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第一幕 隣の天使が話しかけてきた
第2話 天使からの提案
しおりを挟むどうも高校一年生阿久津来人です。入学から約三か月目、ラノベを読んでぼっちライフを謳歌していたら現在何故かお昼休憩中に『天使』と呼ばれているゆるふわ系美少女なクラスメートに話しかけられています。
でもどうやら彼女は、実は天使の皮を被ったただの毒舌美少女だったようです。……僕の主観だけどさ。
「そのお話を聞いた限り、なんでただぼーっと生きてるだけの主人公が綺麗な女の子ばっかりにモテるのかなぁ? ルックスとかぁ、学力とかぁ、運動神経が良いとか個性があれば別なんだろうけどぉ、ただ幼馴染に介護されてた人間が何思い上がっちゃってるのかなぁってぇ」
「あー、いわゆる主人公補正ってヤツだね……」
「あとその主人公のウザい構ってちゃんアピールにぃ、無駄に責任感の高い女子……ヒロイン? がほいほい引っかかっちゃったのも傑作だよねぇ? あははっ、華の女子高生はそんな単細胞じゃないのにおかしな話ぃ」
「あ、あはは……そうだねー………」
ゆったりとした口調プラス笑みを絶やさない彼女の口撃力は思ったよりも僕の心にチクチク刺さる。そういったテンプレがありふれたラノベが好物な僕には特に。
まぁ最近は食傷気味だったから今回気まぐれでタイトルで選んだら見事爆死したんだけどね。
……あとほいほいとか言うとバ○サン思い出すから止めよう?
「でもそっかぁ、来人くん……あ、来人くんって呼んでも良いぃ?」
「え……あぁ、うん」
「えへへ、じゃあ来人くん。これが面白いんだよねぇ?」
「そ……うだね、正直、主人公の思考には同調出来なかったけど、それを除けばこういう作品は好きだよ」
「そっかそっかぁ」
しまった。彼女の謎の威圧に負けてしまって設定・ストーリーが全部面白いで通そうと思っていたのに肝心の主人公を否定しちゃったよ。
ま、まぁ彼女の様子を見た限り何も気にしてないみたいだから良いかな……? あとさすが陽キャな美少女、こんなぼっちの下の名前まで覚えているなんて凄いや。
僕は笑みを浮かべながら何故かうんうんと頷いている彼女を訝しむような表情で見つめる。うん、絵になるね。
彼女の一つ一つの仕草をまっさらな心のキャンバスに刻んでいると、彼女は僕の顔を見つめながら呟いた。
「―――なんか、興味が湧いてきちゃったなぁ」
「え!?」
「そのラノベ、とかウェブ小説ぅ? 話で聞いただけだけど、色々ツッコみ所があって面白そうだねぇ」
「あ、あぁ……そっちね………。あと楽しみ方……」
ちがう、そうじゃない。確かにラノベやネット小説の楽しみ方は人それぞれ、そこに貴賤はないけど、荒探しを楽しむ娯楽小説では決してないよ!
