上 下
8 / 31
第1章

第6話 『咲き誇る華は愛でるもの』

しおりを挟む





 午後に発生した(させた)団長との勝負の決着後、本来残り予定されていた演習はナシになる。
 因みに無様に伸びたブランは担架に運ばれて医務室へ運ばれていった。


 通常ならば団長が不在なら副団長が指揮をとらなければいけないが、オレ様はメルトたちに用事があって来たのだ。
 幸い、メルトがオレ様と出会った恩である出来事を周りに明言しているので違和感を持たれてはいないし、こうして王子であるオレ様とも話せる。流石に公私は分けるがな?


 という訳で団員の貴様ら、残りの時間は王子権限で各自自由にして良いぞ。訓練を続けるなり寮に戻って身体を休めるなり、街に出て買い物をしてこい。

 オレ様がそう伝えた瞬間に瞳を輝かせて一同に感謝された。うむ、気にするな。

 ………下級貴族の貴様らも大変だな、貴族の存在を履き違えた者が上官になると。

 他の者が修練場からいなくなると、メルトとドロシーが近づいてきた。


「ローランド様、先程は大変失礼しました」
「全くだ。今回は私情もあった故あえてメルトの掌で踊ってやったが、本来はオレ様がお前の糸を引く側。―――忘れるなよ」
「………はい、ローランド様♡」
「ち、ちょっと! 私もいること忘れてない!?」


 メルトの顎を片手で持ち上げながら親指で唇をなぞっていると、メルトの背後からひときわ喧しい声が聞こえた。忘れてねぇよ。

 相変わらず貴様の唇は色付きが良く瑞々しいな。オレ様に形弄られるまま気持ち良さそうに表情を蕩けさせやがって。

 しばらくそうしてると、行為を続けてたオレ様とメルトの間に顔を真っ赤にしたドロシーが身体を入れて割り込んできた。


「う、うぅ~、ストーップ!ここ修練場なのに破廉恥はれんちが過ぎるわよ!」
「場所などオレ様には関係ない。それとも、貴様もなぞって欲しいのか?」
「な、なぁっ!?」
「だが今回はお預けだ。あの場にオレ様やメルトがいたから良かったものの、もし貴様だけならばどう事態を回収していた?」
「あぅ………そ、それは………」


 目を伏せてシュンと落ちこもうとも事実だからな。

 いくらあの馬鹿の主張、意見が自分とは異なるものだとしても個人の感情で先走るのはナンセンスだ。
 それが王国に根付く公爵家同士の溝や因縁を深める原因になってしまったら、貴様もタダでは済まないのだぞ? 下手をしたら各派閥の貴族間の対立も起こるやもしれん。

 しかし―――、


「しかし、良くやった」
「………へっ?」
「丁度、図に乗る馬鹿を殴る運動がしたかったのだ。その機会をオレ様に持ってきた事については褒めてやらんでもない」
「~~~ッッ、ふ、ふにゃあ………っ!」


 ドロシーの絹糸のような銀髪を優しく撫でてやる。そう何度も口をワナワナさせながら顔を赤く染めるな。この程度、以前も何度かしてやっただろう。

 くくく、やっぱりお前はコロコロと表情が変化して面白いな。心の何処かで、お前がこういった耐性が暫く付かないことを切に願っているオレ様がいる。

 ………ところでコイツの頭髪の両端にセットされた翼がパタパタと嬉しそうに動いて見えるのはオレ様だけか?
 今日は熱めのシャワーを浴びて早く寝よう。


「あー、手が滑りましたー(棒)」
「んぎゃっ! メ、メルトぉ~、いきなりなにすんのよっ!?」
「失礼、壁が話しているのかと」
「誰がつるぺた絶壁よっ!!」


 オレ様が銀髪の感触を楽しんでいると、ドロシーの背後からメルトが胸を思い切り鷲掴みにした。
 令嬢らしからぬ声をあげるが、残念ながら掴めるものが無かったようで形に変化は無い。

 ………おい、メルト。いくらドロシーがお前より無いとしても優越感に浸るのは間違いだぞ。シノアという戦略級兵器がいることをゆめゆめ忘れるな。


「ところで何故ローランド様は修練場へ? 別に先程仰ってた私達の訓練風景を見るのが目的では無いですよね」
「そう言った方が都合が良かったからな。しかし、本来の目的はもう既に達している」
「と、言いますと?」


 決まっているだろう。


「貴様らの姿をこの目で収める事だ」
「「―――――――――」」
「昨日は折角オレ様の屋敷に来れたというのに、今朝には挨拶も出来ずに早く騎士団へと戻っていたからな」
「そ、それだけで………?」
「それだけとは随分な物言いだなドロシー。それほどの価値が有るとオレ様が判断しているであろう結果だ」


 ただ様子を見に来たなど、クソ親父と言っていることが同じだと? 馬鹿め、オレ様と比べて彼奴の『格』など一番最弱。オレ様だから良いに決まっているでは無いか。

 ………しかしコイツらは何を固まっているのだ?ドロシーは兎も角、メルトまで。
 まぁ良い、姿を見れたし会話もした。十分に満足だ。


「さて、オレ様はこれから『王国都市オータル』の本店へ行く予定だ。貴様らも今日はもう自由なのだから、これからの予定は自由に過ごせ。ではな」
「………かしこまりました」
「え、えぇ………」


 そのままオレ様は次なる目的地へと向かうとしよう。







 ローランドが優雅に立ち去る姿を見送った後、その場に残された二人の女性はゆっくりと顔を見合わせる。


「………これはもう既成事実を結んでも構わないというローランド様なりの想いでしょうか?」
「いやいやいやいやっ、発想がぶっ飛びすぎよ!?」
「しかし、これは………」
「ま、まぁ、凄く大事というか、うん。その………"愛されている"、わよね………」


 メルトとドロシーの二人は仄かに頬を上気させながらローランドによる寵愛を噛み締めていた。

 過ぎた言動で世間一般から、そして彼自身が持つ力により傲慢で自分勝手だと思っているだろうが、決してそれだけでは無い事を彼女達は知っている。


「でもローランド、これからどこに行くのかしら? 確か本店、って言ってたけど」
「相変わらず本人が居ないと敬称を付けるのですね。新手のデレですか」
「うっさいわよ! デレてなんか無いっ」
「まぁそれはさておき貴方にはローランド様が関わる事業の事を今まで話していませんでしたね。―――良い機会です」


 メルトが一拍置くと、


「これから私が教える場所で、休息してきたらどうでしょうか?」
「はぁ?」


 怪訝な表情をしながら疑問の声を上げるドロシーへ向かって彼女は柔かに微笑んだ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...