、神様に大きな水球をライオンと同じ場所に出してくださいってお願いしてみろよ」

「同じ場所・・・、わかった! やってみる!」

サリナは少し目を瞑ってから右手をライオンに向けて伸ばした・・・

「ウワァ!」 「アッ!」

サリナは炎と重なる場所に水球を出した途端に、熱したフライパンに水を落としたような音がはじけて、大きな水蒸気の塊が発生した!
俺の顔にも水蒸気の熱風が襲いかかる!

「熱ッ!」

思わず後ろを向いて顔をそらしたが、熱風はすぐに収まり、水蒸気の湯気も風で流されていった。
高温の物体に水を掛けたことで一気に爆ぜたのだろう。
だが、効果はあった。ライオンの頭から炎が消えている。

しかし・・・、黒い虎のような形のこいつは炭に、いや土のようになっている。
ストレージから木刀を取り出して首の辺りを突くとボロボロと崩れていく。
生き物ではなかったようだ。

「サトル! ここ! ここ!」

ライオンの頭だった場所を見ていたサリナが興奮して指差している。

その場所を見るとライオンの額だった場所に赤いものが光っていた。
コンバットナイフで額の横を突き刺して抉ると、ボロボロと黒い土が落ちて行き、最後に赤い石が土と一緒に地面に落ちた。

石を手にとってみたが、縦横2cmぐらいの透明感がない真っ赤な石だ。

赤い石も気になるが俺がもっと気になったのはボロボロと落ちる土の方だ。
こいつは土で出来ていたのだ、だとすればゴーレムの一種になる。
図鑑には命のない魔獣は載って無かったが、目の前に居る以上は文句を言っても仕方が無い。
戦う上ではかなり厄介だ、口径の小さい銃や弓矢では命のないヤツは動きを止められないだろう。
「ハンスさん、この石ですけど何かわかりますか?」

赤い石をハンスに渡すと同じように光に透かしてみながら首をかしげている。

「聖教石・・・、ではないですね。ひょっとすると魔法石かもしれませんが、見たことが無いのでなんとも言えません」

「そうですか、必要でしたらお渡ししますので」

「いえ、これはサトル殿がお持ちください。その方が無くならないでしょう」

ハンスも俺と俺のストレージのことを信頼しているようだ。
仕組みは判らなくても、実績がそうさせているのだろう。
ストレージの金貨等を入れる手提げ金庫の中でお預かりすることにした。

「それじゃぁ、いよいよ中に入りますか」

俺はミーシャに笑顔を向けて、迷宮の入り口へ歩き出そうとした。
だが、美しいハーフエルフは俺の目の前でいきなり弓を引いて、迷宮の入り口へ矢を放ったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!

東導 号
ファンタジー
雑魚モブキャラだって負けない! 俺は絶対!前世より1億倍!幸せになる! 俺、ケン・アキヤマ25歳は、某・ダークサイド企業に勤める貧乏リーマン。 絶対的支配者のようにふるまう超ワンマン社長、コバンザメのような超ごますり部長に、 あごでこきつかわれながら、いつか幸せになりたいと夢見ていた。 社長と部長は、100倍くらい盛りに盛った昔の自分自慢語りをさく裂させ、 1日働きづめで疲れ切った俺に対して、意味のない精神論に終始していた。 そして、ふたり揃って、具体的な施策も提示せず、最後には 「全社員、足で稼げ! 知恵を絞り、営業数字を上げろ!」 と言うばかり。 社員達の先頭を切って戦いへ挑む、重い責任を背負う役職者のはずなのに、 完全に口先だけ、自分の部屋へ閉じこもり『外部の評論家』と化していた。 そんな状況で、社長、部長とも「業務成績、V字回復だ!」 「営業売上の前年比プラス150%目標だ!」とか抜かすから、 何をか言わんや…… そんな過酷な状況に生きる俺は、転職活動をしながら、 超シビアでリアルな地獄の現実から逃避しようと、 ヴァーチャル世界へ癒しを求めていた。 中でも最近は、世界で最高峰とうたわれる恋愛ファンタジーアクションRPG、 『ステディ・リインカネーション』に、はまっていた。 日々の激務の疲れから、ある日、俺は寝落ちし、 ……『寝落ち』から目が覚め、気が付いたら、何と何と!! 16歳の、ど平民少年ロイク・アルシェとなり、 中世西洋風の異世界へ転生していた…… その異世界こそが、熱中していたアクションRPG、 『ステディ・リインカネーション』の世界だった。 もう元の世界には戻れそうもない。 覚悟を決めた俺は、数多のラノベ、アニメ、ゲームで積み重ねたおたく知識。 そして『ステディ・リインカネーション』をやり込んだプレイ経験、攻略知識を使って、 絶対! 前世より1億倍! 幸せになる!  と固く決意。 素晴らしきゲーム世界で、新生活を始めたのである。 カクヨム様でも連載中です!

処理中です...