93 / 98
第四幕 陰キャな僕と天使な彼女
第78話 陰キャな僕と天使のクリスマス 2
しおりを挟むそれから無事マフラーを購入した僕らはしばらくしてケーキの材料を購入、そして現在風花さんの自宅へ向けて歩いていた。冬ということもあってコートなど上着を着て暖かい格好をしていても空気は冷たい。
今年は降雪量が少ないのかさほど雪が積もることも無く、足並みを揃えて歩きやすかった。
風花さんは二人マフラーを、僕は比較的重量のあるケーキの材料の入ったビニール袋を手に持ちながら話をしていた。風花さんが言うにはもうすぐで自宅に辿り着くとのこと。
「―――それじゃあ今度は一緒にどこに行こっか?」
「……えぇ? あぁ、うーんとぉ……えへへぇ、ごめん来人くん。なんのお話だっけぇ……?」
「? だから、今度一緒にどこに行こっかっていう話だよ?」
「あぁ、そうだねぇ……!? 大晦日ぁ……ううん、お正月に初詣に一緒にいこぉ……?」
「……? う、うん……わかった」
……うーん? なんだか風花さん、表情が固いような気がするけどなんでなんだろうな……? 全部買い物が終わってショッピングモールを出た直後はいつものゆるふわしてる風花さんだったんだけど、今は口元がにゅふーんってしてる。
にゅふりじゃないよ、にゅふーんね?
僕は風花さんの真正面からの想いに救われた。だからもし何か思い悩んでいれば相談に乗りたいし、彼氏として僕に何か至らないところがあればすぐに教えて欲しい。
―――こんな頼りない僕だけど、もっと頼って欲しい。
また一つ覚悟を決めた僕は風花さんの表情を伺いつつ声を掛けた。
「風花さん。僕、もっと頑張るね」
「え……?」
「前に風花さん言ったでしょ、これからのお話のこと。楽しむこと」
「う、うん。言ったねぇ……?」
「僕の隣には風花さんがいるし、風花さんの隣には僕がいる。それってつまり今も、そしてこれからも同じ歩みで一緒に僕らの足跡を刻んで行けるってことだよね?」
「………………!」
「だから、頑張る。その僕らの歩みが途切れることが無いように、二人で精一杯楽しむことを頑張りたい。それが……今の僕の夢、なんだ」
「――――――」
「だから―――!」
僕が悩みがあれば聞こうと風花さんに本題を訊ねようと風花さんへ振り向いたその瞬間、ぱしんっ!! という肌を叩く渇いた音が鳴り響く。
僕は思わず目を見開きながら驚くけど、別にその音にびっくりした訳じゃない。
風花さんの頬を自分の両手で叩いた、彼女自身の突然の行動にとても驚いたのだ。手に持ったまま叩いたせいでマフラーの入ったビニール袋が揺れる。
その行動はまるで、自分自身の心に降り積もった余計な考えを取り払うかのようだった。
現にそうしてから風花さんが浮かべる表情はどこか晴れやかで、大きく息を吸って深呼吸する。少しだけ間が空くが、顔を上げるといつものゆるふわ系天使な風花さんがにへらっとしていた。
風花さんは僕を見つめると、口を開いた。
「ありがとぉ、来人くん。おかげでようやく最後の踏ん切りがついたよぉ」
「? そっか、それなら良かった……?」
「それでぇ……、私からもお願いがあるんだぁ」
「うん? 僕に出来ることなら」
彼女は両手でマフラーの入った袋をぎゅっと持ちながら、上目遣いで僕を見上げた。
「私も、お話したいことがあるの―――!」
◇
やがて風花さんの家に着いた僕は心臓がバクバクとしていた。つい最近風花さんを僕の自宅……部屋に招いたけど、風花さんもこんな緊張感満載な心境だったのだろうか。
なにせあのときは今回とは違って事前連絡なしの突然だった。風花さんの自宅に行くと分かっている僕でさえこんなに緊張しているのだから、あのときの風花さんの緊張度は相当だったろう。
……あっ、だからあんなに顔を真っ赤にしてたんだ(今更)! そりゃそうだよ!
