【完結保証】見立て殺人ゲーム

雨宮 徹

文字の大きさ
上 下
4 / 27
マザー・グース殺人事件

暴走

しおりを挟む
『ルーデウスよ。お前が大魔帝ニズゼルファに敗れてしまったのは余の責任なのだ』

 俺がニズゼルファに敗れたのは父さんの責任?
 どういう意味だ?

『今さらこんなことを話しても遅いのだが……やはり伝えないわけにはいかぬ。真実を知った上でどう判断するか。それをお前に任せたいと思う』

 そんなひと言から真実の扉が開け放たれた。



 ◇◇◇



『まずはじめに。この世界の歴史にはまだ語られていない部分があるのだ』


「語られていない部分ですと?」

「ヤッザンちょっと黙って! お父さまの話が聞えないじゃん~!」

「す、すみませんっ……」

 泣きはらしていたウェルミィもすっかり泣き止んで今は父さんの話に耳を傾けていた。
 
 『これらすべてはエアリアル帝国の皇族の間だけで語り継がれてきた伝承だ』と前置きした上で父さんはこう続ける。





 太古の昔、この世界にさまざまな種族が誕生した。

 これは俺たちも知ってる歴史だ。
 でも父さんいわく、それよりも前の歴史があったって話だ。
 
 まずはじめに創造主たる神がこの世界を作った。
 
 そして、神はこの世界に自らの分身たる〝半神〟という種族を作り上げる。
 半神は世界に誕生した最初の種族だったようだ。


「ふむ……。そのような種族がおったとは聞いたことがないのぅ」

「うちも初耳だよぉ! 大昔のさらにずっ~と昔にそんな種族が存在したなんて……なんかロマンチックかも♪」

「続きを聞いてみましょう」


 半神は神の分身であるがゆえに無敵の力を有していたみたいだ。
 そこには万物を創造する力も含まれていた。

 やがて。

 半神族は力を使ってこの世界にさまざまな種族を誕生させる。
 どうやらそれが今日の種族の起源ってわけらしい。

 その際にオーブもそれぞれ生み出されたようだ。

 そのあと。
 多くの種族を生み出した半神は退化して亜人族デミヒューマンとなり、そのほかの種族と同列の存在としてこの世界で暮らすようになる。


「なっ……亜人族ですと!?」

「えぇっ!? 亜人族って人族が進化する前の種族じゃん!」

「この話が本当なら人族の祖先は半神ということになりますね」

「にわかに信じられん話じゃ……」

 この話にはこの場にいる全員が驚きの声を上げた。
 もちろん俺も驚きを隠せなかった。

『なぜ半神がこのように多くの種族を生み出したのか、その理由は今のところ明らかとなっていない。だが、それによって各地でさまざまな種族が繁栄し、今日の世界を形成することとなった。すべての歴史は最初の種族である半神からはじまったのだ』

 ウィンドウ上の父さんがいちど言葉を区切ったのを確認すると。
 ヤッザンのおっさんはこんなことを言い出す。

「しかし疑問ですなぁ……。争いの火種となる他の種族をどうして生み出したのでしょう」

「たしかにそうじゃのう。同胞たちだけで暮らせばこの世界はきっと楽園となったはずじゃ。わざわざ亜人族に退化した理由も分からん」

「……たぶん、友だちを作ろうとしたんじゃないかな?」

「友だちですか?」

 不思議そうに訊ねるマキマに向けて俺は言う。

「だってそうじゃん? こんなだだっ広い世界に自分たちの種族しか存在しないなんて寂しすぎるよ。だからきっと仲良くなれる友だちを作りたくていろいろな種族を生み出したんじゃないか?」

 規模は小さいかもしれないけど。
 蒼狼王族サファイアウルフズ、オーガ族、刀鎧始祖族エルダードワーフのみんなと共存する国を作り上げた俺には半神の気持ちがなんとなく分かるような気がした。
  
