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第1章

第4話 『親の心、子知らず』

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 無言で円卓の一番端に座ったオレ様は足を組む。そして正面にいる男を睨めつけた。


「………直接会うのは一年ぶりだな。元気にしていたか?」
「見ればわかるだろう。気分は最悪だがな」
「息災であればそれで良い。私はお前の顔が見たかったのだ」
「要件がそれだけなら帰るぞ」


 なんだそのスッカスカな会話の内容。オレ様は貴様に国王としての信頼は多少しているが親子としての関係は求めていないんだよ。
 顔が見たかっただと? 貴様は死んだ母様の面影をオレ様に重ねて見たかっただけだろうが。

 冷静に努めて言葉を返しながら立ち上がる。


「待て。―――まだ傷は癒えぬか」
「………さぁな、ただ―――周囲の言葉を鵜呑みには出来なくなったよ」


 母様の言葉は別だがな。………チッ、貴様はただ生きてる限りこの国の王としてオレ様に命令していれば良いんだ。

 だから、そんな目でオレ様を見るな。憐憫や同情、そして温もりが垣間見える親の目で―――。


「ッ………失礼する」


 本当に、苛立ちを覚える。そんな表情しか出来なくなったクソ親父も、未だ残るオレ様の女々しさも。
 
 全て―――。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 




 ローランドに続き、しばらくするとオーギュストやレオハールが執務室から出ていくのを見届けると、アストレア国王は重苦しい息を吐く。
 顔を上に向けると、煌びやかな装飾が施された天井を眺めながら言葉を放つ。


「セバス、紅茶を入れてくれ」
「かしこまりました」


 ローランドがいる間も存在を消しながらずっとアストレアの側にいた、燕尾服を着た白髪白髭の老人。
 セバス•ルートマンは主人の憂いを見透かしたかのように和かな笑みを浮かべながらカップに液体を注ぐ。


「失敗した。もう少し実のある親子らしい会話がしたかったのだが」
「現状ではそれは不可能かと。ローランド様もエレノア様に似て王家を支える立派な殿方に成長しましたが、王に対して未だ家族として歩み寄る意思は見受けられませんでした」
「敢えて傷心する主人の心を容赦無く抉るお前はなんだ?」
「王へ仕える絶対安全保障付きの老骨執事ですよ。アストレア坊っちゃま」
 
 
 自分の性格も好みもその本心も把握されている執事の言葉に、思わず額の中心に皺を寄せるアストレア。
 そんな彼の様子を微笑ましく見守っていたセバスは怜悧さを覗かせながら言葉を続ける。


「親が子へ愛情を注ごうとも、互いに理解し合おうとしなければ罅の入った壺に水を入れる事と一緒です」
「ならば、このまま決壊しても良いと?」


 アストレアは幼少期からローランドが『真実の瞳』により周囲を信じられなくなった事を知っていた。
 そして度重なった母親の死が、その傷に拍車をかけていることも。


「あの方は強い。精神こころが、ではなく自分を曲げまいとするその意思がです」
「………」
「時には迷いましょう、時には挫きましょう。しかしあのお方の周りには、彼に惹かれ彼自身が認めた信頼出来る者がいる。それは、確固とした己の覇道を歩むには心強い道標みちしるべとなる筈です」
「今は、見守るしかないのか………」


 セバスの言葉に瞳をしかと閉じ、しばらく思案するアストレア。
 その姿は今までの自分の行いを噛み締めているようにも見えた。


「『黒影の騎士団』、か………」

 
 アストレアはかつてローランドが王国の不穏分子の芽を排除する為、秘密裏に騎士団として立ち上げる提案をしてきた事を思い出していた。

 
 『陰に潜み、闇夜に紛れ込む。それ即ち王の裏の刃なり』
 
 
 数年前に抑止力としてその存在をローランドの意思により意図的に王国全体に流したが、団長や構成人数などの詳細は不明となっている。平民や貴族、更にはオーギュストたち兄弟でさえも。
 アストレアも実のところ、団長は誰かわかっていても所属している明確な人数は分からないのだ。


「絶対に、無理はするなよ」


 この場にはいない愛する息子へ向けて、虚空へ呟いた。
 
 
 
 
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