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44話 婚礼の儀
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「リュシエール様、イリア様、レオナード様とフラン様の婚礼の儀が始まります。リュシエール様は予定通りお願いします。イリア様は参列席にお着きください、と女王陛下のお言葉でございます」
部屋で私にでも唱えられる簡単な魔法の呪文を探していた私とリュミエール様に、老婦人のような召使いがレーナ様の伝言を告げにきた。
「やっと僕の出番だね」
リュシエール様がうんっと伸びをしてから、私のほうを見て「イリア、そのドレスには僕があげたティアラが似合うと思うよ」
「あ、はい・・・ティアラは衣装棚の引き出しに仕舞って」
と、私は言いかけて、ん?と思った。
今、リュシエール様は「あげた」と言った?「貸して」じゃなくて?
確かティアラはお母さまのモノだって言ってた。そんな大切なモノを私にくれるわけがないよね。
「ごめんなさい、お借りします。マグノリアに戻ったらお返しします」
今度はリュシエール様が「ん?」って顔になった。
「なんで?ティアラはイリアにあげたんだよ?それとも好みじゃなかった?」
そんな、滅相もない。
「えっ、でも、とっても大切なものなんじゃないんですか?私なんかにあげちゃダメです」
リュシエール様は、はーーっと息を吐いて
「そこは『わ~ありがとう~大好きよ♡リュミエール様♡』って言うとこじゃないかな?イリアは自分を卑下しすぎだよ。そのティアラが似合うのは、イリアしかいないって思ったから君にあげるんだよ。男の僕が持っててもしょうがないしね。・・・というか、イリアに持っていてもらいたいんだ」
・・・どういう意味にとったらいいんだろう。
ただの「似合うからあげる」なのか、「大切なものだから持っていて欲しい」なのか。
それをリュシエール様に聞くのも何だかヘンな感じがして、どうして私はこんなことで悩むんだろうって、自分が嫌になってきた。
衣装棚の中の引き出しから取り出したティアラは、クリスタルで作られていて緑色の宝石が散りばめられている。よく見たら、ものすごく高価なものだってわかる。
「かして」
リュシエール様が手を差し出したので、私はティアラを渡した。
私の目の前に立ったリュシエール様が私の髪にティアラを着けてくれた。
私は胸がドキドキして、顔も上げられずに「ありがとうございます」と小さい声でお礼を言った。
「顔を見せてよ」
リュシエール様が不意に私の顎に手をかけて、顔を上に向かせた。天使のような・・・いや、悪魔のような、美貌が目の前にあって、私はうろたえて、何か言わなきゃと思っても声が出なかった。
リュシエール様の妖しい光を放つ青緑色の瞳に、吸い込まれる怖さから逃れるように、私は視線を外した。
「よく似合ってるよ」
リュシエール様がふっと笑って、顎から手を外した。私は自分の身体が緊張でカチカチになっているのに気がついた。自分でも気がつかないうちに息も止めていたのか、呼吸が苦しくなっていた。
キスをされるのかと思ったんだ、と後で気がついた。
でも、それは私の思い違いだったみたい。
リュシエール様は「イリア、急がないと参列席に座る前に式が始まっちゃうよ。僕は僕の仕事があるから一緒にはいけないけど、我慢してね」そう言って、私の返事も待たずに瞬間移動の魔法で消えてしまった。
私も魔法で赤い広間の扉の前に移動すると、音を立てないように静かに広間の扉を開けた。
中にはすでに昨日晩餐で見た、レオナードさんとフランさんの親族の人たちが座っていて、なるべく静かに入ったはずの私のほうへ視線を向けた。
私はペコリとお辞儀をして、並べられた長椅子の一番最後に座った。
前の方には親族の他にも7人の大臣様たちの姿も見えて、結構、大がかりな式だということがわかった。
そりゃあ、ローマリウス国の国王と女王が直々に執り行うのだから、下手な式典よりは格式が高いに決まってる。
そんな席に私なんかが参列してもいいのか、不安になってしまった。
後ろ姿だけど、親族の人たちも緊張しているのがわかる。子供たちも口もきかないで真っ直ぐに前を向いている。
しばらく所在なく俯いていたら、急に広間が暗くなった。
まだお昼前のはずなのに、まるで陽が落ちる前のような暗さだ。参列席の親族から不安そうな声が低く聞こえた。
でも、私は分かる。
これは魔法だ。リュシエール様の魔法だ。
一番前の祭壇が光が差したように明るくなった。そこにはいつの間にか国王陛下と女王陛下が立っていた。
みんなが慌てて立ち上がろうとするのを国王のキリウス様が手で制止して、
「これより、ブラッシュ家のレオナードとカリサドル家のフランの婚礼の儀を執り行う」
キリウス様も厳かな声が出せるのだと、私は妙なところに感心して、澄ました顔のレーナ様を見た。
「ご参列の皆さま。新郎新婦の入場です」レーナ様がそう言うと、日差しのような光が広間の扉に移動して、明るく照らされた扉が開いた。
そこには戸惑いを隠せないレオナードさんとフランさんの姿があって、私は、違和感を覚えた。
服が、今旅から帰ってきたばかりの普段着だったから。
こんなに豪華な広間にあまりにも相応しくない身なりの二人に、他の参列者も訝し気な視線を送っている。
何事にも気配りするレーナ様がこんな失態をするなんて、あり得ない。
そう思っていたら、レオナードさんとフランさんが白い光に包まれて・・・
白い、魔法。
リュシエール様だ。
白い光が散った後には、結婚の衣装を纏ったレオナードさんとフランさんがいた。
レオナードさんは漆黒の礼服、フランさんは真っ白な裾の長いドレスに、頭には白いレースのヴェールをつけている。
参列席から、感嘆の声が上がった。
レオナードさんもフランさんもお互いを見て驚いている。きっと、レーナ様は二人を驚かすために何も説明していなかったに違いない。
拍手の中、二人が腕を組んでキリウス様の待つ祭壇へ向かって歩き出すと、広間に美しい楽の音が流れた。
迷いのない表情で真っ直ぐ前を見て歩くレオナードさんとフランさんはとってもきれいだ。
二人が歩いた後、深紅のじゅうたんは、風にのる赤い花びらのように舞い散って、私たちの頭上に降り注いだ。
フランさんの真っ白なドレスに赤い花びらがつくと、ドレスに散りばめられた赤い宝石のようでキレイだった。
やっぱりリュシエール様の魔法はすごい。
レオナードさんとフランさんは祭壇に上がって、キリウス様とレーナ様の前に立つと深く礼をした。
部屋で私にでも唱えられる簡単な魔法の呪文を探していた私とリュミエール様に、老婦人のような召使いがレーナ様の伝言を告げにきた。
「やっと僕の出番だね」
リュシエール様がうんっと伸びをしてから、私のほうを見て「イリア、そのドレスには僕があげたティアラが似合うと思うよ」
「あ、はい・・・ティアラは衣装棚の引き出しに仕舞って」
と、私は言いかけて、ん?と思った。
今、リュシエール様は「あげた」と言った?「貸して」じゃなくて?
確かティアラはお母さまのモノだって言ってた。そんな大切なモノを私にくれるわけがないよね。
「ごめんなさい、お借りします。マグノリアに戻ったらお返しします」
今度はリュシエール様が「ん?」って顔になった。
「なんで?ティアラはイリアにあげたんだよ?それとも好みじゃなかった?」
そんな、滅相もない。
「えっ、でも、とっても大切なものなんじゃないんですか?私なんかにあげちゃダメです」
リュシエール様は、はーーっと息を吐いて
「そこは『わ~ありがとう~大好きよ♡リュミエール様♡』って言うとこじゃないかな?イリアは自分を卑下しすぎだよ。そのティアラが似合うのは、イリアしかいないって思ったから君にあげるんだよ。男の僕が持っててもしょうがないしね。・・・というか、イリアに持っていてもらいたいんだ」
・・・どういう意味にとったらいいんだろう。
ただの「似合うからあげる」なのか、「大切なものだから持っていて欲しい」なのか。
それをリュシエール様に聞くのも何だかヘンな感じがして、どうして私はこんなことで悩むんだろうって、自分が嫌になってきた。
衣装棚の中の引き出しから取り出したティアラは、クリスタルで作られていて緑色の宝石が散りばめられている。よく見たら、ものすごく高価なものだってわかる。
「かして」
リュシエール様が手を差し出したので、私はティアラを渡した。
私の目の前に立ったリュシエール様が私の髪にティアラを着けてくれた。