風花さんの自宅は僕の家以上に大きくて、さらに言えば小さなお庭付きだった。風花さんに聞くと新築したばかりの家とのこと。
え、超羨ましいんですけど……っ!
「それじゃあ来人くん。荷物をキッチンに置いたらしばらくそのままテレビでも付けてリビングのソファで待っててぇ。私ぃ、先に自分のお部屋に行ってるから後で来てねぇ?」
「ふ、風花さんの部屋に!? っていうかえ、まだケーキは作らないの?」
「そ、それはお話しが終わってから一緒に作ろぉ……! じゃ、じゃあ少ししたらスマホで連絡するからぁ、それを見たら私のお部屋に来てぇ? ……あっ、私のお部屋は階段を昇ってすぐのお部屋だからぁ。私の名前があるからすぐ分かると思ぅ……っ。 じゃ、じゃねぇ……っ!」
「え、あ、うん……。わかった……?」
そうしてマフラーの入った袋を持ったままたったったっと階段を軽やかに上っていく風花さん。がちゃりと微かに扉を開いた音が聞こえたと思ったら、ばたんと締まる音が聞こえた。
そして訪れる無音。
「いったいどうしたのかな、風花さん……?」
話したいことがあるって言ってたけど、なにか準備でもあるのだろうか……。さっきはなんだか目を泳がせた感じで挙動不審だったような気もするけど、帰り道を歩いていたときは何か覚悟を決めた様な様子だったし……。
うーむ……、あっ。
もしかして何か企んでいる……? 僕に……?
………………。
―――うん。こういうとき僕って色々考えを巡らせていたんだけど、天使な風花さんが恋人になった今では僕に酷いことなんてしないって信じられるし、そこはいくら考えても仕方がないんだよね。
スマホに風花さんから連絡が来るまで大人しく待っていよう。―――忠犬ライト、ここに降臨。わんわん。
僕は両手を膝に置くとそわそわとしながら室内をぐるりと見渡していた。もちろん風花さんから連絡が来たらすぐにスマホを見れるようにテーブルに準備しながら、ね。
それから約十分後……、その時が来た。
「―――きたっ! 風花さんからだ……っ!」
点灯した画面に表示されたのは風花さんの名前。僕は指をフリックさせながらSNSのアプリを起動させると、風花さんのトーク画面を開く。そこには―――、
『待たせてごめんねぇ、来人くん。―――きてぇ』
風花さんには珍しく、そこにはいつもの顔文字が無かった。その点を少しだけ不思議に思いながらも、僕はソファからゆっくりと立ち上がる。
そして先程風花さんが昇って行った階段に足を踏み出した。
(話したいこと……。風花さんがあんな真剣な表情で伝えたいと意気込む程の、僕に話したいこと……)
僕は一段一段をしっかりと踏み締めながら階段を昇る。彼女の話したいことが何かはまだわからないし、少しだけ緊張もある。
でもね、どんな話だろうとも受け止めたいという気持ちの方が圧倒的に強いんだ。
彼女が僕を受け入れてくれたからっていう義務感なんかじゃなく、これは純粋に僕のしたいことだから。
そうして僕は彼女の部屋の前に立つ。扉には『ふうかのへや』と可愛らしく描かれており、造花でデコレーションされている。
僕は深呼吸をすると、扉を叩いた。
「風花さん、それじゃあ入るね」
『―――うん、良いよぉ』
僕は意を決してゆっくりと風花さんの部屋の扉を開けた。そこには―――、
「え…………?」
「―――来人くん」
長い黒髪に、大人びた表情。白のショルダータックプルオーバー、ネイビーのフレアスカートを身に纏った懐かしい姿。
忘れもしない、あの日図書館で初めて会った格好をした彼女が、部屋の真ん中で僕を見つめながら柔らかく微笑んでいた。
「宝、条さん……?」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる