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35話 帰城、そして叶わない願い
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ローマリウスのお城の広間に私たちは戻った。
広間にはレーナ様が一人、うずくまるような姿勢で待っていて、私たちが現れると立ち上がって走り寄ってきた。
「お帰りなさい・・・みんな無事なのね」
「はい、レーナ様」
「今、帰った」
私といっしょに瞬間移動したキリウス様はレーナ様を抱き寄せてキスをした。
本当によかった、キリウス様を無事にレーナ様の元に帰すことができて。
私は、自分が魔法使いだったことを初めて誇らしいと思えた。レーナ様のお役に立てたから。
だけど、レーナ様は不安げな顔でキリウス様に「ごめんなさい」と言った。
「なぜ、謝る?」
不思議そうに尋ねたキリウス様に、レーナ様は
「だって、私がリュシエールたちといっしょにカチラノスに行かなかったこと、キリウスは怒ってない?私がキリウスのことを心配してないんじゃないかって思ってない?」
キリウス様は、とっても優しい目をしてレーナ様を強く抱きしめた。
「そんなこと思っていない。貴女は俺の子のために行動を控えてくれたのだろう?それはつまり、俺のためでもあるから・・・俺はそんな貴女を愛している」
ああ・・・なんか・・・
「キリウス、大人になったね~」
私の横でリュシエール様がニマニマとした笑いを浮かべながらそう言った。
うん・・・私もそう思った。
以前のキリウス様なら「レーナは俺が大事じゃないのか」とかって不機嫌になったと思う。女王を溺愛してる国王って有名だったけど、今のほうがずっとずっと、キリウス様の愛情が深いような気がする。
そばにいなくても、お心が通じてる。そんな感じがする。
私は横のリュシエール様をチラと見て、胸が痛くなった。私とリュシエール様はそんな関係にはなれないんだな、って思うとなんだか切ない。
「そういえば、レオナードとフランは・・・どうしたの?」
レーナ様が私たちの方を向いて尋ねた。
「あの二人は瞬間移動の魔法だと気持ち悪くなっちゃうんだってさ。で、カチラノスに残してきたから、ゆっくり帰ってくるんじゃない?」
答えたリュシエール様に、レーナ様がニッコリと笑って
「それは、都合がいいわ!二人に内緒でやってしまいたいことがあったから・・・。みんなも協力してくれると嬉しいんだけど」
むろん、私はレーナ様のお願いならなんだってきく。
それはリュシエール様もキリウス様もいっしょだ。天敵のような二人だけど、この時ばかりは
「もちろん」という言葉が重なった。
「じゃあ、詳しいことは朝起きてから話しましょう。今夜はみんな疲れたでしょ。もう寝ましょう」
レーナ様に言われて、もうすっかり朝に近い時間になっていることに気がついた。
キリウス様がレーナ様を抱きかかえてお部屋に向かいながら「アリーシャはどうしてる?」と尋ねて、「今夜は父が見てくれてるわ。さっきまで夜泣きが大変だったみたいだったけど」とレーナ様がクスクス笑いながら答えていた。
じぃじと軽く言ってるけど、前国王様なんだよね。なんか、やっぱりレーナ様の王室は普通とは違うな、って私は思った。
「じゃあ、朝までは二人きりだな。久しぶりにがんばるか」
キリウス様の言葉に私は「?」となった。
え?寝るんじゃないの?
今から何をがんばるんだろう?
「イリア、今のは聞かなかったことにして、僕たちも部屋に引き上げよう」
リュシエール様がなんだか呆れたような顔をしながら私に部屋に向かうように促した。
色んなことがあったから、身体は疲れているけど、気分は高ぶっていて眠いって感じはなかったのだけど。
それでもリュシエール様に「イリア、また僕といっしょに寝たい?」って聞かれて、私は「ハイ」と元気よく即答した。
部屋に戻って、パジャマに着替えて・・・(パジャマは洗ってくれてたみたいで、お日様の暖かな匂いがした。)リュシエール様といっしょにベッドに潜りこんだら、私は無性にお話がしたくなった。
「リュシエール様。カチラノスの王様は今頃はどうしていらっしゃるかしら」
「さあね。もう、僕たちには関係ない・・・と、言いたいとこだけど。逸れ魔導士が関わっているなら、放ってもおけないね。後で魔法国の誰かにカチラノスに行って詳しく話しを聞くように言っとくよ」
・・・・
そういうことじゃなくて、私が言いたかったのは・・・
私は喪失感に自分の顔が曇るのを感じた。
「それとね、イリア」
リュシエール様は私の背中に腕を回すと、とんとんとあやすように軽く叩いて言った。
「愛する人を亡くした悲しみは自分で乗り越えるしかないんだよ。君が心配に思う気持ちは尊いと思うけど、僕たちができることは何もないんだ」
リュシエール様はちゃんと私の言いたいこと、分かってくれてた。
私の背中に回した手がとても温かくて、私はすごく心が軽くなった。
「王様の悲しみはいつかは癒える?」
「君だって、お母さんを亡くした悲しみから立ち上がって、今、笑えているでしょ」
あ
うん、そうだ。
「レーナ様やリュシエール様がいらしたから、私は・・・今が楽しい」
「うん。だから、きっとカチラノス王もいつか笑える日が来るから。大丈夫だよ」
そうかも・・・ううん、きっと、そうだ。
リュシエール様が言うなら、きっとそうなるって、私には思えた。
リュシエール様はみんなを虜にするほどの美しさを持ってるけど、それは私にとっては意味はなくて。こうやって私とお話しをしてくれて、私を温かい気持ちにさせてくれるリュシエール様が私は大好き。
