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目覚めるとそこは……
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俺はいつの間にか、だだっ広い草原の中にいた。なぜかは分からない。でも、現実世界でないことだけは分かる。だって、目の前で二足歩行したウシやウマ達がしゃべっているのだから。
「今回の新米たちは何日持つかなぁ」「僕は三日だと思うね」
いや、これは俺の幻覚かもしれないし、夢かもしれない。頬をつねったり、川の水を顔にかけたりするが、目の前の光景に変化はない。どうやら、現実として受け入れるしかないらしい。
よくよく見渡してみると、俺の他にもたくさんの人がいた。全員、俺と同じくこの状況に戸惑っているらしい。それは無理もないだろう。俺の記憶が間違っていなければ、現実世界では剣道の大会の真っ最中だったはずだ。それが急にこんな世界に来たんじゃあ、慣れろという方が無理だろう。
そんな時だった。空から不気味な声が聞こえて来たのは。
「ようこそ、我が世界へ。私はこの世界を統べる魔王、とでも言っておこうか。君たちは現実世界から選び抜かれた精鋭だ。君たちにはダンジョンを攻略して、私の待つ魔王城まで来て欲しい。そして、可能ならば……私と戦ってほしい。まあ、この世界のダンジョンを踏破したものはまだいない。だから私も暇なのだよ」
あたりから「どういうことだ!」「ダンジョンの攻略?」と様々な声が聞こえてくる。
「静粛に。君たちは562回目のチャレンジャーだ。今度こそ私を楽しませてくれたまえ。そうだ大切なことを言い忘れていた。このダンジョンでデス、すなわち死ねば、現実世界でも死ぬ。それが怖ければ、その草原で一生を暮らすのも選択肢の一つだろう。君たちはダンジョン攻略を目指してもいいし、しなくてもいい。あとはそこにいる天使から聞きたまえ」
それを最後に空からの不気味な声は消えた。俺は魔王と名乗る男の言葉を反芻する。「ダンジョン攻略に失敗すれば、現実世界でも死ぬ」「詳細はそこにいる天使に聞け」とか言ってたな。うん? 天使に聞け?
あたりを見渡すと頭に輪っかを浮かべ、羽の生えたいかにも「私は天使です」という女性が何人もいた。
っておい、魔王が天使を使役するって、この世界どうなってるわけ!?
それは置いておくとして、まずは天使から話を聞くのが先だろう。近くにいた天使に近づくと疑問をぶつける。
「この世界について知りたいんだけど」
「この世界についてですね。この世界は魔王が統べるダンジョンを攻略するのが目的となっています」
「いや、それはさっき聞いたんだけど」
「他にご用はございますか?」
「もし、魔王に勝ったら、現実世界に戻れるのか?」
「さあ、私には分かりません。まだ、ダンジョンを踏破した人がいませんから。ダンジョンを攻略して、魔王様に直接聞いてはどうでしょうか」
ダメだ、こりゃ。「天使に聞けば分かる」と言った魔王も適当なやつだな。これはダンジョンをクリアした人がいる方がおかしいだろう。
俺が天使のもとから去ろうとすると「あ、そうでした」と引き止められた。
なんだ、またどうでもいい情報だろ。
「この世界には『ステータス』があります。腕にあるブレスレット型端末、通称『ブレスレット』をご覧ください」
通称ブレスレットって……。どうやら、この世界ではツッコミを入れるのは無駄らしい。
「このブレスレットの赤いボタンを押してみてください」
言われた通りにボタンを押すと、スクリーンが現れて様々な情報が浮かび上がる。
「そこにある『ステータス』が重要な項目です。三つの項目があります。攻撃、防御そして治癒。詳しくは説明しません。いろんなゲームでこういう話は何度も聞いたでしょうから」
いやいや、命懸けのゲームで重要な話を端折るなよ!
「どうやら、その様子だとご不満なようですね。銀貨一枚で追加の情報を与えましょう」
「ちょっと、待った! 銀貨なんて持ってないぞ! それに持ってたとしても、有料なのはおかしくないか?」
「金貨や銀貨なら、その腰にある巾着に入っています」
言われた通りに腰を見ると、いつのまにか巾着がついていた。いつのまに!?
