29 / 35
ジャンケン③ 天照ちゃんの天の声
しおりを挟む「うわ………っと、あー、やっぱり身動き取れないや」
視界が切り替わるとグラウンドの真ん中にロープで縛られていた。力を入れても全く解ける気配がない事から聖梨華の女神の力であることが自然と分かる。
そして、自分が持つ『回避』の特性を持っていたとしても自分の力では抜け出せない事も。
「多分、この特性は自分の意志が重要なんだよね。『回避』しないでこの現状を受け入れたからこそ、もう身動きは取れない」
『その通りです。流石は『回避』の勇者、理解力が優れていますね』
自分の『回避』の特性についてまた新たな発見をした瞬間であった。これは案外自分の命を狙う聖梨華にもチャンスがあるのかもしれない。なにせ『回避』するという意思を消失させることで自分を殺すことが出来るのだから。
まぁ小梅や美雪が生きている限り死ぬつもりは毛頭ないけれど―――、
「………………………」
『………………………』
「………あのぅ、どちら様でしょうか?」
『はい、こうして話すのはこれが初めてですね。『回避』の勇者、如月暮人。今回審判役をせーちゃんから頼まれました、この日本を管理する女神、天照です。『天照ちゃん』と気軽に呼んで下さいね。どうぞよろしくお願い致します』
「あ、ど、どうも。よろしくお願いします。って、せーちゃん?」
清涼さを含んだ凛とした声が辺りに響き渡る。きょろきょろと視線を彷徨わせるも姿は見えない。自らを『天照』と言っていたことから本当に聖梨華の言う通り審判役をしているのだろうが、まさか話しかけられるとは思っていなかった暮人。
気になる言葉も聞こえた。………せーちゃん?
『あの娘のことです。セリカだからせーちゃん』
「あぁ聖梨華さんの事ですか。でも天照さ………天照ちゃん。彼女から聞いていた印象とはずいぶん違いますね。雰囲気が結構フレンドリー」
『はい。こういう話し方ですが、せーちゃんとも付き合いが長いですから』
さん付けしようとしたらなんかとてつもない圧を感じた。
天照ちゃんのことを神友と呼んでおり神女子会にも参加する仲。交わした言葉は少ないが、彼女の言葉の端々からも聖梨華のことを案ずる想いが伝わる。
『如月暮人。こう言ってはあまりにも身勝手である事を自覚していますが、せーちゃんを悪く思わないで下さい』
「え………?」
『あの娘は本来殺生を好む性格ではありません。天界でせーちゃんを小さい頃から見守ってきた私だから言えますが、やりたくないことでも使命だからと割り切る部分があります。………それこそ非情に、です。せーちゃんも天界で色々ありましたから』
天照ちゃんは本当に聖梨華の事を大切に思っているのだろう。暮人自身彼女に幼い時期があったなんて知らなかったが、天照ちゃんの言葉に思わず力が抜けた。
『しかし―――』
「わかってます」
『え………………?』
「昔の聖梨華さんのことは良く知りません。でも、他人を思いやれる優しい女の子だって事はこれまでの生活の中で良く理解してますから」
例え異世界に転生させる為に命を狙っているとしても、ね。
「でも、命が狙われそうになったらこれからも『回避』し続けますよ? なんといっても勇者、ですからね」
『………うふふっ、はい。これからもせーちゃんとのハラハラドキドキ生活を楽しんで下さい』
一拍間を空けると、
『………聞かせて貰えませんか? これまでのせーちゃんのこと。普段の、高校生活のこと』
「はい、わかりました」
そうして、俺は聖梨華と出会った頃から話し始めた。
◇◆◇
二人の出会いは突然だった。
「あ、小梅ちゃんみーっけ、です!」
「むっ、無駄乳おっぱい魔人」
「なんか単語が増えてる!? ま、まぁ? 私ぐらいのナイスバディだと嫉妬しちゃってもおかしくありませんが………」
「下垂れ、型崩れ、干しぶどう」
「あっこれ純粋な悪口だった!? ふ、ふふっ………どうやら女神としての尊厳を見せ付けないといけない時が来たようですねぇ………!」
「くっ、なに………このオーラは………!」
住宅街のど真ん中でばったり出会った二人。不敵な笑みを浮かべながら妙な威圧を出す聖梨華に小梅は思わずたじろぐが、それに構わず聖梨華が言葉を発した。
「―――取引、しませんか?」
それは、兄と結婚したいほど大好きなブラコンである小梅にとって悪魔のささやきに等しかった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
僕(じゃない人)が幸せにします。
暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】
・第1章
彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。
そんな彼を想う二人。
席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。
所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。
そして彼は幸せにする方法を考えつく――――
「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」
本当にそんなこと上手くいくのか!?
それで本当に幸せなのか!?
そもそも幸せにするってなんだ!?
・第2章
草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。
その目的は――――
「付き合ってほしいの!!」
「付き合ってほしいんです!!」
なぜこうなったのか!?
二人の本当の想いは!?
それを叶えるにはどうすれば良いのか!?
・第3章
文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。
君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……
深町と付き合おうとする別府!
ぼーっとする深町冴羅!
心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!?
・第4章
二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。
期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する――
「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」
二人は何を思い何をするのか!?
修学旅行がそこにもたらすものとは!?
彼ら彼女らの行く先は!?
・第5章
冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。
そんな中、深町凛紗が行動を起こす――
君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!
映像部への入部!
全ては幸せのために!
――これは誰かが誰かを幸せにする物語。
ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。
作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたので、欲望に身を任せてみることにした
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。彼女を女として見た時、俺は欲望を抑えることなんかできなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる