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23話 お母さんのお墓
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「それで、イリアのお母様の墓前には報告したの?婚約したこと」
レーナ様の言葉の意味が、しばらく理解できずに私は飲みかけのお茶を手に、固まった。
え?
お母様?
墓前?
・・・・・・・
お母さんのお墓・・・ってこと?
お母さんの・・・お墓・・・
・・・・・・・
え?
私の手から、お茶のカップが落ちて、割れた。
「イリア!?どうしたの?」
レーナ様の心配そうな顔が目の前にあっても、言葉が出ない。
手が震えて、止まらなかった。
「イリア、大丈夫?」
お墓・・・お母さんの・・・処刑された・・・お母さん・・・
どう・・・なったの・・・
あ、そうだ・・・カップ・・・私カップを割ってしまった・・・
とても高価そうな
「ごめんなさい。カップ、割って・・・」
あれ?・・・お墓って?なんだっけ
「イリア、落ち着いて。ほら、僕を見て」
リュシエール様の顔が目の前にある・・・なんだか歪んで見えるのは、私が泣いてるせいだ、と気づいた。
「ああ、ごめんなさい、イリア・・・私、嫌なことを思い出させるようなこと、言ってしまって」
レーナ様も泣き出しそうだ。
ううん、違う・・・嫌なことを思い出したからじゃない。
大事なことを、忘れていたせいだ。
リュシエール様の手が私の手を包んでくれているのが分かった。そこからなにか温かいものが流れてくるような感じがして、私はだんだん落ち着いてきた。
「イリア」
レーナ様、リュシエール様、フランさん・・・みんなが不安そうに見ている。
ああ・・・大丈夫・・・ここは、温かい
「ごめんなさい・・・私・・・」
「イリア、君は何を思い出したの?」
リュシエール様の手は熱いくらいに温かくて、凍ったみたいだった私の記憶も溶けていった。
「うん・・・私、お母さんの・・・お墓を知らないの。その日・・・お母さんが処刑された・・・日は・・・私は一人で家にいて、そしたら、近所のおばさんが、うちにやってきて、『イリア、逃げなさい。お母さんが捕まって処刑された。もうすぐあなたを捕まえに衛兵が来るから、早く逃げなさい』・・・って。おばさんは私が魔法使いの混血だって知ってたから・・・だから、私は・・・あわてて、逃げて。森の中に逃げて、国境を超えてローマリウスまで・・・」
森の中を走った。泣きながら。
捕まったら、殺されてしまう。私は、魔法使いの混血だから。
「イリアのいたギリアン国では魔法使いと通じたものと、その間に生まれた子は処刑される法律だったわね」
レーナ様が痛ましそうに言った。
「逃げたの。私・・・だから、知らないの。処刑されたお母さんが、どうなったのか・・・お墓はどこにあるのか」
涙がまた溢れてくるのが分かった。
なんで、今まで忘れていたんだろう。こんな大切なことを。
「私、お母さんのお墓を知らない」
すっく、と、レーナ様が立ち上がった。
「フラン、至急ベネジクト大臣の執務室に行きなさい。ギリアン国にイリアの母親の処刑の詳細とその後の調査をさせるのです。私の命令だと伝えなさい」
「かしこまりました。女王陛下」
フランさんが深く礼をして、退室した後、私は呆けてしまっていた。
レーナ様のお顔は本当に『女王陛下』と呼ばれるに相応しい、威厳と威光に溢れていたから。いつも私に向けてくれる、優しくて甘いお顔の他にもこんな表情ができるのかと、私はビックリしてレーナ様を見ていた。
「イリア、その話を知っていたら、昨夜ギリアン国の王が帰る前に問いただせたのに、残念だわ」
レーナ様の口調は私を責めているわけじゃなくて、心底残念そうだった。
「イリア、レーナの選んだ大臣は有能だよ。だから、任せて待とう。きっと、すぐにお墓は見つかるよ。そうしたら、二人でお墓参りに行こうね」
「いっしょに行ってくれるんですか?」
「もちろんだよ。君には僕がついているよ。だから、もう悲しそうな顔はしないで」
優しすぎる眼差しのリュシエール様に私は頷いた、けど。
・・・それって、レーナ様がいるから、カリソメの許嫁を演じてるんだよね?
「ありがとう・・・リュシエール様。・・・だい・・・好き」
いいよね。言ってしまっても。
きっとリュシエール様も私が演技してるって思うだろうし。
リュシエール様はレーナ様が気がつかないくらいの一瞬、目を見張って、それから
「僕も大好きだよ、イリア」
溶けそうなくらい甘い笑みを作って言った。
あらまあ、とレーナ様がいつものレーナ様に戻って
「リュシエール、あなたがそんなキャラだとは知らなかったわ。それとも、それって恋のなせるワザなのかしら?」
キャラ?
時々レーナ様は不可思議な言葉をお使いになるけど、リュシエール様が「さあね~」とかとぼけたので、私もあいまいに微笑んだ。
「キリウスだって、君の前じゃ人格変わるでしょ。一人・・・あ、侍従もいっしょだけど、一人でカチラノス国に行かせてよかったのかな?あの人が何の問題もなく帰って来れるとは思えないんだけど」
リュシエール様は不穏なことを楽しそうに話す。
レーナ様が嫌そうな顔をして「だから、心配なのよね・・・ああ、この世界にも携帯電話があればいいのに」
あとのほうのつぶやきは私には理解できない異国の言葉だった。
レーナ様の言葉の意味が、しばらく理解できずに私は飲みかけのお茶を手に、固まった。
え?
