努力の末に帝国で最強になった魔剣使い、皇女を護るために落ちこぼれクラスの教師になる ~魔剣学院の千の剣帝【サウザンド・ブレイバー】~

ぽてさら

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第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる

第22話 ハルト、第三皇女に打ち明ける

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 クリスティアがそう言葉を紡ぐと同時に、ハルトはレイアからの言葉を思い出していた。

『曰く、―――"魔剣の能力を覚醒させる力を持っている"っていう噂よ』

 レイアから話を聞いたときは正直半信半疑だった。しかし先日ハルトはリーリアとクリスティアが戦っている場面を、ミリア・ヴァーミリオンの剣技能スキルをクリスが発動している光景をこの目で見た。

 『紅蓮の炎華姫クリムゾン・プリンセス』である彼女と帝国軍時代よく肩を並べて戦っていたからこそハルトは理解出来たのだ。

 あれは威力こそ通常より大きいが、確かにミリアの剣技能スキルだと。

 クリスティアはそのまま言葉を続けた。


「『覚醒』というといささか語弊がありますね。あの力は剣技能スキルなのですが、私自身が発動したワケじゃないんです。ただ、この子にお願いした・・・・・だけ」
「お願い……? このことは、他に誰か知っているのか?」
「私とお父様のみです。……今は少しずつコントロール出来ていますが、昔、私が小さい頃、城内でお父様と魔剣を使って手合わせをしている最中に発動したのが最初です」


 話を聞くとどうやらその日、第一皇女と第二皇女はちょうどレーヴァテイン皇国の隣国にて王家主催のパーティが開かれるというのでその場にはいなかったらしい。

 公務で忙しかった皇帝は皇国に残り、その公務の合間に気晴らしとしてまだ幼いクリスティアは魔剣での稽古に付き合って貰っていたらしいのだが、彼女がもっと力があればと願った瞬間、突如その魔剣の剣技能スキルが暴走したとのこと。

 被害が大きくなる前に皇帝が自身の剣技能スキルで打ち消したらしいのだが、何故か皇帝は、これがクリスティア自身が放った剣技能スキルではないと判断。
 魔剣の能力を上限まで引き出す力と断定し、クリスティアへ”しっかりと扱えるようになるまで、決してこの力は人前では見せてはいけない”と約束して今に至ると言う。


「魔剣使い自らの意思で剣技能スキルを使用するのは分かるが、お願いしただけで魔剣の能力を剣技能スキルとして発現させる力、か……。これまで聞いたことが無いな」
「私も気になって過去の文献を調べたのですが、そんな情報は一つもありませんでした。……分かっているのは、この力は人の身ではそう簡単に扱える代物ではないということだけです」
「クリス……」
「ハルト様もご存知の通り、この力は使い方を一歩間違えれば簡単に人を殺せます。私は、それをリーリアさんに向けてしまいました。悔しい、負けたくない、彼女を圧倒出来る力が欲しい。そのように一時の感情に任せた結果がアレです。少しずつコントロール出来つつあるとはいえ、危うく”覚悟”も出来ていないのに、命を、帝国で過ごす大切な民を、この手で失うところでした」


 クリスティアは目を伏せながら声を震わせる。

 ―――過ぎた力はいつか身を滅ぼす。

 大きな力を持たないからこそ、彼女はそのことを身を以って知っていた。いつでも手を伸ばせば、容易に命を奪う力が常に側にあったのだから。


「お父様は私のこの未熟な”覚悟”を見抜いていたのでしょう。私の本来の魔剣はお父様の命により回収され、その代理としてこの魔剣精を与えられました。今はどうしてかこの子の意思は眠ったままですが……。きっと、お父様はとうとう私のことを見限ったのでしょう。私のような出来損ないには、この子がお似合いだとでも言うように」
「…………」
「あはは……。すみません、最初のハルト様の質問から話が大きく逸れてしまいましたね。何故私が強くなりたいのか、でしたよね。……単純です。―――私は、強くなって認められたい。だからこそハルト様、貴方のような圧倒的な強さを誇る魔剣使いが言うことならば、私は信頼できるのです」
「はは……、信頼なんて大きく出たな」
「私はこれでもこの帝国の第三皇女です。人を見る目くらいはあります。―――ハルト様は、もう既に私が誰かに狙われていることなどとっくにお見通しなのでしょう?」
「……もし、俺がその誰かだったとしたら?」
「ありえません」


