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~ある令嬢との邂逅~

プロローグ ~上~

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 天井につるされているいくつものシャンデリアがこの空間を煌びやかに照らす。もちろん、このオレ様の美しい金髪もだ。まぁ、オレ様のこの美貌を最も際立たせるには少々豪奢さが足りないがな。


「ふん、この店にはもっと強い酒はないのか? 貴様らという宝石が揃っていても今のままでは曇り切ったままなのだが」
「え~、ローランド様ひっど~い! それってぇ~、お酒があれば綺麗に見えるって事でしょお~?」
「生憎、オレ様は騎士団では"視る"のが仕事の内の一つなんでな。この疲れ切った瞳のままでは綺麗なモノでも腐って見える。どれ、もう少し近づけ。お前と至近距離で見れば、もしかしたら輝いて見えるかもな」
「あん♡ もぅローランド様ったら本当に強引! でもそんなところが私大好き♡」



 「あ~ずる~いっ、私ももっと見てぇ♡」「お酒、もっと飲みましょぉ」と顔が整った女がオレ様を取り合って話を盛り上げて騒いでいるが、こんなバカそうな女どもには興味が無い。

 現在革製の高級ソファもどきにふんぞり返っているオレ様を囲んでいるのは、この店選りすぐりの美女三人。案内された糸目のボーイに紹介して貰った………のだが、やはりこんなキャバクラもどきではオレ様の乾いた心は癒されなかったようだ。

 俺の名前はローランド・クリスティア。今日は少々髪型を変えてはいるが、こんな辺境の小さな店ではオレ様の事など誰も分からないだろう。
 
 こいつらの名前は何といったか………まぁ興味ないが、オレ様の右腕を身体全体を使って絡ませている銀髪のこの女に訊いてみるか。


「おい貴様、この国の国王は知っているか?」
「え~、なんでそんな事聞くのぉ?」
「良いから答えろ。答えたらこの店で一番高いヤツを注文してやる」
「やったぁ♡ 高級フルーツ盛り一つ追加~!」


 チッ、こいつオレ様の話を聞いてなかったのか? 順序が逆だぞ、逆!


「あー、ローランド様ごめんなさい! 嬉しくて先に注文しちゃった! それで私たちが住んでる王国の国王様の名前よねぇ?」


 さっき話したばかりなのに何聞き直してんだよ。お前の頭は鳥頭か。………本当に鳥みたいな髪形をしているじゃないか。あながち間違ってはいないな。すると………こいつか?


「あぁ、さっさと言え。でないと帰るぞ」
「あぁんもうせっかちなんだからぁ。―――『アストレア・ラ・イクシオン』様でしょう? 御年五十四歳で、なんと十人もの子供がいるのよね! 最近の話題だとそうねぇー………確か、王位継承第五位の王子様が騎士団長に任命されたとか。王族の人はたくさんいるから名前は忘れたけど、王国に襲い掛かってきた巨竜の群れをその騎士団長率いる騎士団が対処して下さったのよねぇ。あ、あと噂では『黒影の騎士団』って国王様が秘密裏に作ったっていう騎士団があるって―――」


 ほう、ただの姦しいだけな女かと思ったが、それなりの学はあるじゃないか。視たところ魔力も豊富だし、動きや容貌もまぁ悪くはない。今は残念ながらケバさ満点の厚化粧でうっとりしているからダイヤの原石も泣いているがな。

 あと、やはりオレ様の事は知らないか。―――ならば好都合だ。

 しかし、何故こんな辺境の地でそんな王国都市の内情に詳しいのか。………ふん、やはりここの噂は正しいということで決まりだな。

 それだけでどうして性急に決めつけるのかだって? 答えはオレ様だからだ、理解しろ。


「随分と王国の情報に精通しているのだな」
「いくらこんな辺境で働いているっていっても見くびり過ぎだよローランド様ぁ。私、これでもイクシード魔術学園に通ってて上位の成績をとってたんだよぉ?」


 ビンゴ。


「ほぅ、だからそんなに詳しいのか。ならばこんなところよりも、もっと良い稼ぎ口があったろうに」
「………………それが出来れば苦労しないわよ」


 何かを我慢するような表情で俯く女だが、オレ様には関係が無い。コイツのその反応は一瞬だけだったが、その後取り繕うように笑みを向けて来た。


「な~んてっ! こっち方が良いお金が貰えるんだぁ! たくさんの客と話すのは楽しいしね!」
「………キモイな」
「………え?」
「ふん、なんでもねぇよ。おい貴様ら、オレ様とこいつと二人っきりにしろ」


 周りにいた女が「え~、もっと一緒に飲みましょうよぉ」「私ぃ、寂しいですぅ」とかうるさい声をあげるが、噂に関して知って良そうなコイツに訊くことにしよう。
 ………おい、去り際にオレ様の太腿を撫でて行くなよ。

 さて、糸目のボーイがショボい高級フルーツ盛りを持ってきたところで、その姿が見えなくなったら話しかけた。


「おい貴様、改めて聞くが名前は何という?」
「えー、お兄さんが来た時に言ったじゃないですかぁ。ナザリンですぅ」
「そうか、なら今はそれで良い。ではナザリン、今からオレ様が訊くことにイエスかノーで答えろ」


 笑みを湛えながら困惑した表情になるナザリンだが、厚化粧のくせにそんな薄っぺらい表情を向けるなよ。吐き気がする。
 高級フルーツ盛りの内、ブドウを一つだけ口に放り込む。………チッ、なんだこれは。これなら王国民が都市で売ってる店の方がもっと甘みがあるぞクソが!

