上 下
35 / 64

35話 帰城、そして叶わない願い

しおりを挟む
 ローマリウスのお城の広間に私たちは戻った。
 広間にはレーナ様が一人、うずくまるような姿勢で待っていて、私たちが現れると立ち上がって走り寄ってきた。
「お帰りなさい・・・みんな無事なのね」
「はい、レーナ様」
「今、帰った」
 私といっしょに瞬間移動したキリウス様はレーナ様を抱き寄せてキスをした。
 本当によかった、キリウス様を無事にレーナ様の元に帰すことができて。
 私は、自分が魔法使いだったことを初めて誇らしいと思えた。レーナ様のお役に立てたから。 
 だけど、レーナ様は不安げな顔でキリウス様に「ごめんなさい」と言った。
「なぜ、謝る?」
 不思議そうに尋ねたキリウス様に、レーナ様は
「だって、私がリュシエールたちといっしょにカチラノスに行かなかったこと、キリウスは怒ってない?私がキリウスのことを心配してないんじゃないかって思ってない?」
 キリウス様は、とっても優しい目をしてレーナ様を強く抱きしめた。
「そんなこと思っていない。貴女は俺の子アリーシャのために行動を控えてくれたのだろう?それはつまり、俺のためでもあるから・・・俺はそんな貴女を愛している」
 ああ・・・なんか・・・
「キリウス、大人になったね~」
 私の横でリュシエール様がニマニマとした笑いを浮かべながらそう言った。
 うん・・・私もそう思った。
 以前のキリウス様なら「レーナは俺が大事じゃないのか」とかって不機嫌になったと思う。女王を溺愛してる国王って有名だったけど、今のほうがずっとずっと、キリウス様の愛情が深いような気がする。
 そばにいなくても、お心が通じてる。そんな感じがする。
 私は横のリュシエール様をチラと見て、胸が痛くなった。私とリュシエール様はそんな関係にはなれないんだな、って思うとなんだか切ない。
 「そういえば、レオナードとフランは・・・どうしたの?」
 レーナ様が私たちの方を向いて尋ねた。
「あの二人は瞬間移動の魔法だと気持ち悪くなっちゃうんだってさ。で、カチラノスに残してきたから、ゆっくり帰ってくるんじゃない?」
 答えたリュシエール様に、レーナ様がニッコリと笑って
「それは、都合がいいわ!二人に内緒でやってしまいたいことがあったから・・・。みんなも協力してくれると嬉しいんだけど」
 むろん、私はレーナ様のお願いならなんだってきく。
 それはリュシエール様もキリウス様もいっしょだ。天敵のような二人だけど、この時ばかりは
「もちろん」という言葉が重なった。
「じゃあ、詳しいことは朝起きてから話しましょう。今夜はみんな疲れたでしょ。もう寝ましょう」
 レーナ様に言われて、もうすっかり朝に近い時間になっていることに気がついた。
 キリウス様がレーナ様を抱きかかえてお部屋に向かいながら「アリーシャはどうしてる?」と尋ねて、「今夜はじぃじが見てくれてるわ。さっきまで夜泣きが大変だったみたいだったけど」とレーナ様がクスクス笑いながら答えていた。
 じぃじと軽く言ってるけど、前国王様なんだよね。なんか、やっぱりレーナ様の王室は普通とは違うな、って私は思った。
「じゃあ、朝までは二人きりだな。久しぶりにがんばるか」
 キリウス様の言葉に私は「?」となった。
 え?寝るんじゃないの?
 今から何をがんばるんだろう?
「イリア、今のは聞かなかったことにして、僕たちも部屋に引き上げよう」
 リュシエール様がなんだか呆れたような顔をしながら私に部屋に向かうように促した。
 色んなことがあったから、身体は疲れているけど、気分は高ぶっていて眠いって感じはなかったのだけど。
 それでもリュシエール様に「イリア、また僕といっしょに寝たい?」って聞かれて、私は「ハイ」と元気よく即答した。

 部屋に戻って、パジャマに着替えて・・・(パジャマは洗ってくれてたみたいで、お日様の暖かな匂いがした。)リュシエール様といっしょにベッドに潜りこんだら、私は無性にお話がしたくなった。
「リュシエール様。カチラノスの王様は今頃はどうしていらっしゃるかしら」
「さあね。もう、僕たちには関係ない・・・と、言いたいとこだけど。逸れ魔導士が関わっているなら、放ってもおけないね。後で魔法国の誰かにカチラノスに行って詳しく話しを聞くように言っとくよ」
 ・・・・
 そういうことじゃなくて、私が言いたかったのは・・・
 私は喪失感に自分の顔が曇るのを感じた。
「それとね、イリア」
 リュシエール様は私の背中に腕を回すと、とんとんとあやすように軽く叩いて言った。
「愛する人を亡くした悲しみは自分で乗り越えるしかないんだよ。君が心配に思う気持ちは尊いと思うけど、僕たちができることは何もないんだ」
 リュシエール様はちゃんと私の言いたいこと、分かってくれてた。
 私の背中に回した手がとても温かくて、私はすごく心が軽くなった。
「王様の悲しみはいつかは癒える?」
「君だって、お母さんを亡くした悲しみから立ち上がって、今、笑えているでしょ」
 あ
 うん、そうだ。
「レーナ様やリュシエール様がいらしたから、私は・・・今が楽しい」
「うん。だから、きっとカチラノス王もいつか笑える日が来るから。大丈夫だよ」
 そうかも・・・ううん、きっと、そうだ。
 リュシエール様が言うなら、きっとそうなるって、私には思えた。
 リュシエール様はみんなを虜にするほどの美しさを持ってるけど、それは私にとっては意味はなくて。こうやって私とお話しをしてくれて、私を温かい気持ちにさせてくれるリュシエール様が私は大好き。
 ずっと、リュシエール様とこんな風にいっしょにいたい・・・という叶わない願いを胸の奥に閉じ込めて、私は心地いい腕の中で眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

処理中です...