4 / 4
終結
しおりを挟む
「くそ、奴ら、フランス軍に情報を伝えたらしいな」
僕たちはフランス軍によって、牢獄に入れられていた。見張りは二人。しかし、牢獄の中からでは手も足も出せない。
「ねえ、デュランさん。僕たちどうなるの?」
「そうだな……。まず、間違いなくクラリスの宣託を聞きたがるだろうな。まあ、宣託だから、そんな都合よく聞けるはずはないとは思うが……」
「あの、フランス軍は私にしか興味がないのよね? その……もしかしたら、二人は……」
僕はクラリスの言いたいことが分かった。そう、彼女さえいればいいのだ。僕たちはすぐに殺されるに違いない。
「くそ、これが八方塞がりってやつか。こんな絶望感を味わったのは初めてだぜ」
いよいよ、クラリスとお別れか。でも、悔いはない。クラリスは生き残るだから。その時だった。ある作戦を思いついたのは。
「ちょっと、聞いてくれる?」
僕は兵士たちに聞こえないほどの小声でしゃべる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なるほど、そいつは妙案だ! それなら、ここから出られる!」
「ちょっと、デュランさん、声が大きいって!」
デュランさんのせいで計画が台無しになりそうだ。案の定、兵士たちがジロッとこちらを見る。だめだ。これでは逃げ出せない。
その時だった。クラリスの様子がおかしくなったのは。
「戦を続けるフランスは、経済が苦しくなり、貧困と『黒き病』により滅びるであろう」
ちょっと待った。こんな時に宣託なんて、まずい。予想外すぎる。それも、フランスが滅びるという内容なんて。
次の瞬間、クラリスが目を覚ます。
「私、どうかしたかしら? なんか急に眠くなっちゃって……」
「おい、小娘。お前……記憶がないのか?」
見張りの一人が尋ねる。このままじゃあダメだ。
「なあ、相棒。これは国王陛下の耳に入れるべきじゃないか? この国が滅びるなんて、あってはならない」
「そうだな。ついでに、この二人も証人として連れて行こう。俺たち二人だけだと、手柄のために嘘をついたと思われるからな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
状況は最悪だ。謁見の間に通された僕は思った。このままでは、クラリスと離れ離れになってしまう。
「国王陛下、こちらです」
部屋に現れたのは――フィリップ国王その人だった。国王の別名は「幸運王」。この前のイングランドからの反撃時に戦死しなかったなど、数々の幸運を持ち合わせている。そんな彼が宣託を聞けるなんて、まさに幸運としか言いようがない。
「さて、娘よ。お前の言った内容は本当か?」
「あの、分からないです。私、寝ちゃっちみたいで」
「ふむ。では、四人に問おう。娘の宣託は『フランスが滅びる』、その内容で間違いないな?」
僕たちは頷く。嘘をついても無駄だ。すぐにバレる。
「なるほど。戦を続けると負ける、か。確かに、このところ我々は貧困に喘いでいる。しかし、宣託の内容は『戦を続ければ』だ。つまり、ここで戦をやめれば、滅ばないということだ」
確かに、そうともとれる。今はフランスもイングランドもお互いに戦争で疲労困憊だ。
「よし、決めた。早急にイングランドとの和睦の準備をせよ! 『宣託の乙女』よ、礼を言おう。危うく我が国が滅びるところだった」
なんということだ。クラリスの宣託が和睦に繋がるなんて!
「さて、そこの三人の処遇だが、宮殿に軟禁することにする。恩人ではあるが、他の国のものになるのはまずかろう」
宮殿での軟禁。殺されることに比べれば遥かにマシだ。これ以上は望むまい。それに、僕はクラリスと一緒にいられるのだから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
僕たちは衛兵に部屋へ案内された。そこは、宮殿の中では一番質素に違いない。だが、僕に取っては夢のようだった。
「それでは、今日より、ここで暮らすように。もちろん、見張りつきでな」
それだけ言うと、衛兵は去っていった。
「ねえ、僕の作戦、うまくいったでしょう? クラリスに偽の宣託をさせるっていう作戦」
「おいおい、俺が大声で気を引かなきゃ、おじゃんだっただろ。一人の手柄にするなよ!」
「もう、二人とも落ち着いて。それに、私の演技のおかげでもあるわ」
僕たちは三人で笑いあった。宣託が地獄を作ることがあれば、偽の宣託が平和を作ることもある。うまく和睦が進むかは分からない。しかし、大きな一歩を踏み出したのは確かだ。
人間はお互いを完璧に理解することは出来ない。でも、歩み寄ることは出来るのだから。
僕たちはフランス軍によって、牢獄に入れられていた。見張りは二人。しかし、牢獄の中からでは手も足も出せない。
「ねえ、デュランさん。僕たちどうなるの?」
「そうだな……。まず、間違いなくクラリスの宣託を聞きたがるだろうな。まあ、宣託だから、そんな都合よく聞けるはずはないとは思うが……」
「あの、フランス軍は私にしか興味がないのよね? その……もしかしたら、二人は……」
僕はクラリスの言いたいことが分かった。そう、彼女さえいればいいのだ。僕たちはすぐに殺されるに違いない。
「くそ、これが八方塞がりってやつか。こんな絶望感を味わったのは初めてだぜ」
いよいよ、クラリスとお別れか。でも、悔いはない。クラリスは生き残るだから。その時だった。ある作戦を思いついたのは。
「ちょっと、聞いてくれる?」
僕は兵士たちに聞こえないほどの小声でしゃべる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なるほど、そいつは妙案だ! それなら、ここから出られる!」
「ちょっと、デュランさん、声が大きいって!」
デュランさんのせいで計画が台無しになりそうだ。案の定、兵士たちがジロッとこちらを見る。だめだ。これでは逃げ出せない。
その時だった。クラリスの様子がおかしくなったのは。
「戦を続けるフランスは、経済が苦しくなり、貧困と『黒き病』により滅びるであろう」
ちょっと待った。こんな時に宣託なんて、まずい。予想外すぎる。それも、フランスが滅びるという内容なんて。
次の瞬間、クラリスが目を覚ます。
「私、どうかしたかしら? なんか急に眠くなっちゃって……」
「おい、小娘。お前……記憶がないのか?」
見張りの一人が尋ねる。このままじゃあダメだ。
「なあ、相棒。これは国王陛下の耳に入れるべきじゃないか? この国が滅びるなんて、あってはならない」
「そうだな。ついでに、この二人も証人として連れて行こう。俺たち二人だけだと、手柄のために嘘をついたと思われるからな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
状況は最悪だ。謁見の間に通された僕は思った。このままでは、クラリスと離れ離れになってしまう。
「国王陛下、こちらです」
部屋に現れたのは――フィリップ国王その人だった。国王の別名は「幸運王」。この前のイングランドからの反撃時に戦死しなかったなど、数々の幸運を持ち合わせている。そんな彼が宣託を聞けるなんて、まさに幸運としか言いようがない。
「さて、娘よ。お前の言った内容は本当か?」
「あの、分からないです。私、寝ちゃっちみたいで」
「ふむ。では、四人に問おう。娘の宣託は『フランスが滅びる』、その内容で間違いないな?」
僕たちは頷く。嘘をついても無駄だ。すぐにバレる。
「なるほど。戦を続けると負ける、か。確かに、このところ我々は貧困に喘いでいる。しかし、宣託の内容は『戦を続ければ』だ。つまり、ここで戦をやめれば、滅ばないということだ」
確かに、そうともとれる。今はフランスもイングランドもお互いに戦争で疲労困憊だ。
「よし、決めた。早急にイングランドとの和睦の準備をせよ! 『宣託の乙女』よ、礼を言おう。危うく我が国が滅びるところだった」
なんということだ。クラリスの宣託が和睦に繋がるなんて!
「さて、そこの三人の処遇だが、宮殿に軟禁することにする。恩人ではあるが、他の国のものになるのはまずかろう」
宮殿での軟禁。殺されることに比べれば遥かにマシだ。これ以上は望むまい。それに、僕はクラリスと一緒にいられるのだから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
僕たちは衛兵に部屋へ案内された。そこは、宮殿の中では一番質素に違いない。だが、僕に取っては夢のようだった。
「それでは、今日より、ここで暮らすように。もちろん、見張りつきでな」
それだけ言うと、衛兵は去っていった。
「ねえ、僕の作戦、うまくいったでしょう? クラリスに偽の宣託をさせるっていう作戦」
「おいおい、俺が大声で気を引かなきゃ、おじゃんだっただろ。一人の手柄にするなよ!」
「もう、二人とも落ち着いて。それに、私の演技のおかげでもあるわ」
僕たちは三人で笑いあった。宣託が地獄を作ることがあれば、偽の宣託が平和を作ることもある。うまく和睦が進むかは分からない。しかし、大きな一歩を踏み出したのは確かだ。
人間はお互いを完璧に理解することは出来ない。でも、歩み寄ることは出来るのだから。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
浅井長政は織田信長に忠誠を誓う
ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
【完結】電を逐う如し(いなづまをおうごとし)――磯野丹波守員昌伝
糸冬
歴史・時代
浅井賢政(のちの長政)の初陣となった野良田の合戦で先陣をつとめた磯野員昌。
その後の働きで浅井家きっての猛将としての地位を確固としていく員昌であるが、浅井家が一度は手を携えた織田信長と手切れとなり、前途には様々な困難が立ちはだかることとなる……。
姉川の合戦において、織田軍十三段構えの陣のうち実に十一段までを突破する「十一段崩し」で勇名を馳せた武将の一代記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる