努力の末に帝国で最強になった魔剣使い、皇女を護るために落ちこぼれクラスの教師になる ~魔剣学院の千の剣帝【サウザンド・ブレイバー】~

ぽてさら

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第一章 千の剣帝、ゼロクラスの教師となる

第1話 ハルト・クレイドル

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 ―――空が、紅い。

 ひとり荒野の崖に立った黒髪の青年は、いつもと変わらない色の空を見つめながらぼんやりと感想を抱く。

 この地域一帯は大量の魔獣と共に濃密な魔力があちこちに蠢いている。それが原因で地震や雷、火山の噴火などの天変地異が絶えず起こっているかなり危険な場所だ。

 この場所の名は『魔海領域まかいりょういき』。力を持たない一般人は決して立ち入ることの出来ない、レーヴァテイン帝国により特別管理地域に指定されている場所だった。

 普通ならば緊張や恐怖で足がすくんでしまうだろう。蒼い瞳でそんな危険な場所の崖の上から千を超える魔獣を見下・・・・・・・・・・ろす・・青年だが、その態度は実にあっけらかんとしていた。


「ふぁ~あ、ねっむ。あーったくレイアのヤツ、せっかく俺が疲れを癒す為に部屋で悠々自適な生活を過ごしていたというのにこんな面倒な任務を押し付けやがって……!」
『ハルト、厳密に言うならば"悠々自適な生活"ではなく"自堕落ニートライフ"なのでは、とシャルロットは提言します。だらだら』
「あーあー訊きたくなーい、そんな現実知りたくもなーい」


 ハルトと呼ばれた青年は、近くから聞こえたその可愛らしい声に両手で耳を塞ぎながらかぶりを振る。

 黒髪の青年の名前はハルト・クレイドル。現在は自らが所属する帝国軍から配給された黒の生地に青のラインが入ったコートジャケットを着用しており、その胸元には金色で刺繍されたエンブレムがあった。

 ハルトのその腰には真っ白な鞘に納められている剣がぶら下がっている。


「っていうかなんで俺が"『魔海領域』の地質調査"の護衛任務に駆り出されなきゃいけないんだよ……。別の帝国軍の奴でもいいじゃねぇか……!」
『以前に任務を遂行してから約一カ月、怠けたハルトが帝国特務師団の宿舎で自堕落ニートライフを送っていたことが原因です。大激怒したレイアが借金まみれのハルトへの温情で任務を引き受ける代わりに借金全額返済の約束をした記憶は新しい。とシャルロットはめんどくさがりやな我が契約者へ冷ややかな視線を送ります。じとーっ』
「お前いま剣だろシャル。あとそれ絶対レイアが何か別な面倒な任務を押し付けるときの常套句だかんな!?」


 ハルトは腰元の剣―――魔剣精・シャルロットの白銀の柄に目線を合わせながらそう言葉を紡いだ。
 
 何故ハルトがこのような場所にいるのかというと仕事場の上司、レーヴァテイン帝国軍帝国特務師団の師団長であるレイアから無理矢理任務を言い渡されたからだ。

 現在ハルトの背後では、帝国の調査員たち数人があくせく岩石を採石している。


 ―――前回の魔獣殲滅任務を終えてからハルトは宿舎でだらだらだらだら食っちゃ寝の生活を送っていた。

 もともと帝国特務師団は特別な任務・・・・・しかないのでそんなハルトのような生活を送っていても何も言われないのだが、彼の場合はレイアが代わりに彼の借金を肩代わりしていたのだ。

 その金額はおよそ"10億ルピン"。彼が魔獣を駆逐する際に被害を出してしまった総金額である。

 到底一般人では返済出来る金額ではないのだが、給料の高い帝国特務師団員として活動するハルト個人でもその金額を返済することは難しい。
 なので身元や立場が保証されている師団長のレイアが代わりに借金を立て替えてくれたという次第だった。


 自堕落ニートライフを満喫していたハルトに大激怒していたのに、この任務を言い渡した際はレイアが満面の笑みで『この任務を受ける代わりに借金を返済しなくても良いわよ♪』と言っていたことを思い出した。

