9 / 31
第1章
第7話 『きゃら♡めるメイド喫茶』
しおりを挟む唐突だがこの世界の『魔法』について説明しようと思う。
生物の体内には魔力という魔法などを発動する際の動力源、つまり天然物のエネルギーが循環している。大小あれど、生物であればその恩恵を必ず受けて誕生するのがこの世界にとっての常識だ。それは何故か。
古代遺跡から発見された古書や希書、伝承に残された記録では、天上に住まう神々が種族の繁栄、発展を目的として魔力と共に『魔法』を生物に与えたとされている。
―――それが『原初の六属性魔法』。『火』『水』『風』『土』『光』『闇』といった、現在でも国に認められた魔法師や魔法使いに幅広く使用されている基本的な属性魔法である。
因みに昔から今に至るまでそれらの各属性を基盤に『氷』『雷』『雲』『植物』などの属性魔法が派生されているが、残念ながら現代ではその使い手は極少数程しかいないというのが現状だ。
従来の魔法属性とは区分が似て非なる為、もし大別に区分するとなればそれらは『特殊魔法』というカテゴリーに属される。
そういった例もある為、イクシオン王国のみならず、世間一般的にこの世界で暮らす魔法の才を持つ者はその片鱗を開花させる為に学園へ通うことを推奨されている。
その数ある学園の内一つが我がイクシオン王国の『イクシード王立学園』。生徒の在籍数は千人にも達する超名門校で、入学する為には難題の筆記試験や実技を突破しなければいけないという狭き門が待ち構えている。
だが種族に関係なく入学でき、幅広い魔法や剣術といった自らの可能性を開く手段を専門の場で学ぶ恩恵は大きいだろう。
その一方で、生まれ持った境遇により学園に通うことが出来ない者もいる。
何故そんな話をしたかだと?
―――現在進行形で殺傷能力が高い複数の魔法や斬撃がオレ様に飛んできてるからだよ。
メイドの格好をしたガキの女どもから、な。
◇
「お覚悟ローランド様ぁ! 今日こそ柔肌の一つにでもキズを付けてやるニャ!!」
「このクソ王子! 女誑しの全女性の敵!!」
「い、一刃必滅………っ!」
「「ヤッちゃうよーっ!」」
店に入った瞬間、メイド姿の少女達が放った上級クラスに匹敵する魔法などの攻撃がオレ様の目前まで迫っていた。
『雷』を纏った魔爪による爪撃。
『雲』の形状変化を利用した束縛と視覚阻害。
『氷』を付与した絶対零度の斬撃。
『植物』である薔薇の蔦を何重にも槍状に重ねて刺突。
………ふむ、威力や狙いの精度はこの前に比べると僅かに上方修正されているな。魔法に込められた魔力の純度も申し分ない。
だが、
「オレ様を満足させるには程遠いな―――『権能解放』」
『チィ………ッ!』
身に襲い掛かる攻撃に堂々と片目だけ見開きながら、雲魔法により拘束された両腕に魔力を通わせる。
薔薇の蔦の鋭利な先端が眼前まで迫っていたが、オレ様はその植物魔法ごと消失させる。
その後膂力が上昇した腕で強引に雲の拘束を引きちぎり、挟み込むような形で襲い掛かってきていた爪撃と斬撃を衝撃に強化した両腕で受け止め無力化した。
「あーもうまた凌がれたニャー! これで何回だニャー!?」
「クロナ、アンタが余計な口上言うから攻撃の気配を読み取られるのよ!」
「くっ、ま、まだまだ未熟………」
「きえた………」「つるバラさん………」
『さらさらー、ってー………』
ふん。期待していたところ残念だが、既に貴様らの魔法はそもそも解析済みだ。
オレ様の予想を遥かに超えるモノを展開しない限り、擦り傷一つ付けられんぞ。
しかし、それはこいつらも分かりきっていることだ。こいつらは未熟だが、未熟だからこそオレ様が読み切る上で自身の魔法に改良を重ね全力で放ってきた。それには理由がある。
『もしこの店にオレ様が来たら各自魔法を使った攻撃を放ってこい。もし傷を付けることが出来たら褒美をやる』
それがオレ様がこいつらを拾って来た頃から課している課題だ。毎回飽きずに趣向の凝った攻撃を飛ばしてくるのはガキの癖によくやる。人間に全力で攻撃を放つことの出来る胆力は他の同年代の者共よりも秀でているな。
ふっ、オレ様が王子だからといって手加減しないその心意気、褒めて遣わす。あぁ、もちろん関係の無い赤の他人がしたら容赦なくぶっ飛ばすぞ。
さて、いつもの助言の時間だ。ありがたく思えよ?
「クロナ、貴様の獣族特有の瞬発力と雷属性魔法の発動伝達センスは優れているが、毎度の事ながら口数が多く初動が遅い。オレ様が折角魔力と気配を消して来ているんだ。もっと感覚を鋭敏にし"嗅覚"という利点を活かして他の奴らと連携しろ」
「シュンパツ? デンタツ? エービン?………って何ニャ? ………うにゅ~、ローランド様はすぐ難しい言葉を使うニャー………」
「勉強しろこのダメ猫が」
「酷いニャ!?」
「要するに、この場にいる誰よりも先に早くオレ様を攻撃してこいって事だ。素早く動き回るのは得意だろう?」
「それなら大好物ニャ! クロももっと頑張るニャ!!」
オレ様が助言を伝えた瞬間、目が回りだして頭から煙を上げたダメ猫だったが、言い直した瞬間持ち直した。………うむ、切り替えが早いのは良い事だぞ。
瞳をキラキラと輝かせるこのダメ猫の名はクロナ。かつてイクシオン王国の『負の遺産』の一つであるスラム街でオレ様が拾った黒髪の少女だ。
………というかこの場にいるこいつらの境遇は似ている部分が多いし、どれも拾ってきたやつばかりなんだがな。
「次にレイン。貴様の雲属性魔法による伸縮性のある拘束と、オレ様の視界を絶つ為に魔法を応用し霧状に散布………以前の反省を活かして今回は良い線を辿っていたが、まだまだ魔力の練り込みが甘い。だからこうして力づくで突破されるんだ」
「チッ、偉っそうに指図してホントムカつく………っ!」
「事実偉いからなぁ」
「そういうところよっ! アンタ王族なら、絵本や他の御方みたいに柔和に微笑みながら謙虚で物腰柔らかそうに私たちに接しなさいよ!」
「―――ハッ」
「鼻で笑うなぁ~っ!!」
おっと、あまりにも兄様や姉様への幻想を抱くレインの姿に鼻で笑ってしまった。おいおい、お前本当に元暗殺者か? 立場が無いに等しい自らの出生や恵まれない境遇に不満を抱いた末、王族への憎悪をぶつけようと目立つ服を着ながら貧民街を歩いていたオレ様に襲い掛かってきた貴様はどこへいった?
もちろん速攻返り討ちにしてやったが。
………あれだけ富裕層で暮らす者を憎んでいたこいつが王族に憧憬を抱くなど、もしや前にオレ様が拾ったときに一度だけ読んでやった絵本の影響じゃねぇだろうな。
言っておくが、あいつらを尊敬もしくは憧れているんだったら止めた方が良いぞ。外ではただ猫を被ってるだけだからな。あと補足だが王族でも性根にある育ちの良さはオレ様と然程変わらんぞ。
………まぁいいか、いずれ現実を知るだろう。そのときどんな表情になるのか見物だな。
ほら、肩に流す一房の紫の髪を振り乱しながら地団太を踏むな。貴様が目指す淑女とは程遠い行動だぞ?
