季節は巡りて【読者への挑戦状】

雨宮 徹

文字の大きさ
上 下
39 / 49

恐怖の一夜

しおりを挟む
 晩餐が済むとみんなすぐさまに自室に戻った。特に冬美さんは喜八郎さんが警告をすると同時に一番に広間を出ていった。当然だ。命を狙われているのだから。

 僕も命を狙われている点では同じだ。犯人が館の持ち主でマスターキーを持っているかもしれない現状では、僕の部屋は鍵があってないようなものだ。
 僕は部屋に戻ると扉の前にタンスを置いた。移動させるのは一苦労だった。本当はもっと家具を置くべきだろうけれど、帰宅部の僕にはこれが限界だった。

 一通りの作業が終わると僕はベッドに倒れこんだ。今日もいろいろなことが起きすぎた。荒木さんの事件に秋吉さんの事件。でも、確実に前進している。犯人の犯行の法則性が分かった。次のターゲットが分かったのも大きい。何より、今晩を無事にこせば、明日には迎えがくる。これは僕たちにとって大きな希望だった。

 僕は今日は寝ないことにしていた。もし、犯人が襲ってきても反撃ができるようにだ。だが、どれだけ抵抗できるかは自信がない。犯人は暁を赤子の手をひねるように襲っている。きっと力持ちに違いない。僕にできることと言えば、犯人が家具のバリケードを崩しているときに助けを呼ぶことくらいだろう。助けを呼んだところで、みんながすぐに駆け付けることはできない。みんなも扉の前にバリケードを築いており、それをどける時間が必要だからだ。

 無駄な抵抗かもしれない。でも、夏央を殺した犯人には一矢報いたい。僕は電動シェーバーのふたをはずす。刃がキラリと光る。喜八郎さんの剃刀は没収されたが、幸いにも僕の手元にはこれがある。相打ちにはできなくても、傷を負わせることくらいは可能だろう。

 僕は寝ないように部屋の中を歩くことにした。こうすれば寝ることはあるまい。歩き回っているうちに、先ほどの広間での出来事を思い出す。「夏歌う者は冬泣く」。あのカードはテーブルの下にあった。つまり誰にでも仕込むことができる。あえて可能性が高い人を挙げるのならば、薫さんだろう。薫さんならカードが床に落ちていたふりをして、自然とみんなに見せることが出来る。もし、誰も見つけなかったら、犯人が指摘したに違いない。

 カードに書かれていたことわざの中身はどうだろうか。ことわざどおりに殺すなら、犯人は冬美さんを寒さか餓死で殺すつもりだ。餓死は難しい。非現実的だ。では、寒さで殺すには? 今は夏だ。凍死はありえない。
 ふと、あることに気がつく。唯一夏でも寒さで殺すことができる方法がある。それは「冷凍庫に入れて殺す」だ。しかし、この場合は現場はキッチンになる。いくら「冬の間」が開放されていたとしても、さすがに現場に冷凍庫を移動させることはできない。そうなると犯人は季節の間で殺すことは最初から考えていなかったことになる。

 そこまで考えて気づいた。犯人はもとから冬美さんを殺すつもりがなかったとしたら、どうだろうか。今回の一件は僕たちを分断させるための犯人の細工かもしれない。そうであれば、僕たちはまんまと犯人の罠に引っかかったことになる。犯行をするしないにかかわらず、犯人の意図したとおり僕たちは恐怖のどん底に落とされたのだ。

 さすがに歩き続けるのはしんどい。一度落ち着こう。椅子にでも座って。そう落ち着いて――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

魔法使いが死んだ夜

ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。  そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。  晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。  死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。  この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

処理中です...