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第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる
第10話 クリスティア第三皇女VSリーリア 1
しおりを挟む「さっすがレーヴァテイン魔剣学院。帝国が教育に力を入れてるだけあるわ。外側だけじゃなく内装も立派だ」
時間は正午を過ぎた辺り。連なる窓ガラスからは暖かな日光が差し込む。
あれから学院長室でルーメリアと言葉を交わしてから数日が経過。現在ハルトは学院の廊下をのんびりと歩きながら学院に慣れる為にあちこちを見回っていた。
改めてこの魔剣学院の凄さに圧倒されていたハルトは思わずほぅ、と溜息が洩れる。魔剣学院を外側から見ても立派だという印象を受けたが、それは学舎内も同様だ。
「だいぶ前から学院が休みだからか一度も生徒を見かけねぇし……。まぁ休みならわざわざ身体に鞭打ってまで学院になんて来たくねぇよなー」
『本日はたまたま遭遇しないだけでしょう。この学院の生徒は貴族平民関係なく狭き門を突破した優秀な者たちの筈。全員がハルト同様にぐーたらで面倒臭がりなクソニートな訳ではありません。とシャルロットは冷静につっこみを入れてみます。なんでやねーん』
「おい」
午前中から各教室を見回っているのだが、残念ながらまだこの学院の生徒に出くわしていない。
未だ学院が長期休暇に入っているということもあり、こうして建物内を歩いていても閑寂な雰囲気が漂っているのがわかる。
一週間後には実技や授業が再開されるので、ハルトがクラスを持つ『ゼロクラス』の面々と顔を合わせるのもそのタイミングだろう。既にルーメリアからは名簿を渡されて『ゼロクラス』の生徒の名前を確認していた。
変わらず歩みを進めていると、腰元のシャルロットが話しかけてくる。
『ハルト、一通り学院内を探索したおかげで建物の全体図は把握しました。ここまで魔力反応はゼロ。―――しかし、別フロアにて極小な魔力反応が大量に存在するのを察知しました。とシャルロットは学園内を記憶するのが疲れたので一つ息を吐きます。ふぅ』
「お疲れ、シャル。しばらく休んでてくれ。―――さって、クリスが言ってた”闘技アリーナ”だな……。うん、行ったことねぇし、生徒の実力を見るのも教師の役目だ。行ってみるか!」
ハルトもまたシャルロット同様に魔力を察知していた。―――それはまるで荒々しい、小さな風船が今にも爆発しそうな感じにも似ている。
興味が湧いたハルトは、闘技アリーナへ向けて歩き出した。
しばらくしてハルトは闘技アリーナのメインフロアに到着。彼が中心へと視線を向けると、この学院の制服を着た生徒の集団と一人の少女が一定の距離を保ちながら向かい合っていた。遠目から見ても分かり易い程の個対全の構図。
ハルトは思わず目を細める。
「あれは……決闘でもするつもりなのか?」
集団の先頭にいたのはリーダーであろう名前の知らない女生徒。そして彼女に対峙している少女はなんとクリスティア第三皇女だった。
彼女は背後にいる傷だらけのリーゼを護るようにして先頭の女生徒を冷静に見つめていた。
グラマラスでスタイルの良い相手の女生徒は見下すような態度を隠そうともせず、紅い扇で口元を覆うとそのままクリスティアへ言葉を紡いだ。
「ふん……っ。Sクラスであり剣技練度80パーセント以上の数値を誇るわたくし、リーリア・ブライトがせっかく第三皇女様のご稽古のお手伝いをして差し上げようとしましたのにぃ。そのように傷だらけになって、Bクラスの従者風情が余計な邪魔するからですわぁ」
「くっ……! 言わせておけばぁ……っ!!」
「リーゼッ! ……お気遣い感謝致します、リーリアさん。しかしこれはあくまで訓練。なにもリーゼをここまで痛めつける必要など無かったのではありませんか?」
クリスティアがリーリアと名乗った女生徒へ責めるような視線を向けるも、当人は素知らぬ顔でライトグリーンの巻き髪を手で払った。
会話の内容から察するに、おそらく既にリーゼとリーリアが剣戟を交えた後だ。リーゼが全身から血を流して切り傷だらけであるのに対し、リーリアは無傷。二人の実力の差は明白で、クリスティアたちを痛めつける為にリーリアが善意という形の”敵意”を押し付けてきたのだのだろう。つまりは嫌がらせだ。
クリスティアは過剰攻撃であると主張したいのだろうが―――、冷酷に唇を曲げるリーリアの琥珀色の瞳は、どこまでも冷たい。
「あらあらまぁまぁ! 帝国の第三皇女ともあろう御方が、武器を用いた戦闘を訓練と割り切るのですかぁ。―――流石は剣技練度10パーセント以下の『無能皇女』。魔獣が蔓延るこの世界において、その認識は少々甘いのではありませんことぉ?」
「……ッ! ……確かに、私は姉様たちとは違って優秀ではありませんし、魔獣と一度も戦ったことのない世間知らずです。甘いことも理解しています。ですが、訓練と称して動けない相手を一方的に痛めつけるのが正しいとは思えません!」
「―――ならば、今からそれを証明して下さいな」
「え……?」
リーリアの言葉に一瞬だけ言葉が詰まるクリスティアだったが、そんな彼女の様子に構わずリーリアは言葉を続けた。
「力は痛みからしか生まれませんわ。わたくしの現実とクリスティア様の理想。どちらが正しいのか、是非とも勝負致しましょう。」
「勝負、とは……っ」
「ここは名誉あるレーヴァテイン魔剣学院。『心』『技』『体』を高め合う魔剣使いが剣技を競い合う場所ですわ。白黒つけるならば―――魔剣しかないでしょう」
「……ッ!」
自らの魔剣を掴みながらそう示したリーリアは、挑戦的な目でクリスティアへ視線を向ける。
彼女の背後にいた生徒たちも各々頷いたり、息を呑む第三皇女をほくそ笑みながら肯定の意を表していた。
「あらあら、もしかしてあれだけの啖呵を切ったというのに怖気づいたのですかぁ? ハッ、さぞかし皇帝様もお嘆きになるでしょうねぇ?―――あぁ、もしや皇帝様もクリスティア様にはとっくに期待などしておられないかもしれませんわねぇ……! その魔剣、おそらく予備の武器でしょう? ご自分の魔剣はどうされたのですかぁ?」
「…………ッ。わかりました。それでは、剣技で勝負致しましょう」
「素晴らしいお返事ですわぁ! それでは―――せいぜい吠え面をかかないことですわねぇッ!!」
「グ……ッ!!」
突如、魔剣を鞘から抜いたリーリアが目にも止まらぬ速さで接近、同時に刃を振るう。薄緑の凶刃がクリスティアを襲い掛かるが、辛うじて反応出来たクリスティアは魔剣精クラリスの本体で防いだ。
ギャリギャリギャリィッッッ!!!
音を鳴らしながら刃と鞘がぶつかり合い、激しい火花が両者の眼前で飛び散る。途端に闘技アリーナ内の空気が張りつめた。
「ふんっ! 咄嗟にわたくしのスピードに反応出来たのは褒めて差し上げますわぁ! です、がぁ……ッ!!」
「ん……ッ!!」
「たった一度防いだだけで思い上がらないことですわねぇ!!」
リーリアが思い切り剣を振り抜くと、剣圧に耐えきれずにクリスティアは遠くへ弾き飛ばされる。同時にカランカランと音を立てて彼女の手からクラリスが離れた。
急いで地面に落ちたクラリスを手に取ると、リーリアを見据えながら改めて剣を構える。
―――鞘から、刃を抜かないまま。
「思い上がってなど、いません……ッ! 私が未熟なのは、自分がよく知っています!! はぁーッ!!」
「ふっ、ふっ……! おーっほほほ、遅い遅い! まるで児戯のようですわ!」
「ッ……!! リーゼ、安全な場所まで離れてて!!」
「くっ、申し訳、ございません……!」
クリスティアがリーリアへ接近して何度もクラリスを振るうも、切り結ぶたびに簡単にあしらわれる。
それからも彼女は懸命に剣を鞘に仕舞ったままリーリアへ猛攻を仕掛けるのだが、それは長くは続かなかった。
「はっ、はっ……! くぅ……ッ!!」
「ハッ、もう息が上がりましてぇ? レーヴァテイン帝国の皇女ともあろう方が、剣を振るう体力も技術も、さらには刃を向ける覚悟も無いのですわねぇ。はぁ……、―――虫唾が走りますわっ!!」
「キャッ……!?」
「クー様ッ!!」
激昂したように声をあげたリーリアは、クラリスごとクリスティアの胴体を蹴り飛ばす。
悲鳴を上げながら地面を転がったクリスティアだったが、なんとか再び膝をつきながらも体勢を整えた。
今度こそは、彼女が剣を手放すことはない。だが、
「おーっほほほ! 訓練とはいえ無様を晒すとは恥ずかしいとは思いませんのぉ? たった数度剣を交えただけでボロボロじゃありませんかぁ」
「う、うぅ……!!」
もうクリスティアの身体はあちこちぼろぼろだった。頬や腕に出来た切り傷からはつぅっと血が流れ、おまけに疲労も蓄積している。
誰から見てもクリスティアが劣勢。無傷なリーリアへ勝てる術など存在しなかった。
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