クラスで人気の完璧美少女が殺意増し増しで怖い件。そしていつしかデレデレになる

ぽてさら

文字の大きさ
上 下
3 / 35

落とし穴① 黒猫は不幸の象徴なわけじゃない

しおりを挟む



 季節は立夏。つまり本格的な夏が始まる本格的な準備期間といっても良いだろう。その証拠に現在も晴天。

 もう既に外の気温は高く、じっとりとした汗を背中にかいてしまっているので衣替えの時期でもあるのだが、生徒全員が夏服スタートするのは残念なことに六月から。

 美雪が弓道部の朝練だというので、日課である妹に起こされるイベントをこなした暮人は一人でのんびりと高校へ登校している。その表情は暑さにより辟易とした様子が否めないが。


「あっついなぁ………保冷材とか冷えピタ持ってくれば良かったかなぁ? でも今それに慣れると本格的な夏がやって来た時にはバテちゃうからなぁ」


 額に薄く張り付いた汗をぬぐうと空に昇る太陽を見上げる。相変わらずの日照りに思わず瞳を細めるが、肌をジリジリと焼く熱気が弱まる事は無い。

 うんざりとしながら足を運ぶが、ふと前方の電柱の側でしゃがんでいる水色の髪の少女のうしろ姿を見かける。


「うわぁ、このパターン何度か覚えがあるぞ………まぁいいや、無視無視」
「如月さん、お待ちしてましたよ! おはようございます!!」
「おっはようっ!」


 暮人が隣を通り過ぎようとするが、もともとタイミングを見計らっていたのかその瞬間に振り向いて軽い足取りで近づくと、彼女は片手に持ったバタフライナイフを一振りする。

 まさか挨拶の瞬間に死の淵に立つとは思っていなかったが、そこは『回避』の特性を持つ勇者。余裕を持って躱して見せる。


「チッ、躱しましたか。やはりこの一連の流れもルーティーンになってしまうと身体が覚えてしまい殺せませんね!」
「朝から流血沙汰って結構洒落にならないと思うんだ」
「ふぅー、この刃物を使って殺そうとするのも早三十六回。塵積ちりつもを信じましたが無駄でした。まぁ必ずいつか多分おそらくメイビーってみせます。あっひゃっひゃっひゃ……………オロロロロロrr」
「あぁほらナイフの刃を強く舌で押し付けてなぞるから………!」
「だいじょぶです。これ実はおもちゃなんですよ」


 ケロッとしながら「やってみたかったんです!」とナイフの刃をぐにゃぐにゃとしながら朗らかに微笑む彼女。水色の髪を揺らしながら近くで見る表情は可愛いのだが、それはそれ、これはこれ。

 折角心配したというのに、この暑さも相まって少し苛立った。


「それで、こんな朝なのにクソ暑い中、道端にしゃがみ込んでなにしていたんですか女神さま?」
「もう、その呼び方は地上ここではやめて下さいっていつも言っているじゃないですか。実際に学校でも噂されてますけど。というか最初の発生源は私ですが。まぁ気軽に聖梨華せりかと呼び捨てにしても宜しいのですよ?」
「あっマッチポンプを自分からゲロった」
「女神ですからね!!」


 歩きながらえっへんと誇らしげな表情をしているが彼女の正体は女神。学校中での品行方正な彼女の性格や対応、それに対しての生徒や教師からの評価や反応を見る限り、その辺の情報・印象操作はお手の物なのだろう。

 これまで彼女と接してきた内容を思い返しながら暮人は自分に纏わりつく運命に思わず溜息を吐いた。


「で、殺気の質問の答えがまだ帰ってきてないんだけど」
「はい、怪我をした猫がいたので手当をしていたのです!」
「猫………っと、あれか」


 後ろを振り向くと、一匹の黒猫が遠くでこちらを見つめていた。よく見ると右足に包帯が巻き付けてある。
 呑気にあくびをしながらにゃあと可愛らしい声で鳴いていた。


「おとなしそうな子で良かったですよー! どうやら捨て猫のようですが、飼い主さんから飽きたという理由で捨てられたそうです。世の中のブームというものは儚いですね………」
「ふうん、命に責任が持てないなら飼わなきゃ良いのに。人間の見栄とエゴに振り回される動物たちも可哀想だよなぁ」
「おや、猫などペットを飼ったことがあるんですか?」
「いやないよ。ただそういう考えを持っているだけ。あと猫アレルギーだから飼えない」


 そう暮人が言った瞬間、氷石の口角が上がり琥珀色の双眸はきらりと光ったような気がした。


「ほう、ほうほうほう! これは良い事を聞きました!!」
「な、なんだよ………そんな肉食獣が獲物を追い詰めた様な目をして」
「いえ別に。ただこれから面白い事になるかなぁと思いまして」
「………?」


 氷石の話す言葉の意味が良く分からない暮人は首を傾げる。


 そうしてしばらく歩き続ける二人だったが、暮人はふと前方の道が妙に気になった。
 現在歩いているのは、車ならば余裕で通れそうな横幅がある歩道。暮人から見てもそこには様々な色で模様付けされたコンクリートだけで、普通の道だったのだが強烈な違和感を覚える。


 どうも、身体からの視覚情報を得ることによりこの道を通ってはいけないという拒否反応が頭の中で警報を鳴らしている。
 ―――この粘りついた感覚は、物心ついた時から知っていた。


「ねぇ聖梨華さん、なんだか危ないような気がするから一旦道路側の白線の方に………ッ!」
「おっーほっほっほ! 気が付いたが運の付き! 異世界への片道切符にご招待ですッ」


 いつの間にか少しだけ後ろに離れていた氷石はダッシュで暮人目掛けて体当たりしてきそうであった。
 やはり暮人の先程の強烈な違和感は正しく、前方の道には何かがあるのだろう。

 そして―――、



「(ひょい)」
「ああぁぁぁぁぁあああああぁぁぁ!!!?」



 彼が危険察知し回避してしまったが故、その勢いのまま暮人よりも前に進んでしまった氷石。すると彼女はこの前と同じような悲鳴を上げながら大きく口が開かれた大・・・・・・・・・・に吸い込まれるようにして落ちていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】 ・第1章  彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。  そんな彼を想う二人。  席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。  所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。  そして彼は幸せにする方法を考えつく―――― 「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」  本当にそんなこと上手くいくのか!?  それで本当に幸せなのか!?  そもそも幸せにするってなんだ!? ・第2章  草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。  その目的は―――― 「付き合ってほしいの!!」 「付き合ってほしいんです!!」  なぜこうなったのか!?  二人の本当の想いは!?  それを叶えるにはどうすれば良いのか!? ・第3章  文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。  君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……  深町と付き合おうとする別府!  ぼーっとする深町冴羅!  心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!? ・第4章  二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。  期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する―― 「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」  二人は何を思い何をするのか!?  修学旅行がそこにもたらすものとは!?  彼ら彼女らの行く先は!? ・第5章  冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。  そんな中、深町凛紗が行動を起こす――  君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!  映像部への入部!  全ては幸せのために!  ――これは誰かが誰かを幸せにする物語。 ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。 作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
 杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたので、欲望に身を任せてみることにした

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。彼女を女として見た時、俺は欲望を抑えることなんかできなかった。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...