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【南雲忠一】サイパン・グアムを手に入れろ②
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南雲は艦隊をサイパンとグアムの間の沖合に停泊させていた。サイパンにいるアメリカ軍は水源を叩かれ、水不足に困っているに違いない。南雲が二つの島の沖合に陣取っているのは、グアムからサイパンへと物資――特に水の補給があると踏んでのことだった。
「恐れながら申し上げます。このまま敵の補給を絶つのみでは、サイパンの占領に時間がかかるのではないでしょうか。敵将のマッカーサーはオーストラリアに逃げ込んだと聞いています。彼をアメリカ本土に逃がさないためにも、早急な南下作戦が必要かと思います」それは南雲の右腕の西本の進言だった。
彼は家族を外国人に殺された過去があり、この戦争に特別な思いを持っていることを南雲は承知していた。そして、その思いを原動力にして、西本は数々の功績をあげていた。その中でも、少数の兵力で敵地を掌握し、劣勢だった状況を一気に変えたことで、あの山本五十六からも一目置かれていた。南雲はその活躍を見て、是非とも高雄に乗艦して欲しいと西本を指名した。
そして、西本が常に冷静で的確な判断を下す姿を何度も見てきた。南雲にとって彼は単なる右腕ではなく、戦友であり、自らの作戦に不可欠な存在だった。
「西本、君なら分かるだろう? 敵軍に無策で挑むほど馬鹿じゃない」
「すると、敵をアッと言わせる作戦があると?」
「無論だ。君をこの作戦のリーダーに抜擢したい。作戦はこうだ。まずは――」南雲は西本だけに聞こえるように作戦の内容を伝える。
「なるほど、その作戦ならば、うまくいくと思います」と西本。
「よろしい。まずは、敵の物資補給船の乗っ取りが最優先事項だ。お、噂をすればなんとやら。早速、作戦に移ろうではないか」
南雲たちが敵の補給船を乗っ取るのはわけもなかった。武装が少ないのだから、高雄の一撃で沈黙した。もちろん、再利用できるように手加減を加えて。
「さて、西本君。これから君のリーダーとしての資質が問われる。期待を裏切らないでくれよ」南雲はそう言うと西本の肩を叩く。
「ええ、任せてください。必ずや成功させてみせます」西本の声は緊張のためか、震えていた。おそらく、今回の作戦のリスクがそうさせているのだろう。
「確かに、作戦が失敗するという最悪のシナリオを考えるのも大事だ。だが、それに怯えてしまえば、うまくいくものもダメになる。君には軍人としての素質がある。自分に自信を持ちたまえ」南雲は彼を鼓舞しながら思った。この作戦を成功させれば、西本も精神面で大きく成長するに違いない。そうなれば、凾体の一隻を彼に任せてもいいだろうと考えていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
西本は人生最大の緊張によって、体がガチガチになっていた。彼は今、アメリカ軍の服装をして、敵の補給船に乗っていた。日本人だとバレないように、ヘルメットを目深にかぶって。西本は複雑な心境だった。家族を殺した敵兵の服を着ていることに、耐えがたい屈辱を感じていた。しかし、任務の成功こそが家族の無念を晴らすものであり、この戦争での勝利こそが西本の救いだった。
「西本さん、大丈夫ですよ。俺たちがついています」
西本の隣にいる一人が声をかける。そうだ、西本には一緒に作戦をやり遂げる頼もしい仲間がいる。
「もうそろそろ、合図があるはずだが……」西本がつぶやくと同時に、数機の偵察機が空を飛び回り始めた。敵の目は偵察機に向いている。混乱に紛れるなら今だ。
「よし、船を陸に近づけろ! 仲間を長時間危険にさらすわけにはいかない」
西本の合図で補給船はゆっくりと接岸すると、勢いよく飛び降りる。そして、陸にいたアメリカ軍兵に向けて身振り手振りで状況を伝える。「高雄の一撃で船が損傷している」と。
補給船の惨状を見てアメリカ兵もパニックになったらしい。指揮官がいると思われる施設に駆け込んでいった。
「これで作戦の第一段階は終了だ。次の行動に移るぞ」