ずっと、リュシエール様とこんな風にいっしょにいたい・・・という叶わない願いを胸の奥に閉じ込めて、私は心地いい腕の中で眠りについた。
広間にはレーナ様が一人、うずくまるような姿勢で待っていて、私たちが現れると立ち上がって走り寄ってきた。
「お帰りなさい・・・みんな無事なのね」
「はい、レーナ様」
「今、帰った」
私といっしょに瞬間移動したキリウス様はレーナ様を抱き寄せてキスをした。
本当によかった、キリウス様を無事にレーナ様の元に帰すことができて。
私は、自分が魔法使いだったことを初めて誇らしいと思えた。レーナ様のお役に立てたから。
だけど、レーナ様は不安げな顔でキリウス様に「ごめんなさい」と言った。
「なぜ、謝る?」
不思議そうに尋ねたキリウス様に、レーナ様は
「だって、私がリュシエールたちといっしょにカチラノスに行かなかったこと、キリウスは怒ってない?私がキリウスのことを心配してないんじゃないかって思ってない?」
キリウス様は、とっても優しい目をしてレーナ様を強く抱きしめた。
「そんなこと思っていない。貴女は俺の子のために行動を控えてくれたのだろう?それはつまり、俺のためでもあるから・・・俺はそんな貴女を愛している」
ああ・・・なんか・・・
「キリウス、大人になったね~」
私の横でリュシエール様がニマニマとした笑いを浮かべながらそう言った。
うん・・・私もそう思った。
以前のキリウス様なら「レーナは俺が大事じゃないのか」とかって不機嫌になったと思う。女王を溺愛してる国王って有名だったけど、今のほうがずっとずっと、キリウス様の愛情が深いような気がする。
そばにいなくても、お心が通じてる。そんな感じがする。
私は横のリュシエール様をチラと見て、胸が痛くなった。私とリュシエール様はそんな関係にはなれないんだな、って思うとなんだか切ない。
「そういえば、レオナードとフランは・・・どうしたの?」
レーナ様が私たちの方を向いて尋ねた。
「あの二人は瞬間移動の魔法だと気持ち悪くなっちゃうんだってさ。で、カチラノスに残してきたから、ゆっくり帰ってくるんじゃない?」
答えたリュシエール様に、レーナ様がニッコリと笑って
「それは、都合がいいわ!二人に内緒でやってしまいたいことがあったから・・・。みんなも協力してくれると嬉しいんだけど」
むろん、私はレーナ様のお願いならなんだってきく。
それはリュシエール様もキリウス様もいっしょだ。天敵のような二人だけど、この時ばかりは
「もちろん」という言葉が重なった。
「じゃあ、詳しいことは朝起きてから話しましょう。今夜はみんな疲れたでしょ。もう寝ましょう」
レーナ様に言われて、もうすっかり朝に近い時間になっていることに気がついた。
キリウス様がレーナ様を抱きかかえてお部屋に向かいながら「アリーシャはどうしてる?」と尋ねて、「今夜は父が見てくれてるわ。さっきまで夜泣きが大変だったみたいだったけど」とレーナ様がクスクス笑いながら答えていた。
じぃじと軽く言ってるけど、前国王様なんだよね。なんか、やっぱりレーナ様の王室は普通とは違うな、って私は思った。
「じゃあ、朝までは二人きりだな。久しぶりにがんばるか」
キリウス様の言葉に私は「?」となった。
え?寝るんじゃないの?
今から何をがんばるんだろう?
「イリア、今のは聞かなかったことにして、僕たちも部屋に引き上げよう」
リュシエール様がなんだか呆れたような顔をしながら私に部屋に向かうように促した。
色んなことがあったから、身体は疲れているけど、気分は高ぶっていて眠いって感じはなかったのだけど。
それでもリュシエール様に「イリア、また僕といっしょに寝たい?」って聞かれて、私は「ハイ」と元気よく即答した。
部屋に戻って、パジャマに着替えて・・・(パジャマは洗ってくれてたみたいで、お日様の暖かな匂いがした。)リュシエール様といっしょにベッドに潜りこんだら、私は無性にお話がしたくなった。
「リュシエール様。カチラノスの王様は今頃はどうしていらっしゃるかしら」
「さあね。もう、僕たちには関係ない・・・と、言いたいとこだけど。逸れ魔導士が関わっているなら、放ってもおけないね。後で魔法国の誰かにカチラノスに行って詳しく話しを聞くように言っとくよ」
・・・・
そういうことじゃなくて、私が言いたかったのは・・・
私は喪失感に自分の顔が曇るのを感じた。
「それとね、イリア」
リュシエール様は私の背中に腕を回すと、とんとんとあやすように軽く叩いて言った。
「愛する人を亡くした悲しみは自分で乗り越えるしかないんだよ。君が心配に思う気持ちは尊いと思うけど、僕たちができることは何もないんだ」
リュシエール様はちゃんと私の言いたいこと、分かってくれてた。
私の背中に回した手がとても温かくて、私はすごく心が軽くなった。
「王様の悲しみはいつかは癒える?」
「君だって、お母さんを亡くした悲しみから立ち上がって、今、笑えているでしょ」
あ
うん、そうだ。
「レーナ様やリュシエール様がいらしたから、私は・・・今が楽しい」
「うん。だから、きっとカチラノス王もいつか笑える日が来るから。大丈夫だよ」
そうかも・・・ううん、きっと、そうだ。
リュシエール様が言うなら、きっとそうなるって、私には思えた。
リュシエール様はみんなを虜にするほどの美しさを持ってるけど、それは私にとっては意味はなくて。こうやって私とお話しをしてくれて、私を温かい気持ちにさせてくれるリュシエール様が私は大好き。
ずっと、リュシエール様とこんな風にいっしょにいたい・・・という叶わない願いを胸の奥に閉じ込めて、私は心地いい腕の中で眠りについた。
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