大本営の名参謀

雨宮 徹

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アメリカの逆襲そして和平へ

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 1942年4月18日のことだった。東京で空襲警報が鳴ったのは。

「坂崎、お前はどう考える?」と飯田。

「敵軍の行動はおかしいです。こちらの兵站へいたんを叩かずに、都市部のみ爆撃する。何か……何かの意図があるに違いありません」

「何かの意図か」

「私が考えるに、士気を下げるのが目的ではないでしょうか。そして敵国では『日本の本土襲撃に成功した』と発表する。これで日米の士気が逆転するかもしれません」

「なるほど」

「そこで……私はアメリカとの和平を提案します」

「和平だと!? お前は何を考えている! 今回の攻撃で我が軍が受けた被害はない。いくら本土を空襲されたとはいえ、ここで和平などありえん」

「戦果が不十分でも、速やかに終結し、戦争目的を達成すべし。これは『孫子』に書いてある言葉です。ハワイのオアフ島襲撃で撃沈したのは戦艦のみ。空母に損害は出ていません。つまり、敵軍が制空権を握る可能性も考えるべきです」

「坂崎、お前は天狗になってないか? 自分の思い描いたストーリー通りに戦争が有利に進んでいると。我々が勝利を重ねているのは、前線で戦っている者たちの犠牲があってこそだ。和平なぞしたら、犠牲者の遺族にどう説明する? 『あなたの家族は犬死にしました』とでも言えと?」

「私は考えを曲げることはしません。速やかに和平を結ぶべきです。今なら、我々に有利に進められます。しかし、敵軍の逆襲が始まれば、それこそ犠牲者に申し訳が立ちません」

「確かに一理ある。だが、どのように進言するべきか……」

 飯田がうなっている時だった。

「では、こうしましょう。次の海戦で大敗すれば和平を結ぶ。大勝すればこのまま戦争を続ける。もし、大敗すれば和平の機会を逃します」

「それで上が納得してくれるか……」

 ひとまず進言しよう、それが飯田の考えだった。


 1942年6月5日。ミッドウェー海戦で大日本帝国は大敗を喫した。悪い意味で坂崎の予想が当たってしまった。

 天皇陛下の結論は「和平を結ぶべし」であった。

 和平を提案した坂崎は後ろ指を指されるかもしれない。そんなことは坂崎には関係なかった。国民の犠牲を最小限に食い止めた。それだけで十分だった。坂崎の勲章としては。
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