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Ⅰ-35 魔法具の威力
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■バーン南東の第一迷宮
回復力が獣人だからなのか、サリナの治療魔法の効果なのかは不明だが、ハンスは夕方前には普通に動き回っていた。
かなり窮屈そうにシャワールームに入っていき、サリナの指導で体を綺麗にしていた。
身長は180cmぐらいだが、肩幅や胸板は人間のそれとは比較にならない厚みなので、シャワールームの空間全てを埋め尽くすぐらいになっている。
狭い空間で何とか全身の泡を落としたハンスがすっかり良い匂いになって出てきた。自分の体の匂いを何度もかいでいる。
体はかなり毛深いがそのままではマズイ、寒さもあるがご立派な物が丸見えだ。
サリナもミーシャも恥ずかしがらないのが不思議だったが、俺が恥ずかしかった。
俺と同じ様な服をそろえようとしたが、サイズが全然合わない。
海外のサイトで調べて大きさ優先で用意してやった。
コンバットブーツ、靴下、カーゴパンツ、トランクス、タンクトップ、プルオーバースウェットで整えた。
服を着たハンスは人間ではないがかっこよく見えた。
目が切れ長で知性的な感じだからなのか、現代の服に違和感が無い。
着替えていると既に腹がグルグル鳴り出している。
回復と共に空腹感が加速したのだろう。
時間は17時前だったが早めの食事を用意することにした。
ハンスの顔を見るとビーフシチューを食べさせてやりたくなったので、人気ランキング上位の洋食店から10皿と、クロワッサンやロールパンを大量に並べてやった。
ハンスはサリナから俺の魔法を聞いていたようだ、服を取り出したときも驚きはしたが何も質問して来なかった。
今も黙ってテーブルに並んだ料理を見ている。
「じゃあ、遠慮なく食べてください。お替りが必要なら幾らでも用意します。もしホワイトソースのシチューがよければ交換します」
「お兄ちゃん! サトルのご飯は世界一だから!!」
サリナがシチューにスプーンを突っ込んで食べ始めた。スプーンが口の前で高速回転している。
ミーシャも一口すすってから笑みを浮かべて、どんどん口に運んでいる。
ハンスはサリナの食べっぷりをしばらく見ている。
「ハンスさん? どうしました? ビーフシチューはお嫌いでしたか?」
「いや、そうではないのです。二度とサリナと食事ができるとは思っていなかったので・・・」
なるほど、死を覚悟していたのか。
「せっかくですから、冷めないうちにどうぞ。美味しいですよ」
自分で用意して言うのも変なのだが、初めて食べたビーフシチューはかなり美味しかった。
肉は口の中でホロホロ溶けていくぐらい柔らかく、デミグラスソースの中には肉汁の味が凝縮されている。
ハンスも一口すすって目を見開いた。
「世界にこんな美味いものがあるのか・・・」
最高の賛辞を送ったハンスはそれから一言も口を利かずに5皿のシチューを平らげた。サリナもミーシャも、そして俺もお替りをする。
4人とも感動する味だったせいで、ほとんど会話が無くなった。
何とかこの感動を作った人に伝えてあげたいが、ランキングサイトへの登録も出来ない。
心の中で礼を言うことにしよう。
ハンスの手がスプーンを置いてパンに伸び出したので、気になることを聞いた。
「左腕はあの蝙蝠にやられたんですか?」
「ええ、大広間の虫の大群を突破して奥の通路に6人で飛び込んだのです。地下では私の魔法で炎を放ちながら進んでいったのですが、上の蝙蝠には全然気がつきませんでした。もう一人の松明(たいまつ)を持った剣士の悲鳴を聞いて振り返った瞬間に私も上から襲われていました。左腕が一瞬で噛み切られたのはむしろ幸運だったのです。おかげで何とか奥の小部屋に走りこむことが出来たのですから」
「あの蝙蝠は小部屋には入って来られなかったのですか?」
「はっきりとは判りませんが、動く物を狙っているようです」
「左腕の治療は自分で?」
「ええ、傷口はすぐにふさがったのですが、食料は干し肉とパンを少し袋に入れていただけなので、身動きもとれずにあそこでひたすらじっとしていました」
ケガよりも脱水症状と栄養不足で弱っていたのか。
「仲間が助けに来ると信じていたのですか?」
「いえ、そうは思っていませんでしたが。アシーネ様にお祈りをしていました」
「魔法士は見殺しにされるものなのですか?」
「そう言う訳ではないですが、あの地下へ戻ってくるのは自殺行為ですから誰も助けにはこられないでしょう。それに、私も役割を承知でパーティーに参加していましたので」
いざと言うときはエサになる覚悟? この人達すごいなぁ。
「ところで炎の魔法であの蝙蝠を焼き払うのは難しいのですか?」
「無理だと思います。大きな炎を出したとしても、飛んで逃げますから焼き続けることができません。焼き払うためには強い炎を思った方向に出し続けることが必要になりますが、魔法具なしでそんな魔法が使える魔法士が今はいないでしょう」
だから、伝説の魔法具が必要ということか。
なるほど、この世界の魔法は思っていたより現実的で非常に良かった。
「旅団の人達も魔法具を探しているのですか?」
「旅団は探している物が何かを知りませんが、高価なものであると信じています。団長は国から懸賞金を約束されているようですが、私たちにも詳しいことを話していません」
「旅団は迷宮に何回も挑んでいるのですか?」
「ええ、私は初めてでしたが、既に10回以上は来ています。今までは虫の大群で大広間より先に進むことが出来ませんでした。それで今回は虫とは出来るだけ戦わずに一気に奥の通路を目指すことにしたのですが・・・」
行った先にあの化け物蝙蝠ちゃんが待っていましたと。
しかし、現代兵器なしであの大群をどうやったら倒せるのだろう?