あと一瞬だけ彼女の言葉に勘違いしそうになったが、僕は生憎鈍感系キャラではない。すぐに僕の事では無くラノベの事だと勘付いていた。……いや本当だから。
そして彼女は僕に衝撃的なことを言い放つ。
「だからさぁ、来人くんが良ければぁ、私にラノベやウェブ小説のことぉ、もっと教えてぇ?」
「ぼ、僕が……? なんで……?」
「うーん、クラスの中で一番の読書家だしぃ、たくさん娯楽小説の詳しいこと知ってそうだから、かなぁ……それに」
彼女は口角を緩めてにへらっと笑う。それがどこか力無くに見えたのは僕の気のせいか。
……あれ、僕彼女にラノベやウェブ小説が娯楽小説だってこと言ったっけ? まぁいっか、多分読んでたラノベの説明をしてる時にぽろっと言ったんだろうな。
「私ぃ、ヒロインの気持ちってよく理解できないんだよねぇ。女子の中で恋バナしてるとぉ、異性を好きになる気持ち、感情は凄く共感できるんだけどさぁ……。イケメンだったりぃ、勉強・スポーツが出来るぅ、会話が上手イコール"恋"っていうワケじゃないんだぁ。だからここだけの話ぃ、お話をしてても異性のどの部分にキュンキュンするのかさっぱり読めないんだよねぇ」
「そ、そっか……で、でも折角聞いてくれたところ申し訳ないんだけど、僕は沢山ラノベやウェブ小説を読み漁ったくらいで―――」
「あ、じゃあさぁ! ―――私と一緒にぃ、シュミレーション、してみるぅ?」
求めるアドバイスが出来る訳じゃない、と続けようとした僕だが、彼女は言葉を被せながら提案する。そしてじっと僕の瞳を射抜くようにして見つめた。
うん、いきなり何を言ってるのかなこの娘?
「シュ、シュミレーション?」
「うん、そのラノベとウェブ小説に出てくる主人公やヒロインとのイベント展開を、私と来人くんとで実際に模倣してみるのぉ。そうすれば、私も好きな人に恋する気持ちを実感できるかなぁって思ってさぁ」
「そ、それって僕である必要ってあるのかなぁ? ほ、ほら、三上さんなら―――」
「風花でいいよぉ、来人くん」
「じ、じゃあ……風花、さん。その、風花さんほど美少女だったら、他の男子に頼んでも引く手数多だと思うんだけ、ど………」
「ダメ、かなぁ……?」
「ダメじゃないです」
しまった即答してしまった。
いやだってさ考えてみてよ。隣に座っているゆるふわ系美少女なクラスメートからそんなうるうるした瞳で見つめられたら、僕みたいな読書家陰キャはどんな鋼の意志を持ってたとしてもすぐにとろけるプリン化しちゃうって。
でも……そっか、要は彼女はライトノベルやウェブ小説内の様々な物語を知りたいのではなくて、劇中に登場する主要人物との絡み、つまり主人公とヒロインの会話や行動を模倣する事で恋心を抱くきっかけを知りたいのだ。
確かにラノベやウェブ小説は王道テンプレから読者が若干引くような奇抜さまで取り揃えてあるシナリオの宝庫だ。僕みたいなモテない若者の為の聖書と言っても過言ではない。
そこに目を付けるなんて、この娘……ッ、ただモノじゃないわッ(ガ○スの○面風)!!
僕の返事を聞いた風花さんは分かりやすくぱぁっと満面の笑みを浮かべて口角を緩める。なんでそんなに嬉しそうにしているのかは分からないけど、言ってしまった以上後には引けない。
うん、陰キャだとしても島国に産まれた日本男児。男に二言はないよ(漂う適当感)! な、流されたとか決してそんなことないんだからねっ!
機嫌良さそうに風花さんはバッグからいそいそとスマホを取り出すと、
「えへへ……やったやったぁ♪ じゃあさぁ、いつでも相談できるように連絡先交換しよぉ?」
「え、あ、うん」
「はーいじゃあ授業始めるぞー」
僕は若干戸惑うも、SNSのアプリを起動して風花さん主導で手際よく交換。そこで丁度良くチャイムが鳴り、教室に先生が入ってきて授業が始まった。
(……なんだか、凄く怒涛の勢いだったな。お昼休憩だったのに、少し疲れたかも)
授業が始まったばかりだが、今まで関わりの無かったクラス内の美少女、風花さんと会話したからかどっと疲労感が押し寄せてきた。
隣に座る彼女をちらりと盗み見ると、柔らかい笑みを浮かべながらリズムよく指を机にトントンしている。
気付かれないよう視線を前に戻した僕は、軽く溜息を吐きながらこれからの高校生活に思いを馳せた。
……あと風花さん、細かいようだけどシュミレーションじゃなくて『シミュレーション』だからね!
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