2 / 98
第一幕 隣の天使が話しかけてきた
第2話 天使からの提案
しおりを挟むどうも高校一年生阿久津来人です。入学から約三か月目、ラノベを読んでぼっちライフを謳歌していたら現在何故かお昼休憩中に『天使』と呼ばれているゆるふわ系美少女なクラスメートに話しかけられています。
でもどうやら彼女は、実は天使の皮を被ったただの毒舌美少女だったようです。……僕の主観だけどさ。
「そのお話を聞いた限り、なんでただぼーっと生きてるだけの主人公が綺麗な女の子ばっかりにモテるのかなぁ? ルックスとかぁ、学力とかぁ、運動神経が良いとか個性があれば別なんだろうけどぉ、ただ幼馴染に介護されてた人間が何思い上がっちゃってるのかなぁってぇ」
「あー、いわゆる主人公補正ってヤツだね……」
「あとその主人公のウザい構ってちゃんアピールにぃ、無駄に責任感の高い女子……ヒロイン? がほいほい引っかかっちゃったのも傑作だよねぇ? あははっ、華の女子高生はそんな単細胞じゃないのにおかしな話ぃ」
「あ、あはは……そうだねー………」
ゆったりとした口調プラス笑みを絶やさない彼女の口撃力は思ったよりも僕の心にチクチク刺さる。そういったテンプレがありふれたラノベが好物な僕には特に。
まぁ最近は食傷気味だったから今回気まぐれでタイトルで選んだら見事爆死したんだけどね。
……あとほいほいとか言うとバ○サン思い出すから止めよう?
「でもそっかぁ、来人くん……あ、来人くんって呼んでも良いぃ?」
「え……あぁ、うん」
「えへへ、じゃあ来人くん。これが面白いんだよねぇ?」
「そ……うだね、正直、主人公の思考には同調出来なかったけど、それを除けばこういう作品は好きだよ」
「そっかそっかぁ」
しまった。彼女の謎の威圧に負けてしまって設定・ストーリーが全部面白いで通そうと思っていたのに肝心の主人公を否定しちゃったよ。
ま、まぁ彼女の様子を見た限り何も気にしてないみたいだから良いかな……? あとさすが陽キャな美少女、こんなぼっちの下の名前まで覚えているなんて凄いや。
僕は笑みを浮かべながら何故かうんうんと頷いている彼女を訝しむような表情で見つめる。うん、絵になるね。
彼女の一つ一つの仕草をまっさらな心のキャンバスに刻んでいると、彼女は僕の顔を見つめながら呟いた。
「―――なんか、興味が湧いてきちゃったなぁ」
「え!?」
「そのラノベ、とかウェブ小説ぅ? 話で聞いただけだけど、色々ツッコみ所があって面白そうだねぇ」
「あ、あぁ……そっちね………。あと楽しみ方……」
ちがう、そうじゃない。確かにラノベやネット小説の楽しみ方は人それぞれ、そこに貴賤はないけど、荒探しを楽しむ娯楽小説では決してないよ!
あと一瞬だけ彼女の言葉に勘違いしそうになったが、僕は生憎鈍感系キャラではない。すぐに僕の事では無くラノベの事だと勘付いていた。……いや本当だから。
そして彼女は僕に衝撃的なことを言い放つ。
「だからさぁ、来人くんが良ければぁ、私にラノベやウェブ小説のことぉ、もっと教えてぇ?」
「ぼ、僕が……? なんで……?」
「うーん、クラスの中で一番の読書家だしぃ、たくさん娯楽小説の詳しいこと知ってそうだから、かなぁ……それに」
彼女は口角を緩めてにへらっと笑う。それがどこか力無くに見えたのは僕の気のせいか。
……あれ、僕彼女にラノベやウェブ小説が娯楽小説だってこと言ったっけ? まぁいっか、多分読んでたラノベの説明をしてる時にぽろっと言ったんだろうな。
「私ぃ、ヒロインの気持ちってよく理解できないんだよねぇ。女子の中で恋バナしてるとぉ、異性を好きになる気持ち、感情は凄く共感できるんだけどさぁ……。イケメンだったりぃ、勉強・スポーツが出来るぅ、会話が上手イコール"恋"っていうワケじゃないんだぁ。だからここだけの話ぃ、お話をしてても異性のどの部分にキュンキュンするのかさっぱり読めないんだよねぇ」
「そ、そっか……で、でも折角聞いてくれたところ申し訳ないんだけど、僕は沢山ラノベやウェブ小説を読み漁ったくらいで―――」
「あ、じゃあさぁ! ―――私と一緒にぃ、シュミレーション、してみるぅ?」
求めるアドバイスが出来る訳じゃない、と続けようとした僕だが、彼女は言葉を被せながら提案する。そしてじっと僕の瞳を射抜くようにして見つめた。
うん、いきなり何を言ってるのかなこの娘?
「シュ、シュミレーション?」
「うん、そのラノベとウェブ小説に出てくる主人公やヒロインとのイベント展開を、私と来人くんとで実際に模倣してみるのぉ。そうすれば、私も好きな人に恋する気持ちを実感できるかなぁって思ってさぁ」
「そ、それって僕である必要ってあるのかなぁ? ほ、ほら、三上さんなら―――」
「風花でいいよぉ、来人くん」
「じ、じゃあ……風花、さん。その、風花さんほど美少女だったら、他の男子に頼んでも引く手数多だと思うんだけ、ど………」
「ダメ、かなぁ……?」
「ダメじゃないです」
しまった即答してしまった。
いやだってさ考えてみてよ。隣に座っているゆるふわ系美少女なクラスメートからそんなうるうるした瞳で見つめられたら、僕みたいな読書家陰キャはどんな鋼の意志を持ってたとしてもすぐにとろけるプリン化しちゃうって。
でも……そっか、要は彼女はライトノベルやウェブ小説内の様々な物語を知りたいのではなくて、劇中に登場する主要人物との絡み、つまり主人公とヒロインの会話や行動を模倣する事で恋心を抱くきっかけを知りたいのだ。
確かにラノベやウェブ小説は王道テンプレから読者が若干引くような奇抜さまで取り揃えてあるシナリオの宝庫だ。僕みたいなモテない若者の為の聖書と言っても過言ではない。
そこに目を付けるなんて、この娘……ッ、ただモノじゃないわッ(ガ○スの○面風)!!
僕の返事を聞いた風花さんは分かりやすくぱぁっと満面の笑みを浮かべて口角を緩める。なんでそんなに嬉しそうにしているのかは分からないけど、言ってしまった以上後には引けない。
うん、陰キャだとしても島国に産まれた日本男児。男に二言はないよ(漂う適当感)! な、流されたとか決してそんなことないんだからねっ!
機嫌良さそうに風花さんはバッグからいそいそとスマホを取り出すと、
「えへへ……やったやったぁ♪ じゃあさぁ、いつでも相談できるように連絡先交換しよぉ?」
「え、あ、うん」
「はーいじゃあ授業始めるぞー」
僕は若干戸惑うも、SNSのアプリを起動して風花さん主導で手際よく交換。そこで丁度良くチャイムが鳴り、教室に先生が入ってきて授業が始まった。
(……なんだか、凄く怒涛の勢いだったな。お昼休憩だったのに、少し疲れたかも)
授業が始まったばかりだが、今まで関わりの無かったクラス内の美少女、風花さんと会話したからかどっと疲労感が押し寄せてきた。
隣に座る彼女をちらりと盗み見ると、柔らかい笑みを浮かべながらリズムよく指を机にトントンしている。
気付かれないよう視線を前に戻した僕は、軽く溜息を吐きながらこれからの高校生活に思いを馳せた。
……あと風花さん、細かいようだけどシュミレーションじゃなくて『シミュレーション』だからね!
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

彼女がいなくなった6年後の話
こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。
彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。
彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。
「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」
何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。
「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」
突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。
※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です!
※なろう様にも掲載
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる