努力の末に帝国で最強になった魔剣使い、皇女を護るために落ちこぼれクラスの教師になる ~魔剣学院の千の剣帝【サウザンド・ブレイバー】~

ぽてさら

文字の大きさ
上 下
27 / 36
第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる

第27話 医務室で少女らは言葉を交わす

しおりを挟む



「おい、早く行けよ!」
「ちょっ、強く押さないでよ……ッ!!」
「貴様ら、Sクラスである私を早く通さんか! 一刻も早くこの学院から避難せねば!!」
「―――落ち着きなさい、貴方達」
『……ッ!?』


 この冷たくも慇懃な男性の声に、非常口に殺到していた多くの生徒の騒めき声が静まる。
 緊張と不安に包まれる中、生徒らがその声のもとへと視線を向けるとそこにはレオナルド・ケルトが眼鏡のブリッジをくいっと上げながら立っていた。


「魔剣学院の生徒ともあろう者がみっともなく騒がないで下さい。いくらテロリストによる襲撃・・・・・・・・・・だとしても冷静さを心掛けて非難しなさい。それと学院の周囲や内部には爆発物が設置されており、加えて魔獣の痕跡がありました。……貴方たちは未熟だ。決して、立ち向かおうなどとは考えないように」
「わ、わかりました……!」
「レオナルド先生がそう言うなら……!」


 そう言ってレオナルドの言いつけ通りに学院の外側へ非難する学院の生徒たち。外ではエイミー含め、学院の教師たちが必死の形相で魔剣学院の玄関前へと生徒を誘導していた。

 性格や表情は氷のように冷たくとも、教師としての実力や人柄に生徒からの信頼を得ているレオナルド。軽く息を吐くと、背後へ咄嗟に振り向いた。


「―――遅い」
「ギャウンッッ!?」


 地面には腹部を切り裂かれた跡を残して、見事に絶命したハウンドウルフが横たわっていた。
 この魔獣の死因は明らかに剣で切り裂かれた裂傷だった。だがレオナルドの手には何もない・・・・

 レオナルドは冷酷な瞳で使役魔獣の証である首輪の付いたそのハウンドウルフの死体を見遣ると、やがて向こう側の方から一人の紫髪の女性が手に魔剣を持って歩いてくる姿が見えた。


「レオナルド先生。避難誘導兼魔獣の駆除、お疲れ様です。見事な御手際でした」
「学院長、生徒の避難誘導はほぼ完了致しました。しかし先程からクリスティア第三皇女殿下とローリエ・クランベル、そしてハルト・クレイドルが見当たらないのですが」
「えぇ、彼等にはこの現状の対処をお願いしているので問題ありませんよ」
「……そうですか」
「ふふふ、もしかして心配ですか?」
「いえ、先程ゼロクラスの生徒も全員避難させましたが、その際に行方を尋ねられたのでこうして貴方に伺ったまでです」
相変わらず・・・・・ですねぇ。……まぁ良いでしょう。さて、今も爆発や魔獣の襲撃は続いています。私は魔剣クラノウスの剣技能スキルで結界を張りますので、レオナルド先生は引き続き学院周囲の魔獣駆逐をお願いします」
「ふん……、分かりました」


 聖母のような柔和な笑みと絶対零度の冷徹な表情が交わる。だがそれも一瞬。無愛想な顔でレオナルドは蒼いコートを翻すと、その場からスタスタと去る。

 それを静かに見送ったルーメリアは自らを落ち着かせるようにふぅと息を吐くが、突如爆音が廊下中に響き渡った。

 ふとそこに視線を向けると、窓から見える紅蓮の炎、懐かしい魔力・・・・・・にルーメリアは表情を緩める。そしてぽつりと呟いたのだった。


「第三皇女殿下を頼みましたよ、ハルト。そして―――」










 ―――ときは少しだけ遡る。


「はっ、はっ、はっ……!」


 突如闘技アリーナの壁が爆破、黒装束の人物と使役魔獣であるハウンドウルフが闘技アリーナに出現。このレーヴァテイン帝国の第三皇女クリスティアは意識を失ったローリエを連れて逃げていた。

 クリスティアは思わず歯を食いしばる。


「リーゼ、ゼロクラスの方々……、他の生徒のみなさんは大丈夫でしょうか……」


 心配しつつも彼女の心の中で燻ぶるのは無力感。ハルトとリーリアが自らを庇うように並ぶあの姿は、まるで”お前はいつまでも守られるべき存在なのだ”と見せつけられているかのようだった。


