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第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる
第4話 第三皇女の護衛任務と噂
しおりを挟むレイアから突如告げられたレーヴァテイン帝国魔剣学院への教師としての赴任&皇女暗殺の阻止という任務(とレイアのお願い)に、思わず戸惑いの声を洩らすハルト。
そんなハルトに構わず、レイアは「順を追って説明するわね」とそのまま言葉を続ける。
「実はね、数週間前にレーヴァテイン帝国魔剣学院に脅迫状が届いたの」
「脅迫状……?」
「えぇ、主な脅迫内容はさっき言った通り何者かによる皇女の暗殺。未だ誰がその脅迫状を送ったのか不明だけど、さらに分からないのがその理由よ。バカハルト、現在レーヴァテイン皇の子孫は何人いるか知っているかしら?」
「バカは余計だバカは。……確か三人だろ? しかも全員女性で、俺らと大して歳は離れていない筈だ。第一皇女は『魔海領域』で龍系魔獣の最上位種【グレイテスト・ドラグーン】をたった一人で倒せるほどの女傑だし、第二皇女はレーヴァテイン帝国の科学力をおよそ十年先まで引き延ばしたっていう膨大な知識量と聡明さを兼ね備えている秀才だろ? 最後の第三皇女は………あー…」
「―――クリスティア・ヴァン・レーヴァテイン。学院では別名『無能皇女』と呼ばれているらしいわ。今回まさに暗殺のターゲットになっているのは魔剣学院に通うその子よ」
「…………は?」
ハルトが言い淀んでいると、レイアが難しい顔をしながら第三皇女の名前を紡いだ。
彼女は立ち上がり書斎の机まで近づくと、紙の束を手に持ちながら戻ってくる。
ハルトはレイアに手渡された紙束の内容を見てみると、そこには脅迫状の内容や第三皇女に関する詳細な情報が記載されてあった。
「貴方も知っての通り、はっきり言って文面では彼女に暗殺するほどの価値は無いわ。筆記成績は幼少期から帝王学や基礎教養は叩きこまれたらしいから学院でもトップの実力を誇っているらしいけど、魔剣の扱い方はからっきし。なにせ剣技練度はたった10パーセントにも満たないわ。剣技練度至上主義の魔剣学園にとってお勉強だけ出来てても意味はないし、『無能皇女』という呼び名の通り学院でもDクラスの落ちこぼれよ」
「………………」
「……でもここだけの話、彼女に関してある噂があるの」
「噂……?」
自堕落といってもハルトは幼少期から帝国で育ってきた。第三皇女であるクリスティアは他の第一、第二皇女と比較して戦闘や技術向上といった才能を持ち合わせていない、至って普通の女の子であるという事実は既に把握していた。
しかし、ハルトにとって彼女に噂があるなど初耳だ。レイアは頷くと言葉を続けた。
「曰く、―――"魔剣の能力を覚醒させる力を持っている"っていう噂よ」
「覚醒……? なんだそれ?」
「私も詳しくは知らないしこれまで聞いたときも無い。通常、魔剣は魔剣精と違って意思疎通をすることも出来ないし、決まった属性やランクに見合った能力しか秘めていないわ。魔剣精のように意思が宿っていれば別だろうけど、ただの魔剣で都合よく能力を覚醒させる事なんて不可能……。不可能な筈なのよ……! えぇそうに決まっているわ!!」
「落ち着けレイア。あとそれってどっからの情報だ?」
「現レーヴァテイン皇帝」
「うっわ実の父親からの情報ってもうそれ噂じゃないじゃん。真実じゃん」
「うっさいバカハルト! 私がこの眼で見てない限り全部噂よ!!」
なんという彼女らしからぬ暴論。フーッ、フーッ、と何故かイラついているレイアを不思議に思いながらも宥めると、彼女はそのわけをゆっくりと話しだした。
