努力の末に帝国で最強になった魔剣使い、皇女を護るために落ちこぼれクラスの教師になる ~魔剣学院の千の剣帝【サウザンド・ブレイバー】~

ぽてさら

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第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる

第20話 マリーゴールド

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 それから数日後が経過し、本日は休日。ハルトはクリスティアと彼女の従者であるリーゼを誘って帝国の大通りを歩いていた。
 現在はハルトが助けられた小さなパン屋へと向かっている。

 以前ハルトが空腹で倒れたところを介抱してくれたクリスティアにお礼をしていなかったので、つい先日学院長であるルーメリアに必死に頼みこんで給料を前払いして貰ったのだ。彼女は困ったような顔をしながらも最終的には了承。クリスティアとついでに側にいたリーゼを誘って今に至るワケである。

 つまりハルトはパンの恩返しをしようとしていた。


「っていうかリーゼってこれまで学院内であんまり見かけなかったよな。普通従者って常に主人の周りにいるもんなんじゃねーの? あと前の怪我大丈夫か?」
「フッ。必要とあらば馳せ参じますが、私の場合、所用を除けばいつもクー様を陰ながら見守っておりますのでそこはご安心を、ハルト先生。あとありがとうございます。バッチリ治りました」
「擦り傷や打撲、骨折してましたが、次の日にはもう完治してますからね……。この子の回復力は前から異常です」
「うっわそれ人間辞めてない?」
「先生と云えど失敬な! ただただ健康体なだけです!」


 リーゼはふふん!と胸を張って元気にそう答えるも、どこかポンコツ臭が漂っていた。

 街や人が賑わう様子を目の保養にしながら三人は歩き続ける。

 空に雲一つない中、ハルトとクリスティア、リーゼの三人で帝国の大通りを歩いでいるが特に通りの人々に注目されることは無い。

 ハルトはそっと隣に並んで歩くクリスティアを見遣る。彼女のその髪は銀色に染まっていた・・・・・・・・・


「……うん、やっぱりクリスが銀髪だとどうしても慣れないな。金髪のイメージが強くて」
「あ、あの、ハルト先生……、もしかして似合ってないのでしょうか?」
「クリス、今はプライベートなんだし先生なんて付けなくていいぞ」
「分かりました。それじゃあ出会った当初と同じくハルト様とお呼びしますね!」
「様も付けなくて良いんだが……っと、さっきの返事な? 雰囲気がいつもと違ってるってのもあるが、綺麗だぞ。食べちゃいたいくらいだ」
「た、たべぇっ……!!?? うぅ……、ハ、ハルト様はやはりえっちです……」
「おいちょっと待ってクリス、それは釈然としない! 事実を言っただけだろ!?」
「おーっとそれ以上はクー様の従者であるこの私が黙っちゃいませんよー? このままいけば不敬罪ですからね!」
「すみませんでしたっ!」


 以前レイアに迷惑をかけたことを思い出したハルトがクリスティアに素直に謝ると、彼女は最初こそ顔を赤くしていたが「だ、だいじょぶなのでお気になさらずっ……!」と返事した。
 因みにクリスティアが髪色を変えているのは『変色指輪《カラーリング》』という帝国産の魔具。指定する身体の部位に自分の魔力を流す事により、指定した色に変えることの出来るとても利便性の高い指輪だ。

 どうやら初めて会ったときは壊れてしまっていて使えなくなっていたらしい。

 その後も他愛無い話をしながら歩いていると、ハルトはふと知っている少女が目に入った。

 ピンクの髪をツインテールにした少女、ローリエである。いつも通り蒼い花びらの髪留めをした彼女は、何やら花売りの屋台の店主とにこやかに会話していた。
 背こそ小さいが、彼女は贔屓目に言っても美少女のカテゴリだ。様々な種類の色取り取りな花に囲まれたローリエは、まるで美術館に飾られる絵画のよう。

 ローリエは花を購入したのか、彼女の手の中にはオレンジ色や黄色、赤色に咲く花の植木鉢があった。花屋の年老いた店主が屋台を引いてハルトの横を通り過ぎながら離れていくと、ローリエはハルトたちに気が付く。そしてぱぁぁっと笑顔を浮かべた。


「あれぇ、ハルっちたちどうしたのー? あっ、まさか教師と生徒の逢引き!? キャー、もうさっそく女の子二人を手籠めにするなんてハルっち大胆ー!」
「お前らの俺の認識ってどうなってんの!?」
「……えっち、です」
「女生徒を面前で下着に剥く鬼畜ですね」
「え、ナニソレ初耳。んー、ぐーたらすけべ?」
『小さな女の子に好かれる色情魔。変態。ど天然たらし。年上キラー。とシャルロットは足りないワードを補足します。ででーん』
「ぐはっ……!? こいつらはともかくシャルまでも……!?」


 クリスティア、リーゼ、ローリエだけでなく腰元のシャルロットにまで脳内で呟かれて思わず崩れ落ちるハルト。
 自分で聞いて墓穴を掘る形になってしまったが、過去のことを色々知っているシャルにまで追撃されたのはダメージが大きかった。

 クリスティアはハルトの言葉を聞いて首を傾げる。


「シャル……? それはいったい……?」
「あぁいや、なんでもない。こっちの話だ。そ、それよりもローリエはわざわざ花を買いに来たのか?」
「うんそうだよー♪ ウチってこれでも花を愛する儚い系女子だから! 決まった時間に来る屋台の花屋さんでこうして花を買ってるんだー♪」


 明るくて綺麗でしょー♪ と微笑んだローリエは植木鉢に咲く花をハルトたちに見せびらかす。
 確かに見ているととても暖かな気持ちになる花だった。可愛らしくて、いつ見ても飽きない、綺麗な花。


「わぁ、マリーゴールドですね。よく観賞用に育てられたり、ハーブティーとしても利用されたりもする、薬草のような効果を持つ花です」
「おぉ、さすが学院の筆記成績トップのクリっち! 物知りだねぇ! ハイ、一輪上げるー! じゃあさじゃあさ、この花の花言葉って知ってるー?」
「あ、いえ……。期待に沿えず申し訳ありませんが、花言葉までは存じ上げないのです。いったいなんですか?」
「マリーゴールドの花言葉は『深い愛情』『健康』『真心』、色んな意味があるんだけど、実は真逆の意味もあってね!」
「そ、それはいったい何なのでしょうか……?」


 クリスティアは少しだけ緊張したかのように、思わずごくりと喉を鳴らす。そんな彼女の様子を見たローリエはニヤリと表情を歪めると、内緒話をするように口元に手を添えた。


「それはね―――

































―――――――――『絶望』だよ♥」


















「―――ッ!!!」


 直後、ハルトの背後から強烈な殺気が放たれた。

 苛烈にて冷酷。練熟した本物・・の先鋭的な気配が首元に刺さる。ハルトは何者かによる殺意が明確な気配をすぐさま察知すると、思わずバッと背後を振り向く。

 しかし―――、


(くっそ、人が多すぎてわっかんねぇな……っ! たぶん、これってクリスを狙うヤツの気配だろ。だけど今の殺気は明らかに意図的に俺の方へ向けられていた。クリスティアじゃなく俺にだ……! いったいどうしてだ……?)
『ハルト。恐らくですが、ハルトがこの場にいるクリスティア第三皇女にとって何者であるのかを試したのかと思われます。自らに害のない人間か、それ以外か・・・・・。とシャルロットは何者かによる先程の純粋で鋭敏な殺意に対し冷静にそう分析します。きりっ』
(ちっ、だとすれば咄嗟に振り向いたのは悪手か……っ)


 脳内でシャルロットと会話するハルトだったが、ある少女の声でふと現実へと引き戻される。


「……ハルトさん?」


 クリスティアだ。

 彼女は心配そうに、さらにリーゼとローリエは不思議そうな、怪訝な表情をハルトに向けていた。

 先程の気配を辿る為にその方向へと目を向けて集中していたハルト。数秒とはいえきっと彼女らにとっては不自然な間だっただろう。

 ハルトは取り繕うように口を開いた。


「いや、一瞬この道で合っているのかって不安になっただけだよん。……それで? その花の花言葉が『絶望』ってところまで聞いたけど」
「んー、大した話はしてないんだけどねー。 なんでこのお花が『絶望』なんて意味が込められているのか詳しくは分かんないけど、悲しい内容の神話に出てきたお花だからそういう意味でも使われちゃうんだってー! ウケるよねー!」
「なるほど、花言葉というのは深いのですね……」
「いやクリス、別にツッコむところあるよね?」
「右に同じです……」


 純真な心を持つクリスティアに対し、静かに呟くハルトとリーゼ。

 ふとあることを思いついたハルトはローリエに声を掛けた。


「そうだローリエ。俺たちこれからパン屋に行くんだけど一緒に行くか?」
「んー残念だけどパスかなー。ほら、植木鉢で手がふさがってるし、ウチはウチで寮に戻った後も用事があっかんねー!」
「そうですか……。残念です」
「んじゃ! ばいばーいっ!!」


 そう言ってローリエはたたたっと風のように走り去ってしまった。その後、彼女の後ろ姿を見送った三人は顔を見合わせる。

 互いに頷き合うと、目的のパン屋へと向けて歩き出したのだった。


ハルトは足を運びながらも思案する。


(『絶望』、ね……)


 ハルトはクリスティアの髪に飾られた一輪のマリーゴールドをちらりと見遣ると、やがて視線を前に戻した。



























「ふふっ、やっぱ面白いなぁ。―――ハルっち♥」






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