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【伊藤博文】救世主、再び

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「今回ばかりは手の内ようがありません」


 それが大久保利通の第一声だった。


 伊藤博文は責めるつもりはなかった。むしろ、大久保利通の尽力に感謝していた。


「濃尾地方、特に愛知は我が国の大都市の一つです。あそこがやられては、復興するには長い時間がかかるでしょう」


「やはりか……。よし、もう下がって大丈夫だ」




 いかにして経済を立て直すか。まずは被災地への支援が最優先だろう。衣食住すべてを提供する必要がある。交通網がぐちゃぐちゃになったならば、物資の運搬は海軍に任せればいい。あとは現地を見てから判断するしかない。




 伊藤博文は被災地で見た光景は一生忘れることはないだろう。火事で燃えた建物群にひび割れた大地。水道管が破裂していて、インフラのダメージも大きい。そして、いたるところで自宅を失った人たちがさまよっている。被災した人々のことを想うと胸が痛む。なんとしてでも復興させてみせる。伊藤博文は心の中で誓った。




 復興させると誓ったものの、財源がなかった。ここはイギリスに支援を頼むべきだろう。インドからならある程度早く物資や人員が来るはずだ。伊藤博文は日本在住のイギリス大使を呼んだ。


「今回は貴国にお願いがあって来てもらいました」


「地震からの復興の支援でしょう? もちろん、本国にも要請します。まずはインドから物資を運び入れます。もし、足りなければ、スエズ運河経由で本国から支援します」


「なんと、本国からもか。なんとお礼を言っていいのやら」


「困ったときはお互い様でしょう? それにフランス領のインドシナ連邦(現在のベトナム、カンボジア)を一緒に奪うと誓いましたからね。今、大日本帝国に倒れられては困るのです」


 なるほど、そういえばそんな約束をしていた。打算もあるわけだが、ありがたいことだ。自分なら、混乱に乗じて進出することを考えただろう。伊藤博文は恥ずかしく感じた。




 イギリスの援助もあり、予想より早く復興が進んだ。そうはいっても、完全に経済が回復するまでは数年、いや十数年かかるだろう。他国から遅れをとるに違いないが、そんなことはどうでもいい。




 震災復興を始めてから数ヶ月。被災地の状況は多少ましになったものの、物資が足りない日々が続いていた。何かこの状況を打破するものが欲しい。


「首相、やりました!」


 側近がノックもせずにやって来た。


「世間が混乱している時に『やりました!』とはなんだ。喪に服する行動をしたまえ」


 伊藤博文は苛立っていた。八つ当たりにも近いかもしれないが。


「それで、何があった? その言動から察するに吉報なのだろう?」


「ええ、もちろん。聞いて驚かないでくださいよ。カナダ西部で金鉱が見つかりました!」
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