 これが終わったら調べ上げて土地改革からさせてやろうか。


「質問一、王国の貴族の女たちがここ数か月の間で行方不明になっているという噂は知っているか?」
「………はい」
「質問二、噂ではとある辺境の地で貴族の娘が集められている」
「知りません」


 イエスかノーで答えろって言っただろうが鳥頭。それにしても返事がいやに早かったな。やはり情報とオレ様の勘は正しかったか。


「これはオレ様の独り言なんだが、王国の数ある有名貴族の内の一つであるミーティス公爵家の令嬢が行方不明になった。彼女はかの有名なイクシード王立学園に通っていた優秀な魔法師の卵だったらしい。しかも、卒業したら王国騎士団に配属されることが決まっていたほどに有望。それはそれは家族に愛され、蝶よ花よと可愛がられたとの事だ。しかしある日、学園からの帰り道に誘拐された」
「………………知ら、ない」


 ………あ? こいつなに青褪めながら震えているんだ? せっかくオレ様と話してるんだ、そんな幽霊みてぇな不気味な顔すんじゃねぇよ。
 どれ、少しだけ核心を突いた質問をして終わるか。


「ふぅ、それじゃあこれが最後の質問だ。―――『奴隷紋』って知ってるか?」
「あんた………ッ、いい加減に………!」
「お客さまぁ、困るんですよねぇ。ウチの商品にあれこれ詮索されちゃあ」


 ふん、先程のボーイか。その背後にはサングラスをかけた数名の黒服の姿もある………尻尾をだしたな。まぁオレ様が騎士団の人間だとわざと声を大きくしたときから警戒されているのは気付いてはいたんだが。こいつにあれこれ聞き出した途端にコレだ。
 おそらく魔法を使って盗聴でもしたのだろう。このフルーツが乗っている皿の裏側に魔力が籠った魔法陣の反応がある。ったく、男の猫なで声など聞いても吐き気がするだけだというのに。
 ハッ、その癖に僅かに見開いた糸目の奥には鋭い光を灯しながら薄笑いを浮かべてやがる。

 こういう手合いは何度も見覚えがある。………自分の欲を押し通す為なら実力行使をも厭わない、クソッタレな眼だ。

 頃合いか。


「詮索とは聞き捨てならないな、オレ様はただ彼女に質問していただけなんだが。それとも何か、この店には何か詮索されてはまずいモノでもあるのか? 例えば―――魔力を貯蓄する方法、とか」
「おや、そこまでご存知でしたか………………行け」
「きゃ………っ!」


 チッ、黒服が襲い掛かってきやがった。だがまぁこいつらの動きを視る限りガタイが良いだけの素人、オレ様のように洗練された動きには程遠い。
 隣で固まっている女を抱えるとオレ様はその黒服集団の一部の肩を次々に足蹴にして華麗に飛び越える。うむ、我ながらスタイリッシュな着地だ。
 にしてもこの女軽いな。ちゃんと飯は食べているのか?


「暗殺者ギルドの人間を雇い、学園に通う魔力が多い貴族令嬢を攫って魔石へ魔力を貯蓄する為の動力源にする。そしてその潤沢な魔力が溜まった魔石を他国に流出させることによって多額な利益を得ると。まぁ矮小な下民らしい欲に目が眩んだ考えだ」
「………何故、この場所だと?」
「誘拐に関わった暗殺者を捉えて少々・・拷問したらこの場所を素直に吐いてくれたよ。中継場所を決めずにこの場所へ直接運んだのは失敗だったな。そしてここだと確信したのはオレ様が視て確認したからだ。聞き耳を立てていたのなら知ってるのだろう?―――"視る"のが仕事の内の一つだって。地下には思わずむせかえってしまうほどの濃厚な魔力が漂っているぞ?」
「チッ、騎士団の犬が………っ!」


 他にも他国への魔石の輸出管理を調査したらここ数か月で数パーセント上昇していた。元々魔石の輸出量が少ない我が王国が、たったの数パーセントでも多く輸出できている事が異常だったのだ。
 流石にこの誘拐の件と魔石の輸出を結びつけるには関連性が少なく、半年以上の時間が掛かってしまったがこれでようやく終止符を打つことが出来る。

 なんにせよこれで終わりだ。近くにはオレ様の部下の気配もするしな。………ん、部下の気配………? オレ様は一人で来たはずなのだが。なんか膨大な魔力がだんだん近づいているぞ? 位置は………真上かっ!


 ドゴォォォォォォンッッ!!!!


「な、なんだ………っ!? 天井が………ッ!」
「チッ、この魔力は………アイツか」
「もうわけわかんない………アンタいったい何なのよ………?」


 細かな砂塵など含まれた衝撃がこちらにまで届くが、女は瞳に涙を溜めながらオレ様の着るスーツの端を掴む。ふん、メッキが剥がれて来たじゃないか。ぷるぷると小動物のように身を震わせている様は、まるで子犬を連想させる。髪型は鳥みたいで厚化粧だが。

 あとさっさとその手を離せ、皺が付く。


 煙が晴れると、そこには案の定オレ様の見知った女がいた。



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