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8話 女王とフラン

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 「ところで、フラン・・・さっきの話し、聞きたいわ」
 女王のレーナが目を生き生きとさせて、フランににじり寄った。
「さ・・・っきの話し・・・って、なんでしょうか」
「だから、レオナードが優しいって、いうところよ」
 あ、とフランは一言発して、頬を染めた。
「え・・と。・・・レオナードは二人きりでもあまり態度は変わらないんですけど・・・私を愛してるって言う時は、とっても優しくて、その声を聞くだけで幸せな気分になるんです」
 うんうん、とレーナが頷いて、先を促す。
「あ、それから、私の髪を毎朝かしてってくれます」
「そうなの?レオナードが結ってるのね。どうりでキレイにまとまっていると思ったわ」
「はい・・・私の髪がくしゃくしゃなので、見るにみかねて・・・なんですけど」
 レーナがフランを愛おしそうに見て言った。
「見るにみかねたのではないと思うわ。レオナードが貴女の髪を梳かしたいって思うからよ。好きでもないことを男性は自分からしたりはしないわ」
「そうなんですか?」
「キリウスならはっきりと、やりたいことはやりたい、って言うのだけど。レオナードはそういうことを口にするタイプではないから。でも、レオナードがしてくれることは彼がやりたいことなのだから、フランが遠慮することはないのよ」
 そうなのだろうか、とフランは思う。
 それにしてもレーナ様は若干18歳だというのに、まるで自分より年上の女性に諭されているみたいだ。
「ねえ、フラン。私、こうやって女の子と恋バナ・・・いえ、恋のお話しをするのにずっと憧れてたの。だって、前の侍女のサラさんは、とてもそんな雰囲気の方じゃなかったし・・・」
 フランは前の侍女で今は法務担当大臣をしているサラ・アミゼーラを思い出した。
 いつも氷のように冷徹で、だけど、公明正大で、まさしく「法の番人」に相応しい女性だと思う。ただ・・・
 たしかに、恋のお話はしそうにない。というか、あの方は男性を好きになることがあるのだろうか、とフランは思った。
「だから、フラン。たまにはお友達みたいにお話ししましょう」
 フランは恐れ多くて、言葉に詰まった。女王の懇願するような目をの当たりにしては断ることもできない。
「私でよければ・・・」
 緊張で掠れた声で、そう答えるのが精いっぱいだった。

 翌日、フランの髪がザックリと結んだだけになっているのを見て、レーナは頬を緩めた。
 そうね、レオナードがいないんですものね。
「フラン、ここに座って」
 朝摘みのバラの花を花瓶に活けていたフランにレーナは呼びかけて、ドレッサーの前の椅子を指さした。
「え?女王陛下・・・座る・・・ですか?」
 フランが訝し気に椅子とレーナを交互に見た。
「今朝は私が髪を梳かしてあげる。レオナードの代わりに」
 レーナの言葉にフランが飛びあがるほど驚愕して「め、め、め、滅相もない!そんなこと、女王陛下に・・・」
「あら、レオナードはよくて、私ではいけないの?」
 わざとらしく、ツンと澄ましたレーナに、フランは大きな溜息をついた。
 女王を知る皆が「女王は破天荒だ」と口を揃えて言うのがわかった。
 侍女の髪を結う女王など前代未聞じゃないか、と思いながらフランは神妙な顔でドレッサーの椅子に腰かけた。
 女王が自分の後ろに立って、髪を触るのを意識してフランは身体を固くした。
 鏡の中に映り込む女王の顔は楽し気で、まるで無邪気な少女という感じだった。
「ここにきて初めてだわ。誰かの髪を梳かすなんて」
 ここにきて?って、どういう意味だろうか、とフランは思ったが、それを尋ねてもきっと自分には理解できないような気がした。
「きれいね、フランの髪。細くてまるで金の糸みたい」
 女王の言葉にフランは赤くなった。女王の髪のほうが何倍もきれいだ。女王の豊かな金の巻き毛はまるで美の女神の持ち物だ。
「いいえ・・・女王陛下。私の髪など・・・」
 と、言いかけてフランはハッとした。鏡に映る女王の顔が苦痛を感じているように歪んでいた。
 バッと女王のほうに向きなおり、フランは声を上げた。
「どうされたのですか!女王陛下!」
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