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55話 居場所がわかった

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 「なんで16歳なんですか?」
 私は抗議も兼ねて、リュシエール様にそう尋ねてみた。
「だって僕、若い子が好きだもん」
 目の端にセレナーダさんの笑顔が引きつるのが見えて、私は焦った。
「だって、あと1年ないんですよ」
 1年で色々覚えなきゃならないなんて、無理だって。
「えーっ。あと1年あるんだよ?僕をそんなに我慢させたいの?」
「我慢・・・?」
「僕は早く、イリアとイイことしたいんだもん」
「はぁ!?」
「イリアは僕としたくないの?気持ちいいこと」
 う・・・そりゃあ・・・リュシエール様といっしょに寝るのは温かくて気持ちよくて。ずっとくっついていたいって思うけど。
「僕は公私ともにイリアといちゃいちゃしたいんだもん」
 あ・・・この人、すごい我がまま・・・。てか。リュシエール様って恋人にしたらこんな感じなの!?ベタベタっぷりはキリウス様に劣らないんじゃないの!?
 私はなんだかレーナ様の苦労がわかるような気がした。レーナ様は上手くキリウス様を御しているみたいに見えるけど、私には無理そうだ。
「と、いうことで。イリア、いっしょに晩ご飯食べよう。もうお腹ペコペコだよ」
 リュシエール様に言われて、もう晩ご飯の時間なんだってことに気がついた。寝てしまって、ちっとも進んでいない課題に頭を痛めながら、私はリュシエール様に上級魔法使い用の食堂に引きずられていった。




 私はまた、家に来ている
 私の生まれた家
 お母さんのベッドの横に立つ男の人
 あなたは誰?
 なんで、私の家にいるの?
 え?
 何か言ってる
 男の人が私に向かって何か・・・
 なんて言ってるの?
 ・・・・・・
 私の名前を呼んでるの?
 私に・・・来い、って言ってるの?



 「イリア様」
 え?
「どうされましたか?」
 え?なに?
 私は自分がベッドに横たわっているのに気がついた。
 カーテン越しの光が目を細めるほどに眩しくて、もうすっかり陽が上っていると分かった。セレナーダさんが起こしにきたんだ。
 でも、どうされた・・・って、いったい何でそんなことを聞くんだろう。
「私、なにかしてました?」
「イリア様が・・・寝言を繰り返していたので、悪い夢でもみていらっしゃるのかと」
 寝言?「私どんなことを、言ってました?」
「『あなたはだれ?』『そこに、いけばいいの?』とか・・・」
 あっ。
 私ははっきりと夢の内容を思い出した。
 眠るたびにずっと、見ている夢だ。
 私がいつもギリアン国の自分の家にいる夢だ。
 そして・・・
 誰かに呼ばれている。
 私に来い、と言っている。
 どうしよう。この夢、リュシエール様に話したほうがいいかな。
 でも、ただの夢だったら・・・
「イリア様、きょうは学校はお休みですか?」
 セレナーダさんの声で我に返った私は時計を見て飛びあがった。
「遅刻!!」
 身支度もそこそこに私はローブを纏って、魔法書を抱えて、学校区に瞬間移動した。
 
 ギリギリ、先生が教室に入る前になんとか間に合った私は、ほっ、と息をついて、ミディアのほうを窺った。昨日、先生に呼び出されたことをミディアが心配してたから、朝話そうと思ってたのに・・・
 ミディアに小さく手を振ってみたけど、気がつかなかったみたいで、反応がなかった。
 治療魔法の午前の授業が終わると、私はミディアの席に駆けていった。
「ミディア、いっしょにお昼ごはん、食べよう」
 いつもなら「うん」と答えてくれるミディアが視線を外して「ごめん」と口をつぐんだ。
「え?どうしたの、ミディア」
 ミディアはうつむいたまま、小さな声で言った「これからご飯は他の人と食べるから」
 ・・・・えっ?
「どうして?・・・あ・・・私、何かした?」
 私、ミディアに嫌われるようなことをしたんだろうか。
 ミディアは首を横に振って
「イリアのせいじゃないの・・・でも、ダメなの・・・昨日、アレから私も呼び出されて・・・イリアは魔教皇様の妻になる子だから・・・外級魔法使いの私とじゃ釣り合いがとれないから・・・だから、もう・・・イリア・・・さまと、友だちでいちゃ、ダメだって」
 最後のほうは泣き声だった。
 私は悲しくなるより、我慢できないほどの怒りが湧いてきた。
 なにが、釣り合い?
 友だちに外級も特級も関係ないのに!
「ミディア。私はミディアしか友だちはいないよ。大切な友だちだよ。私、リュシエール様に文句言ってくる!」
 ミディアが目を見開いて何か言おうと口を開けたのが見えたけど、私は怒りに任せてリュシエール様の部屋に移動した。

 「ヒドイです!!」
 部屋に入るなり、長椅子に寝そべって羊皮紙っぽい物を読んでいたリュシエール様にそう怒鳴った。
「・・・?イリア、まず、ご挨拶しようよ。『ヒドイです』はそれから言ってね」
「・・・こ、こんにちは、リュシエール様。ヒドイです」
「こんにちは、イリア。で、何がヒドイのかな?」
 間の抜けた会話になってしまったことで、私の怒りの熱は冷めてしまい、ミディアのことを静かに伝えた。
「ふーん・・・」
 私の話しを聞いたリュシエール様は青緑色の瞳に妖しい光を宿した。
「誰かが、いらない気を回したね」
 穏やかな口調だったのに、私はなぜか全身に寒気が走って、腕に鳥肌がたった。
「・・・じゃ・・・リュシエール様が、言ったことじゃないんですね?」
「僕がイリアの怒るようなことすると思う?僕がやったと思われたなら心外だな~」
 いつもの軽い口調に、ほっとして私は「ごめんなさい、早とちりしました」
 そういえば、ミディアが何か言おうとしたのは、きっと「リュシエール様じゃない」ってことだったんだ。
「イリアがどんな友だちを作ろうと、かまわないよ。文句を言う奴はみんな僕が黙らせるから」
 どんな手段で?って聞くのがとても恐ろしくて私は、無表情になった。
 「それよりも。イリア、とてもいいところに来たよ。君を呼ぼうって思ってたんだ」
「?」
「これ、さっき連絡が入ったんだ」
 読んでいた、羊皮紙のような紙をヒラヒラさせて、リュシエール様が言った。
「君の父親の居場所がわかったよ」
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