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【井上成美】マッカーサーを追い詰めろ
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井上は大和の甲板で潮風を浴びながら、南雲からの無線通信を読み返していた。そこにはこう書かれていた。
「ソロモン諸島が決戦の地になる。井上はマッカーサーをオーストラリアから追い出してくれ。こちらはトラック島を攻略次第、ソロモン諸島に向かう。そこで、マッカーサーを挟み撃ちにする」と。
南雲からの提案からはマッカーサーへの執着が読み取れた。しかし、自分も負けていないぞ、と井上は思った。フィリピンではうまいこと逃げられた。そして、マッカーサーは「再びフィリピンに戻る」と宣言している。フィリピンの地はおろか、アメリカ本土に戻る前に捕まえてやる。
「おい、オーストラリアまではあとどれくらいだ?」
部下は敬礼をすると「あと一日ほどです」と返答をする。
あと一日。その猶予の間に、マッカーサーをオーストラリアから叩き出す作戦を立てなければならない。井上の使える戦力は戦艦である大和と武蔵。そして、数隻の空母。フィリピンで使った作戦は通用しないと考えるべきだ。
「君、オーストラリア北部はどんな地形をしている?」
「私も詳しくもないのですが、オーストラリアの北東部の海域には浅いサンゴ礁が広がっていると聞いています。確か、グレートバリアリーフという名前だったかと」
「なるほど」井上は地図のサンゴ地帯にバツマークをつける。どの程度の浅瀬かは分からないが、こちらの戦艦が通れる可能性は限りなく低い。裏を返せば、マッカーサーがオーストラリアから脱出しようとしても、大型の艦船での出航はできない。
「南雲の言う通りソロモン諸島へ追い詰めれば、防御の薄い奴を叩くことが出来そうだ。よし、オーストラリア北部へ全速前進! 港町ダーウィンを叩く!」と井上。
「恐れながら申し上げます。港町であれば敵艦はいないかと思いますが、どのように接近するのでしょうか。座礁の可能性が高いと思うのですが……」
「心配するな。策はある。明日になれば分かるさ」
翌朝は海は穏やかで零戦で爆撃するには持って来いの天候だった。遠くには港町ダーウィンが見える。
「よし、天気は申し分ない。大和および武蔵の主砲で砲撃開始! 狙いはダーウィン手前の海だ」と井上は号令をかける。
「聞き間違えでなければ、海を砲撃しろと……?」
「そうだ、聞き間違いではない。ダーウィンに接岸するために、手前に広がる浅瀬を砲撃し、大和が通れるように水深を深くする。水深が浅いなら、砲弾で掘削すれば済む話だ。大和の主砲なら可能だ」
「砲撃を敵艦以外に行うのは前代未聞です。そのような考えが出てこなければ、艦隊を率いる者は務まらないということですか……」
「君も経験を積めば奇策を思いつくようになるさ」井上が部下を励ますと、同時に砲撃が始まった。
「さあ、アメリカ軍のお手並み拝見といこうじゃないか」と井上。
「敵の駆逐艦がこちらに向かってきています! 大和の懐に入り込む気のようです!」
「焦るな、こっちには空母もあるんだ。よし、駆逐艦に爆撃開始! 零戦で撃沈後、ダーウィンに接岸する」
「おい、零戦出撃の準備を進めろ!」「言われなくても進めてるさ」
「敵は駆逐艦。機動力はあるが、防御は薄い。我が軍の圧倒的な力で殲滅せよ!」
数時間後、大和と武蔵は港町ダーウィンに接岸していた。港の敵駆逐艦の残骸からは煙が上っている。時間はかかったものの、精鋭のパイロットたちによる爆撃でなんとか撃破することが出来た。
井上は部下たちに「アメリカ兵を捕らえろ。いいか、間違っても殺すなよ。捕虜からマッカーサーの行方を聞くためだからな」と命令した。
「アメリカ兵を捕まえました。マッカーサーはソロモン諸島へ逃げたとのことです」部下の一人が敬礼をしながら報告をする。彼の顔には青あざがあった。おそらく、アメリカ兵の抵抗にあったに違いない。
「それは確かか? 偽情報の可能性は?」という井上の問いに「奴らの秘密文書にも行き先の記載がありました」と報告がなされる。
「やはり、決戦の地はソロモン諸島か……」井上はつぶやいた。
あとは南雲がトラック島を攻略して、ソロモン諸島まで南下するのを待つのみだ。問題は南雲がどれだけ早くトラック島を攻略できるかにかかっている。
「こっちはやることをやった。南雲、次はお前の番だ」
井上の言葉が南雲に届くことはない。しかし、同じ空のもと、南雲も同じ考えなのは明白だ。「マッカーサーを捕らえて、アメリカ軍の士気を下げる」という点で。
「マッカーサー、お前は逃げてばかりだ。ソロモンで確実に仕留めてやる」
井上の言葉には力強さがあった。そして、マッカーサーに対する執念も込められていた。彼の願いが叶うかは神のみぞ知る。
「ソロモン諸島が決戦の地になる。井上はマッカーサーをオーストラリアから追い出してくれ。こちらはトラック島を攻略次第、ソロモン諸島に向かう。そこで、マッカーサーを挟み撃ちにする」と。
南雲からの提案からはマッカーサーへの執着が読み取れた。しかし、自分も負けていないぞ、と井上は思った。フィリピンではうまいこと逃げられた。そして、マッカーサーは「再びフィリピンに戻る」と宣言している。フィリピンの地はおろか、アメリカ本土に戻る前に捕まえてやる。
「おい、オーストラリアまではあとどれくらいだ?」
部下は敬礼をすると「あと一日ほどです」と返答をする。
あと一日。その猶予の間に、マッカーサーをオーストラリアから叩き出す作戦を立てなければならない。井上の使える戦力は戦艦である大和と武蔵。そして、数隻の空母。フィリピンで使った作戦は通用しないと考えるべきだ。
「君、オーストラリア北部はどんな地形をしている?」
「私も詳しくもないのですが、オーストラリアの北東部の海域には浅いサンゴ礁が広がっていると聞いています。確か、グレートバリアリーフという名前だったかと」
「なるほど」井上は地図のサンゴ地帯にバツマークをつける。どの程度の浅瀬かは分からないが、こちらの戦艦が通れる可能性は限りなく低い。裏を返せば、マッカーサーがオーストラリアから脱出しようとしても、大型の艦船での出航はできない。
「南雲の言う通りソロモン諸島へ追い詰めれば、防御の薄い奴を叩くことが出来そうだ。よし、オーストラリア北部へ全速前進! 港町ダーウィンを叩く!」と井上。
「恐れながら申し上げます。港町であれば敵艦はいないかと思いますが、どのように接近するのでしょうか。座礁の可能性が高いと思うのですが……」
「心配するな。策はある。明日になれば分かるさ」
翌朝は海は穏やかで零戦で爆撃するには持って来いの天候だった。遠くには港町ダーウィンが見える。
「よし、天気は申し分ない。大和および武蔵の主砲で砲撃開始! 狙いはダーウィン手前の海だ」と井上は号令をかける。
「聞き間違えでなければ、海を砲撃しろと……?」
「そうだ、聞き間違いではない。ダーウィンに接岸するために、手前に広がる浅瀬を砲撃し、大和が通れるように水深を深くする。水深が浅いなら、砲弾で掘削すれば済む話だ。大和の主砲なら可能だ」
「砲撃を敵艦以外に行うのは前代未聞です。そのような考えが出てこなければ、艦隊を率いる者は務まらないということですか……」
「君も経験を積めば奇策を思いつくようになるさ」井上が部下を励ますと、同時に砲撃が始まった。
「さあ、アメリカ軍のお手並み拝見といこうじゃないか」と井上。
「敵の駆逐艦がこちらに向かってきています! 大和の懐に入り込む気のようです!」
「焦るな、こっちには空母もあるんだ。よし、駆逐艦に爆撃開始! 零戦で撃沈後、ダーウィンに接岸する」
「おい、零戦出撃の準備を進めろ!」「言われなくても進めてるさ」
「敵は駆逐艦。機動力はあるが、防御は薄い。我が軍の圧倒的な力で殲滅せよ!」
数時間後、大和と武蔵は港町ダーウィンに接岸していた。港の敵駆逐艦の残骸からは煙が上っている。時間はかかったものの、精鋭のパイロットたちによる爆撃でなんとか撃破することが出来た。
井上は部下たちに「アメリカ兵を捕らえろ。いいか、間違っても殺すなよ。捕虜からマッカーサーの行方を聞くためだからな」と命令した。
「アメリカ兵を捕まえました。マッカーサーはソロモン諸島へ逃げたとのことです」部下の一人が敬礼をしながら報告をする。彼の顔には青あざがあった。おそらく、アメリカ兵の抵抗にあったに違いない。
「それは確かか? 偽情報の可能性は?」という井上の問いに「奴らの秘密文書にも行き先の記載がありました」と報告がなされる。
「やはり、決戦の地はソロモン諸島か……」井上はつぶやいた。
あとは南雲がトラック島を攻略して、ソロモン諸島まで南下するのを待つのみだ。問題は南雲がどれだけ早くトラック島を攻略できるかにかかっている。
「こっちはやることをやった。南雲、次はお前の番だ」
井上の言葉が南雲に届くことはない。しかし、同じ空のもと、南雲も同じ考えなのは明白だ。「マッカーサーを捕らえて、アメリカ軍の士気を下げる」という点で。
「マッカーサー、お前は逃げてばかりだ。ソロモンで確実に仕留めてやる」
井上の言葉には力強さがあった。そして、マッカーサーに対する執念も込められていた。彼の願いが叶うかは神のみぞ知る。
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