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日常②・裏 もう使いこなせてる!?
しおりを挟む「ねぇ聖梨華さん。一つ聞きたいんだけどさ、前に拳銃で撃たれたときに回避したんだけど、撃つ前に頭の中がキーンって響いたんだ。それってどういう現象?」
ゴミ置き場へ歩いている最中、さり気なく彼が言った言葉に一瞬反応出来なかった。そう、しかしそれは一瞬だけなのだ。女神である自分の頭の中には既にその質問の解答は出ているのだが、その事実を彼に説明しても良いのか思案する。
確かに暮人は『回避』の特性を持っている勇者であるが向こうの、私が管理する異世界の住人ではない。しかし、向こうの住人は普通に保持しているある"モノ"が彼にも宿っているのだとしたら―――、
(えっ、正直私にも理解出来ていないですが………)
念のためにもう一度聞く事にしたが、彼からの返答は肯定。思わず私は心の中で頭を抱えるも、このままではうまく説明できないと思い、彼の手を引いて一旦二階に上がる階段の裏側の奥に移動する。
咄嗟に掴んでしまった彼の手に少しだけドキドキした。
これから暮人に話すのはもう既に決まっているのだが、彼に受け入れて貰えるのだろうか。私が初めて会った時は中々自分が女神だと信じてはもらえなかったが………まぁこの世界ではありえない現象を様々見せているので今更だろうと考える。
しかし、改めて何故それを彼が獲得してしまったのかという疑問がずっと胸の中に燻ぶる。そう考えるとサァーッと血が引き、途端に冷や汗がでた。
本当に仕方ないが、言わなければいけないだろう。
「それって、もしかして『スキル』が発現したんじゃないですか………!?」
「………? なにそれ?」
案の定、彼はきょとんと首を傾げた。そんな子犬のようなつぶらな瞳で見つめられても困るのだが、それ以上に困っているのは自分。なにせ地球上の人間が獲得出来得る筈がないモノを手に入れている訳なのだから。
「まぁいいや、ひとまずこのゴミを出してからでもいいかな?」
「ここはもっと『なるほど、っそれで俺の身体に異変が………っ!』とか深刻に食いつく場面なんじゃないですかね! まぁいいですけど!!」
彼はもう少し自分の事に関心を持つべきだと考える。入学当初から彼を観察して思ったが、どうも彼は周りに気を使ってばっかりで自分の事はおざなりになる傾向がある。
二人で再びゴミ置き場へと歩き出した。そして心の中で呟く。
(そのぶん妹である小梅ちゃんや幼馴染の瀧水さんがさり気なく如月さんをサポートしているんでしょうけどねー)
多分、先程の自分の事云々を伝えると彼本人は否定するだろう。
しかし、幼い時に両親が亡くなり、甘え盛りにも拘らず自分がしっかりしないとという責任感が芽生えた。そして、その身に秘めた『回避』の特性もあって様々な困難を避けてこれた。
周りを助けて、助けられ。
だからこそ、彼は周囲に手を差し伸べることの出来る心優しい少年へと成長したのだろう。その分、自分を労わる事を覚えて欲しいのだが、彼の命を狙って転生させようとしている自分が言ったとしても筋違いだと考えて思わず溜息を吐いた。
裏の入り口から外に出ると、小さな屋根の付いたゴミ置き場にゴミ袋を置く。そうして、裏庭のベンチまで移動すると、そこでスキルの説明を行なうことにした。
「良いですか、まず『スキル』というのはそのままの意味で能力・技能、資格のことを言います。簡単に言えばゲームなどでいう各キャラクターの使える技と考えて貰っても構いません」
「それは、俺が勇者である事と何か関係があるの?」
「大アリですー! だって―――『回避』の特性を持っている勇者といえど、地球で生まれた人間である如月さんが異世界の人間が有しているスキルを獲得できる筈がないのですからっ!!」
私の管理する世界にはスキルを持っている人間が大多数だ。全員、と断言できないのは、いくら女神といえども何億人と住む世界の住人を一人ひとり把握している訳ではないから。
というかだ、最近アニメやラノベで見たが、決して好々爺のような神がたかが不幸で死んだ一人の人間如きにスキルを気軽に与えて異世界に転生させるなんて実際にするわけがない。輪廻転生やスキル選定など所詮ランダムで行われることだし、ましてや不幸に死んでしまった人間が神の不手際として次の転生先など高次元的存在である神にリクエストする事すら烏滸がましい。
と、愚痴になってしまったが、随分この世界の人間にとって神は都合の良い存在として描かれているのかよく分かった瞬間である。
(………そのことを天照ちゃんに伝えたら呆れてましたもんねぇ)
あくまで神は世界を管理する存在。神がヨイショした人間など転生した世界にとって爆弾を抱えた生物兵器で、世界の均衡を崩しかねない行為など他の神にとってはブチギレ案件だ。おそらくそれは自分以外の神も同じだと思う。
なので天界にいる神はたまに世界を覗いたり自分の管理する世界に赴いたりすることはあっても基本的には人間に干渉しないのが基本スタイルだ。
まぁその世界とは異なる世界から何か移動したりすると対処するが。この前の異世界召喚しようとしたら鉄のナイフが手元にあったのが良い例。天照ちゃんは生真面目。
話を戻すと、地球上の人間は科学技術が発展している代わりに『スキル』という概念が無い。たくさんの人間が積み重ねて来た歴史が科学という文明を築き上げているので、天照ちゃんもニッコリだ。その分、先程話したような図々しい人間が出てくることがあるらしいが。
目の前で話を聞いている彼は、こんな言い方はしたくはないがイレギュラー中のイレギュラー。本来自分の管理する世界にいるべき勇者の枠に当てはまる人間なのだが、何故かこの世界にいた。なので転生させる為に必死に自分が殺しに掛かっている訳なのだが。
そして、彼は『回避』の特性を持っているだけじゃなく、スキルまでもを獲得してしまった。
これは深刻な問題だということを彼に伝えるが、
「へーそうなんだ。確かに今日登校していたら頭にキーンって響いて立ち止まったら目の前にカラスのフンが落ちて来たからなぁ」
「もう使いこなせてる!? 結構これ世界のルールの境目が曖昧になるケースの一つなんですけどね!」
自分の事に無頓着なのか器が大きいのか。女神である自分までも受け入れたり不意にドキドキさせるのでおそらく両方だと思うのだが、彼の事だからまぁ許そうと思う。
「ところでこのスキルって、名前はなんだろう?」
「んー………、自身の身に起こる危険を察知するスキルのようですから、『危機感』でしょうねぇ。私の世界でも良く冒険者の方が獲得しているスキルです!」
「『危機感』かぁ………! うん、回避する前に察知してくれるのはありがたいかも。その他にも生活面で有効的に活用出来そうだしね」
「………さいですかぁ」
生活面でのあれやこれを考えているであろう暮人を容易に読み取ることが出来て思わず遠い目になるが、いまのところ特に何かが変わったということもない。つまり自分の目的も変わらないのでこのままでも問題ないだろう。
なんだか彼へのチョロさが日に日に増しているような気もするが考えないようにした。
「じゃ、私友達を待たせているので先に帰りますねぇ。特性やスキルがあるとはいえ帰り道にはご注意を!」
「あ、うん………また明日………?」
彼は不思議そうに首を傾げていたけど、これ以上その重要さを説いても解決には繋がらない様な気がして無駄に意味深な言葉を残して私は教室へと向かった。
(天照ちゃんに今度電話しましょう………)
今は早く家に帰って寝たい。
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