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Ⅰ-33 ハンス
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■バーン南東の第一迷宮
俺は指向性地雷をキャンピングカーのすぐ近くで6つセットした。
車内のミーシャにも手伝ってもらい、左右の窓からケーブルを引き込んでおく。
虫が無限にわいていくるような気がしたからだが、今のところ周囲には何もいない。
車内に戻って、ヘルメットを脱いでいるとベッドのほうからサリナの声がする。
「お兄ちゃん、良かったァ!」
「ここは? ウゥ・・」
男は目を覚ましていて、起きようとしたがまた横になった。
「サリナ、これを飲ませてやれ」
俺はゼリー状の栄養剤を渡してから、サリナに飲み方の見本を見せてやった。
サリナは自分で味見をしてから、兄の口へ吸い口を突っ込んで栄養剤の袋を絞った。
男はひとくち飲み込み、その後は勢いよく自分で吸い始めた。
10袋ほど渡して様子を見たが、空腹なのだろう、どんどん開けて飲んでいく。
もう少し休ませた方がよさそうだ、2ダースの各種栄養剤を用意してやる。
「サリナ、車の練習に出てくるからね。必ず戻ってくるから心配するなよ。ミーシャはこの周りに注意しといてよ」
「承知した」
喚かれないようにサリナへ先に説明してから外に出た。
少し遠くまで双眼鏡で見回すが危険は無いようだ、迷宮から虫が出てくる気配も無い。
今朝だけで100匹ぐらいは処分できたから、随分と減ったのかもしれないが。
大型のピックアップトラックを呼び出した。
実物を見るとやはりデカイ、荷台には今まで乗っていたバギーが乗るかもしれない。
タイヤもデカイので、車の底が地面に擦ることは無さそうだ。
ちょっとビビリながら、左ハンドルの運転席に乗り込んだ。
操作系の構造はバギーとそんなに変わらないはずだ。
ハンドル、床のアクセルとブレーキ、シフトレバー、他にも色々あるが今の俺には必要ない。
ウィンカー? まったく関係ないね!
キーでエンジンをかけると、4.6リッターの大型エンジンが震えだした。
大きな音と共にハンドルを持つ手に振動が伝わってくる。
シフトをドライブに入れて、ブレーキから足を離すとするすると進み出す・・・ブレーキを踏んで止まる。ブレーキから足を離してアクセルを少し踏む・・・、超徐行で大きな車の感覚を掴もうとするが、バギーとは重さの感覚が全然違って怖い。
バギーは軽いから自転車が4輪へ変わったぐらいの意識で運転できたが、重量でこれほどブレーキとアクセルの感覚が違うとは思わなかった。
しかし、幸いなことにあたりにはぶつかる物があまり無い。
10分もしないうちに時速30km、40km、・・・気がつけば80kmぐらいで荒野に砂ぼこりを撒き散らしながら走っていた。
調子に乗って少し強めにブレーキを踏んで急停車すると、砂の上で数十メートル滑ってビビリまくった。
ハンドルを切って迷宮の方に戻ろうとする。
方向転換もバギーとは全然違う、車周りの視界も悪いし回転半径がデカイ。
しかし、道路じゃなければ結局は関係ない、車庫入れも縦列駐車はおろかバックさえしないかもしれない。
これなら移動手段として充分使いこなせると満足してキャンピングカーに戻った。
念のためガソリンを携行缶から満タンにしておく。
この車は燃費が悪いと書いてあったが、その分タンクがデカかった。
30リットルの携行缶で3回給油した。
ガソリンスタンドが無いので、いつも携行缶にハイオクを入れてストレージから持ち出している。
ガソリンも地球にあるだけ使えるのだから、使い切ることは無いだろう。
燃費? エコカー? 知ったこっちゃ無い。