「もし、伝説の魔法具があれば虫の大群は簡単に倒せるのですか?」
「・・・炎のロッドがあればおそらく」
あの大群を焼き払える炎・・・、巨大な火炎放射器レベルか?
「ロッドが無いと焼き払える魔法は絶対使えないのですかね?」
「いえ、勇者様達はロッドなしでも同じような魔法を使われたそうです」
「いまは勇者がいないのですか」
「はい、本来なら魔竜の復活にあわせて勇者が誕生しているはずなのですが、見つからないままに魔竜復活の時を迎えようとしています」
俺にとっては危険な魔法が使える勇者が居ないことはある面ではラッキーだ。
しかし、この世界が滅びれば俺のセカンドチャンスもそこで終り?
やはり、勇者は俺の異世界にも必要なのか?
「ハンスさんは魔法具を見つけて、自分で魔竜を討伐するつもりなのですか?」
「いえ、私に勇者の力があるとは思っていません。私達は力のある人間を探し出して魔法具を渡すのが使命なのです」
-私達?って前も言っていたな。
「ハンスさんと同じ考えの人が他にも沢山いるのですか?」
「今は20名程しかおりません、支援してくれる者はもう少し居るのですが、エドウィンの支援者も考えを変えたようで・・・」
「サリナを売るって言ってた人達ですか!?」
「ええ、奴隷にすると言う意味ではない筈ですが、炎の国に渡せば報奨がもらえるのは間違いないでしょう」
炎の国から報奨?
「サリナのお母さんも炎の国に捕らわれて・・・、いやこれ以上は聞かないことにします。明日も早いし、今日は早く寝ることにしましょう。ベッドは4つありますから3人で適当に休んでください。」
いかん、気になって色々聞きすぎた。
深みはまる前に撤収しないと巻き込まれるに決まっている。
君子危うきに近寄らずだ。
回復力が獣人だからなのか、サリナの治療魔法の効果なのかは不明だが、ハンスは夕方前には普通に動き回っていた。
かなり窮屈そうにシャワールームに入っていき、サリナの指導で体を綺麗にしていた。
身長は180cmぐらいだが、肩幅や胸板は人間のそれとは比較にならない厚みなので、シャワールームの空間全てを埋め尽くすぐらいになっている。
狭い空間で何とか全身の泡を落としたハンスがすっかり良い匂いになって出てきた。自分の体の匂いを何度もかいでいる。
体はかなり毛深いがそのままではマズイ、寒さもあるがご立派な物が丸見えだ。
サリナもミーシャも恥ずかしがらないのが不思議だったが、俺が恥ずかしかった。
俺と同じ様な服をそろえようとしたが、サイズが全然合わない。
海外のサイトで調べて大きさ優先で用意してやった。
コンバットブーツ、靴下、カーゴパンツ、トランクス、タンクトップ、プルオーバースウェットで整えた。
服を着たハンスは人間ではないがかっこよく見えた。
目が切れ長で知性的な感じだからなのか、現代の服に違和感が無い。
着替えていると既に腹がグルグル鳴り出している。
回復と共に空腹感が加速したのだろう。
時間は17時前だったが早めの食事を用意することにした。
ハンスの顔を見るとビーフシチューを食べさせてやりたくなったので、人気ランキング上位の洋食店から10皿と、クロワッサンやロールパンを大量に並べてやった。
ハンスはサリナから俺の魔法を聞いていたようだ、服を取り出したときも驚きはしたが何も質問して来なかった。
今も黙ってテーブルに並んだ料理を見ている。
「じゃあ、遠慮なく食べてください。お替りが必要なら幾らでも用意します。もしホワイトソースのシチューがよければ交換します」
「お兄ちゃん! サトルのご飯は世界一だから!!」
サリナがシチューにスプーンを突っ込んで食べ始めた。スプーンが口の前で高速回転している。
ミーシャも一口すすってから笑みを浮かべて、どんどん口に運んでいる。
ハンスはサリナの食べっぷりをしばらく見ている。
「ハンスさん? どうしました? ビーフシチューはお嫌いでしたか?」
「いや、そうではないのです。二度とサリナと食事ができるとは思っていなかったので・・・」
なるほど、死を覚悟していたのか。
「せっかくですから、冷めないうちにどうぞ。美味しいですよ」
自分で用意して言うのも変なのだが、初めて食べたビーフシチューはかなり美味しかった。
肉は口の中でホロホロ溶けていくぐらい柔らかく、デミグラスソースの中には肉汁の味が凝縮されている。
ハンスも一口すすって目を見開いた。
「世界にこんな美味いものがあるのか・・・」
最高の賛辞を送ったハンスはそれから一言も口を利かずに5皿のシチューを平らげた。サリナもミーシャも、そして俺もお替りをする。
4人とも感動する味だったせいで、ほとんど会話が無くなった。
何とかこの感動を作った人に伝えてあげたいが、ランキングサイトへの登録も出来ない。
心の中で礼を言うことにしよう。
ハンスの手がスプーンを置いてパンに伸び出したので、気になることを聞いた。
「左腕はあの蝙蝠にやられたんですか?」
「ええ、大広間の虫の大群を突破して奥の通路に6人で飛び込んだのです。地下では私の魔法で炎を放ちながら進んでいったのですが、上の蝙蝠には全然気がつきませんでした。もう一人の松明(たいまつ)を持った剣士の悲鳴を聞いて振り返った瞬間に私も上から襲われていました。左腕が一瞬で噛み切られたのはむしろ幸運だったのです。おかげで何とか奥の小部屋に走りこむことが出来たのですから」
「あの蝙蝠は小部屋には入って来られなかったのですか?」
「はっきりとは判りませんが、動く物を狙っているようです」
「左腕の治療は自分で?」
「ええ、傷口はすぐにふさがったのですが、食料は干し肉とパンを少し袋に入れていただけなので、身動きもとれずにあそこでひたすらじっとしていました」
ケガよりも脱水症状と栄養不足で弱っていたのか。
「仲間が助けに来ると信じていたのですか?」
「いえ、そうは思っていませんでしたが。アシーネ様にお祈りをしていました」
「魔法士は見殺しにされるものなのですか?」
「そう言う訳ではないですが、あの地下へ戻ってくるのは自殺行為ですから誰も助けにはこられないでしょう。それに、私も役割を承知でパーティーに参加していましたので」
いざと言うときはエサになる覚悟? この人達すごいなぁ。
「ところで炎の魔法であの蝙蝠を焼き払うのは難しいのですか?」
「無理だと思います。大きな炎を出したとしても、飛んで逃げますから焼き続けることができません。焼き払うためには強い炎を思った方向に出し続けることが必要になりますが、魔法具なしでそんな魔法が使える魔法士が今はいないでしょう」
だから、伝説の魔法具が必要ということか。
なるほど、この世界の魔法は思っていたより現実的で非常に良かった。
「旅団の人達も魔法具を探しているのですか?」
「旅団は探している物が何かを知りませんが、高価なものであると信じています。団長は国から懸賞金を約束されているようですが、私たちにも詳しいことを話していません」
「旅団は迷宮に何回も挑んでいるのですか?」
「ええ、私は初めてでしたが、既に10回以上は来ています。今までは虫の大群で大広間より先に進むことが出来ませんでした。それで今回は虫とは出来るだけ戦わずに一気に奥の通路を目指すことにしたのですが・・・」
行った先にあの化け物蝙蝠ちゃんが待っていましたと。
しかし、現代兵器なしであの大群をどうやったら倒せるのだろう?
「もし、伝説の魔法具があれば虫の大群は簡単に倒せるのですか?」
「・・・炎のロッドがあればおそらく」
あの大群を焼き払える炎・・・、巨大な火炎放射器レベルか?
「ロッドが無いと焼き払える魔法は絶対使えないのですかね?」
「いえ、勇者様達はロッドなしでも同じような魔法を使われたそうです」
「いまは勇者がいないのですか」
「はい、本来なら魔竜の復活にあわせて勇者が誕生しているはずなのですが、見つからないままに魔竜復活の時を迎えようとしています」
俺にとっては危険な魔法が使える勇者が居ないことはある面ではラッキーだ。
しかし、この世界が滅びれば俺のセカンドチャンスもそこで終り?
やはり、勇者は俺の異世界にも必要なのか?
「ハンスさんは魔法具を見つけて、自分で魔竜を討伐するつもりなのですか?」
「いえ、私に勇者の力があるとは思っていません。私達は力のある人間を探し出して魔法具を渡すのが使命なのです」
-私達?って前も言っていたな。
「ハンスさんと同じ考えの人が他にも沢山いるのですか?」
「今は20名程しかおりません、支援してくれる者はもう少し居るのですが、エドウィンの支援者も考えを変えたようで・・・」
「サリナを売るって言ってた人達ですか!?」
「ええ、奴隷にすると言う意味ではない筈ですが、炎の国に渡せば報奨がもらえるのは間違いないでしょう」
炎の国から報奨?
「サリナのお母さんも炎の国に捕らわれて・・・、いやこれ以上は聞かないことにします。明日も早いし、今日は早く寝ることにしましょう。ベッドは4つありますから3人で適当に休んでください。」
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