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マザー・グース殺人事件

逆襲

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 病院に行くと、ベッドに横たわる寛の姿があった。頭には包帯を巻いている。


「兄さん、心配をかけました」寛はケロッとしていた。 


「マッドグリーンに襲われたって、どういうことだ?」圭には分からなかった。奴は途中で諦めたはずだ。


「『利して之を誘い、乱して之を取る』、餌を与えて敵を罠にかけるという意味です。私は自身をマッドグリーンの餌としたのです。思い出してください。圭兄さんは私のことを『頭脳派だ』と言いましたね? それを待っていたんです。兄さんたちは行動派です。奴は襲うのをためらうでしょう。まあ、まんまとやられたわけですが」


「そんな話、聞いてないぞ!」圭は声を荒げる。


「当たり前です。あえて言わなかったのです。『敵を騙すには、まず味方から』というでしょう?」寛はしれっと言う。


 圭は深くため息をつく。まさか、そんな作戦があったとは。いくら戦略好きと言っても、これはやり過ぎだ。下手したら死んでいたというのに。その時、気づいた。


「そうか、眼鏡を印象づけるために、あんなに頻繁に触っていたのか!」


「その通りです。さて、私たちは全員マッドグリーンと接触したわけですが、収穫はゼロです。奴がやり手なのは間違いありません」


 寛が認めるのだ、厄介な奴を相手にしているのは間違いない。別の作戦を立てる必要が出てきた。



 寛が入院している間、刹那と再度、作戦会議をした。夜中のバーで。刹那の指定だった。バーで作戦会議とは、どういう考えなんだ? 圭には分からなかった。予想通りではあったが、予定の時刻を過ぎてから刹那がやって来た。 


「で、なんでこんな場所を指定したんだ?」


「『静かなバーで最初の静かな一杯』、それを求めてさ」席に座りつつ刹那が返答する。


「まさか、それってレイモンド・チャンドラーの引用か?」


「兄さん、分かってるじゃないか。一回言ってみたかったんだ。憧れだからね」


 圭は「ギムレットには早すぎる」ではないのね、と内心思った。


 しかし、刹那といい、寛といい、やりたい放題だな。これではマッドグリーン逮捕どころではない。先が思いやられる。


「兄さんの言いたいことは分かるさ。でも、たまには息抜きしないと、ぶっ壊れちまう」


 どこかで同じことを聞いた気がする。そうだ、氷室先輩だ。


「そうかもしれない。それで、今度はどんな作戦でいく? 寛の作戦ですら上手くいかなかったんだ」こう言っては悪いが、刹那からいい案が出てくるのは思えない。


「簡単な話だ。もう一度、マッドグリーンの前に餌をつりさげる。方法は――」
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