「さあ、銀貨一枚で情報を買いますか?」
俺は納得がいかなかったが、渋々と銀貨を渡す。
「それでは、続きを。それぞれのステータスの振り方によって強さが変わります。バランスよく振るのをおすすめします。そして……」
「そして?」
天使は無言で手を差し出す。はいはい、また銀貨一枚ね。
「攻撃ステータスと言っても、武器は剣だけではなく、斧などもあります。ですから、ステータスを振ってからも選択の余地があります」
なるほど、武器によっても強さが変わりそうだ。こういう場合は攻撃に全ブッパだ。攻撃は最大の防御って言うからな。与えられたステータスのうち、全てを攻撃に振る。
攻撃100
防御0
治癒0
運0
うんうん、これでよし。待った。『運』ってなんだ?
「なあ、天使さんよ、この『運』って何だ?」
天使は再び手を差し出す。くそ、またか。銀貨一枚を手に乗せるが、まだ手を引く様子はない。はいはい、二枚ね。まだ手を差し出したまま。おいおい、まさか銀貨三枚なのか!? 巾着袋に入ったお金全部なんだが!? 一瞬迷ったがもう一枚銀貨を渡す。貴重な情報を得るためだ、仕方がない。
「よい心がけです。『運』とはそのままの意味です。この世界であなたがどれだけ運がいいかを示しています」
「つまり、運0ってことは……?」
「この世界で生き残るのに運がない、ということです。まあ、運がなくてもどうにかなるでしょう。あなたは手持ちのお金をすべて使いましたね? 武器屋で武器を準備する資金がないでしょうから、これを授けましょう」
天使が空の異空間から取り出したのは……そこらへんに落ちていそうな木の棒だった。はい? これで、モンスターを倒してダンジョンを攻略しろと!?
「それでは、ごきげんよう。そうそう、最後にアドバイスです。他の方とパーティを組むことをおすすめします。では、また会う日まで」
また会う日まで? もう会うのはごめんだね。
この草原で一生を暮らすのは性に合わないし、ダンジョン攻略といきますか。
「今回の新米たちは何日持つかなぁ」「僕は三日だと思うね」
いや、これは俺の幻覚かもしれないし、夢かもしれない。頬をつねったり、川の水を顔にかけたりするが、目の前の光景に変化はない。どうやら、現実として受け入れるしかないらしい。
よくよく見渡してみると、俺の他にもたくさんの人がいた。全員、俺と同じくこの状況に戸惑っているらしい。それは無理もないだろう。俺の記憶が間違っていなければ、現実世界では剣道の大会の真っ最中だったはずだ。それが急にこんな世界に来たんじゃあ、慣れろという方が無理だろう。
そんな時だった。空から不気味な声が聞こえて来たのは。
「ようこそ、我が世界へ。私はこの世界を統べる魔王、とでも言っておこうか。君たちは現実世界から選び抜かれた精鋭だ。君たちにはダンジョンを攻略して、私の待つ魔王城まで来て欲しい。そして、可能ならば……私と戦ってほしい。まあ、この世界のダンジョンを踏破したものはまだいない。だから私も暇なのだよ」
あたりから「どういうことだ!」「ダンジョンの攻略?」と様々な声が聞こえてくる。
「静粛に。君たちは562回目のチャレンジャーだ。今度こそ私を楽しませてくれたまえ。そうだ大切なことを言い忘れていた。このダンジョンでデス、すなわち死ねば、現実世界でも死ぬ。それが怖ければ、その草原で一生を暮らすのも選択肢の一つだろう。君たちはダンジョン攻略を目指してもいいし、しなくてもいい。あとはそこにいる天使から聞きたまえ」
それを最後に空からの不気味な声は消えた。俺は魔王と名乗る男の言葉を反芻する。「ダンジョン攻略に失敗すれば、現実世界でも死ぬ」「詳細はそこにいる天使に聞け」とか言ってたな。うん? 天使に聞け?