「アヤメ、オレ様は貴様の隠密性、静謐性はこの中では随一だと思っているが、刃に覚悟が伴ってないぞ。前にも何度も言ったよな?―――殺す気で攻撃して来いって」
「ヒッ! やっぱりむ、むりぃ………です、はい………。ひ、人に武器を向けるのも、こ、怖いのに、お、恩義ある、ロ、ローランド様に殺意をい、抱く等………っ!」
「相変わらずの腑抜けた臆病さだな。もし強盗が入店して貴様らの命を狙っていたらどうするつもりだ? 可愛い子兎のように震えているのか?」
「そ、そのときはむ、無力化しますっ………」
「………チッ、その言葉に見合う技量を持っているから尚更困るんだがな。とにかく貴様の場合は気持ちが未熟だ。よく考えておけ」
「は、はい! ご、ごめん、なさい………」
しゅん、と縮こまりながらぼそぼそと返事を行なうのはアヤメという藍色の髪で目元が隠れている少女。驚く事にこのイクシオン王国から遠く離れた極東に存在するといわれている『和の国元』からやって来た『忍者』という隠里で育った隠遁者らしい。
見聞を広めるという形で今まで転々と旅をしてきたらしいが、長旅をしていたせいで心身が疲弊。見た目が整っていて年端もいかない少女だということで奴隷商に狙われたとの事。何とか逃げ切ったが途中で意識を失い、これまたなんの偶然か、怪我を負って腹を空かせていたこいつをスラム街で拾ったのがオレ様だという。
それ以来こいつはオレ様に恩義を感じているってわけだ。………思い返せばスラム街で縁があり過ぎではないかオレ様?
まぁ案外こいつらのような掘り出し物が見つかるから止められないのだが。
と、考えていると服の袖を左右からくいっ、と引っ張られた。
「ねぇーねぇーローランドさまー」
「シルとシロはどうだったー?」
『まるー? ばつー?』
「三角、だ。力不足の貴様らが互いを補うように植物魔法を複合させたのは見事だが、魔法発動の方向性が単調だったな。もう少し素早くにょろにょろさせろ」
「にょろにょろだってー」
「つるバラさんにょろにょろー」
『おもしろーい!』
せっかくオレ様が分かりやすいように言い換えたのに笑うなよ貴様ら。………てめぇらも顔背けてんじゃねぇよ。腹を抱えて床を転げるな「ぷっ」じゃねぇんだよ肩を震わすな。
………良いだろう、次に来た時は手加減ナシだ。オレ様の『真実の瞳』の権能で貴様らの秘密を暴いてアイツに暴露してやる。覚悟しろよクソガキどもが。
はぁ、それはともかくこの二人だな。顔の色や髪の色が病的なまでに白く、まるで双子のように顔、身長、声が瓜二つなのが特徴的だが、瞳の色が唯一異なる。因みにシルが萌葱色の眼で、シロが紅色の眼だ。
………こいつらはあるクソッタレな組織の特殊魔法実験の人体被験者で、唯一の生き残りでもある。度重なる無理な投薬実験の末、今までの記憶が忘却。そして特殊魔法である『植物魔法』を半出力でしか使えない―――オレ様だからあえて言うが、魔法使いとしては『欠陥品』となって救出されてしまった。『黒影の騎士団』としてのオレ様達にな。
まぁこいつらの仲睦まじい様子や今までの生活ぶりを見る限り、あのとき死んでいた方が幸せだったのか訊くのは野暮というモノだろう。
研究室にあった実験に関する書類は有った物すべて破棄したし、その組織もオレ様が潰したから問題は無い。
つまり、オレ様の華麗かつ洗練された活躍があってこそ成し得た軌跡である。素晴らしいだろう。
………ところで、アイツはいつまでオレ様を待たせるのだ?
「ところで、シルヴィアは今店にはいないのか?」
「てんちょーならローランド様が来る少し前に出て行ったニャ! 多分もう少しで帰ってくるんじゃないかニャ?」
「そうか。ならしばらく待たせて貰うぞ」
そう言葉を吐き捨てると、オレ様は店内に備え付けてある大きなソファへ腰掛けた。
1
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる