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58話 生き返りの魔法
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お父さんの話しをこれ以上聞きたくないと思った。
話題を変えるために、私は私の本来の目的を思い出して、お父さんに尋ねた。
「ねえ、お父さん。私に『歪み』の呪いをかけたのは、なんで?・・・私、呪文がちゃんと正しく唱えられなくて、魔法使いの試験に合格できないんだ」
きっとお父さんは私に歪みの呪いをかけたことも忘れてしまっているんじゃないかって、私は勝手に思っていた。もしかしたら、深い意味なんてなかったのかもしれない、って。
「なんで・・・かって?」
お父さんは優しい声で言った。
その声はなぜだか、獲物を捕らえる食虫植物の甘い匂いを思わせた。
「それは、イリア、お前に魔法を使わせないためだよ」
え?
「・・・?・・・それって、どういうイミ」
「私はお前を魔法使いにしたくなかったんだ。人間と愛し合うことも認めず、魔法を自分たちだけで独占するマグノリア国の魔法使いなんかに」
「お父さん?」
「カリーナと愛し合ったせいで私はマグノリアでは罪人となった。本来なら永劫幽閉の刑だったが、カリーナに会わない、魔法を使わないという誓約のもとに幽閉を免れ、私は人間の世界に追放になった・・・」
そうだったんだ。
ギリアン国では魔法使いと交わった人間は処刑だった。
それだけ罪の重いことだった。
「魔法使いが人間の世界で魔法を使わないで生きていくというのがどんなに大変か・・・私は襤褸をまとい泥水をすすって生きてきたよ」
・・・・・私も、そうだった。
ギリアン国の警護団に追われて、森の中で草や虫を食べて、泥水をすすって生き延びた。
あの時の恐怖や惨めさが蘇って、私は唇を噛んだ。
「お前をマグノリア国の魔法使いにしたくなかった。だから、追放されたときに、禁を犯して、1度だけカリーナとお前に会いにいき、お前に呪いを施し、カリーナに別れを告げた」
そういうことだったんだ。
でも、私は・・・魔法使いになってしまった。
お父さんの思っていたことと違って。
お父さんの気持ちは分かるけど、今私が生きていかなきゃならないのはマグノリアだ。
「お父さん、ごめんなさい。私は魔法使いになりたいの。だから、呪いを解いて欲しいの」
お願いします、と私は言った。
話せばわかると思っていた。
私とお父さんは違うから。
「お前は・・・」
お父さんは不思議なモノを見るような目をして私を見た。
「イリア、お前は分からないのか?私の言ったことが。マグノリアが私たち親子にどんな酷いことをしたのか。憎いとは思わないのか?」
そう言われても、私を救ってくれて、私に生きる力を与えてくれたのは魔法国だ。そして、リュシエール様だ。
「私はカリーナを処刑から救えなかった。遅かった。カリーナの亡骸を連れ去った時に、私は気がついたんだ。なぜ、私は唯唯諾々とマグノリアに従っているんだ、と。私はもう魔法使いじゃない。マグノリアに従うことなどない、と。だから、魔法国が禁呪とされている『生き返りの魔法』を使ってカリーナを生き返らせようと思った。けれど、あの呪文が不完全だということは分かっている。あのままではカリーナは蘇らない、カリーナを生き返らせるには、魔法を完成させる必要があった」
お父さんは私を見てはいなかった。見えない何かに言い聞かせているみたいで、怖くなって私はお父さんの言葉を遮った。
「だから、子供を亡くした人や、王妃様を亡くした王様を利用したの?魔法を完成させる、実験をするために」
お父さんは私がいたことに気がついたように、ああ、と頷いて
「そうだよ。どっちも上手くはいかなかったが、収穫はあった」
笑った。
お父さんは満足げに笑った。
あんなにカチラノス国の王様も王妃様も苦しめて、人の命も奪ったのに。
それでも、笑えるんだ。
私は目の前のお父さんがもう自分の肉親だとは思えなくなった。
ただ、もう、早く、お父さんの施した呪いを解いてもらって、リュシエール様のところに帰りたい、と思った。
リュシエール様に会いたい。
「お父さん、お願い。私の呪いを解いて。私は、お父さんとは違うの。私は魔法使いになりたいの・・・自分で生きていく場所を決めたの」
「だめだ」
お父さんの冷たい声に私の体が凍ったように固まった。
「魔法使いになるのは許さない。しかし、呪いは解いてやろう」
えっ?
どういうこと?
「言っただろう・・・収穫はあった、と。私は生き返りの魔法を完成させる魔法術を見つけたんだよ」
うそ・・・今まで誰にも完成させられなかったのに?
「魔法術は完成させた。だけど、それには呪文を唱える者が二人必要なんだ。だから、お前を呼び寄せた。イリア、呪いを解くから、私に協力して、カリーナ・・・お母さんを生き返らせてくれ」
本当に、完成させたの?
怖さを忘れて、私は興味が先に立ってしまった。
もし本当に、完全に生き返らせることができたなら・・・
その魔法術があるというのなら・・・
まるで、炎天下の砂浜の中を歩き続けて、水を渇望するように、私は生き返りの魔法を知りたいと望んだ。
心の奥で鳴った警鐘に耳をふさいで、私はお父さんと向かい合った。
「どう、やるの?」
聞いてはいけないことを、私は聞いてしまった。
話題を変えるために、私は私の本来の目的を思い出して、お父さんに尋ねた。
「ねえ、お父さん。私に『歪み』の呪いをかけたのは、なんで?・・・私、呪文がちゃんと正しく唱えられなくて、魔法使いの試験に合格できないんだ」
きっとお父さんは私に歪みの呪いをかけたことも忘れてしまっているんじゃないかって、私は勝手に思っていた。もしかしたら、深い意味なんてなかったのかもしれない、って。
「なんで・・・かって?」
お父さんは優しい声で言った。
その声はなぜだか、獲物を捕らえる食虫植物の甘い匂いを思わせた。
「それは、イリア、お前に魔法を使わせないためだよ」
え?
「・・・?・・・それって、どういうイミ」
「私はお前を魔法使いにしたくなかったんだ。人間と愛し合うことも認めず、魔法を自分たちだけで独占するマグノリア国の魔法使いなんかに」
「お父さん?」
「カリーナと愛し合ったせいで私はマグノリアでは罪人となった。本来なら永劫幽閉の刑だったが、カリーナに会わない、魔法を使わないという誓約のもとに幽閉を免れ、私は人間の世界に追放になった・・・」
そうだったんだ。
ギリアン国では魔法使いと交わった人間は処刑だった。
それだけ罪の重いことだった。
「魔法使いが人間の世界で魔法を使わないで生きていくというのがどんなに大変か・・・私は襤褸をまとい泥水をすすって生きてきたよ」
・・・・・私も、そうだった。
ギリアン国の警護団に追われて、森の中で草や虫を食べて、泥水をすすって生き延びた。
あの時の恐怖や惨めさが蘇って、私は唇を噛んだ。
「お前をマグノリア国の魔法使いにしたくなかった。だから、追放されたときに、禁を犯して、1度だけカリーナとお前に会いにいき、お前に呪いを施し、カリーナに別れを告げた」
そういうことだったんだ。
でも、私は・・・魔法使いになってしまった。
お父さんの思っていたことと違って。
お父さんの気持ちは分かるけど、今私が生きていかなきゃならないのはマグノリアだ。
「お父さん、ごめんなさい。私は魔法使いになりたいの。だから、呪いを解いて欲しいの」
お願いします、と私は言った。
話せばわかると思っていた。
私とお父さんは違うから。
「お前は・・・」
お父さんは不思議なモノを見るような目をして私を見た。
「イリア、お前は分からないのか?私の言ったことが。マグノリアが私たち親子にどんな酷いことをしたのか。憎いとは思わないのか?」
そう言われても、私を救ってくれて、私に生きる力を与えてくれたのは魔法国だ。そして、リュシエール様だ。
「私はカリーナを処刑から救えなかった。遅かった。カリーナの亡骸を連れ去った時に、私は気がついたんだ。なぜ、私は唯唯諾々とマグノリアに従っているんだ、と。私はもう魔法使いじゃない。マグノリアに従うことなどない、と。だから、魔法国が禁呪とされている『生き返りの魔法』を使ってカリーナを生き返らせようと思った。けれど、あの呪文が不完全だということは分かっている。あのままではカリーナは蘇らない、カリーナを生き返らせるには、魔法を完成させる必要があった」
お父さんは私を見てはいなかった。見えない何かに言い聞かせているみたいで、怖くなって私はお父さんの言葉を遮った。
「だから、子供を亡くした人や、王妃様を亡くした王様を利用したの?魔法を完成させる、実験をするために」
お父さんは私がいたことに気がついたように、ああ、と頷いて
「そうだよ。どっちも上手くはいかなかったが、収穫はあった」
笑った。
お父さんは満足げに笑った。
あんなにカチラノス国の王様も王妃様も苦しめて、人の命も奪ったのに。
それでも、笑えるんだ。
私は目の前のお父さんがもう自分の肉親だとは思えなくなった。
ただ、もう、早く、お父さんの施した呪いを解いてもらって、リュシエール様のところに帰りたい、と思った。
リュシエール様に会いたい。
「お父さん、お願い。私の呪いを解いて。私は、お父さんとは違うの。私は魔法使いになりたいの・・・自分で生きていく場所を決めたの」
「だめだ」
お父さんの冷たい声に私の体が凍ったように固まった。
「魔法使いになるのは許さない。しかし、呪いは解いてやろう」
えっ?
どういうこと?
「言っただろう・・・収穫はあった、と。私は生き返りの魔法を完成させる魔法術を見つけたんだよ」
うそ・・・今まで誰にも完成させられなかったのに?
「魔法術は完成させた。だけど、それには呪文を唱える者が二人必要なんだ。だから、お前を呼び寄せた。イリア、呪いを解くから、私に協力して、カリーナ・・・お母さんを生き返らせてくれ」
本当に、完成させたの?
怖さを忘れて、私は興味が先に立ってしまった。
もし本当に、完全に生き返らせることができたなら・・・
その魔法術があるというのなら・・・
まるで、炎天下の砂浜の中を歩き続けて、水を渇望するように、私は生き返りの魔法を知りたいと望んだ。
心の奥で鳴った警鐘に耳をふさいで、私はお父さんと向かい合った。
「どう、やるの?」
聞いてはいけないことを、私は聞いてしまった。
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