『乗り物の部屋』にピックアップトラックを収納して、キャンピングカーの中に入ると、獣人の男はベッドの上で上体を起こしていた。
「あなたがサトル殿ですか、私はハンスといいます。サリナから話は聞きました。本当にありがとうございました。このご恩は必ずお返ししますので」
ハンスは真っ直ぐにサトルを見つめたまま礼を言った。
ちびっ娘と違って随分と礼儀正しい。
「いえ、成り行きですから。でも、無事で良かったですね」
「それと、先ほどいただいた飲み物も不思議な感じです。あっという間に空腹が満たされた気がします」
それはそうだろ、30袋以上飲んだんだからな。
でも、これなら明日には移動できそうだ。
「ところで、サリナからはお兄さんと聞いたんですけど、どう言うことでしょうか?」
「あぁ、その件ですね・・・、私たちが兄弟として育てられたのは嘘ではありません」
一緒に育っただけと言うことか、『お兄ちゃん』に深い意味は無かったのかも知れない。
『嘘ではない』って言う言い回しが少し気になるが・・・
「それで、お兄さん、今日は遅いので明日バーンまで送りますけどそれで良いですよね?エドウィンに戻るなら、バーンに戻ってから向かうって事で」
「それについては・・・。サトル殿、実は折り入ってお願いしたいことがございます」
あ、これはお願いを聞いてはいけないパターンだな。
「スミマセン、僕はこれから他ににやりたいことがあるので、お話に関わらずお引き受けできませんので、お願いをしないでください」
リスクは早目に排除しておくに限る。
「しかし・・・」
「いえ、お引き受けしないので、説明もしなくて結構ですから」
「サトル! お願い、お兄ちゃんの話を聞いて!」
「サトルよ、話ぐらい聞いてやったらどうなのだ」
だから、聞いたら断れなくなるパターンだから聞いちゃ駄目なんだって。
・・・でも、エルフのお願いを無視する度胸も無い。
「じゃあ、聞くだけ聞きますけど、何もしませんからね。約束ですよ」
ドツボにはまって行く気がする。
俺の異世界に人助けは不要なのに・・・
俺は指向性地雷をキャンピングカーのすぐ近くで6つセットした。
車内のミーシャにも手伝ってもらい、左右の窓からケーブルを引き込んでおく。
虫が無限にわいていくるような気がしたからだが、今のところ周囲には何もいない。
車内に戻って、ヘルメットを脱いでいるとベッドのほうからサリナの声がする。
「お兄ちゃん、良かったァ!」
「ここは? ウゥ・・」
男は目を覚ましていて、起きようとしたがまた横になった。
「サリナ、これを飲ませてやれ」
俺はゼリー状の栄養剤を渡してから、サリナに飲み方の見本を見せてやった。
サリナは自分で味見をしてから、兄の口へ吸い口を突っ込んで栄養剤の袋を絞った。
男はひとくち飲み込み、その後は勢いよく自分で吸い始めた。
10袋ほど渡して様子を見たが、空腹なのだろう、どんどん開けて飲んでいく。
もう少し休ませた方がよさそうだ、2ダースの各種栄養剤を用意してやる。
「サリナ、車の練習に出てくるからね。必ず戻ってくるから心配するなよ。ミーシャはこの周りに注意しといてよ」
「承知した」
喚かれないようにサリナへ先に説明してから外に出た。
少し遠くまで双眼鏡で見回すが危険は無いようだ、迷宮から虫が出てくる気配も無い。
今朝だけで100匹ぐらいは処分できたから、随分と減ったのかもしれないが。
大型のピックアップトラックを呼び出した。
実物を見るとやはりデカイ、荷台には今まで乗っていたバギーが乗るかもしれない。
タイヤもデカイので、車の底が地面に擦ることは無さそうだ。
ちょっとビビリながら、左ハンドルの運転席に乗り込んだ。
操作系の構造はバギーとそんなに変わらないはずだ。
ハンドル、床のアクセルとブレーキ、シフトレバー、他にも色々あるが今の俺には必要ない。
ウィンカー? まったく関係ないね!
