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第1章
第6話 『咲き誇る華は愛でるもの』
しおりを挟む午後に発生した(させた)団長との勝負の決着後、本来残り予定されていた演習はナシになる。
因みに無様に伸びたブランは担架に運ばれて医務室へ運ばれていった。
通常ならば団長が不在なら副団長が指揮をとらなければいけないが、オレ様はメルトたちに用事があって来たのだ。
幸い、メルトがオレ様と出会った恩である出来事を周りに明言しているので違和感を持たれてはいないし、こうして王子であるオレ様とも話せる。流石に公私は分けるがな?
という訳で団員の貴様ら、残りの時間は王子権限で各自自由にして良いぞ。訓練を続けるなり寮に戻って身体を休めるなり、街に出て買い物をしてこい。
オレ様がそう伝えた瞬間に瞳を輝かせて一同に感謝された。うむ、気にするな。
………下級貴族の貴様らも大変だな、貴族の存在を履き違えた者が上官になると。
他の者が修練場からいなくなると、メルトとドロシーが近づいてきた。
「ローランド様、先程は大変失礼しました」
「全くだ。今回は私情もあった故あえてメルトの掌で踊ってやったが、本来はオレ様がお前の糸を引く側。―――忘れるなよ」
「………はい、ローランド様♡」
「ち、ちょっと! 私もいること忘れてない!?」
メルトの顎を片手で持ち上げながら親指で唇をなぞっていると、メルトの背後からひときわ喧しい声が聞こえた。忘れてねぇよ。
相変わらず貴様の唇は色付きが良く瑞々しいな。オレ様に形弄られるまま気持ち良さそうに表情を蕩けさせやがって。
しばらくそうしてると、行為を続けてたオレ様とメルトの間に顔を真っ赤にしたドロシーが身体を入れて割り込んできた。
「う、うぅ~、ストーップ!ここ修練場なのに破廉恥が過ぎるわよ!」
「場所などオレ様には関係ない。それとも、貴様もなぞって欲しいのか?」
「な、なぁっ!?」
「だが今回はお預けだ。あの場にオレ様やメルトがいたから良かったものの、もし貴様だけならばどう事態を回収していた?」
「あぅ………そ、それは………」
目を伏せてシュンと落ちこもうとも事実だからな。
いくらあの馬鹿の主張、意見が自分とは異なるものだとしても個人の感情で先走るのはナンセンスだ。
それが王国に根付く公爵家同士の溝や因縁を深める原因になってしまったら、貴様もタダでは済まないのだぞ? 下手をしたら各派閥の貴族間の対立も起こるやもしれん。
しかし―――、
「しかし、良くやった」
「………へっ?」
「丁度、図に乗る馬鹿を殴る運動がしたかったのだ。その機会をオレ様に持ってきた事については褒めてやらんでもない」
「~~~ッッ、ふ、ふにゃあ………っ!」
ドロシーの絹糸のような銀髪を優しく撫でてやる。そう何度も口をワナワナさせながら顔を赤く染めるな。この程度、以前も何度かしてやっただろう。
くくく、やっぱりお前はコロコロと表情が変化して面白いな。心の何処かで、お前がこういった耐性が暫く付かないことを切に願っているオレ様がいる。
………ところでコイツの頭髪の両端にセットされた翼がパタパタと嬉しそうに動いて見えるのはオレ様だけか?
今日は熱めのシャワーを浴びて早く寝よう。
「あー、手が滑りましたー(棒)」
「んぎゃっ! メ、メルトぉ~、いきなりなにすんのよっ!?」
「失礼、壁が話しているのかと」
「誰がつるぺた絶壁よっ!!」
オレ様が銀髪の感触を楽しんでいると、ドロシーの背後からメルトが胸を思い切り鷲掴みにした。
令嬢らしからぬ声をあげるが、残念ながら掴めるものが無かったようで形に変化は無い。
………おい、メルト。いくらドロシーがお前より無いとしても優越感に浸るのは間違いだぞ。シノアという戦略級兵器がいることをゆめゆめ忘れるな。
「ところで何故ローランド様は修練場へ? 別に先程仰ってた私達の訓練風景を見るのが目的では無いですよね」
「そう言った方が都合が良かったからな。しかし、本来の目的はもう既に達している」
「と、言いますと?」
決まっているだろう。
「貴様らの姿をこの目で収める事だ」
「「―――――――――」」
「昨日は折角オレ様の屋敷に来れたというのに、今朝には挨拶も出来ずに早く騎士団へと戻っていたからな」
「そ、それだけで………?」
「それだけとは随分な物言いだなドロシー。それほどの価値が有るとオレ様が判断しているであろう結果だ」
ただ様子を見に来たなど、クソ親父と言っていることが同じだと? 馬鹿め、オレ様と比べて彼奴の『格』など一番最弱。オレ様だから良いに決まっているでは無いか。
………しかしコイツらは何を固まっているのだ?ドロシーは兎も角、メルトまで。
まぁ良い、姿を見れたし会話もした。十分に満足だ。
「さて、オレ様はこれから『王国都市』の本店へ行く予定だ。貴様らも今日はもう自由なのだから、これからの予定は自由に過ごせ。ではな」
「………かしこまりました」
「え、えぇ………」
そのままオレ様は次なる目的地へと向かうとしよう。
◇
ローランドが優雅に立ち去る姿を見送った後、その場に残された二人の女性はゆっくりと顔を見合わせる。
「………これはもう既成事実を結んでも構わないというローランド様なりの想いでしょうか?」
「いやいやいやいやっ、発想がぶっ飛びすぎよ!?」
「しかし、これは………」
「ま、まぁ、凄く大事というか、うん。その………"愛されている"、わよね………」
メルトとドロシーの二人は仄かに頬を上気させながらローランドによる寵愛を噛み締めていた。
過ぎた言動で世間一般から、そして彼自身が持つ力により傲慢で自分勝手だと思っているだろうが、決してそれだけでは無い事を彼女達は知っている。
「でもローランド様、これからどこに行くのかしら? 確か本店、って言ってたけど」
「相変わらず本人が居ないと敬称を付けるのですね。新手のデレですか」
「うっさいわよ! デレてなんか無いっ」
「まぁそれはさておき貴方にはローランド様が関わる事業の事を今まで話していませんでしたね。―――良い機会です」
メルトが一拍置くと、
「これから私が教える場所で、休息してきたらどうでしょうか?」
「はぁ?」
怪訝な表情をしながら疑問の声を上げるドロシーへ向かって彼女は柔かに微笑んだ。
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