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暴走トラック① 完璧美少女との関係
しおりを挟む"キーンコーンカーンコーン"
ホームルーム後のがやがやとした教室。一部の生徒は部活に励んだり自宅に帰宅したのだろうが、未だ数えるのが億劫になる程の生徒が教室の中に残っていた。
「はぁ、疲れた。さっさと家に帰って妹に夕食を作ってやらねば」
若干溜息交じりながらも、穏やかな表情でそう呟くのは一人の少年。周囲の喧騒など意に介さず、いくつもの教科書を机でトントンと整えながらバッグの中に仕舞い込む。
外に目を向けてみるとグラウンドの端にはずらりと満開の桜が咲き誇っていた。この高校生活も二年目、やはり見慣れたといってもそれが立ち並ぶ姿はやはり美しい。同時に、この景色を見るのも来年で見納めなのかと思うと少々寂しさが込み上げる。
少年はその景色を目に焼き付けながら帰宅の準備を進めるが、もはや日々恒例と化している少女とその取り巻きたちの騒がしい声が耳に障る。ちらりと教室の中心を見遣ると、その喧騒の原因である少女が周りににこやかに笑顔を振りまいていた。
「氷石さん、これからの予定はどうするの? 良ければカラオケにでも行かない?」
「あはは………ごめんなさい。今日はこれから用事があるんです。誘って頂けて嬉しいのですが………」
「そっかー、それなら仕方ないねー。確かバイトしてるんだもんね、そういえばどこで働いているの? 喫茶店とか?」
「うーん、流石に恥ずかしいのでそれは秘密なのですが………人を笑顔にさせる為の仕事なのは確かですよ」
周りはざわざわと彼女がどんなところで働いているのかといった妄想を膨らませる。
その少女の名は氷石聖梨華。肩まで掛かったボブカットに切り揃えてある水色の髪。慈愛に満ちた琥珀色の瞳にぷっくりとした唇に端正な鼻筋が美しく映える。小柄ながらも姿勢が真っ直ぐなためか、制服に包まれてある大きな胸が強調されておりその立ち姿には凛々しさが宿る。
しかも分け隔てなく接するその性格や成績優秀、眉目秀麗、スポーツ万能、おまけに絵や音楽、習字なども上位の成績を修めていることからクラスのみならず他学年、教師からの信頼も評価も厚いときている。
そんな完璧超人な彼女に対し、彼女と同じ教室で高校生活を謳歌しているクラスメイトが放っておくわけが無かった。
「はぁ………………」
その様子を傍から見ていた少年は彼女が振る舞う態度に白けた視線を向ける。そして再度溜息。
「暮人、溜息なんて吐いちゃってどうしたの?」
「あぁ、美雪か。いやさ、ちょっと先の未来が不安になってね………」
「まだ不安を感じるには早すぎる年頃じゃない? 定職にも就かないでフラフラしてフリーターやってる二十代ならともかく」
「妙に具体的だね!?」
「まぁそれは置いておいて。早く一緒に帰りましょ?」
暮人と呼んだ茶髪のロングヘア―の少女は、彼の幼稚園からの幼馴染である瀧水美雪。すらっとしたスレンダーボディ、黒のニーソを際立たせる足が魅力的な可憐な少女である。弓道部に所属している彼女だが、部活が無い日に限り暮人と一緒に帰っている。
暮人は彼女に了承の意を伝えると二人揃って教室を出る為に歩きだした。
―――二人が教室から出る際に、その後ろ姿を琥珀色の双眸がじっと見つめていた事も知らずに。
◇◆◇
「それにしても、氷石さんは今や学校中の生徒で知らない人がいない程の有名人になったね」
「………まぁ表向きは性格良くて成績も評価も非の打ち所がない完璧超人。アレさえなければなぁ」
「アレさえなければねぇ………」
二人はビルが立ち並ぶ大通り、交差点が多い信号機の前に立って信号が赤から青に切り替わるのを待っていた。
二人が話す内容はクラスどころか学校中で大人気の少女、氷石さんのこと。二人はあるきっかけを境に、彼女の抱える秘密を身を以って知っていた。
「今までしばらく彼女からの接触は無かったんだ。という事はだよワトソン君」
「まさに今この瞬間、最も警戒しなくちゃいけないってことよね迷探偵(笑)くん」
「なんかそこはかとなく馬鹿にされた………」
美雪の「気のせいよ」という言葉と共に信号が青に変わり、一斉に他の通行人が横断歩道を渡り出す。
暮人と美雪の二人も流れに沿って歩き出そうとするが―――、
バリンッ!!!
遠くの十字路にていきなりガラスが割れるようなけたたましい音が二人の耳に届いた。
そして空間が割れたかと思うと、その空間の中から大きく蛇行する"暴走トラック"が出現した。
同時に、二人だけに聞こえる声で脳内に直接話しかけてくる人物がいた。
それは―――、
『ヘイヘイへーーーーーーーーーイ☆ おーとなしく逝っちゃって下さーーーーい!!!』
今はトラックに乗っているから自分の声は二人に届かないと思ったのか、妙にテンションの高い声で頭の中に直接語り掛けてきた。
二人は突如迫り来る鉄の塊に驚愕の表情を浮かべるが、一方、暮人の頭の片隅ではどこか落ち着いている自分がいた。普通の人生を送るならば大きく蛇行するトラックが自らに迫ってくる機会なんぞ到底ある訳がない。腰を抜かしたり逃げ惑ったりして正常な思考が出来ずに呆然としてしまうであろう。
そもそも空間に穴をあけたり、トラックに乗って出現したり、直接頭の中に話しかけるのは人間業ではない。
周囲の通行人は悲鳴を上げているが、暮人の眼から見ても横断歩道を渡っている人間や他の自動車が走っているというのに一切の怪我人を出していない"奇跡"ともいえる現象が起こっているのがその証左。
しかしそんな偶然を創り出した奇跡も、ある目的を以って達成されようとしていた。
『さあ、貴方を異世界に転生する権利を差し上げます! ハァハァ、なので暴走トラックに引かれて下さい! 勇者様!!』
暴走トラックに乗っていた少女が気分が高揚しているのか瞳を爛々とさせながら息を荒くしている。
ついに暮人とトラックが正面衝突しようとするが―――、
「は? やだよ(ひょいっ)」
『あぁああああああああぁあああぁぁ!!!?』
暮人は自らの幼馴染の手を引くと軽々と回避。
脳内に彼女の虚しい慟哭が響いた―――。
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