6 / 98
第一幕 隣の天使が話しかけてきた
第6話 天使は麦茶を飲む
しおりを挟むその後僕は突然尿意を催したので、風花さんには先に教室に行って貰う。
……いやだってさ、風花さんみたいな陽キャ美少女と一緒に教室に入ったら『なに調子こいてんだおめぇぶっ殺すぞ?』っていう視線が僕にグサグサ刺さるに決まってるじゃないか。
だから一旦時間を置いてから教室に向かうという時間差作戦なのだよ……! ヘタレ? メンタル豆腐? ふっ、何とでも言うがいい。そうしないと本当に調子に乗ってる奴として審判にかけられちゃうぜ。
「よし、そろそろいいかな……」
便座に座って五分経過。そう呟いた僕は立ち上がり教室へと歩き出す。そして教室の扉を開けると―――、
「あぁ来人くんっ、さっき別れてから随分遅かっ」
「おはようっ、風花さんっ!」
この無自覚天使めッッッ!!!
……ごほん。若干食い気味に僕はあたかも今日初めて会ったかのように振る舞う。少しだけ大きな声を出して一部のクラスメートの視線を集めてしまったけど、挨拶の範囲なら怪しまれることはない筈。
いつもひっそりと過ごしている僕が慣れない大声を出すという犠牲を払うことで、今日会ったばかりと印象付けられたかな……?
僕は全身が発熱するかのような熱を感じる。額に汗を浮かばせながら急いで下を向いて歩いて一番後ろの窓側の席に着席する。僕は視線を感じちらりと横を見る。
……いや不思議そうな表情で僕を見ないで風花さん。自分じゃ自覚していないんでしょうが、キミが学園中の生徒から噂されてるってことは影響力半端ないんだからねっ!
椅子に座った瞬間に、おっとりとした口調で僕に声を掛けてくる風花さん。うっ、そんな純粋なつぶらな瞳で僕を見ないでっ、罪悪感が……っ!
「さっき会ったばかりじゃぁん?」
「いやごめん風花さん、でも大勢の人がいる上にあんな距離が離れた所から返事するコミュ力、今の僕にはないよ」
「なるほどぉ……ヘタレだねぇ?」
「僕はただのラノベ好きな陰キャですから」
「あははぁ、なにそれぇ」
あまり周囲に目立たない様に小声で話す。
隣に座る風花さんは僕を見て微笑みながら僅かに口角を上げるが、本当に僕はあまり目立ちたくないのだ。
大勢の視線に晒されると僕ビクビクしちゃう……ッ!
すると、風花さんは机の上に置いていた僕があげたペットボトルの麦茶を手に取り、色付きの良い小さな口に含んで美味しそうに飲む。
その後、彼女はこれから行う予定のシミュレーションのテーマを口にした。
「それじゃぁ来人くん。授業中の『メモ交換シミュレーション』、宜しくねぇ」
◇
(えへへぇ、来人くんから貰った麦茶は美味しいねぇ)
口の中に残った麦茶の味を舌で転がしながら、私は来人くんにシミュレーションのテーマを伝える。その内容はある程度自販機へと向かう際に会話したのでだいじょうぶ。
席替えで来人くんの隣になった私は顔を正面に向いたままちらりと視線だけ横へと向ける。
ふふふっ、私は朝から機嫌が良い。夜遅くまでウェブ小説をスマホで検索していたせいで少しだけ登校時間が遅くなってしまったけど、丁度昇降口で来人くんを発見。そしたらなんと"綺麗"って言われちゃった。やったぁ! すっごく嬉しいぃ!………こほん。
自動販売機で来人くんが当てた(ここ大事ぃ!)アタリで麦茶も貰っちゃったし、しばらく良い夢が見れそうだよ。
(安心してよぉ、来人くん。もし私と一緒に行動したりお話ししててもぉ、絶対に他の人達には邪魔させないからぁ)
来人くんが俯きながら席に向かっている時に、私がクラス中を見渡しておいたから。うん、だいじょうぶだいじょうぶ。
私が『天使』って言われている事はさすがに知ってるんだよぉ? 確かにこんな見た目でこんな話し方だけど……でもさぁ、中身までがそうだとは限らないよねぇー?
あははっ。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
兄貴がイケメンすぎる件
みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。
しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。
しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。
「僕と付き合って!」
そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。
「俺とアイツ、どっちが好きなの?」
兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。
それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。
世奈が恋人として選ぶのは……どっち?
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。
−−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!!
イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
白い初夜
NIWA
恋愛
ある日、子爵令嬢のアリシアは婚約者であるファレン・セレ・キルシュタイン伯爵令息から『白い結婚』を告げられてしまう。
しかし話を聞いてみればどうやら話が込み入っているようで──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる