クラスで人気の完璧美少女が殺意増し増しで怖い件。そしていつしかデレデレになる

ぽてさら

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ジャンケン④ せーちゃん、アウトー。です

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◇◆◇


 しばらく暮人が天照ちゃんとお話をしていると他の神様から連絡があったようだった。

 この不思議空間では暑さは感じないようで、縛られながらも快適(?)に過ごしていると、背後から聞き慣れた呼びかけが聞こえた。


「く、暮人………? うわぁ、本当に縛られてる。痛くない? 大丈夫?」
「美雪か………? よ、良かった。無事だったんだね」
「こっちのセリフだよぉ………はぁ、本当に良かった。もし暮人に何かあったら私………」
「え………?」
「あ! えっといやそのー………そ、そう! 『幼馴染』として、誰よりも一番のりじゃないといけないなーって。あははー」


 なんだか幼馴染という言葉が協調されていた気がするけど深くは気にしないことにした。

 ふと視線を横に向けてみると、なんだか可愛らしいクマの肉球のようなパーの形をした手がふわふわと浮いている。そして薬指には何故か銀色の指輪をしていた。


「もしかしなくてもそれが美雪の『従属手サーヴァント』?」
「う、うん………なんか強そうな感じの手を想像したらこんなのが出て来たんだ。毛は少しごわごわしてるけど、触ってると気持ちいいよ!」
「お、おう………頬に肉球当ててるけど確かに不思議な感覚だね」


 頬にぷにぷにとした感触がある。おそらく美雪の意志でこの『従属手サーヴァント』を操ることが出来るのだろう。しばらくこの感触を味わう。
 すると、


「え、えいっ」
「ちょっ、美雪さん!?」
「だって身体的接触がルールなんでしょ………? お、お願いだから何も訊かないでね! これ結構恥ずかしいんだからさ!!」
「え、え~………」


 突然美雪が背後から抱きしめてきた。急なことに思わず変な声を上げてしまうが、美雪のお願いとあっては無下には出来ない。
 俺の脇腹と美雪のひたいがくっついている感触がとても良く分かる。彼女の熱が、伝わる。

 くぐもった声が聞こえた。


「あ、のさ暮人。私さ、暮人の事が嫌いだから今まで顔を見て話しづらかったっていうわけじゃないよ。むしろ―――」
「あ、あぁ………」
「―――逆、だよ」
「それって………え?」


 美雪が耳元で囁きかけるように呟く。その言葉に込められた真意を聞こうと美雪に声を掛けようとするが、ドオゴォォォンッッ!! と突如爆音が響き渡る。

 その音源を確かめようと顔を正面に向けると、砂埃が舞っていた。良く見るとグラウンドの地面が大きく窪むようにしてへこんでいる。
 その中心にいたのは―――、


「そこまでです瀧水さん! それ以上如月さんの身体には指一本触れさせませんよっ!!」
「くっ、氷石、さん………!」


 落ち着く温かい感覚がなくなった事で気が付いた。後ろにまで視線を向けることが出来ないが、どうやら聖梨華が着地した衝撃で美雪が吹き飛ばされたようだった。

 身動きの取れない俺の顔にもぺチぺチと砂や小石が当たっており恨みがましい視線をどや顔の彼女へと向けるが、こちらには注視していない様子。


「えっへっへ、私が勝ってお願い事を聞いて貰うんですよぅ! 『一緒にお料理して下さい』って! 私にとってどう転んでもお得ですからねぇ、あわよくば事故に見せかけて転生させることも出来ますから!!」
「なにそれズルい! 暮人お料理上手だから私だってあんまりそんな機会ないのに!!」


 空中では美雪の『従属手サーヴァント』であるクマの手と、聖梨華が操っているであろうなんだか禍々しい悪魔のような手がグーの形を作りながら攻防を繰り広げていた。
 同時に、グラウンドでは煙をたてながらポカポカと美雪と聖梨華がキャットファイトをしている。

 二人の取っ組み合いを見ていたが、互いの『従属手サーヴァント』同士の衝突でよく二人の会話が聞こえない。ゲームということもあり、戦いを繰り広げていたとしても安心だろうと達観するようにぼうっと空を眺める。

