【完結保証】見立て殺人ゲーム

雨宮 徹

文字の大きさ
上 下
10 / 27
マザー・グース殺人事件

絶叫

しおりを挟む
 斧。それも真っ赤な斧。なんで赤いか。部屋を見渡すと分かった。これは血の色だ。殺人現場と同じだ。血の臭いもする。血? なぜ?


 床に誰かの手が見える。嫌な予感がする。そっと覗き込むと――それは父さんと母さんのものだった。


「ああ、そんな! 二人ともしっかりしてよ!」そう言いつつも圭には分かっていた。二人の息が止まっていることが。圭の手は真っ赤に染まった。二人の血によって。そこから先の記憶はない。




「――さん、圭兄さん!」


 誰かが呼びかけてくる。ぼんやりとした目を開くと見知らぬ天井。声のする方向を見ると、刹那と寛の姿があった。


「良かった。医者からは『ショックのあまり、記憶喪失になる可能性もある』と聞いてたから」寛の声だ。


「無事で何よりだ。しかし――」刹那が続きを言うのをためらう。


 ショックの理由は聞かなくても分かっていた。父さんと母さんがこの世から去ってしまった、それが原因になりえたということは。


「それで、奴だったのか? 二人を殺したのは」直感が圭にそう告げる。


「兄さんは無茶しそうだけれど……。そう、今回の犯行はマッドグリーンによるものだと思う。これが現場にあったから」寛が渡してきた紙にはこう書いてあった。


「リジー・ボーデン斧を手にして、親父を四十回めったうち。我にかえって今度はお袋。四十と一回めったうち」と。


 斧でめったうち。そうだ、思い出した。現場には血塗られた斧が落ちていた。そして、二人には無数の傷跡。間違いなく、マッドグリーンの仕業だ。今回も見立て殺人だった。刹那の時と一緒だ。ここまでくると、間違いなく龍崎家に目をつけているに違いない。では、なぜ居場所が分かったのか。刹那は尾行がバレたとしても、父さんと母さんについては説明がつかない。そもそも、龍崎家の鍵は指紋認証式だ。二人が開けない限り、侵入は不可能だ。


 何かがひっかかった。指紋認証? その時、圭は気づいた。あの時だ! 駅で見知らぬ人物のICカードを拾った時だ。あれはマッドグリーンだったに違いない! わざと圭の目の前でカードを落としたんだ。拾うだろうと踏んで。つまり、圭がカードを拾い、そこに付着した指紋を利用されたのだ。これでは――そう、二人が死んだのは圭のせいと言える。圭の優しさが二人の命を奪ったのだ。



「タフでなければ生きていけない。優しくなければ、生きている資格はない」


「刹那、それはどういうことだい?」圭には何のことか分からなかった。


「今のはレイモンド・チャンドラーからの引用さ。たぶん、『自分の優しさが二人を殺した』って考えてるんだろ? 確かにそうかもしれない。だが、父さんも同じことをしたと思う。人が困っていたら助けてやる、それが父さんの信条だったから」


 確かに父さんなら、そうしただろう。でも……圭自身の行動が二人の運命を決めてしまったのだ。この罪悪感は一生背負うことになるだろう。いや、背負わなければならない。二人のことを忘れないためにも。


「これは父さんの形見です」寛が差し出したのは、父さんの愛読書『自省録』だった。表紙がボロボロな上に、少し血のようなものが付着している。


「これは寛が持っていてくれ。読書嫌いの僕が持っていてももったいない。刹那も同意見だろ?」刹那がうなずく。


「それなら私がもらいましょう。形見として、そしてマッドグリーンへの復讐を忘れないためにも」寛の声には静かな怒りが込められていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。 真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。 あなたは何章で気づけますか?ーー 舞台はとある田舎町の中学校。 平和だったはずのクラスは 裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。 容疑者はたった7人のクラスメイト。 いじめを生み出す黒幕は誰なのか? その目的は……? 「2人で犯人を見つけましょう」 そんな提案を持ちかけて来たのは よりによって1番怪しい転校生。 黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。 それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。 中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...