大本営の名参謀

雨宮 徹

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日米交渉決裂そして太平洋戦争へ

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「日米交渉、決裂」
 坂崎さかざき重五郎じゅうごろうは新聞の記事を見つつ思った。こうなることは予想できていた。アメリカとの交渉、それは1929年の世界恐慌が起こって以来続いていた。

 交渉は長引けば長引くほど、お互いが主張を譲らず泥沼化する。泥沼化した先の行方は分かり切っている。戦争だ。武力によって相手を屈服させて、主張を通す。戦争がうまくいけば、領土拡大の可能性が出てくる。そうなれば、国民も豊かな生活を享受きょうじゅできる。ただ、問題はどのようにすれば戦争に勝てるかだった。

 軍令部に到着すると、待ち構えていたのは、飯田いいだしげるだった。坂崎の上官である。

「坂崎、俺が言わなくても分かっているな?」

「ええ。もちろんです。いかにしてアメリカを打ち負かすか、ですね」

「当然、先制攻撃をすることになるだろう。そして、アメリカを徹底的に打ちのめす必要がある」

 先制攻撃。主導権を握り自分のペースで戦争を進めるうえで不可欠なものだ。

「今回の作戦は陸海軍による同時攻撃になるはずだ。軍令部としては、東のアメリカを叩きつつも、香港、シンガポールと西に戦線を拡大させる方針になるだろう。坂崎、何か考えはあるか?」

 坂崎はしばしの沈黙ののち、こう進言した。

「まずは、香港の大きな港を空襲し叩きます。そののちに、上陸しイギリス軍を降伏させます」

「なるほど。実に論理的だ。では、アメリカはどうする?」

「香港作戦と同時にハワイのオアフ島を空襲し、戦艦を無力化。それさえ出来れば、制海権は我々のものです。アメリカ本土に上陸するのも時間の問題でしょう」

「よし、その方向で進めよう。上層部へは俺が提言する」


 1941年12月8日。その日のことを坂崎は忘れないだろう。大日本帝国が戦端を開いた日を。
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