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1話 ダイエットの決意
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朝の清々しく眩しい陽射しが否応なしに私を心地よい眠りからたたき起こした。
けだるくあくびをして、私は隣に夫のキリウスがいないことに気づく。
あ、そうか、きょうは早朝から貴族たちとのつきあいで狩猟に出たんだった。と、ぼんやりとした頭で思い出し、私は二度寝をするために布団に潜り込んだ。
キリウスってば。新婚5日目くらい貴族の遊びに参加しなくてもいいのに、やっぱり根っから『狩り系』ってのが好きなんだろうな。
それにしても、毎日、ほとんど夜通しっていいくらい私と愛し合っていて、よくそんな体力があるものだ。さすがは肉食獣体育会系。
きっと、今頃嬉々として狩りに臨んでることだろう。
私は今のうちに寝かせていただく。
キリウスと同じペースでやってたらきっと過労死してしまう。毎晩睦合いすぎて過労死いたしました。などと、恥ずかしい理由で死にたくはないのだ。
ちなみに、忘れがちだがここは異世界。
私、本名は小島美里(25)。現代で平凡なOLをしていた。
遺憾ながらもこの異世界に連れて(?)こられて、ローマリウス国の王女に転移してしまい、なんやかんやあって結婚して、今は女王となっている。夫のキリウスは入り婿の国王だ。
これが小説だったら『平凡なOLの私が異世界でイケメン国王陛下に溺愛されてます。彼が絶倫すぎて死ぬかもしれません』みたいなタイトルがつきそうな現状だけど。
けれど異世界でも現実は甘くなく、私は毎日国務に追われている。
国王陛下といえどもキリウスは私のサポート的な存在だ。国を任すには彼は純粋すぎるし、考えが浅すぎるし、青臭い。『恋は盲目』とか言うけど、私は愛や恋で能力を測り間違える愚は犯さないほどの冷静さは持っている。
二度寝したらかえって頭がボ―ッとしてしまったので、朝の湯あみのお湯を熱めにしてもらった。
少女召使いたちに髪を洗ってもらっている間、自分の雪のように白い肌を眺めて溜息をついた。二の腕に、太ももに、胸元に、そしてきっと背中と首筋にもあるであろう、赤いあざのようなキスマーク。
まるで、レーナは俺のもの、と主張しているようなキリウスのマーキングだ。
服で隠せないところにつけられたらほんっと困る。
「レーナ様、お部屋に虫よけの薬草を炊きましょうか?最近虫刺されが多いです。せっかくのきれいな肌がかわいそうです」
年端もいかぬ少女召使いが私の赤いあざを見て心配そうに言ってくれた。
「そうね、虫に刺すのを控えるように言わないとね」
私のジョークだと思ったのか、少女たちが愛らしくコロコロと笑う。
なんて長閑な1日の始まり。
例えこの後様々な案件が私に降りかかろうとも、せめて朝のひと時だけは長閑を楽しみたい。
首筋を隠すために襟の高い落ち着いたベージュのドレスを選んで、召使いに着せてもらう。
自分一人では服も着ないという習慣にも慣れた。大の大人が服すら一人で着ないのか、って思われるだろうけど。もし「これから何でも一人でします」とか自立宣言なんかしたら、召使いの何人かがクビになってしまう。少女たちから私のお世話係という仕事を奪ってはいけない。
それぞれの仕事(つまり、生きる糧)を守るために私は身の周りのことすら一人ではできないのだ。
けれど、本当は私に1番必要な『侍女』という仕事をしてくれる人がいない。
やんごとなき私には身の周りの管理や雑務をしてくれるお付きの侍女が必要なのだ。
この異世界にきて、右も左も分からなかった私を支えてくれた、怖いけど有能な侍女のサラさんは今は『法務担当大臣』となって采配を振るってる。
侍女にしておくにはあまりにもったいないという私の判断で法務大臣になってもらったけど、今はすごく後悔してる。
悲しいくらい、サラさんに代わる人材がいないのだ。
侍女志望の貴族や豪商の子女と面接しても、どうにもピンとくる女性がいない。
前任が有能すぎた故の悲劇だ。
「あの・・・レーナ様」
召使いの気弱そうな呼びかけに私は物思いから覚めた。
「なに?」
「あのぅ・・・」
なんだか、とっても言いづらそうに召使いはモジモジして
「申し上げにくいのですが・・・」
「なに?どうしたの?」
「・・・背中のホックが・・・留められません」
蚊の鳴くような声で、告げられた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「え・・・っと。それって、どういう状態なのかしら?」
「・・・申し訳ございません。レーナ様、少し、お太りになられました?」
目の前にヒビが入ったような気がして私は立ち眩んだ。
急遽、ドレスを少しダブついた古臭いデザインのものに変えたけど。
これは大変な事態だ。私、というかレーナのドレスはどれも体型に合わせたフルオーダーメイドになっている。つまり、1着入らないということはどれも入らないってことになる。
しかも、この異世界には『コルセット』がない。コルセットでウエストをぎゅうぎゅう締め上げて、体型を変化させるという至高の荒業が使えない。
体型はもろに服のデザインと直結してしまう。
「太った」という事実も恐ろしいけど、体型に合わせたドレスをまた作るとなると、どれほどの予算が必要か・・・
膨大な金額が頭に浮かび眩暈でクラクラした。
きっと、財務担当大臣のニーサルが青白い不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にして「無駄な予算ですな」と切って捨てるに決まってる。
巨漢の厚生担当大臣のアランフェットは「ダイエット仲間ができた」と喜びそうだ。
キリウスはきっと「太ってもレーナは美しい」とか言うに決まってる。
それぞれのセリフが想像できて、私は溜息をついた。
太った原因はわかってる。
城の料理長の腕前がいいせいだ。何を作っても美味しい。女の身として羨ましいくらいだけど、女王は料理をさせてもらえないのだから、料理好きじゃなかった・・・いや、むしろ自炊は苦手だった自分にとってはラッキーだ。誰かの作ったものを食べていればいいなんて、夢のような話しだ。
でも・・・今、その夢のような生活のせいでピンチなのだけど。
クローゼットに入ってる1着で新車が買えるくらいの値段のするドレスを見ながら、これから少し(あくまで、少し)食べるのを控えよう、と私は決意した。
私はキリウスに折れそうなくらい細い腰を抱き寄せられるのが好きなのだ。
ハンマーで叩いても折れそうにない丈夫な腰になったらすごく困るのだ。
コンコンッと控えめなノックの音がした。
入室を許可すると、上品な物腰で一人の青年が入ってきた。青年と言っても齢は30前。17歳のレーナにとっては『おじさん』枠なのだろうけど、実年齢25歳の私にとってはアラサー仲間なので『青年』枠に入れたいところ。
「国王陛下がお戻りになられました」
青年は穏やかな口調でそう告げた。
「ありがとう、レオナード」
私がニッコリ微笑むとレオナードは藍色の瞳を眩しそうに細めてうつむいた。
彼はキリウスが自分の屋敷から連れてきた、キリウスの侍従だ。つまり、侍女の男版。キリウスの身の回りのことと雑務をする。
礼儀正しくて、何事も控えめで物静かな侍従はまるでキリウスとは正反対で、さぞかし傍若無人な主君に苦労しているだろうと推察される。
レオナードに付き添われて階下のバルコニーから中庭に出てみると、数人の貴族とキリウスの姿が見えた。
キリウスは機能性重視のシンプルな狩猟用の服を着てるけど、黒い長髪を後ろに束ねて弓を携えた精悍な姿は天上の美神に見える。
「ローマリウス国王陛下、おかえりなさいませ」
私は貴族たちの手前、気取った言葉でお迎えをした。
キリウスは私の傍に来ると「ただいま」と私の腰を引きよせ軽くキスをした。
軽く・・・
「ん」
軽く・・・って。
「んん」
軽く・・・!?
ちょっと、待って。長いよ、キス。ここは軽くでしょ。
「んんん~~っ」と声にならない私の抗議の声をキリウスは完全スルーするつもりのようだ。しなやかな腕がガッツリと私を拘束していて逃れられない。
このままでは庭の茂みに連れ込まれかねない。助けを求めて横目で貴族たちのほうを見たけど、みんなに視線を合わさないようにされた。
見て見ぬふりをするのが最善策と知っている貴族たちの対応だ。
「国王陛下、本日仕留められた獲物をレーナ様にお見せになられてはいかがですか?」
あくまで、柔らかい物腰でキリウスにストップをかけてくれたのはレオナードだった。
物足りなさそうに私をキスから解放すると「そうだったな、まず、獲物を見てもらおう」とキリウスは私の手を取り城の料理場のほうに歩き出した。
私はキリウスに手を引かれながら後ろを振り向き、感謝の意を込めてレオナードに会釈した。レオナードは「キリウス様の扱いならお任せ下さい」的な目線を私に返してきた。
さすが、長年キリウスの侍従をしているだけある。キリウスの扱いは私より上手かもしれない。
「どうだ、これは全部レーナのための獲物だ」
キリウスが誇らしげに指さしたのは、山と積まれた鳥や獣・・・つまり肉系食材だった。
「これで、今夜は調理長に存分に腕を振るってもらおう」
屈託なく笑うキリウスに、「わーうれしい」と私は棒読みの笑いで応えた。
今朝固めたダイエットの決意が瞬殺された気がした。
「ああ、それと」
もののついでのようにキリウスが言った。
「アレをレーナに預ける」
「あれ?」
「森の国境の近くで拾った」
彼が顎で示した先に茶色の布袋があった。小鹿くらいは入れられそうな大きさだ。よく見ると、呼吸しているみたいに布袋は上下している。
なにかの獣を生け捕ったのだろうか?
キリウスに聞こうとしたけど、彼は何事かを調理長と話していて後ろを向いている。しかたなく、布袋に近づき、その縛っている口紐をほどいて用心深く中を覗いてみた。
「!!」
中のものと目が合って、私は後ろずさった。
「え?え?なに!?」
私が愕然と見ていると布袋はゆっくり動いて、中から何かが這い出てきた。
それは
やせっぽちのみすぼらしい女の子だった。
けだるくあくびをして、私は隣に夫のキリウスがいないことに気づく。
あ、そうか、きょうは早朝から貴族たちとのつきあいで狩猟に出たんだった。と、ぼんやりとした頭で思い出し、私は二度寝をするために布団に潜り込んだ。
キリウスってば。新婚5日目くらい貴族の遊びに参加しなくてもいいのに、やっぱり根っから『狩り系』ってのが好きなんだろうな。
それにしても、毎日、ほとんど夜通しっていいくらい私と愛し合っていて、よくそんな体力があるものだ。さすがは肉食獣体育会系。
きっと、今頃嬉々として狩りに臨んでることだろう。
私は今のうちに寝かせていただく。
キリウスと同じペースでやってたらきっと過労死してしまう。毎晩睦合いすぎて過労死いたしました。などと、恥ずかしい理由で死にたくはないのだ。
ちなみに、忘れがちだがここは異世界。
私、本名は小島美里(25)。現代で平凡なOLをしていた。
遺憾ながらもこの異世界に連れて(?)こられて、ローマリウス国の王女に転移してしまい、なんやかんやあって結婚して、今は女王となっている。夫のキリウスは入り婿の国王だ。
これが小説だったら『平凡なOLの私が異世界でイケメン国王陛下に溺愛されてます。彼が絶倫すぎて死ぬかもしれません』みたいなタイトルがつきそうな現状だけど。
けれど異世界でも現実は甘くなく、私は毎日国務に追われている。
国王陛下といえどもキリウスは私のサポート的な存在だ。国を任すには彼は純粋すぎるし、考えが浅すぎるし、青臭い。『恋は盲目』とか言うけど、私は愛や恋で能力を測り間違える愚は犯さないほどの冷静さは持っている。
二度寝したらかえって頭がボ―ッとしてしまったので、朝の湯あみのお湯を熱めにしてもらった。
少女召使いたちに髪を洗ってもらっている間、自分の雪のように白い肌を眺めて溜息をついた。二の腕に、太ももに、胸元に、そしてきっと背中と首筋にもあるであろう、赤いあざのようなキスマーク。
まるで、レーナは俺のもの、と主張しているようなキリウスのマーキングだ。
服で隠せないところにつけられたらほんっと困る。
「レーナ様、お部屋に虫よけの薬草を炊きましょうか?最近虫刺されが多いです。せっかくのきれいな肌がかわいそうです」
年端もいかぬ少女召使いが私の赤いあざを見て心配そうに言ってくれた。
「そうね、虫に刺すのを控えるように言わないとね」
私のジョークだと思ったのか、少女たちが愛らしくコロコロと笑う。
なんて長閑な1日の始まり。
例えこの後様々な案件が私に降りかかろうとも、せめて朝のひと時だけは長閑を楽しみたい。
首筋を隠すために襟の高い落ち着いたベージュのドレスを選んで、召使いに着せてもらう。
自分一人では服も着ないという習慣にも慣れた。大の大人が服すら一人で着ないのか、って思われるだろうけど。もし「これから何でも一人でします」とか自立宣言なんかしたら、召使いの何人かがクビになってしまう。少女たちから私のお世話係という仕事を奪ってはいけない。
それぞれの仕事(つまり、生きる糧)を守るために私は身の周りのことすら一人ではできないのだ。
けれど、本当は私に1番必要な『侍女』という仕事をしてくれる人がいない。
やんごとなき私には身の周りの管理や雑務をしてくれるお付きの侍女が必要なのだ。
この異世界にきて、右も左も分からなかった私を支えてくれた、怖いけど有能な侍女のサラさんは今は『法務担当大臣』となって采配を振るってる。
侍女にしておくにはあまりにもったいないという私の判断で法務大臣になってもらったけど、今はすごく後悔してる。
悲しいくらい、サラさんに代わる人材がいないのだ。
侍女志望の貴族や豪商の子女と面接しても、どうにもピンとくる女性がいない。
前任が有能すぎた故の悲劇だ。
「あの・・・レーナ様」
召使いの気弱そうな呼びかけに私は物思いから覚めた。
「なに?」
「あのぅ・・・」
なんだか、とっても言いづらそうに召使いはモジモジして
「申し上げにくいのですが・・・」
「なに?どうしたの?」
「・・・背中のホックが・・・留められません」
蚊の鳴くような声で、告げられた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「え・・・っと。それって、どういう状態なのかしら?」
「・・・申し訳ございません。レーナ様、少し、お太りになられました?」
目の前にヒビが入ったような気がして私は立ち眩んだ。
急遽、ドレスを少しダブついた古臭いデザインのものに変えたけど。
これは大変な事態だ。私、というかレーナのドレスはどれも体型に合わせたフルオーダーメイドになっている。つまり、1着入らないということはどれも入らないってことになる。
しかも、この異世界には『コルセット』がない。コルセットでウエストをぎゅうぎゅう締め上げて、体型を変化させるという至高の荒業が使えない。
体型はもろに服のデザインと直結してしまう。
「太った」という事実も恐ろしいけど、体型に合わせたドレスをまた作るとなると、どれほどの予算が必要か・・・
膨大な金額が頭に浮かび眩暈でクラクラした。
きっと、財務担当大臣のニーサルが青白い不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にして「無駄な予算ですな」と切って捨てるに決まってる。
巨漢の厚生担当大臣のアランフェットは「ダイエット仲間ができた」と喜びそうだ。
キリウスはきっと「太ってもレーナは美しい」とか言うに決まってる。
それぞれのセリフが想像できて、私は溜息をついた。
太った原因はわかってる。
城の料理長の腕前がいいせいだ。何を作っても美味しい。女の身として羨ましいくらいだけど、女王は料理をさせてもらえないのだから、料理好きじゃなかった・・・いや、むしろ自炊は苦手だった自分にとってはラッキーだ。誰かの作ったものを食べていればいいなんて、夢のような話しだ。
でも・・・今、その夢のような生活のせいでピンチなのだけど。
クローゼットに入ってる1着で新車が買えるくらいの値段のするドレスを見ながら、これから少し(あくまで、少し)食べるのを控えよう、と私は決意した。
私はキリウスに折れそうなくらい細い腰を抱き寄せられるのが好きなのだ。
ハンマーで叩いても折れそうにない丈夫な腰になったらすごく困るのだ。
コンコンッと控えめなノックの音がした。
入室を許可すると、上品な物腰で一人の青年が入ってきた。青年と言っても齢は30前。17歳のレーナにとっては『おじさん』枠なのだろうけど、実年齢25歳の私にとってはアラサー仲間なので『青年』枠に入れたいところ。
「国王陛下がお戻りになられました」
青年は穏やかな口調でそう告げた。
「ありがとう、レオナード」
私がニッコリ微笑むとレオナードは藍色の瞳を眩しそうに細めてうつむいた。
彼はキリウスが自分の屋敷から連れてきた、キリウスの侍従だ。つまり、侍女の男版。キリウスの身の回りのことと雑務をする。
礼儀正しくて、何事も控えめで物静かな侍従はまるでキリウスとは正反対で、さぞかし傍若無人な主君に苦労しているだろうと推察される。
レオナードに付き添われて階下のバルコニーから中庭に出てみると、数人の貴族とキリウスの姿が見えた。
キリウスは機能性重視のシンプルな狩猟用の服を着てるけど、黒い長髪を後ろに束ねて弓を携えた精悍な姿は天上の美神に見える。
「ローマリウス国王陛下、おかえりなさいませ」
私は貴族たちの手前、気取った言葉でお迎えをした。
キリウスは私の傍に来ると「ただいま」と私の腰を引きよせ軽くキスをした。
軽く・・・
「ん」
軽く・・・って。
「んん」
軽く・・・!?
ちょっと、待って。長いよ、キス。ここは軽くでしょ。
「んんん~~っ」と声にならない私の抗議の声をキリウスは完全スルーするつもりのようだ。しなやかな腕がガッツリと私を拘束していて逃れられない。
このままでは庭の茂みに連れ込まれかねない。助けを求めて横目で貴族たちのほうを見たけど、みんなに視線を合わさないようにされた。
見て見ぬふりをするのが最善策と知っている貴族たちの対応だ。
「国王陛下、本日仕留められた獲物をレーナ様にお見せになられてはいかがですか?」
あくまで、柔らかい物腰でキリウスにストップをかけてくれたのはレオナードだった。
物足りなさそうに私をキスから解放すると「そうだったな、まず、獲物を見てもらおう」とキリウスは私の手を取り城の料理場のほうに歩き出した。
私はキリウスに手を引かれながら後ろを振り向き、感謝の意を込めてレオナードに会釈した。レオナードは「キリウス様の扱いならお任せ下さい」的な目線を私に返してきた。
さすが、長年キリウスの侍従をしているだけある。キリウスの扱いは私より上手かもしれない。
「どうだ、これは全部レーナのための獲物だ」
キリウスが誇らしげに指さしたのは、山と積まれた鳥や獣・・・つまり肉系食材だった。
「これで、今夜は調理長に存分に腕を振るってもらおう」
屈託なく笑うキリウスに、「わーうれしい」と私は棒読みの笑いで応えた。
今朝固めたダイエットの決意が瞬殺された気がした。
「ああ、それと」
もののついでのようにキリウスが言った。
「アレをレーナに預ける」
「あれ?」
「森の国境の近くで拾った」
彼が顎で示した先に茶色の布袋があった。小鹿くらいは入れられそうな大きさだ。よく見ると、呼吸しているみたいに布袋は上下している。
なにかの獣を生け捕ったのだろうか?
キリウスに聞こうとしたけど、彼は何事かを調理長と話していて後ろを向いている。しかたなく、布袋に近づき、その縛っている口紐をほどいて用心深く中を覗いてみた。
「!!」
中のものと目が合って、私は後ろずさった。
「え?え?なに!?」
私が愕然と見ていると布袋はゆっくり動いて、中から何かが這い出てきた。
それは
やせっぽちのみすぼらしい女の子だった。
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