西本はそう言って仲間を引き連れて、森の奥深くへと入り込む。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、もうそろそろ頃合いかな」南雲は月明かりのもと、手元の懐中時計を見てつぶやく。作戦が順調に進んで入れば、西本たちは作戦の第二段階に移ったはずだ。あとは明朝に出航すれば問題ない。
「あの、西本からは『高雄は明朝出航する』と聞いています。しかし、それでは彼らを見捨てることになるのではないでしょうか」近くの部下が心配そうに声をかけてくる。
「心配には及ばない。彼らには小型のボートを与えている。それに乗ってこちらに合流、出航の手はずになっている」
「しかし、それではグアムの敵兵を見逃すことになるのでは?」
「君は心配しすぎだ。明日になれば決着がついているさ」南雲はそう言うと自室に向かった。彼自身も西本の身を案じながら。
翌朝、天候は雲一つない晴天だった。
「よし、西本たちが合流次第、出航だ。準備を始めろ!」南雲が指示すると、ちょうど小型ボートが高雄に向かってくるのが見えた。まだ遠いので、米粒のように小さく見えるが。
南雲はその姿を見て安堵した。作戦がうまくいったことを確信した。
「それで、首尾よくいったか?」
「ええ、ご指示通りに進めることができました」と西本。
「よし、出航だ! 次の目的地はトラック島だ。全速前進!」
南雲の号令によって、高雄は徐々にスピードをあげてグアムから遠ざかっていく。
数時間後、ドカーンという音がしたかと思うと、グアムから火の手が上がる。突然の轟音に兵たちは驚くが、南雲と西本の仲間たちは動じなかった。
「ご指示の通りに夜通しで敵陣の下にトンネルを掘って、爆薬を仕掛けました。安心していたタイミングでの爆破。敵軍はパニック状態でしょう。しかし、分からないことがあります。なぜ、簡単にトンネルが掘れたのでしょうか?」西本の質問に南雲はこう答えた。
「今のグアムは乾季だ。だから、土が乾いて掘削しやすいんだ。さて、作戦はうまくいったんだ。早いうちにトラック島を攻略して、井上の艦隊と合流しようじゃないか」
南雲にはトラック島のその先を見据えていた。おそらく、ソロモン諸島が南部の決戦の地になる。
「マッカーサーを追い込んで、奴の震えあがった姿を拝もうじゃないか」南雲の声には悪魔のような響きが含まれていた。
「恐れながら申し上げます。このまま敵の補給を絶つのみでは、サイパンの占領に時間がかかるのではないでしょうか。敵将のマッカーサーはオーストラリアに逃げ込んだと聞いています。彼をアメリカ本土に逃がさないためにも、早急な南下作戦が必要かと思います」それは南雲の右腕の西本の進言だった。
彼は家族を外国人に殺された過去があり、この戦争に特別な思いを持っていることを南雲は承知していた。そして、その思いを原動力にして、西本は数々の功績をあげていた。その中でも、少数の兵力で敵地を掌握し、劣勢だった状況を一気に変えたことで、あの山本五十六からも一目置かれていた。南雲はその活躍を見て、是非とも高雄に乗艦して欲しいと西本を指名した。
そして、西本が常に冷静で的確な判断を下す姿を何度も見てきた。南雲にとって彼は単なる右腕ではなく、戦友であり、自らの作戦に不可欠な存在だった。
「西本、君なら分かるだろう? 敵軍に無策で挑むほど馬鹿じゃない」
「すると、敵をアッと言わせる作戦があると?」
「無論だ。君をこの作戦のリーダーに抜擢したい。作戦はこうだ。まずは――」南雲は西本だけに聞こえるように作戦の内容を伝える。
「なるほど、その作戦ならば、うまくいくと思います」と西本。
「よろしい。まずは、敵の物資補給船の乗っ取りが最優先事項だ。お、噂をすればなんとやら。早速、作戦に移ろうではないか」
南雲たちが敵の補給船を乗っ取るのはわけもなかった。武装が少ないのだから、高雄の一撃で沈黙した。もちろん、再利用できるように手加減を加えて。
「さて、西本君。これから君のリーダーとしての資質が問われる。期待を裏切らないでくれよ」南雲はそう言うと西本の肩を叩く。
「ええ、任せてください。必ずや成功させてみせます」西本の声は緊張のためか、震えていた。おそらく、今回の作戦のリスクがそうさせているのだろう。
「確かに、作戦が失敗するという最悪のシナリオを考えるのも大事だ。だが、それに怯えてしまえば、うまくいくものもダメになる。君には軍人としての素質がある。自分に自信を持ちたまえ」南雲は彼を鼓舞しながら思った。この作戦を成功させれば、西本も精神面で大きく成長するに違いない。そうなれば、凾体の一隻を彼に任せてもいいだろうと考えていた。
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西本は人生最大の緊張によって、体がガチガチになっていた。彼は今、アメリカ軍の服装をして、敵の補給船に乗っていた。日本人だとバレないように、ヘルメットを目深にかぶって。西本は複雑な心境だった。家族を殺した敵兵の服を着ていることに、耐えがたい屈辱を感じていた。しかし、任務の成功こそが家族の無念を晴らすものであり、この戦争での勝利こそが西本の救いだった。
「西本さん、大丈夫ですよ。俺たちがついています」
西本の隣にいる一人が声をかける。そうだ、西本には一緒に作戦をやり遂げる頼もしい仲間がいる。
「もうそろそろ、合図があるはずだが……」西本がつぶやくと同時に、数機の偵察機が空を飛び回り始めた。敵の目は偵察機に向いている。混乱に紛れるなら今だ。
「よし、船を陸に近づけろ! 仲間を長時間危険にさらすわけにはいかない」
西本の合図で補給船はゆっくりと接岸すると、勢いよく飛び降りる。そして、陸にいたアメリカ軍兵に向けて身振り手振りで状況を伝える。「高雄の一撃で船が損傷している」と。
補給船の惨状を見てアメリカ兵もパニックになったらしい。指揮官がいると思われる施設に駆け込んでいった。
「これで作戦の第一段階は終了だ。次の行動に移るぞ」
西本はそう言って仲間を引き連れて、森の奥深くへと入り込む。
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「さて、もうそろそろ頃合いかな」南雲は月明かりのもと、手元の懐中時計を見てつぶやく。作戦が順調に進んで入れば、西本たちは作戦の第二段階に移ったはずだ。あとは明朝に出航すれば問題ない。
「あの、西本からは『高雄は明朝出航する』と聞いています。しかし、それでは彼らを見捨てることになるのではないでしょうか」近くの部下が心配そうに声をかけてくる。
「心配には及ばない。彼らには小型のボートを与えている。それに乗ってこちらに合流、出航の手はずになっている」
「しかし、それではグアムの敵兵を見逃すことになるのでは?」
「君は心配しすぎだ。明日になれば決着がついているさ」南雲はそう言うと自室に向かった。彼自身も西本の身を案じながら。
翌朝、天候は雲一つない晴天だった。
「よし、西本たちが合流次第、出航だ。準備を始めろ!」南雲が指示すると、ちょうど小型ボートが高雄に向かってくるのが見えた。まだ遠いので、米粒のように小さく見えるが。
南雲はその姿を見て安堵した。作戦がうまくいったことを確信した。
「それで、首尾よくいったか?」
「ええ、ご指示通りに進めることができました」と西本。
「よし、出航だ! 次の目的地はトラック島だ。全速前進!」
南雲の号令によって、高雄は徐々にスピードをあげてグアムから遠ざかっていく。
数時間後、ドカーンという音がしたかと思うと、グアムから火の手が上がる。突然の轟音に兵たちは驚くが、南雲と西本の仲間たちは動じなかった。
「ご指示の通りに夜通しで敵陣の下にトンネルを掘って、爆薬を仕掛けました。安心していたタイミングでの爆破。敵軍はパニック状態でしょう。しかし、分からないことがあります。なぜ、簡単にトンネルが掘れたのでしょうか?」西本の質問に南雲はこう答えた。
「今のグアムは乾季だ。だから、土が乾いて掘削しやすいんだ。さて、作戦はうまくいったんだ。早いうちにトラック島を攻略して、井上の艦隊と合流しようじゃないか」
南雲にはトラック島のその先を見据えていた。おそらく、ソロモン諸島が南部の決戦の地になる。
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