「……ううん、私はレーヴァテイン帝国の第三皇女クリスティア・ヴァン・レーヴァテイン。弱いままではいられないと思ったからこそ、私は―――!」


 余計な思考を振り払うかようにかぶりを振りながら、クリスティアは自らの膂力を以ってローリエを運ぶ。必死に向かう先はこの学院の医務室。

 未だに学院内では爆発音や振動が続いているが、医務室は万が一に備えて特別頑丈な造りになっていた筈だとクリスティアは記憶していた。

 もしクリスティア一人だったのならば学院の外へと向かっているのだが、現在彼女の背中にはぐったりと意識を失っているピンク髪の少女ローリエがいる。

 ひとまず、医務室のベッドに寝かせて異常がないかを確かめなければと思うクリスティアだったが……。

 背中から、小さな呻き声が聞こえた。


「う、うぅん……」
「ロ、ローリエさん!? 目が覚めましたか!?」
「あれ、クリっち……? ウチ、確か寮に戻ろうとして……って、ウチ襲われたんだったー!」
「はい、なのでこれからローリエさんの容態を確かめるために医務室に向かう途中だったんです。ローリエさん、どこか身体に痛みはありますか?」
「んー、特に痛みとかは無いけど、ちょっと身体が疲れちゃったなー。何だか重いや」
「では医務室のベッドで休みましょう。闘技アリーナを出てからは見掛けませんが、襲撃者はどうやら魔獣を使役している上、爆発物を学院中にしかけた様なのです。正直このまま無暗に外へ避難するよりも、医務室でじっとしていた方が安全かと考えていたところだったのです」
「そっかそっかー。じゃあ医務室でずーっと休んでよっか」
「えぇ、わかりました」


 そう言ってクリスティアが駆け足気味に足を運んでいると、次第に医務室の扉が見えてきた。
 そして扉の前に立つ。スライド式の扉には生体認証機能が付いているロック型の魔具が取り付けてあったのだが、取手に手を掛けて力を入れると抵抗なく扉が開いた。どうやら幸いにも鍵はかかっていなかったようだ。


「お邪魔します」
「もぅ、クリっちはこんなときでも律儀だねぇ」


 静かに扉を閉めると、クリスティアは魔力を流して内部から鍵を掛ける。もう既に医務室教諭も避難済みなのだろう、医務室の中は無人だった。

 ローリエを背負ったままのクリスティアは、ひとまず奥側にあったカーテンで仕切られているベッドへ彼女を運ぶとゆっくりと降ろす。
やがてローリエは力が抜けたように上半身がベッドへ倒れ込んだ。

 入室した時から薬品の匂いが鼻孔をかすめるが、気にもせずクリスティアはすぐさま棚にあったグランケットを手に取ると彼女の上にふわりと掛ける。

 ローリエは表情をにへらっとさせると、クリスティアへと話し掛けた。


「ありがと、クリっちぃ……」
「いえ、まだまだ気を抜ける状況ではありませんが、今はゆっくりと休んで下さい。あ、腰に身に付けている魔剣は外さなくても大丈夫ですか?」
「だいじょぶだいじょぶ。……ウチの大事な相棒だし」


 そう言って、ローリエはブランケットの下で腰元の二振りの魔剣を撫でる。その瞳はとても優し気だった。きっと彼女にとって何かしら思い入れのある魔剣なのだろう。来客用の簡易な丸椅子に座って近くでそれを見ていたクリスティアも、幼少期から所持していた魔剣のことを思い馳せる。


(―――『宝晶蛇剣メデュシアナ』。旧神時代エルダーのとある三神が魔の瘴気に落ち、ペルセウス神に討伐された際に出現したといわれる魔晶石……帝国の国宝を用いて帝国随一の魔剣鍛練師により造り出された、三本ある三蛇神魔剣ゴルゴン・ブランドの内の一振り。……私が物心つく前から所持しておりましたが、何故かそのときの記憶は曖昧なのですよね)


 クリスティアは己の未熟さ故に魔剣を取り上げられた感傷に浸りながらも、腰に身に付けている魔剣精クラリスを一撫でする。品格があり、紅く燃え盛る焔のような剣を見つめる彼女の紅い瞳には申し訳なさが込められていた。


「……もう少しだけ、我慢してね」
「んー、どったのー?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
「ふーん」


 小さな呟きだったが、横になったローリエに聞こえていたのかクリスティアは手を大きく横に振って慌てて取り繕う。

 だが、ベッドに横になったローリエは言葉を続けた。何気なく。自然に。


「―――ねぇ、クリっちって『天司てんし』の存在は信じる?」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

手違いで勝手に転生させられたので、女神からチート能力を盗んでハーレムを形成してやりました

2u10
ファンタジー
魔術指輪は鉄砲だ。魔法適性がなくても魔法が使えるし人も殺せる。女神から奪い取った〝能力付与〟能力と、〝魔術指輪の効果コピー〟能力で、俺は世界一強い『魔法適性のない魔術師』となる。その途中で何人かの勇者を倒したり、女神を陥れたり、あとは魔王を倒したりしながらも、いろんな可愛い女の子たちと仲間になってハーレムを作ったが、そんなことは俺の人生のほんの一部でしかない。無能力・無アイテム(所持品はラノベのみ)で異世界に手違いで転生されたただのオタクだった俺が世界を救う勇者となる。これより紡がれるのはそんな俺の物語。 ※この作品は小説家になろうにて同時連載中です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...