 途端にハルトの肩が下がる。

 まるで都合の良い話だ。特にレイアの話には裏があることをハルトは過去の経験から知っていた。

 しかし、多額の借金がある立場なので無碍には断れない。


「こんな簡単な調査員の護衛任務でレイアへの借金チャラってのはすげぇ魅力的……っ、でもこんな破格の条件をだされたってことは後で何かあるんだよ! 精神的にも体力的にもこれまでよりも超キッツいのが!!」
『これぞ"ふくろねずみ"というものですね。さすが聡明なレイア、自堕落なハルトの性格をよく熟知しています。逃げられない様に追い詰めるその手腕はやはり師団長を務めるに値しますね。とシャルロットはレイアの評価をさらに上方修正します。しゅぴーん』
「シャルひどくない!?」


 ハルトは長年一緒にいる相棒の素っ気ない言葉に思わず涙目になるも、突如前方から獰猛な雰囲気を察知して意識を切り替える。

 静かに目を細めると視線を紅い空へ向けた。


「―――シャル、魔獣の気配だ」
『こちらから距離約2メルク離れた先に複数の魔力反応あり。魔力の大きさから龍系魔獣の劣等種、ワイバーンと推測。現在こちらの方角へ猛スピードで接近しています。ハルト、こちらから仕掛けますか? とシャルロットは相棒としての役目を果たそうと奮起します。ふんすっ』
「あぁ。だが剣を振るうにはこっからだとちっと遠い。跳ぶにもアイツらがもう少し近づいてからだな」


 剣であるシャルロットを鞘から抜きながらそう告げる。姿を見せた刀身は鞘同様まるで白雪のような真っ白な色をしており、白い焔と見間違えるような魔力が剣の周囲にうっすらと輝いていた。

 その次に背後の帝国調査員に向けて念のために注意するように喚起を促した。


「おーい! 今からこっちにワイバーンが飛んでくっけど慌てたり騒いだりすんなよー!」
『はぁッ!?』


 地質調査という任務のために熱心に地質調査・フィールドワークをしていた調査員だったが、ハルトがそう注意喚起した途端、慌てたように騒ぎ立てる。


「なあっ!? ワ、ワイバーンだと……ッ!? 群れで街を襲えば一日かからず焼け野原にしてしまうという獰猛な魔獣ではないか!?」
「そ、それがこっちに向かってる!? ダメだぁもう終わりだぁ……ッ!」
「ね、ねぇ! ウチらの護衛がアンタ一人ってホントに大丈夫なの!? さっきから一人でぶつぶつ独り言呟いてて不安しかないんだけど!?」
「あー。ぜんっぜん大丈夫」
『その軽い返事は不安要素しかねぇ!?』


 一致団結した調査員らの声には恐怖や戸惑いが垣間見えていた。

 レーヴァテイン帝国軍所属の調査員といっても彼ら自身が持つのは体術や剣術といった必要最低限の自衛手段のみで、魔獣に立ち向かう術はない。

 何故なら彼らは帝国の研究員。
 普段は帝国軍調査室という調査専門の非戦闘員なのだが、今回は滅多に足を踏み入れることの出来ない『魔海領域』に正規の手順を踏んで調査可能という話で集まった雄志者だからだ。

 しかも、帝国軍に先月入隊してきたばかりの年若い者たちばかり。

 だが新米といっても、彼らも日々の勉学や数少ない過去の調査任務経験から護衛任務の適性人数はもちろん把握している。通常の任務であれば護衛の人数は最低でも5人は必要なのだが、何故か今回はアルトたった一人だけ。

 この任務の際の顔合わせも早々、帝国軍所属のハルトの知り合いであろう転移術師からこの『魔海領域』に転送されたのは彼らの記憶に新しい。

 よって、彼らはハルトの実力を知らない。


「つ、つーかアンタその身なりからして魔剣使いなんだよな!? 剣技練度ソード・アーツはどのくらいなんだよ!? 一人で護衛する位なんだから"80パーセント"は行ってんだよな!? っていうかいってて下さいお願いします!?」
「おっ、よくぞ聞いてくれたなオーディエンスその一君いちくん! ―――なんと俺の剣技練度ソード・アーツは……!」
『ハルト、ワイバーンが目視可能な距離まで接近。その距離500メル、ハルトの跳躍で移動・容易に迎撃可能な距離です。とシャルロットは会話を遮り冷静沈着に分析します。きらんっ』
「ちぇっ、せっかくいいところだったのに……。そんじゃま、借金チャラの為にちゃちゃっとぶっ倒してきますか……ッ!!」
「ちょ、ちょっとぉ!? ………って、もうあんな所にいる!? はぁ、あの人いったいどんな身体能力してんのよ……!?」


 調査員の女性が前方の空中に・・・視線を送りながら呆けたように呟く。

 目を細めると、彼女の目に映るハルトの姿が既に小さくなっていた。







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