 それでも、頭の中では先程の美雪の言葉が反芻していた。


「逆、ってつまり、え、そういうこと………?」


 "嫌い"の反対は"好き"な訳で。彼女の今までの行動は俺のことが好きだからあんな初々しい感じになったということなのだろうかと考える。

 ………………………、


「いやいやいや、俺もそこまで己惚れてないぞ。『幼馴染』として好きっていうことだよな。うん、わかるわかる」


 ときめきかけていた胸の高鳴りを無理矢理抑え込みながら静かに首を横に振る。用具室の一件で彼女への罪悪感もある手前、そう素直に受け取るのは若干無理があった。

(冷静になれ俺。距離が近いからといってすぐに恋愛に結び付けるな)

 そう思うと幾分か肩の力が抜けた。改めて視線を彼女らに向けると、肩で大きく息を吐きながらぜーはーと呼吸していた。
 

「はぁはぁはぁ、正直埒が明かないですね! ………まったく、こっちはこっそり強化してるのに如月さんへの想いどれだけ大きいんですか(ボソッ)」
「はぁはぁ………え、最後良く聞こえなかったんだけど!」
「これで決めるって言ったんですよー!!」


 聖梨華が片手をバッと天へ向けると頭上の空間がブラックホールのように黒くうねる。すると、今までぶつかり合っていた聖梨華と美雪の『従属手サーヴァント』が吸い込まれた。

 その空間が光り輝いた次の瞬間、その空間から現れたのは大きな形をした拳銃だった。


「な、なにそれ………そんなの、こっちに勝ち目ないよ」
「あっはっはー! 私の力で具現化したジャンケン、女神たる私が準備したのですから操る事は造作も無い事です!」
「ズルじゃん!!」


 聖梨華の行動に思わず突っ込んでしまった暮人。当の本人である聖梨華はなんとも無いようにあくどい笑みを浮かべると、


「でも『従属手サーヴァント』に干渉しちゃいけないなんてルール言ってないですよね?」
「ぐっ、確かに………!」
「グーチョキパーの三手を融合した究極の『従属手サーヴァント』、『無限手インフィニティ・サイン』。二十六年式拳銃の姿となりて顕現です!」
「何故そのチョイス!?」
「その黒光りしたフォルム、カッコいいからですよ!!」


 ジャンケンをしたものならば誰もが経験するグーチョキパーの三点の意味合いが含まれる手『無限チョキ』を繰り出してきた。恐らくその形状から拳銃を連想したのだろう。実にむちゃくちゃだ。

 美雪の様子を見てみると、ぺたんと地面に女の子座りをしながら俯いていた。こちらに表情を向けると、弱弱しく笑みを浮かべる。


「あはは………ダメだったなー。ねぇ暮人」
「美雪………?」
「私、これからも頑張るからさ。暮人もいつも通り接してね」
「………あぁ、わかった」


 その言葉の後の美雪の笑顔が忘れられない。まるで何か吹っ切れたような表情。

 ―――最高に、ドキッとした。

 しばらく見つめ合うが、その空間に入り込む者がいた。聖梨華である。


「むむ、………ふっ、別れ話は済みましたかー? これで終わり―――!」
『―――ででーん。せーちゃん、アウトー。です』
「………うぇっ、天照ちゃん!? なんで!?」


 突如、ここに来たばかりのときに会話した懐かしい声が聞こえた。聖梨華が空を見上げながらおろおろしているのが面白い。

 天照ちゃんがしっかり審判しているのは話していたので知っていたが、まさか自分以外にも話しかけてくるとは思わなかった。美雪はパチパチとまばたきを繰り返してる。


『せーちゃん、貴方が作ったルールと空間とはいえその手は流石にないです。汚いです。それに審判の役割がある以上、せーちゃんの行為を許容するわけにはいきません』
「そんなぁーー!!」
『それにそんな方法で勝ったとしても、くーさんは心から貴方の願いを叶えようとはしませんよ』
「くーさん!? それって如月さんのことですよね!? いつの間にそこまで仲良くなったんですか!?」
『せーちゃんたちが来る前です。ともかく、くーちゃんは反則負け。勝者は瀧水美雪さんです』
「え、私………? でも暮人に一分間触って無かったし………」
『私が審判です。つまり、私がルールなので大丈夫ですよ』


 天照ちゃんの柔らかい声が美雪に降りかかる。全てを包み込むような誠実さと威厳に満ちたその声音はじんわりと暮人と美雪の心に沁み込んだ。


「どーしてこうなるんですかぁ~~!!」


 聖梨華の泣き叫んだ言葉を最後に、このゲームは幕を閉じた。

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