季節は巡りて【読者への挑戦状】

雨宮 徹

文字の大きさ
上 下
49 / 49

絶望と希望

しおりを挟む
 しばらくの間、誰もしゃべらず、まるで音が消えた世界のようだった。

 ふと草次さんが聞く。
「なあ、相棒。お前は俺たちを利用したのか? 俺たちの絆は嘘っぱちだったのか?」
「まさか、そんなわけないだろ。俺は一連の事件で相棒を利用したことはない。誓ってもいい」暁の眼差しは真剣だった。
「それを聞いて安心した。それなら、例え相棒が裁かれようと、俺は相棒に会いにいくぜ。なにせ心の友だからな」草次さんは暁の肩に手をまわしながら言う。

 暁と草次さんとのやりとりを見ながら心配になる。暁はああ言っているが、本当に裁かれるまで大人しくしているのだろうか。自暴自棄になって自殺をしないだろうか。

 僕は手招きして暁を呼び寄せる。
「どうした、周平? 何か聞きたいことでもあるのか? 話せることは全部話したつもりだが……」
 僕はストレートに聞くことにした。
「暁、もしかして自殺しようなんて考えてないよね?」
「まさか。自分の犯した罪の重大さはおれが一番知っている。やりたいことをやってあの世に逃げるなんて卑怯なことはしないさ。それよりも周平、悪いことをしたな。友人を手にかけたんだ。そして、俺も牢獄行きだ。お前は二人の友人を同時に失うことになる」
 暁は申し訳なさそうに小声で言う。
「大丈夫じゃないって言えば嘘になる。でも、時間が解決してくれるよ、きっと」
 僕は自信がない。果たして僕はこの大きなトラウマを乗り越えることができるのだろうか。

「そういえば、偶然にも由美子さんのタロット占いが当たったことになるな。俺の未来のカードは『死』だった。あれは俺が『春の間』で死ぬことじゃあなくて、死刑になるかもしれないってことを意味しているのかもな」
 暁はそれだけ言うと、みんなの方に去っていった。

 タロット占い。僕はその存在をすっかり忘れていた。確か僕の未来のカードは「悪魔」だった。絶望という意味だ。まさに僕の今の状況を的確に表している。一人の友人が死に、その殺人の罪によってもう一人の友人が裁かれる。これ以上の絶望があるだろうか。


「迎えの船がやって参りました。みなさま、荷物の準備をお願いします」
 三日月さんの言葉で夕方になったことを知る。船長は四日目の夕方に迎えにくると言っていた。物思いにふけっていたら、あっという間に時間が経っていた。

 館の外に出ると夏独特の暖かい風が僕たちを襲う。夕日が海を照らしており、うっすらとした朱色に染まっている。
 気がつくと、喜八郎さんが僕の横に立っていた。
「諫早殿にとっては辛い出来事の連続じゃったな。一度に二人の学友を失うのじゃ。ご愁傷様と言うほかあるまい」
 僕はうなずく。
 学友を二人失うだけではない。一人の学友は僕が牢獄へ送ったようなものだ。僕が「秋の間」で二冊の「ことわざ辞典」を発見していなければ、事件は迷宮入りしたかもしれない。
 
 そして、僕のスマホには「春の間」を含めた事件現場の写真が収まっている。ポケットに入ったスマホがずっしりと重く感じる。思わずスマホを海に投げ捨てたい衝動に駆られる。しかし、スマホを捨てたところで事件が起きた事実は消えない。現場は厳重に保存されている。警察が調べれば、あっという間に事件の全貌を暴くだろう。それにこのスマホには夏央との思い出の写真もつまっている。

「諫早殿には思うところがたくさんあるじゃろう。しかし、貴殿はこの数日で精神的に大きく成長しておる。時間はかかろうが、必ずや乗り越える日が来るじゃろう。貴殿に一つ言葉を贈らせてもらおうかの。『冬来たりなば春遠からじ』じゃ。今は大変辛かろう。しかし、これを耐えれば必ずや幸せな時期は来るのじゃ。まずは、この忌々しい館に別れを告げるとしようかの」

 喜八郎さんの言葉で僕は振り返って館を見る。この四日間に色々なことがあった。草次さんたちとの何気ない雑談、盛り上がった晩餐会。決して悪いことばかりの連続ではなかった。いい思い出もあるのだ。僕は今回の悲劇の連続を乗り越えようとも、この数日間を忘れてはならない。

「おーい、お二人さん、早くこっちに来なー」船長が僕たち二人を呼んでいる。いつの間にかみんなは乗船していたらしい。

 僕は船に向かって歩き出した。開けない夜はない。いつか明るい未来が来ると信じて。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

副業は探偵ですが何か? 〜タクシー運転手の小さな楽しみ〜

雨宮 徹
ミステリー
タクシー運転手はお客様を目的地まで送るのが仕事。長年タクシー運転手をしていると、お客様との雑談を通して様々な悩み事を聞く。家族や知人とは違い、その場限りだから気楽なのだろう。 そんな私の副業は「探偵」。お客様の悩み事や小さな事件を目的地までに解く、それが日々の楽しみだ。 私は今日もお客様を導く。目的地、そして謎の答えへと。

virtual lover

空川億里
ミステリー
 人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。  が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。  主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

魔法使いが死んだ夜

ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。  そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。  晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。  死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。  この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。

処理中です...