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第二幕 天使がぐいぐい来る日常
第46話 陰キャな僕は自覚する
しおりを挟む(風花、さん………)
僕はいつの間にか弁明の為に用意していた言葉を飲み込んでいた。不覚にも、風花さんに普段から抱く『カワイイ』という思いよりも、『美しさ』が目立ったからだ。
こんな風花さんの側面を見たのは初めてかもしれない。同時に、姉の話を思い出す。
―――『……私が築き上げた努力なんて見ようともしないで』
僕は少しだけ息を呑むが、瞳を彼女に見据える。そして勇気を出して言葉を紡ぐ。
「………うん、気になる。風花さんのこと、もっと知りたい」
「っ………へ、へぇー、ふぅーん、そっかぁー……!」
不思議にもすらりと口から出た言葉は、不思議と僕の波打つ心を落ち着かせてくれた。
見ると、風花さんは頬を染めながらゆるふわカールな髪の先端をくるくると指先で回していた。何度も先程の言葉を口にしながら足元に視線を向けている。
…。
………。
………………。
そして、想う。
(……そういえば僕、いつの間にか『天使』として見てないなぁ)
本当に今更だけど、クラスメイト含め学校中のみんなが風花さんのことを『天使』と呼ぶのが容姿、雰囲気、口調からくる比喩表現ということは有名だ。僕も出会った当初から知っていた。
席が隣になった途端、話し掛けてきたから驚いたけど……それからというものの彼女が提案したシミュレーションを経て、交流を重ねて、色々な話をした。
―――一緒にいると、嬉しくて楽しい。
………うん、これは風花さんとの時間を経て抱いた、僕の嘘偽りの無い本音。人と関わることに臆病だった僕が、今まで誤魔化し続けていた感情。
同時に胸がきゅっと苦しくなる。途端に心音が激しくなる。それは心が満たされた様な、どこか心地良い苦しさと鼓動。
次第に心のどこかで燻ぶっていた熱が、じんわりと身体中に広がった。
(………あぁ、そっか)
風花さんにしっかりと向き合おうと誓った割には、自分の心には向き合えていなかったのだからおかしな話だ。
自分の不甲斐なさに小さく笑いながら、ゆっくりと心の蓋を覗く。……そして、
風花さんの心から笑った笑顔がとても素敵だということを知った。
少しだけ口が悪いことを知った。
何かを思い付く度に悪戯気に唇をにゅふりと曲げることを知った。
キャラメルが好きなことを知った。
可愛らしいだけじゃない、お茶目な部分もあることを知った。
―――表情や感情がとても豊かで、とても魅力的な女の子だって知ったんだ。
(僕は、風花さんに惹かれていたのか………)
心の中にひらひらと舞う花びらは、これまでの風花さんとの思い出を鮮明に映し出す。
どれもこれも僕にとっては色鮮やかで、とても大切な色。まるで表面が凸凹のキャンパスに塗り重ねられて少しづつ形になっていくみたいだ。
……あはは、僕は今どんな表情を浮かべているのだろう。爽やかな風が吹いたような、妙に心がすっきりとしていく気分だよ。
その心の奥に潜んだ……いや、自覚した感情を風花さんに悟られたくなくて、僕は敢えて補足する。
「夏休み中に何をしていたのか、ね?」
「……ってぇ、そっちぃ!? ―――っ。あ、れぇ……?」
「ん、どうかした? 風花さん?」
風花さんは「へぇーん、ほぉーん、ふにゅーん」と呟いていた顔をばっと上げて僕を見つめる。するとその途端、呆けたように言葉を洩らしながらきょとんとした表情になった。
綺麗な唇を震わせながらゆっくりと開く。
「―――あのときの、瞳と同じ……!」
「? よく分からないけど……さ、風花さん早く学校にいこっ! 急がないと間に合わなくなるよ!」
「えぇ、あぁうん……! ………んぅ、気のせいかなぁ?」
最後に風花さんが何かを呟いた気がしたけど、顔を見られたくなかった僕は先に歩みを再開させていたので気が付かなかった。地面を踏みしめる足が、まるで羽のように軽い。
僕はあることを思いながら視線を前を見据える。
(勘違いさせちゃったのはごめんね風花さん。……でも、風花さん自身のことを知りたいと言ったのは、僕の紛れも無い本心なんだ。正直、この気持ちはもう収まりそうにない。だけどそれを直接伝えるのは、シミュレーションを提案した彼女の気持ちを汲み取ると難しい)
「………でも、それでも」
―――"少しずつ、僕たちの距離が縮まればいいな"って。
今も、そしてこれからも思っているよ。
そして、いずれ………!
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