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ピクニック
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「イリア、ピクニックに行こう」
突然そう声をかけられて、私は顔を上げた。
天使か悪魔か、そのどっちでもあり得るような美しい顔が目の前にあって、私は一瞬息を飲んだ。
それから、ああ、このキレイな顔の青年(というか、少年?)は私の夫のリュシエール様だったと思い出して自分自身に苦笑する。
「イリア、ピクニック、行こう」
リュシエール様が私の目の前で頬杖をつき、もう1度そう言った。
上級魔法使い試験の勉強に夢中だった私は、リュシエール様がいつ部屋に入ってきたのかも気がつかなかった。
「外はいい天気だよ。部屋に閉じこもって勉強ばかりしてないでさ、たまには息抜きしようよ」
リュシエール様はいかにも「いい天気だから、部屋にいるのが勿体無い」って言い方だけど。
ここ、魔法国マグノリアの天気は管理されてて、自在に雨でもヤリでも降らせられるんだから、天気の良し悪しなんて関係ない・・・って反論しようと思ったけど、メンドクサイからやめた。
返事をする代わりに魔法書に顔を埋めるって作業を続けた。
「あ、そう。無視するつもりならこのまま襲ってしまうよ」
私の背後からリュシエール様の声が聞こえた。いつの間にか後ろに回り込まれたみたい。
それでも、魔法書から目を離さなかった私の髪を、リュシエール様が繊細な指でかき上げた。
首筋にリュシエール様の唇の感触を感じて、私は「うひゃあ」と妙な声を上げてしまった。
うなじを唇でなぞられて、身悶えしながら私は降参した。
「わかりました。ピクニック、行きます。いえ、行きましょう!」
どうせこのままだとリュシエール様は私に勉強をさせてくれそうにない。
「よかった。聞き分けのいいイリアは大好きだよ。もうお弁当は用意してあるんだ」
リュシエール様は満足そうに屈託のない笑みを浮かべたけど、私は釈然としない。
聞き分けるしかない状況だし、それにお弁当をもう用意してるってことは、最初っから私に拒否権なんかなかったんだ。
マグノリアは一つの国くらいの巨大な建物に生活できるすべてが収まっているから、めったに外に出ることはない。農作物でさえ、外で地面に植えたものじゃなくって、室内で水も気温も管理されて育てられている。だから1年中果物も野菜も豊富だ。
建物の外は森林と草原。
絶好のピクニック場所なんだけど、魔法使いはあまり外を出歩かない。
ピクニックなんてしようって言うのは「人間臭いのが好き」なリュシエール様と、半分人間の混血魔法使いの私くらいだろう。
きょうは建物の外は「雲一つない青空で風が涼しい」感じになっている。
たしかに外でご飯を食べると気持ちいいかもしれない。
ちょっぴり気分がよくなって、私は草の上に広げた布に腰を下ろして、リュシエール様が抱えた籠の中からお弁当を取り出した。
中に色んな野菜やお肉を挟んだ、手で食べられるパンに、私の好きなブドウジュース。
「美味しそう!」
素直に笑みを浮かべた私に、リュシエール様が「たまには気分転換したほうがいいよ。根をつめても勉強ははかどらないからね」優しい目をしてそう言った。
あれ?もしかして、本当は私のためにピクニックに誘ったのかな?
リュシエール様は子供っぽくってワガママだけど、妙な優しさをみせるときがあって、油断できないんだ。
ただでさえ見ていると魂を持って行かれるようなキレイな顔なのに、優しいなんて、ズルすぎる。
自分がリュシエール様のお嫁さんなのが、今でも信じられない。
本当はこれは全部夢なんじゃないかって、時々思う。寝て、目を覚ましたら、私は暗い森の中で独りうずくまって寝ているんじゃないかって。
「イリア、どうしたの?食べないの?」
リュシエール様の青緑の瞳が心配そうに私を映してる。
「ごめんなさい。考え事をしてました」
「だから、もう、試験のことを考えるのはやめなよ。今くらい」
別に試験のことを考えてたわけじゃなかったんだけど、私は否定もせずに頷いた。
リュシエール様は私にもっと食べるように勧めると、自分も5つ目のパンを手に取って食べ始めた。
相変わらず、細い身体のどこに入るんだろうって思うくらいの食欲だ。
確かに、体力はスゴクあるけど・・・夜なんか、1回じゃ終わらないくらい・・・
って、つい夜の営みのことを思い出してしまった私は自分の想像に顔が赤くなった。
昼間っから、なんてはしたない。
「イリア、顔が赤いよ」
リュシエール様がブドウジュースを飲みながら、私の顔色を怪訝そうな目で見ている。
やばい。
「あの・・・ちょっと、暑くて」手で仰ぐ真似をしてそう答えたけど、リュシエール様は「そう?そんなに高い気温にはしてないはずだけど?それに、心拍数も上がってる。イリア、ウソついてるよね」
ううううっ
リュシエール様は治癒系魔法が得意なだけに、私の身体の変化にも敏感だ。
「何を考えていたの?言ってごらんよ」
言えるわけない。そんな恥ずかしいこと。
「な、な、なんでもないですってば。ほ、ほんとに。あ・・・暑いだけ・・・」
舌がもつれてかえって怪しいに感じになってしまった。
「ふうん」と目を細めたリュシエール様がずいっと私の目の前に来て
「そんなに暑いなら、服を脱いじゃえば?」
えっ?
「こんなところ、めったに人は来ないからさ。裸でも大丈夫だよ」
えええっ!?
さすがに、ソレはマズいんじゃ・・・
っていうか。
うろたえてる私の目の前でリュシエール様はさっさと上半身裸になってしまった。
「なんでリュシエール様が脱いじゃうんですか!?」
「僕も脱いだ方がイリアが脱ぎやすいって思って」
いやいやいや、そんなのないから。
とてもマズイ展開になりそうな予感しかしない。このままだと全裸になりそうなリュシエール様を制して
「あっ、急に寒くなってきました!脱いだら風邪ひいちゃう」
もう、自分でも支離滅裂だって思うけど。
「寒いの?」
なぜだかリュシエール様が悪魔的な笑みを浮かべて私に確認した。
「は・・・い・・・たぶん」
「じゃあ、僕が温めてあげる」
自分がものすごく深い墓穴を掘ったことに気がついたときには遅くって、私はリュシエール様の裸の胸に抱き寄せられていた。
「あの、リュシエール様。いくら人が来ないって言っても、外でこんな行為はいけないんじゃ・・・」
「マグノリアで僕のしちゃいけないことってないよ」
「でも・・・」
と、反論しかけた私の唇に人差し指を当てて、リュシエール様が艶然と微笑んだ。
「いいよね?僕は今、イリアとシタいんだ」
いいよね?って聞いたくせに私の返事も待たずにリュシエール様は私の唇に唇を重ねた。
軟体の生き物のようにリュシエール様の舌が私の口の中に潜りこむ。
目の前に青い空が広がって、私は自分が押し倒されたことに気がついた。
リュシエール様のキスはほのかにブドウジュースの味がして甘酸っぱい。私はまるでお酒に酔ったみたいに頭がぼうっとして抵抗できなくなる。
私と舌を絡めながら、リュシエール様は器用に私の服を剥いでいく。
「やっ・・・ダメです。恥ずかしい」
唇を解放されて、やっと声が出せたときには服はほとんど脱がされていた。
「恥ずかしくないよ。イリアはキレイだよ。陽の光に負けないくらいキラキラしてる」
胸を覆った手を外されて、膨らみにリュシエール様の舌が這った。
私は呻き声をあげそうになって手で口を押さえた。例え「だれもこない」って言われても外で、はしたない声なんて上げられない。
いつ人が来るかわからないのに、裸になっちゃってる自分がおかしい。
リュシエール様のせいだ。
いつだって私の常識を砕くようなことばかりして。
リュシエール様はまるで魔法を使っているんじゃないかって疑ってしまうくらい、私を気持ちよくさせる。
でも、それが私には怖くなってしまう。自分が自分じゃなくなってしまいそうで。
「あっ」
リュシエール様の手が私の下腹部の奥を探るように移動した。私は逃れようと身をよじったけれど、上に乗ってるリュシエール様の重みで動けなかった。
「ダメ・・・ここで、そんなの・・・無理」
「そんなのって、なに?」
リュシエール様の声音には面白がってる感じがして、私はちょっと腹立たしくなる。
「いつも、ベッドでしてるようなことを、ここではしたくないです」
ふうん、とリュシエール様は鼻を鳴らすような返事をすると、私から身体を離した。
あれ?意外に素直に分かってくれた?
そう思って安堵したら、いきなり手を引かれて立たされた。
「え?あの?」
「わかったよ、イリア。ベッドでするようなことはしたくないんだね」
え?
私が返答に困っていると、リュシエール様は強い力で私の手を引いて繁みに入ると、大きな木を背に私を立たせた。
「リュシエール様?あの・・・」
私が目を白黒させていると、リュシエール様は「ベッドではできないこと、したいんだよね?」
えええっ?
「いや、そういうイミじゃなくて、私が言いたいのは」
言いかけた私の口が「あ」の形のまま固まった。
リュシエール様の指が前触れもなく私の下腹部の奥をなぞったから。
「んっ・・・いや・・・あっ」
腰の力が抜けるような快感に襲われて、私は目の前のリュシエール様にしがみついた。
「イリア、ちゃんと立ってて」
立ってて、って言われても足に力が入らない。
私の耳朶に舌を這わせながら、指は私の敏感な花芯を嬲るように動いてる。
蜜液が溢れだしてくるのが自分でも分かった。
霞んだ目に、森林の緑がぼんやりと映る。
「リュシ・・・エールさま・・・だめ、いやです」
「イリアのここ、もう濡れてるね。僕の指がぐっしょりだよ」
恥ずかしいことを言われて、私は泣きそうな声で「いや」を繰り返した。
「もう、入れて、って言ってごらんよ。指より、気持ちいいのが欲しいんだよね」
耳元で囁いたリュシエール様の息が熱くて、私の頭の中まで溶けてしまいそうだ。
「・・・い・・・い・・・や。無理。そんなこと・・・言えない。言えません」
うー、とリュシエール様はうなった。
「なんで素直に言ってくれないかな。僕は早くイリアの中に入りたいんだけど?イリアはそんなに僕に我慢させたいの?」
なんだかワガママな言い分だけど、そういうところがリュシエール様らしくて、そして結局私はリュシエール様には逆らえない。
「・・・じゃあ・・・あの・・・い・・・れて・・・ください」
自分の恥ずかしい言葉に耳をふさぎたくなりながら、そう言った。
「もっと、ちゃんと言わないと、あげないよ」
言えって言ったの自分なくせに、って心の片隅で思ったけど、リュシエール様の硬く屹立したものを下腹部に当てられて、もうどうでもよくなった。
「欲しいです。リュシエール様の・・・が、欲しい・・・入れてください」
「いいよ。よく言えたから、ご褒美あげる」
リュシエール様は天使のように微笑むと悪魔のように私を蹂躙する。
片足を抱えられて、深く突き入れられて、私は悲鳴に似た喘ぎ声を放った。
「立ったままするのも新鮮でいいね」
言葉は軽いけど、リュシエール様の声音はいつもより低く掠れて聞こえる。
リュシエール様が感じてるときはいつもそう。
そういうことが分るくらい、私はリュシエール様の身体に馴染んでる。
リュシエール様の動きが早くなって、木々の枝が揺れる。
「だめ・・・です。そんな、激しく・・・したら」
「だって、気持ちいいんだもん・・・イリア、もう出しちゃっていい?」
なんて答えようかと、迷っていたら、突然リュシエール様の動きが止まった。
えっ?
なに?と目で問いかけたら、リュシエール様は耳をすますような顔になってて
「・・・誰か来るね」
「・・・え?」
「なんだろうな。せっかくいいとこだったのに」
ええええええっ!?
「でも、ま、いいや、続けよう。イリア」
いや、いや、何言っちゃってるの。とっても無理。
私はブンブンと首を横に振って、「無理です!」
ここから逃げなくちゃ。こんなの誰かに見られたら、死にそうだ。いや、確実に羞恥で死ぬ。
私はあわてて、種間移動の魔法の呪文を唱えた。
けど呪文の半ばでリュシエール様に口をふさがれた。
「イリア!君、一人でイクつもり!?今君に消えられたら、僕がすごくみじめになるじゃないか」
あ・・・
そうだった。まだリュシエール様とつながったまんま。
「僕にしっかりと掴まって。イクんならいっしょだよ」
瞬間移動魔法の呪文を唱えたリュシエール様に私はしっかりとしがみついた。
一瞬目がくらんで、気がついたら、自分たちの部屋のベッドの上。
「結局、ベッドですることになったね」そう言いながら、もう腰を動かしてるリュシエール様に私は呆れた。
この人の心臓は絶対鋼鉄でできているに違いない。
「イリア、そんな蔑んだ目で僕を見ないで・・・なんだか、興奮しちゃう」
あっ、しまった、顔に出てた?というか、なんで興奮しちゃうの!?
リュシエール様の天使のように美しい顔が切なく歪む。
獰猛な生き物みたいに私の中で律動するソレの動きに、私も、もう何もかもどうでもよくなって、考えるのを止めた。
リュシエール様の動きに身を任せながら悦びの波が押し寄せるのを感じる。
「あんっ・・・リュシエールさま・・・だめぇ」
淫らな声が上がった。
「あっ、イリアって・・・そんな、厭らしい声で鳴いたら、僕も我慢できなくなるじゃないか」
リュシエール様の律動がさらに速くなって、中が溶けそうに熱い。こすれ合う部分から快感が大きな波のように押し寄せた。
「イリア、イクよ・・・いっしょに・・・」
リュシエール様の荒い息と掠れた声に私の身体が反応して、快感が引き絞られた。
「んっ・・・あ・・・も・・・」
喘ぎが言葉にならないくらい高まって、私の意識は白い闇に飲まれた。
そういえば、お弁当も服も外に放置してしまってる・・・そう思い出したのは、リュシエール様がすっかり満足して寝ながら私の髪を撫でていたときだった。
「リュシエール様、服を取りにいかないと」
「うん、そうだね。ついでにピクニックの続きもしよう。そうだ、おやつも持って行こうよ。僕、甘いもの食べたいな」
「いいけど・・・もう、こういうのやめてくださいね。ちゃんとピクニックしましょう」
ちょっと意地悪な言い方だったかな、ってリュシエール様を見たら、クスクスとイタズラっ子みたいに笑ってる。
「だって、僕、本当にイリアと睦み合うのが大好きなんだよ。気持ちいいし、すごく・・・満たされるんだ」
満たされる?
「不思議そうだね。でも、今までどんな女性とシテも満たされるって思ったことはなかったんだ」
どんな女性と、ってスルリと言ってしまったね、リュシエール様。
私の眉間にシワが寄ったのを見て、しまった、口が滑った、みたいな顔になったリュシエール様が慌てた。
「あっ、だから・・・ごめん。イリア、怒らないで。僕はイリアが本当に好きで・・・君に嫌われたら、ものすごく辛い」
どんな人間でもすべてを許してしまいそうになるリュシエール様の懇願に、私は溜息をついた。
怒ってなんかない。ただ、驚いた。
「私って、リュシエール様を満たしてますか?」
「うん・・・だから、僕もイリアを満たしてあげたい」
ああ・・・うん。
きっと私も満たされてる。
目を覚ましたら、独り森の中にいるんじゃないか、って怖くなるのは、きっと今が幸せだからだ。
幸せじゃなかったら、失って怖いことなんて、ないもの。