「さすがお兄さまっ♡ 素敵な考えだよぉ~♪」

「そうですね。なんというかとてもティムさまらしい発想だと思います。わたしもそう信じたいです」

 でも。
 半神にどんな思いがあったのか分からないけど、実際の歴史はそんな夢のようにはいかなかった。


 その後の歴史は周知のとおりだ。
 数えきれないほどの争いを繰り返し、多くの種族が繁栄しては滅んでいく。

 『その過程で亜人族にも変化が生じるようになったのだ』と父さんは語る。

 当然、亜人族が人族に進化することを指してそう言ってるんだって思ったけど。
 どうやらそういうわけじゃないらしい。

『ここから先話す内容はとても繊細な問題を含んでいる。皆どうか驚かないで聞いてほしい』

 父さんはそこでひと呼吸置くとゆっくりとこう続けた。


『実は亜人族が種族進化して生まれたのは人族だけではなかったのだ。亜人族から分裂するようにもうひとつの種族も生まれてしまった。それが……魔族なのだよ』

「ふぇっ、亜人族から魔族も生まれちゃったの!?」

「分裂して人族と魔族が誕生した……と。これが事実だとすれば……」

 じいさんの言葉を先読みするように父さんはこう口にする。

『そうだ。話を聞いて皆も分かったことだろう。人族と魔族はいわば肉親のような存在なのだよ』

 退化したとはいえ亜人族はもともと無敵の力を有していた半神だ。
 
 己の中に眠るその圧倒的な力を前に。
 亜人族の中では、光と闇の心がせめぎ合っていたのかもしれない。

 結果的にそのせめぎ合いが溢れ出る形で人族と魔族は誕生することになる。

(マジかよこの話。肉親って……)

 ひょっとしてスキルと極意エゴイズムが似てるのはそのせいなんじゃないか?
 半神の血を引いてるからお互いこれだけ優れた異能を扱うことができるって……そういうことなのか?


 ここでなにか思いついたようにマキマが声を上げる。

「ちょっと待ってください。ということは魔族は遥か以前から存在してたってことではないでしょうか?」

「人族と分裂する形で誕生したのなら、つまりそういうことですぞ」

「じゃあ……今から10年前に突然変異的に出現したっていう話はどういうことなんだ?」

 俺が疑問を口にすると、ブライのじいさんが首を横に振る。
 
「おそらくそれは誤った認識だったんじゃろう」

「……だよね。魔族はもっとずっと前からこの世界に誕生してて、表舞台の歴史に出てこなかったってことなんじゃない?」

 どうやらウェルミィのその予想は当たってたようだ。


 亜人族から分裂進化した魔族はひっそりとこの世界で暮らしてきた。
 
 やがて、魔族の中で力をつけてくる者がいくつか現れるようになる。
 それが魔族の王――魔王だったってわけだ。

『魔王は同胞から知恵を奪い、獰猛なケモノに変える力を持っていたと言われている。それが魔獣モンスターの正体なのだよ』

 そして、魔王たちは頃合いを見計らって獰猛なケモノに変えた同胞――つまりモンスターを世界各地に送り込み、多くの種族を襲撃させた。
 これが『死の大暴乱デスエスケープ』の真実だったようだ。

 そこまで父さんの話を聞いてマキマが異を唱えた。

「でもちょっとおかしいです。どうしてそんな魔族しか知り得ないような事実がエアリアル帝国の伝承に残っていたのでしょうか?」

「たしかにそうだな」

 それは俺も不思議に思ってたところだ。
 こんな話、魔族じゃないと知ることはできないはず。

 すると。

 ふたたびこちらの言葉を読むようにウィンドウ上の父さんはこう切り出す。

『どうして魔族に関するこんな事実が分かるのかと、疑問に思った者もいると思う。もちろんこれには理由がある。これから話すことはエアリアル帝国の秘密とも大きく関わっているからできれば覚悟のある者だけが耳を傾けてほしい』

 その瞬間、地下室に緊張が走った。
 これまでとは一線を画す話をしようとしてるってのが画面越しから伝わってきたからだ。
 
 けれど。
 誰もこの場から出て行こうとはしない。

(そうだよ。ここまで話を聞いたんだ。今さら耳を塞ぐなんてことはできない)

 俺は真実が知りたいんだ。
 そして、その気持ちはこの場にいるみんなも同じようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ファクト ~真実~

華ノ月
ミステリー
 特別編からはお昼の12時10分に更新します。  主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。  そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。  その事件がなぜ起こったのか?  本当の「悪」は誰なのか?  そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。  こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!  よろしくお願いいたしますm(__)m

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言
ミステリー
いたって平凡な男子高校生の玉宮香六(たまみや かむい)はひょんなことから、中学からの腐れ縁である姫石華(ひめいし はな)と入れ替わってしまった。このまま元に戻らずにラブコメみたいな生活を送っていくのかと不安をいだきはじめた時に、二人を元に戻すための解決の糸口が見つかる。だが、このことがきっかけで事態は急展開を迎えてしまう。 現実に入れ替わりが起きたことを想定した、恋愛要素あり、謎ありの空想科学小説です。 この作品はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

警狼ゲーム

如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。 警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...