あたりを見渡すと頭に輪っかを浮かべ、羽の生えたいかにも「私は天使です」という女性が何人もいた。
っておい、魔王が天使を使役するって、この世界どうなってるわけ!?
それは置いておくとして、まずは天使から話を聞くのが先だろう。近くにいた天使に近づくと疑問をぶつける。
「この世界について知りたいんだけど」
「この世界についてですね。この世界は魔王が統べるダンジョンを攻略するのが目的となっています」
「いや、それはさっき聞いたんだけど」
「他にご用はございますか?」
「もし、魔王に勝ったら、現実世界に戻れるのか?」
「さあ、私には分かりません。まだ、ダンジョンを踏破した人がいませんから。ダンジョンを攻略して、魔王様に直接聞いてはどうでしょうか」
ダメだ、こりゃ。「天使に聞けば分かる」と言った魔王も適当なやつだな。これはダンジョンをクリアした人がいる方がおかしいだろう。
俺が天使のもとから去ろうとすると「あ、そうでした」と引き止められた。
なんだ、またどうでもいい情報だろ。
「この世界には『ステータス』があります。腕にあるブレスレット型端末、通称『ブレスレット』をご覧ください」
通称ブレスレットって……。どうやら、この世界ではツッコミを入れるのは無駄らしい。
「このブレスレットの赤いボタンを押してみてください」
言われた通りにボタンを押すと、スクリーンが現れて様々な情報が浮かび上がる。
「そこにある『ステータス』が重要な項目です。三つの項目があります。攻撃、防御そして治癒。詳しくは説明しません。いろんなゲームでこういう話は何度も聞いたでしょうから」
いやいや、命懸けのゲームで重要な話を端折るなよ!
「どうやら、その様子だとご不満なようですね。銀貨一枚で追加の情報を与えましょう」
「ちょっと、待った! 銀貨なんて持ってないぞ! それに持ってたとしても、有料なのはおかしくないか?」
「金貨や銀貨なら、その腰にある巾着に入っています」
言われた通りに腰を見ると、いつのまにか巾着がついていた。いつのまに!?
「さあ、銀貨一枚で情報を買いますか?」
俺は納得がいかなかったが、渋々と銀貨を渡す。
「それでは、続きを。それぞれのステータスの振り方によって強さが変わります。バランスよく振るのをおすすめします。そして……」
「そして?」
天使は無言で手を差し出す。はいはい、また銀貨一枚ね。
「攻撃ステータスと言っても、武器は剣だけではなく、斧などもあります。ですから、ステータスを振ってからも選択の余地があります」
なるほど、武器によっても強さが変わりそうだ。こういう場合は攻撃に全ブッパだ。攻撃は最大の防御って言うからな。与えられたステータスのうち、全てを攻撃に振る。
攻撃100
防御0
治癒0
運0
うんうん、これでよし。待った。『運』ってなんだ?
「なあ、天使さんよ、この『運』って何だ?」
天使は再び手を差し出す。くそ、またか。銀貨一枚を手に乗せるが、まだ手を引く様子はない。はいはい、二枚ね。まだ手を差し出したまま。おいおい、まさか銀貨三枚なのか!? 巾着袋に入ったお金全部なんだが!? 一瞬迷ったがもう一枚銀貨を渡す。貴重な情報を得るためだ、仕方がない。
「よい心がけです。『運』とはそのままの意味です。この世界であなたがどれだけ運がいいかを示しています」
「つまり、運0ってことは……?」
「この世界で生き残るのに運がない、ということです。まあ、運がなくてもどうにかなるでしょう。あなたは手持ちのお金をすべて使いましたね? 武器屋で武器を準備する資金がないでしょうから、これを授けましょう」
天使が空の異空間から取り出したのは……そこらへんに落ちていそうな木の棒だった。はい? これで、モンスターを倒してダンジョンを攻略しろと!?
「それでは、ごきげんよう。そうそう、最後にアドバイスです。他の方とパーティを組むことをおすすめします。では、また会う日まで」
また会う日まで? もう会うのはごめんだね。
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