お母様?
墓前?
・・・・・・・
お母さんのお墓・・・ってこと?
お母さんの・・・お墓・・・
・・・・・・・
え?
私の手から、お茶のカップが落ちて、割れた。
「イリア!?どうしたの?」
レーナ様の心配そうな顔が目の前にあっても、言葉が出ない。
手が震えて、止まらなかった。
「イリア、大丈夫?」
お墓・・・お母さんの・・・処刑された・・・お母さん・・・
どう・・・なったの・・・
あ、そうだ・・・カップ・・・私カップを割ってしまった・・・
とても高価そうな
「ごめんなさい。カップ、割って・・・」
あれ?・・・お墓って?なんだっけ
「イリア、落ち着いて。ほら、僕を見て」
リュシエール様の顔が目の前にある・・・なんだか歪んで見えるのは、私が泣いてるせいだ、と気づいた。
「ああ、ごめんなさい、イリア・・・私、嫌なことを思い出させるようなこと、言ってしまって」
レーナ様も泣き出しそうだ。
ううん、違う・・・嫌なことを思い出したからじゃない。
大事なことを、忘れていたせいだ。
リュシエール様の手が私の手を包んでくれているのが分かった。そこからなにか温かいものが流れてくるような感じがして、私はだんだん落ち着いてきた。
「イリア」
レーナ様、リュシエール様、フランさん・・・みんなが不安そうに見ている。
ああ・・・大丈夫・・・ここは、温かい
「ごめんなさい・・・私・・・」
「イリア、君は何を思い出したの?」
リュシエール様の手は熱いくらいに温かくて、凍ったみたいだった私の記憶も溶けていった。
「うん・・・私、お母さんの・・・お墓を知らないの。その日・・・お母さんが処刑された・・・日は・・・私は一人で家にいて、そしたら、近所のおばさんが、うちにやってきて、『イリア、逃げなさい。お母さんが捕まって処刑された。もうすぐあなたを捕まえに衛兵が来るから、早く逃げなさい』・・・って。おばさんは私が魔法使いの混血だって知ってたから・・・だから、私は・・・あわてて、逃げて。森の中に逃げて、国境を超えてローマリウスまで・・・」
森の中を走った。泣きながら。
捕まったら、殺されてしまう。私は、魔法使いの混血だから。
「イリアのいたギリアン国では魔法使いと通じたものと、その間に生まれた子は処刑される法律だったわね」
レーナ様が痛ましそうに言った。
「逃げたの。私・・・だから、知らないの。処刑されたお母さんが、どうなったのか・・・お墓はどこにあるのか」
涙がまた溢れてくるのが分かった。
なんで、今まで忘れていたんだろう。こんな大切なことを。
「私、お母さんのお墓を知らない」
すっく、と、レーナ様が立ち上がった。
「フラン、至急ベネジクト大臣の執務室に行きなさい。ギリアン国にイリアの母親の処刑の詳細とその後の調査をさせるのです。私の命令だと伝えなさい」
「かしこまりました。女王陛下」
フランさんが深く礼をして、退室した後、私は呆けてしまっていた。
レーナ様のお顔は本当に『女王陛下』と呼ばれるに相応しい、威厳と威光に溢れていたから。いつも私に向けてくれる、優しくて甘いお顔の他にもこんな表情ができるのかと、私はビックリしてレーナ様を見ていた。
「イリア、その話を知っていたら、昨夜ギリアン国の王が帰る前に問いただせたのに、残念だわ」
レーナ様の口調は私を責めているわけじゃなくて、心底残念そうだった。
「イリア、レーナの選んだ大臣は有能だよ。だから、任せて待とう。きっと、すぐにお墓は見つかるよ。そうしたら、二人でお墓参りに行こうね」
「いっしょに行ってくれるんですか?」
「もちろんだよ。君には僕がついているよ。だから、もう悲しそうな顔はしないで」
優しすぎる眼差しのリュシエール様に私は頷いた、けど。
・・・それって、レーナ様がいるから、カリソメの許嫁を演じてるんだよね?
「ありがとう・・・リュシエール様。・・・だい・・・好き」
いいよね。言ってしまっても。
きっとリュシエール様も私が演技してるって思うだろうし。
リュシエール様はレーナ様が気がつかないくらいの一瞬、目を見張って、それから
「僕も大好きだよ、イリア」
溶けそうなくらい甘い笑みを作って言った。
あらまあ、とレーナ様がいつものレーナ様に戻って
「リュシエール、あなたがそんなキャラだとは知らなかったわ。それとも、それって恋のなせるワザなのかしら?」
キャラ?
時々レーナ様は不可思議な言葉をお使いになるけど、リュシエール様が「さあね~」とかとぼけたので、私もあいまいに微笑んだ。
「キリウスだって、君の前じゃ人格変わるでしょ。一人・・・あ、侍従もいっしょだけど、一人でカチラノス国に行かせてよかったのかな?あの人が何の問題もなく帰って来れるとは思えないんだけど」
リュシエール様は不穏なことを楽しそうに話す。
レーナ様が嫌そうな顔をして「だから、心配なのよね・・・ああ、この世界にも携帯電話があればいいのに」
あとのほうのつぶやきは私には理解できない異国の言葉だった。
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