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第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる
第6話 撃退
しおりを挟むデーブーの肉付きの良い剛腕が少女へ届く瞬間、アルトは彼女をかばうように立ちふさがると彼の拳を片手で掴む。
「―――ちょ待てよ」
力を持たないがゆえ、何も出来ないでいた観衆の中心に突如現れたアルトに周囲の人々は表情豊かにどよめく。
しかしアルトはそんなことは気にも留めず、目の前にいるこの巨漢の男を見据えた。
「なっ、なんだテメェは……!? 邪魔すんならテメェも……いだっ、いだだだだだだだだッッ!!??」
「おいおーい、俺含むか弱い民間人が往来する場でそれは横暴も過ぎるっつーか……見苦しいんじゃねーの?」
周囲による『絶対にコイツか弱くない』という視線に対し、ハルトはあえて無視した。
「ちょっ、おまっ、力つよ……ッ!? くぅ……ッ!? い、いいからさっさと離せッ!!」
「はいよ」
男の肉が厚い拳を掴みながらもにぎにぎと遊び心を加えていたハルトだったが、離せと云われたので素直にパッと離す。
デーブーは離す力も相まって後ろへ勢い良くたたらを踏むと、拳を庇いながらもハルトを射抜くように睨み付けた。
しかしハルトは全く意に介さないどころか、分かり易い程の作り笑いを浮かべる。
「い、いきなりなんだテメェは!? 部外者は引っ込んでろ!!」
「んー、まぁこの状況は完全に部外者なんだが、間接的な関係者でもあるというかー……とにかくここは大人しく手を引いてくれませんかねー?」
「何ワケわっかんねぇこと言ってんだ!! クソッ!! テメェらまとめてぶっとばしてやる!!」
「あーもー……、なるべく穏便に済ませたかったのによぉー」
再び拳を振り上げながら険しい表情で襲い掛かるデーブー。ハルトは瞳を細めると、薄く口角を上げたまま僅かに体勢を横に構え、腰に下げたシャルロットの鯉口を瞬時に切った。
すると、衝撃的な光景が観衆の目に映る。
「―――忠告、したからな?」
「は? …………っ!!??」
デーブーの衣服が、下着以外すべて勢い良く破れ落ちたのだ。
突然の出来事に理解が追い付かないデーブーと周囲の人々。しかし、ハルトに守られた少女だけがその瞬間を目撃していた。
(一瞬……僅か一瞬だけだったけど、光が反射した……? ……ッ、まさか、目にも止まらぬ速さでこの方の衣類のみを斬ったというのですか……!? それが本当なら、なんという神業……ッ!?)
少女はその目深に被った外套の中で青年の神業とも呼べる剣技を目を見開いて目撃していた。
少女は思わず身震いする。恐怖ではない、今この一瞬、青年が目の前で見せた剣技練度の高さが伺えるその剣技を身に付けているという驚きの事実に。
見つけた、という喜びに。
「なっ……!? オ、オレ様の服が、どうして……ッ!?」
「さぁ? 俺が剣を抜く前に、力み過ぎて服が弾け飛んだんじゃねぇの? ほら、おたくさんその体型だから。なんていうかそのー、ふくよかというか大柄というかー……うん。デブだから?」
「言い直すなよ!? ……クソッ! お、覚えてろよ!!」
そうハルトに吐き捨てるとデーブーは羞恥に震えた後、パンツ一枚という間抜けな姿で走り去る。そんな滑稽な姿を見た観衆はくすくすと笑いながら道を開け、満足したかのようにちらほらとその場から離れていく。
ハルトはふぅ、と一息つくと、後ろの少女へと振り向きながら声を掛けた。
「あー、大丈夫だったか? 危ないとこだったな」
「はっ、はい! あの、助けていただきありがとうございます!」
「そりゃ良かった。それとついでに訊きたいことがあ―――」
「え……? ちょ、ちょっと……!?」
アルトが言葉を続けようとした瞬間、ばたりと前のめりに倒れる。受け身も取らず地面に倒れた青年の姿を見た少女は驚きの声をあげると急いで駆け寄った。
青年を背中から手で抱える少女は慌てたように声を掛ける。
「だ、大丈夫ですか!? い、いったいどうしたの……」
"ぎゅるるるるるるるるるっ!"
少女の言葉を遮るようにハルトのお腹から盛大に音が鳴る。きょとんとした表情を外套の中で浮かべた少女はその音の正体が何かを理解する一方、ハルトは瞼を震わせながら力無く声をあげた。
「ハ、ハラ……へった………………がくっ」
倒れる直前、ハルトは少女が身に纏う外套のフードの中を垣間見る。"綺麗な紅い瞳をした子だ"という懐かしい思いを抱きつつハルトはそのまま意識を失ったのだった。
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