「この件は表向きには任務として帝国軍上層部から伝えられてるけど、実のところ皇帝様が私がいないときにヴァーミリオン公爵邸にいらっしゃって話したことなのよ。ほら、ハルトも知っての通りバカ父と皇帝様って学友同士でしょ?」
「あぁ……、確か魔剣学院で切磋琢磨し合ってトップを争ったんだろ」
「皇帝様は同時にクリスティア様の噂のこともお話したそうなのよ。そしたらあのバカ父、何をトチ狂ったのか―――」
次に、レイアはハルトにとって衝撃的な言葉を繰り出した。
「ミリア姉様の形見である『魔剣精クラリス』を皇帝様経由で第三皇女に渡しちゃったのよ!!」
「何やっちゃってくれてんのあのハゲ!?」
「私が気付いた時にはもう遅かったわ。あの子を宝物庫に大切に保管していたのに、いつの間にかなくなってるんですもの……!」
「アイツが最期に遺したクラリスをなんで……、っそうか……!」
「えぇ、ミリア姉様が亡くなってからずっと眠ったままのあの子の意識を、第三皇女の力で覚醒させようと考えたのよ! 護身用と兼ねて!!」
「………………」
ミリア・ヴァーミリオンは五年前の大規模魔獣討伐戦で亡くなったハルトの幼馴染だ。彼女の魔剣精クラリスはそれ以来まるで意思が消失したかのように何も反応がない。
だからこそヴァーミリオン現当主であるレイアの父、アキレウスは友人である皇帝が話す第三皇女の噂を信用して渡したのだろう。
「ほんっとにあり得ないっ! 私に黙って渡して……しかもよりにもよってあの子を予備の護身用!? 今思い出しても腹が立つ……!!」
「……まーまー落ち着けよ、レイア」
「……っ、ハルトは平気なの!? あの悲劇のなか、唯一残ったミリア姉様の遺品なのよ!? 結局ミリア姉様の遺体も、身に付けてる物も何一つ残らなかった……! あの子だけなのよ……! それを……!!」
レイアの綺麗に整った顔には焦燥感が滲み出ていた。
ハルトはゆっくりと目を瞑る。レイアがミリアを小さい頃から慕って育ってきたことはハルトもよく知っている。ミリアも、あの死地に向かう間際までレイアの行く末を案じていた。
―――なんにせよ、ハルトの決意は揺るがない。
「大体の事情は分かった。つまり、第三皇女の護衛任務と同時並行で『魔剣精クラリス』の行方を見守ればいいんだな」
「えぇ……! 任務が終わったら速攻クラリスを持ち帰ってきて。皇帝様には後で私から伝えておくわ」
「……りょーかい」
軽い調子で返答するが、それが叶うのは正直難しいだろうとハルトは思う。気になった事があったのでレイアに声を掛ける。
「そういえばどうして俺なんだ? 任務を受けるにあたって私情を挟まない他の奴らでも良いだろうに」
「そ、それは……」
いくらミリアの魔剣精クラリスが関係するといってもこの護衛任務の本質は"皇女暗殺の阻止"だ。極端に言えばクラリスのことはレイアの完全な私情で、おまけに過ぎない。
そう思ったハルトがレイアを見つめると、言い辛そうに口を噤みながら頬を少しだけ赤く染める。もじもじしてるその可愛らしい姿はまるで歳相応だ。
手に持ったティーカップで顔の下半分を隠しながらレイアは上目遣いでハルトを見つめると、蚊の鳴くような声で小さく呟く。
「あ、貴方のことを、一番に信用してるからよ……っ!」
「…………ふーん、そっかそっかぁ。いやぁ、お兄ちゃんは嬉しいなぁ。ほらレイ、昔みたいに"ハルトお兄ちゃん"って呼んでも良いんだぞ?」
「~~~ッ! 調子に乗るなバカハルトぉ~~~ッ!!」
ハルトの意図的な揶揄いに、思わずレイアは廊下にまで響くほどの大声を出して叫んだ。
因みにその後、涙目でレイアが自分の炎属性の魔剣でハルトと斬り結んだ末に師団室を火の海にしかけたのは余談である。
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