努力の末に帝国で最強になった魔剣使い、皇女を護るために落ちこぼれクラスの教師になる ~魔剣学院の千の剣帝【サウザンド・ブレイバー】~

ぽてさら

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第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる

第15話 カフェテリア

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 それから約一週間の時が過ぎた。

 現在、レーヴァテイン魔剣学院のカフェテリアのテーブルには四人の少女が座っている。それぞれメニューを注文し、既に目の前には美味しそうな食事が並んでいるのだが、ある一人の少女は一切食事には手を付けようともせずぷるぷると身体を震わせていた。

 それは何故か。


「あーもう本っ当にムカつくわあのぐーたら教師!! 授業はいっつも自習、闘技アリーナでのトレーニングでは普通の筋トレの指示をするだけ!! もっとこう魔剣の効率的な振り方とか剣技能スキルとか、他に教えることあるんじゃないの!? なんであんな奴が教師になれたのかさっぱりわからないんだけど!!」
「フッ、そう荒ぶるなミヤビ。魔剣使いたる者、冷静さを欠いたら相手の思うがままだ。もっと我のように心にゆとりを持ってだな……」
「アンタはアンタでマイペース過ぎなのよ!! この剣馬鹿が!!」
「むっ、それは我への褒め言葉か?」
「違うわっ!!」


 困り果てたように頭を抱えるミヤビに対し、カナエは関係ないとばかりに故郷の一品であるウメボシのオニギリを美味しそうに頬張る。
 彼女の呑気さを見たミヤビは、さらに身体を脱力させた。

 ―――ミヤビが憤る原因はゼロクラスの主担任であるハルトにあった。初日はゼロクラスの面々と一緒に授業を受けたハルトだったが、なんとそれからも授業をボイコットしたのだ。自習と言ってエイミーを困らせたり、実技訓練では闘技アリーナ内生徒に走らせて、自分は何も教えようともせず各自自主トレーニングさせたりなど。しかも教室にいないこともしばしばあった。

 正直に言って、ミヤビの我慢は限界だった。

 するとここでサラダを食べていたローリエが口を開く。


「でもでもー、ハルっちってどこかテキトーに見えて、ウチたちのトレーニングしてるトコじっと見てるよねー。あれって実は観察してるのかな?」
「んな訳ないでしょ、教師っていう立場を利用して私たちをシカンしてるのよシカン!!」
「えぇ~、そうかなぁ……?」
「ハ、ハルト先生はそんな卑猥なことをするような人じゃ、人じゃ……! う、うぅ……ッ」
「ほら! 言い淀むってことはクリスティア様もそう思ってらっしゃるってことよ!!」


 私の言ったことは正しい! というかのようにふふんと胸を張るミヤビ。実際にはクリスティアは、リーリアとハルトの戦いの最後の結末を思い出していたのだが、それをミヤビ達が知る由も無い。

 ミヤビはコップの水をゴクゴクと飲み干すと、テーブルに座るカナエ、ローリエ、クリスティアを見渡して力強く言い放った。


「もうハルト先生……いいえ、あの男なんて放って置いてエイミー先生と私たちだけで強くなりましょう! ティーゼ様だってしばらく前からゼロクラスにこないで図書庫に行ってるし、力を得る為に私たちに必要なことを取り入れるべきなんじゃないかしら。無駄な時間を過ごしてる余裕が無いことくらい、もうみんな充分に分かってるでしょう?」
「そ、それは……」


 ミヤビの言葉にクリスティアが言葉を僅かに洩らす。同時に、静寂がテーブル内を支配した。

 これまで彼女たちは、学院内で剣技練度ソードアーツが低い故、様々な憂き目にあってきた。同世代の人間にバカにされ、見下され、散々な屈辱的な仕打ちを受けてきた。
 例え大層な夢や理想を抱いていても、学院の剣技練度ソードアーツ至上主義という逆らえない現実にあっという間に飲み込まれる。

 例え弱者に魅力や人徳があっても、人格や道徳が欠けている強者が上へと昇り詰める。

 ―――レーヴァテイン魔剣学院は、強者が弱者を淘汰する魔境なのだ。


「で、でももう少しだけ……!」
「―――おやおや、剣技練度ソードアーツ最底辺な落ちこぼれである『ゼロクラス』の皆さんがどうしてこんな場所に居るのかなぁ?」


 クリスティアが何かを言いかけるが、突如粘着質なわざとらしい声に遮られる。テーブルに座る彼女らが顔を上げると、そこには複数の男子生徒がニヤニヤとしながら立っていた。
 その貴族らしい一人が話し掛けたのだ。


「げっ、Sクラス……!」
「このカフェテリアはお前らのような落ちこぼれには不似合いだ。周囲を見渡してみろ。この場を利用しているのはSクラスとAクラスといった優秀な者だけだろう。身の程を弁えろよ。底辺が」
「なっ!? このカフェテリアを利用するのにクラスは関係ないでしょう!! っていうかアンタ正気!? ここにはクリスティア様もいらっしゃるのよ!?」
「はっ、関係ないな。この魔剣学院には身分やクラスによる上下関係はあれど、剣技練度ソードアーツがすべてだ。クリスティア第三皇女様には皇族である以上私にとって最大限の礼節と最低限の敬意は払うが……ただそれだけだ。必要以上に敬う価値がこの御方には無いからなぁ。―――この『無能皇女』には」
「……ッ!」
「アンタ……ッ!」
「……ふむ」
「やーな感じぃ」


 “帝国にとって無価値でいらない皇族の一人”と存外にそう言われた気がしたクリスティアは、唇をぐっと引き締めて俯く。

 ―――そんなこと、クリスティア自身が一番良く分かっていた。


「だいたい何が『ゼロクラス』だ。いつまでたっても伸びしろの無い役立たずなどさっさとこの誇りある魔剣学院から放逐すればいいだろうに……、ルーメリア学院長も何を考えているのやら」
「ッアンタ! 良い加減口が過ぎるわよ!! 学院長やこれ以上私たちを侮辱するなら……!!」
「するならなんだ、決闘でもするか? まぁ、お前らの勝算など限りなくゼロに等しいのだが。あぁ、もしやその意味の『ゼロクラス』か? はっ、だとすれば傑作だ! ハハハハッ!!」
「く、ぅ……ッ」


 話し掛けてきたSクラスの男子生徒が高笑いしたのを皮切りに、カフェテリア中の生徒がクスクスと彼女らをあざ笑う。

 圧倒的なアウェー感。その構図にこそ、如実に『ゼロクラス』の立場の低さが現れていた。

 何も言い返せずテーブルに座る彼女らが俯く中、クラスのみんなを侮辱され、我慢の限界に来ていた正義感の強いミヤビは顔を真っ赤にしながら気丈にも言いかえそうとするが―――、


「いいわ……! 決と―――!」
「ていっ」
「いったぁッ!? って、ア、アンタ……!」
「やーやー我が愛すべきゼロクラス諸君、ちゃんと昼飯食べてるかー?」


 ミヤビは突如脳天に響いた痛みに涙目で背後を振り向くと、そこにはワイシャツとネクタイをだらしなく着崩したハルトの姿があった。




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