私は胸がドキドキして、顔も上げられずに「ありがとうございます」と小さい声でお礼を言った。
「顔を見せてよ」
リュシエール様が不意に私の顎に手をかけて、顔を上に向かせた。天使のような・・・いや、悪魔のような、美貌が目の前にあって、私はうろたえて、何か言わなきゃと思っても声が出なかった。
リュシエール様の妖しい光を放つ青緑色の瞳に、吸い込まれる怖さから逃れるように、私は視線を外した。
「よく似合ってるよ」
リュシエール様がふっと笑って、顎から手を外した。私は自分の身体が緊張でカチカチになっているのに気がついた。自分でも気がつかないうちに息も止めていたのか、呼吸が苦しくなっていた。
キスをされるのかと思ったんだ、と後で気がついた。
でも、それは私の思い違いだったみたい。
リュシエール様は「イリア、急がないと参列席に座る前に式が始まっちゃうよ。僕は僕の仕事があるから一緒にはいけないけど、我慢してね」そう言って、私の返事も待たずに瞬間移動の魔法で消えてしまった。
私も魔法で赤い広間の扉の前に移動すると、音を立てないように静かに広間の扉を開けた。
中にはすでに昨日晩餐で見た、レオナードさんとフランさんの親族の人たちが座っていて、なるべく静かに入ったはずの私のほうへ視線を向けた。
私はペコリとお辞儀をして、並べられた長椅子の一番最後に座った。
前の方には親族の他にも7人の大臣様たちの姿も見えて、結構、大がかりな式だということがわかった。
そりゃあ、ローマリウス国の国王と女王が直々に執り行うのだから、下手な式典よりは格式が高いに決まってる。
そんな席に私なんかが参列してもいいのか、不安になってしまった。
後ろ姿だけど、親族の人たちも緊張しているのがわかる。子供たちも口もきかないで真っ直ぐに前を向いている。
しばらく所在なく俯いていたら、急に広間が暗くなった。
まだお昼前のはずなのに、まるで陽が落ちる前のような暗さだ。参列席の親族から不安そうな声が低く聞こえた。
でも、私は分かる。
これは魔法だ。リュシエール様の魔法だ。
一番前の祭壇が光が差したように明るくなった。そこにはいつの間にか国王陛下と女王陛下が立っていた。
みんなが慌てて立ち上がろうとするのを国王のキリウス様が手で制止して、
「これより、ブラッシュ家のレオナードとカリサドル家のフランの婚礼の儀を執り行う」
キリウス様も厳かな声が出せるのだと、私は妙なところに感心して、澄ました顔のレーナ様を見た。
「ご参列の皆さま。新郎新婦の入場です」レーナ様がそう言うと、日差しのような光が広間の扉に移動して、明るく照らされた扉が開いた。
そこには戸惑いを隠せないレオナードさんとフランさんの姿があって、私は、違和感を覚えた。
服が、今旅から帰ってきたばかりの普段着だったから。
こんなに豪華な広間にあまりにも相応しくない身なりの二人に、他の参列者も訝し気な視線を送っている。
何事にも気配りするレーナ様がこんな失態をするなんて、あり得ない。
そう思っていたら、レオナードさんとフランさんが白い光に包まれて・・・
白い、魔法。
リュシエール様だ。
白い光が散った後には、結婚の衣装を纏ったレオナードさんとフランさんがいた。
レオナードさんは漆黒の礼服、フランさんは真っ白な裾の長いドレスに、頭には白いレースのヴェールをつけている。
参列席から、感嘆の声が上がった。
レオナードさんもフランさんもお互いを見て驚いている。きっと、レーナ様は二人を驚かすために何も説明していなかったに違いない。
拍手の中、二人が腕を組んでキリウス様の待つ祭壇へ向かって歩き出すと、広間に美しい楽の音が流れた。
迷いのない表情で真っ直ぐ前を見て歩くレオナードさんとフランさんはとってもきれいだ。
二人が歩いた後、深紅のじゅうたんは、風にのる赤い花びらのように舞い散って、私たちの頭上に降り注いだ。
フランさんの真っ白なドレスに赤い花びらがつくと、ドレスに散りばめられた赤い宝石のようでキレイだった。
やっぱりリュシエール様の魔法はすごい。
レオナードさんとフランさんは祭壇に上がって、キリウス様とレーナ様の前に立つと深く礼をした。
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