 断言するようにはっきりとクリスティアはそう答える。彼女と出会った頃は応用力が無いと評したハルトだったが、皇女としての肥えた観察眼は持っているようだと内心舌を巻く。

 彼女はハルトの目を見つめると、続けて口を開いた。


「だって、ハルト様が私を見つめる瞳は、まるで見守る者を見るかのようにあったかいんですもの。そのように気に掛けて下さるハルト様が、私を害そうとするはずがありません」
「……まいったな」
「って、あはは……。皇女である私としたことが、まったく理論的ではありませ―――」
『ハルト、もうクリスティアにすべてをお話したらいかがでしょう? とシャルロットは提案します』
「なっ……!?」
「え、な、なんですか……っ!?」
『ここでーす、ここここー。とシャルロットは己の存在をこれぞとばかりに主張します』


 突如鈴の音のような可愛らしい声が響く。戸惑いからかきょろきょろと目で部屋中に視線を彷徨わせるクリスティアだったが、やがて、その声がハルトがいつも所持している魔剣から出ていることに気が付くと、「え、えぇ!?」と驚いたような声を出した。

 シャルロットは剣から白い粒子を放出させると、白いひらひらの巫女服のような服装に身を包んだ小柄なアルビノ美少女へと変化。

 胡坐をかいたハルトの膝の上にちょこん、とあどけない表情で座るとクリスティアを見つめた。


「こうして貴方の前に姿を現すのは初めてですね、クリスティア第三皇女。私は我が契約者ハルト・クレイドルの魔剣精シャルロットと申します。どうぞお見知りおきを。とシャルロットは会釈します。ぺこり」
「え、えぇ!? ま、魔剣精!? ハルト様も魔剣精を所持していたのですか!?」


 クリスティアは驚きで目を白黒とさせていたが、それに構わずハルトとシャルロットは会話を続けた。


「シャル、お前何勝手に出てきてんだ!? っていうか降りろ!」
「いやです。ハルトの膝は私の特等席。そこは誰にも譲れなせん。とシャルロットはハルトに背中を預けながら固い意思を示します。ぬーん」
「……まぁそれはいいや。それよりも、すべてを話すってどういうことだよ?」
「言葉通りの意味です。クリスティア第三皇女は己の弱さや醜さを曝け出してまでもハルトへの信頼を示しました。ならばハルトも同様に打ち明けるのがフェアだと判断しました。とシャルロットは『善』を司る魔剣精として介入します。えっへん」
「……レイアとの約束はどうするよ?」
「レイアからはあのように言われましたが、あれは可能な範囲であればという前提でした。確固たる信頼関係を築くのならば、拳で殴り合うか話し合うのが一番です。とシャルロットはあのとき感じた熱い友情を思い返します。わくわく」
「……お前こっそり軍の宿舎にあった俺の漫画読んだろ?」
「ぎくぅ」


 魔剣精シャルロットはそっとハルトから目を逸らして無言を貫くが、やがてハルトは大きく息を吐きながら言葉を洩らす。


「……はぁ、ったく。わかったよ話せばいいんだろ。遅かれ早かればれてたかもしれねぇし、まぁ丁度いい機会だ。クリス」
「は、はいっ!」
「改めて自己紹介しようか。―――俺は帝国軍……帝国軍特務師団所属のハルト・クレイドルだ。何者かによる第三皇女暗殺を阻止する為にこの学院にやってきた」


 そうして、ハルトはクリスティアへとレーヴァテイン魔剣学院へとやって来た経緯を話し始めた。



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