キーでエンジンをかけると、4.6リッターの大型エンジンが震えだした。
大きな音と共にハンドルを持つ手に振動が伝わってくる。
シフトをドライブに入れて、ブレーキから足を離すとするすると進み出す・・・ブレーキを踏んで止まる。ブレーキから足を離してアクセルを少し踏む・・・、超徐行で大きな車の感覚を掴もうとするが、バギーとは重さの感覚が全然違って怖い。
バギーは軽いから自転車が4輪へ変わったぐらいの意識で運転できたが、重量でこれほどブレーキとアクセルの感覚が違うとは思わなかった。
しかし、幸いなことにあたりにはぶつかる物があまり無い。
10分もしないうちに時速30km、40km、・・・気がつけば80kmぐらいで荒野に砂ぼこりを撒き散らしながら走っていた。
調子に乗って少し強めにブレーキを踏んで急停車すると、砂の上で数十メートル滑ってビビリまくった。
ハンドルを切って迷宮の方に戻ろうとする。
方向転換もバギーとは全然違う、車周りの視界も悪いし回転半径がデカイ。
しかし、道路じゃなければ結局は関係ない、車庫入れも縦列駐車はおろかバックさえしないかもしれない。
これなら移動手段として充分使いこなせると満足してキャンピングカーに戻った。
念のためガソリンを携行缶から満タンにしておく。
この車は燃費が悪いと書いてあったが、その分タンクがデカかった。
30リットルの携行缶で3回給油した。
ガソリンスタンドが無いので、いつも携行缶にハイオクを入れてストレージから持ち出している。
ガソリンも地球にあるだけ使えるのだから、使い切ることは無いだろう。
燃費? エコカー? 知ったこっちゃ無い。
『乗り物の部屋』にピックアップトラックを収納して、キャンピングカーの中に入ると、獣人の男はベッドの上で上体を起こしていた。
「あなたがサトル殿ですか、私はハンスといいます。サリナから話は聞きました。本当にありがとうございました。このご恩は必ずお返ししますので」
ハンスは真っ直ぐにサトルを見つめたまま礼を言った。
ちびっ娘と違って随分と礼儀正しい。
「いえ、成り行きですから。でも、無事で良かったですね」
「それと、先ほどいただいた飲み物も不思議な感じです。あっという間に空腹が満たされた気がします」
それはそうだろ、30袋以上飲んだんだからな。
でも、これなら明日には移動できそうだ。
「ところで、サリナからはお兄さんと聞いたんですけど、どう言うことでしょうか?」
「あぁ、その件ですね・・・、私たちが兄弟として育てられたのは嘘ではありません」
一緒に育っただけと言うことか、『お兄ちゃん』に深い意味は無かったのかも知れない。
『嘘ではない』って言う言い回しが少し気になるが・・・
「それで、お兄さん、今日は遅いので明日バーンまで送りますけどそれで良いですよね?エドウィンに戻るなら、バーンに戻ってから向かうって事で」
「それについては・・・。サトル殿、実は折り入ってお願いしたいことがございます」
あ、これはお願いを聞いてはいけないパターンだな。
「スミマセン、僕はこれから他ににやりたいことがあるので、お話に関わらずお引き受けできませんので、お願いをしないでください」
リスクは早目に排除しておくに限る。
「しかし・・・」
「いえ、お引き受けしないので、説明もしなくて結構ですから」
「サトル! お願い、お兄ちゃんの話を聞いて!」
「サトルよ、話ぐらい聞いてやったらどうなのだ」
だから、聞いたら断れなくなるパターンだから聞いちゃ駄目なんだって。
・・・でも、エルフのお願いを無視する度胸も無い。
「じゃあ、聞くだけ聞きますけど、何もしませんからね。約束ですよ」
ドツボにはまって行く気がする。
俺の異世界に人助けは不要なのに・・・
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