私は手を伸ばして、リュシエール様の顔を引き寄せてキスをした。
「私も、満たされてます。リュシエール様とこうしているの・・・気持ちいい」
素直に言ってしまったのが恥ずかしくて、目を伏せたら、まぶたにキスを返された。
「イリア、大好きだよ。そのキレイな緑色の瞳でいつも僕を見ていて」
私は「はい」と頷いて、ゆったりと微笑んだ。
これからも、ずっと、私の瞳がリュシエール様を映していけますように・・・
そう、願いながら。
完
突然そう声をかけられて、私は顔を上げた。
天使か悪魔か、そのどっちでもあり得るような美しい顔が目の前にあって、私は一瞬息を飲んだ。
それから、ああ、このキレイな顔の青年(というか、少年?)は私の夫のリュシエール様だったと思い出して自分自身に苦笑する。
「イリア、ピクニック、行こう」
リュシエール様が私の目の前で頬杖をつき、もう1度そう言った。
上級魔法使い試験の勉強に夢中だった私は、リュシエール様がいつ部屋に入ってきたのかも気がつかなかった。
「外はいい天気だよ。部屋に閉じこもって勉強ばかりしてないでさ、たまには息抜きしようよ」
リュシエール様はいかにも「いい天気だから、部屋にいるのが勿体無い」って言い方だけど。
ここ、魔法国マグノリアの天気は管理されてて、自在に雨でもヤリでも降らせられるんだから、天気の良し悪しなんて関係ない・・・って反論しようと思ったけど、メンドクサイからやめた。
返事をする代わりに魔法書に顔を埋めるって作業を続けた。
「あ、そう。無視するつもりならこのまま襲ってしまうよ」
私の背後からリュシエール様の声が聞こえた。いつの間にか後ろに回り込まれたみたい。
それでも、魔法書から目を離さなかった私の髪を、リュシエール様が繊細な指でかき上げた。
首筋にリュシエール様の唇の感触を感じて、私は「うひゃあ」と妙な声を上げてしまった。
うなじを唇でなぞられて、身悶えしながら私は降参した。
「わかりました。ピクニック、行きます。いえ、行きましょう!」
どうせこのままだとリュシエール様は私に勉強をさせてくれそうにない。
「よかった。聞き分けのいいイリアは大好きだよ。もうお弁当は用意してあるんだ」
リュシエール様は満足そうに屈託のない笑みを浮かべたけど、私は釈然としない。
聞き分けるしかない状況だし、それにお弁当をもう用意してるってことは、最初っから私に拒否権なんかなかったんだ。
マグノリアは一つの国くらいの巨大な建物に生活できるすべてが収まっているから、めったに外に出ることはない。農作物でさえ、外で地面に植えたものじゃなくって、室内で水も気温も管理されて育てられている。だから1年中果物も野菜も豊富だ。
建物の外は森林と草原。
絶好のピクニック場所なんだけど、魔法使いはあまり外を出歩かない。
ピクニックなんてしようって言うのは「人間臭いのが好き」なリュシエール様と、半分人間の混血魔法使いの私くらいだろう。
きょうは建物の外は「雲一つない青空で風が涼しい」感じになっている。
たしかに外でご飯を食べると気持ちいいかもしれない。
ちょっぴり気分がよくなって、私は草の上に広げた布に腰を下ろして、リュシエール様が抱えた籠の中からお弁当を取り出した。
中に色んな野菜やお肉を挟んだ、手で食べられるパンに、私の好きなブドウジュース。
「美味しそう!」
素直に笑みを浮かべた私に、リュシエール様が「たまには気分転換したほうがいいよ。根をつめても勉強ははかどらないからね」優しい目をしてそう言った。
あれ?もしかして、本当は私のためにピクニックに誘ったのかな?
リュシエール様は子供っぽくってワガママだけど、妙な優しさをみせるときがあって、油断できないんだ。
ただでさえ見ていると魂を持って行かれるようなキレイな顔なのに、優しいなんて、ズルすぎる。
自分がリュシエール様のお嫁さんなのが、今でも信じられない。
本当はこれは全部夢なんじゃないかって、時々思う。寝て、目を覚ましたら、私は暗い森の中で独りうずくまって寝ているんじゃないかって。
「イリア、どうしたの?食べないの?」
リュシエール様の青緑の瞳が心配そうに私を映してる。
「ごめんなさい。考え事をしてました」
「だから、もう、試験のことを考えるのはやめなよ。今くらい」
別に試験のことを考えてたわけじゃなかったんだけど、私は否定もせずに頷いた。
リュシエール様は私にもっと食べるように勧めると、自分も5つ目のパンを手に取って食べ始めた。
相変わらず、細い身体のどこに入るんだろうって思うくらいの食欲だ。
確かに、体力はスゴクあるけど・・・夜なんか、1回じゃ終わらないくらい・・・
って、つい夜の営みのことを思い出してしまった私は自分の想像に顔が赤くなった。
昼間っから、なんてはしたない。
「イリア、顔が赤いよ」
リュシエール様がブドウジュースを飲みながら、私の顔色を怪訝そうな目で見ている。
やばい。
「あの・・・ちょっと、暑くて」手で仰ぐ真似をしてそう答えたけど、リュシエール様は「そう?そんなに高い気温にはしてないはずだけど?それに、心拍数も上がってる。イリア、ウソついてるよね」
ううううっ
リュシエール様は治癒系魔法が得意なだけに、私の身体の変化にも敏感だ。
「何を考えていたの?言ってごらんよ」
言えるわけない。そんな恥ずかしいこと。
「な、な、なんでもないですってば。ほ、ほんとに。あ・・・暑いだけ・・・」
舌がもつれてかえって怪しいに感じになってしまった。
「ふうん」と目を細めたリュシエール様がずいっと私の目の前に来て
「そんなに暑いなら、服を脱いじゃえば?」
えっ?
「こんなところ、めったに人は来ないからさ。裸でも大丈夫だよ」
えええっ!?
さすがに、ソレはマズいんじゃ・・・
っていうか。
うろたえてる私の目の前でリュシエール様はさっさと上半身裸になってしまった。
「なんでリュシエール様が脱いじゃうんですか!?」
「僕も脱いだ方がイリアが脱ぎやすいって思って」
いやいやいや、そんなのないから。
とてもマズイ展開になりそうな予感しかしない。このままだと全裸になりそうなリュシエール様を制して
「あっ、急に寒くなってきました!脱いだら風邪ひいちゃう」
もう、自分でも支離滅裂だって思うけど。
「寒いの?」
なぜだかリュシエール様が悪魔的な笑みを浮かべて私に確認した。
「は・・・い・・・たぶん」
「じゃあ、僕が温めてあげる」
自分がものすごく深い墓穴を掘ったことに気がついたときには遅くって、私はリュシエール様の裸の胸に抱き寄せられていた。
「あの、リュシエール様。いくら人が来ないって言っても、外でこんな行為はいけないんじゃ・・・」
「マグノリアで僕のしちゃいけないことってないよ」
「でも・・・」
と、反論しかけた私の唇に人差し指を当てて、リュシエール様が艶然と微笑んだ。
「いいよね?僕は今、イリアとシタいんだ」
いいよね?って聞いたくせに私の返事も待たずにリュシエール様は私の唇に唇を重ねた。
軟体の生き物のようにリュシエール様の舌が私の口の中に潜りこむ。
目の前に青い空が広がって、私は自分が押し倒されたことに気がついた。
リュシエール様のキスはほのかにブドウジュースの味がして甘酸っぱい。私はまるでお酒に酔ったみたいに頭がぼうっとして抵抗できなくなる。
私と舌を絡めながら、リュシエール様は器用に私の服を剥いでいく。
「やっ・・・ダメです。恥ずかしい」
唇を解放されて、やっと声が出せたときには服はほとんど脱がされていた。
「恥ずかしくないよ。イリアはキレイだよ。陽の光に負けないくらいキラキラしてる」
胸を覆った手を外されて、膨らみにリュシエール様の舌が這った。
私は呻き声をあげそうになって手で口を押さえた。例え「だれもこない」って言われても外で、はしたない声なんて上げられない。
いつ人が来るかわからないのに、裸になっちゃってる自分がおかしい。
リュシエール様のせいだ。
いつだって私の常識を砕くようなことばかりして。
リュシエール様はまるで魔法を使っているんじゃないかって疑ってしまうくらい、私を気持ちよくさせる。
でも、それが私には怖くなってしまう。自分が自分じゃなくなってしまいそうで。
「あっ」
リュシエール様の手が私の下腹部の奥を探るように移動した。私は逃れようと身をよじったけれど、上に乗ってるリュシエール様の重みで動けなかった。
「ダメ・・・ここで、そんなの・・・無理」
「そんなのって、なに?」
リュシエール様の声音には面白がってる感じがして、私はちょっと腹立たしくなる。
「いつも、ベッドでしてるようなことを、ここではしたくないです」
ふうん、とリュシエール様は鼻を鳴らすような返事をすると、私から身体を離した。
あれ?意外に素直に分かってくれた?
そう思って安堵したら、いきなり手を引かれて立たされた。
「え?あの?」
「わかったよ、イリア。ベッドでするようなことはしたくないんだね」
え?
私が返答に困っていると、リュシエール様は強い力で私の手を引いて繁みに入ると、大きな木を背に私を立たせた。
「リュシエール様?あの・・・」
私が目を白黒させていると、リュシエール様は「ベッドではできないこと、したいんだよね?」
えええっ?
「いや、そういうイミじゃなくて、私が言いたいのは」
言いかけた私の口が「あ」の形のまま固まった。
リュシエール様の指が前触れもなく私の下腹部の奥をなぞったから。
「んっ・・・いや・・・あっ」
腰の力が抜けるような快感に襲われて、私は目の前のリュシエール様にしがみついた。
「イリア、ちゃんと立ってて」
立ってて、って言われても足に力が入らない。
私の耳朶に舌を這わせながら、指は私の敏感な花芯を嬲るように動いてる。
蜜液が溢れだしてくるのが自分でも分かった。
霞んだ目に、森林の緑がぼんやりと映る。
「リュシ・・・エールさま・・・だめ、いやです」
「イリアのここ、もう濡れてるね。僕の指がぐっしょりだよ」
恥ずかしいことを言われて、私は泣きそうな声で「いや」を繰り返した。
「もう、入れて、って言ってごらんよ。指より、気持ちいいのが欲しいんだよね」
耳元で囁いたリュシエール様の息が熱くて、私の頭の中まで溶けてしまいそうだ。
「・・・い・・・い・・・や。無理。そんなこと・・・言えない。言えません」
うー、とリュシエール様はうなった。
「なんで素直に言ってくれないかな。僕は早くイリアの中に入りたいんだけど?イリアはそんなに僕に我慢させたいの?」
なんだかワガママな言い分だけど、そういうところがリュシエール様らしくて、そして結局私はリュシエール様には逆らえない。
「・・・じゃあ・・・あの・・・い・・・れて・・・ください」
自分の恥ずかしい言葉に耳をふさぎたくなりながら、そう言った。
「もっと、ちゃんと言わないと、あげないよ」
言えって言ったの自分なくせに、って心の片隅で思ったけど、リュシエール様の硬く屹立したものを下腹部に当てられて、もうどうでもよくなった。
「欲しいです。リュシエール様の・・・が、欲しい・・・入れてください」
「いいよ。よく言えたから、ご褒美あげる」
リュシエール様は天使のように微笑むと悪魔のように私を蹂躙する。
片足を抱えられて、深く突き入れられて、私は悲鳴に似た喘ぎ声を放った。
「立ったままするのも新鮮でいいね」
言葉は軽いけど、リュシエール様の声音はいつもより低く掠れて聞こえる。
リュシエール様が感じてるときはいつもそう。
そういうことが分るくらい、私はリュシエール様の身体に馴染んでる。
リュシエール様の動きが早くなって、木々の枝が揺れる。
「だめ・・・です。そんな、激しく・・・したら」
「だって、気持ちいいんだもん・・・イリア、もう出しちゃっていい?」
なんて答えようかと、迷っていたら、突然リュシエール様の動きが止まった。
えっ?
なに?と目で問いかけたら、リュシエール様は耳をすますような顔になってて
「・・・誰か来るね」
「・・・え?」
「なんだろうな。せっかくいいとこだったのに」
ええええええっ!?
「でも、ま、いいや、続けよう。イリア」
いや、いや、何言っちゃってるの。とっても無理。
私はブンブンと首を横に振って、「無理です!」
ここから逃げなくちゃ。こんなの誰かに見られたら、死にそうだ。いや、確実に羞恥で死ぬ。
私はあわてて、種間移動の魔法の呪文を唱えた。
けど呪文の半ばでリュシエール様に口をふさがれた。
「イリア!君、一人でイクつもり!?今君に消えられたら、僕がすごくみじめになるじゃないか」
あ・・・
そうだった。まだリュシエール様とつながったまんま。
「僕にしっかりと掴まって。イクんならいっしょだよ」
瞬間移動魔法の呪文を唱えたリュシエール様に私はしっかりとしがみついた。
一瞬目がくらんで、気がついたら、自分たちの部屋のベッドの上。
「結局、ベッドですることになったね」そう言いながら、もう腰を動かしてるリュシエール様に私は呆れた。
この人の心臓は絶対鋼鉄でできているに違いない。
「イリア、そんな蔑んだ目で僕を見ないで・・・なんだか、興奮しちゃう」
あっ、しまった、顔に出てた?というか、なんで興奮しちゃうの!?
リュシエール様の天使のように美しい顔が切なく歪む。
獰猛な生き物みたいに私の中で律動するソレの動きに、私も、もう何もかもどうでもよくなって、考えるのを止めた。
リュシエール様の動きに身を任せながら悦びの波が押し寄せるのを感じる。
「あんっ・・・リュシエールさま・・・だめぇ」
淫らな声が上がった。
「あっ、イリアって・・・そんな、厭らしい声で鳴いたら、僕も我慢できなくなるじゃないか」
リュシエール様の律動がさらに速くなって、中が溶けそうに熱い。こすれ合う部分から快感が大きな波のように押し寄せた。
「イリア、イクよ・・・いっしょに・・・」
リュシエール様の荒い息と掠れた声に私の身体が反応して、快感が引き絞られた。
「んっ・・・あ・・・も・・・」
喘ぎが言葉にならないくらい高まって、私の意識は白い闇に飲まれた。
そういえば、お弁当も服も外に放置してしまってる・・・そう思い出したのは、リュシエール様がすっかり満足して寝ながら私の髪を撫でていたときだった。
「リュシエール様、服を取りにいかないと」
「うん、そうだね。ついでにピクニックの続きもしよう。そうだ、おやつも持って行こうよ。僕、甘いもの食べたいな」
「いいけど・・・もう、こういうのやめてくださいね。ちゃんとピクニックしましょう」
ちょっと意地悪な言い方だったかな、ってリュシエール様を見たら、クスクスとイタズラっ子みたいに笑ってる。
「だって、僕、本当にイリアと睦み合うのが大好きなんだよ。気持ちいいし、すごく・・・満たされるんだ」
満たされる?
「不思議そうだね。でも、今までどんな女性とシテも満たされるって思ったことはなかったんだ」
どんな女性と、ってスルリと言ってしまったね、リュシエール様。
私の眉間にシワが寄ったのを見て、しまった、口が滑った、みたいな顔になったリュシエール様が慌てた。
「あっ、だから・・・ごめん。イリア、怒らないで。僕はイリアが本当に好きで・・・君に嫌われたら、ものすごく辛い」
どんな人間でもすべてを許してしまいそうになるリュシエール様の懇願に、私は溜息をついた。
怒ってなんかない。ただ、驚いた。
「私って、リュシエール様を満たしてますか?」
「うん・・・だから、僕もイリアを満たしてあげたい」
ああ・・・うん。
きっと私も満たされてる。
目を覚ましたら、独り森の中にいるんじゃないか、って怖くなるのは、きっと今が幸せだからだ。
幸せじゃなかったら、失って怖いことなんて、ないもの。
私は手を伸ばして、リュシエール様の顔を引き寄せてキスをした。
「私も、満たされてます。リュシエール様とこうしているの・・・気持ちいい」
素直に言ってしまったのが恥ずかしくて、目を伏せたら、まぶたにキスを返された。
「イリア、大好きだよ。そのキレイな緑色の瞳でいつも僕を見ていて」
私は「はい」と頷いて、ゆったりと微笑んだ。
これからも、ずっと、私の瞳がリュシエール様を映していけますように・・・
そう、願いながら。
完
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