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第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる
第26話 ハルトVS『影』 ②
しおりを挟むハルトは一度リーリアの方へと見やるが、彼女はハルトの方を見て唖然とした表情になっていた。周囲を見ると、既にもう暗殺者が使役するハウンドウルフを何体か倒しているようだった。やはりSクラスでも剣技練度80パーセント以上を誇る彼女の実力は本物とハルトは感嘆する。
口角を上げてすぐさま視線を戻すと、意識を切り替えた。
「どっせいッ!!」
『ぐっ、がぁっ…………ッ!』
ハルトが顔面を掴んだままの暗殺者を放り投げると、開けた外の木々に激突。何本か折れたのち、地面に転がって勢いがなくなるも、何事も無かったかのように立ち上がる暗殺者。俊敏に立ち上がったものの、直ぐには動けないのかどこか身体のバランスが悪い。
木々に当たる瞬間、暗殺者は魔力で身体を強化していたので骨折はしていない筈だが、痛めたのか肩に手を当てている。おそらく脱臼はしているのだろう。
現に暗殺者は片手で肩をぐっと押さえると、ゴキリと鈍い音を響かせて肩を入れてみせた。
「ま、周りに人がいないここなら安全だろうし誰も邪魔しないだろうぜ。……おっと、ちょっと待ってろよ」
『貴様、いったい……っ』
ハルトが黒いズボンから取り出したのはこぶし大の紅い宝石のような塊。それを地面に放り投げると、ハルトはそれ目掛けて剣の切先で突き刺す。やがて散らばった紅い欠片は霧散した。
暗殺者の表情は変わらなかったが、ハルトのその行動にどのような意図が秘められているのか分からず訝しげるように目を細めた。
「あぁこれか? これって魔力を流すと遠くの相手と通話できるっていう帝国が開発した新作の魔具らしいんだけど戦闘には邪魔だろ? 前にルーメリアに貰った魔具なんだが、まぁこんな緊急事態だし? 仕方ないから壊した」
『ルーメリア・クリストロン、『雷の戦乙女』か……。かつて帝国軍による四聖魔獣ホウオウ討伐戦において部隊を指揮したという歴戦の魔剣使い。いくら貴様が帝国軍に属していたとはいえそのような位ある女傑と繋がりを持つなど、普通ではない』
「おぉよく知ってるな。ま、簡単な話だ。……俺も昔、その討伐戦に参加してたんだよ」
そう言ったハルトが浮かべる表情は、形容し難いものだった。へらへらしているようにも見えて砥ぎ澄まれた刃も似た、どこか昏い光を瞳に宿すその姿は、この学院内で知り合ったゼロクラスの生徒が見れば違和感を抱くものだったに違いないだろう。
まるで、それが本来のハルト・クレイドルという魔剣使いとでもいうかのような―――。
だが、ハルトがそれを浮かべたのは一瞬。すでにハルトの瞳には軽薄な光が宿っていた。表情もまた同様。
ハルトはパキパキと音を鳴らしつつ首を左右に捻って肩を回した。
暗殺者はそんなハルトの真意を見定めるかのように静かに見据えていた。
『貴様は、何者だ……? 当時の記録を調べる限りハルト・クレイドルという名など存在しなかった。加えて『雷の戦乙女』と既知であり、我の剣技練度100パーセントに反応できる卓越した剣技を保持している……っ。貴様の剣技練度は、いったい……?』
「うーん……」
ハルトは気の抜けたような声をだしつつも暗殺者から視線を逸らした。あまりにも無防備な姿。それは暗殺者にとって絶好の攻撃する機会に他ないのだろう。
第三者の目から見ればそのハルトの姿は隙だらけに見えるかもしれない。まるで攻撃して下さいと言わんばかりの様子だ。
しかしそれでも暗殺者は動かない。否、動けない。脳内で、止めどなく警報が鳴っていたからだ。
一歩でも動けば容赦なく殺されるぞ、と。
それは紛れも無く、畏怖の感情。これまでかなりの幾多の困難・苦難を乗り越えてきた暗殺者にとって、ハルトは異質な存在だった。だが―――、
「―――まぁそんなのどうでも良いだろ、仕切り直しと行こうぜ。クリスを殺したければまず俺を倒さねぇとな?」
『…………ククク』
「ん、急に笑ってどうした? 気でも触れた?」
『愚か者め。第三皇女暗殺任務を遂行するにあたって、我単身のみで襲撃すると思っているのか』
「な、なんだと……ッ!?」
『我は所詮貴様の足止めに過ぎん。もう既にあの方が皇女の息の根を止めている頃合いだろう』
「な、なんてこった……っ!?」
ハルトが思わずといった様子で目を見開くと、暗殺者は表情に出さずとも内心ほくそ笑む。
だが、次の瞬間。ハルトはゆっくりと口角を上げた。
「―――なーんて」
『……なんだと?』
「なぁお前、どうして俺がさっきルーメリアに貰った魔具をわざわざ壊したと思う? 邪魔だったらそこら辺に投げときゃ良い話だよなぁ?」
『! まさか、その魔具は通信機能以外にも……ッ!』
「そ、俺が持ってた魔具にはある人物の魔力が込められていてな。それを壊すと、そいつが持っている対の魔具に信号が送られるんだ。んで、彼女は既に事情は把握済み。そしてそいつの側にはいつでもこの学院に転移できるよう転移術師がいる。ということは―――?」
『ッ!!』
全てを把握した暗殺者は急いでその場を離れようと駆け出すが―――、剣を振りかざしたハルトに遮られる。
暗殺者はそれを身を捻って躱すと、距離を取った。
「おいおい、俺と遊んでくれるんじゃなかったのかぁ?」
『チッ……! すべて、すべて貴様の手の内だったとでもいうつもりかッ!!』
「べっつにぃー。ただクリスを守るんなら準備は万端の方が良いだろ?」
『この、道化めッ!!』
「はっ……、道化で結構。さぁ―――クリスはあいつに任せて、俺たちは殺し合おうぜ」
直後、学院の別棟から紅蓮の炎が噴き出したのを皮切りに両者は駆け出した。
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